人質の朗読会

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 3024
レビュー : 622
  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120041952

感想・レビュー・書評

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  • 人質の朗読会というタイトルから想像していたのは、傷つき疲れきった人達の嘆きのような語りだった。
    なんてバカなことをことを考えていたんだろう。
    もっとずっとずっと素敵な物語だった。

    人質になった8人と朗読を聴いていた特殊部隊員が語ったのは、「自分の中にしまわれている過去、未来がどうあろうと決して損なわれない過去」。
    誰にも言わずにいた、お守りのような思い出だ。

    こんな物語を語れるなんてうらやましいなと思った。
    どの朗読もその特別な時間を一緒に過ごした人への思いやりが溢れていて、とても優しい。
    時が経ってから振り返ることで、自分にとってその時間がどんな意味を持っているかが明確になるのかもしれない。
    何気なく過ぎていく無数の瞬間の中に、時間が経てば経つほど鮮明になっていく一時が確かにあるように思う。

    特に素敵だなと感じたのは「杖」、「コンソメスープ名人」、「ハキリアリ」。
    共通点は幼少期の思い出だということ。
    9つの物語の中でも特に驚きと好奇心に満ちていて、一際キラキラしていた。
    すごくすごくキレイで、スペシャルな時間をお裾分けしてもらった気分。とても幸せな一時だった。

    • まろんさん
      この本、私もとても気になっていたのですが
      タイトルのイメージから、「救いのないお話だったらどうしよう。。。」と
      読むのを躊躇っていました。
      ...
      この本、私もとても気になっていたのですが
      タイトルのイメージから、「救いのないお話だったらどうしよう。。。」と
      読むのを躊躇っていました。

      「未来がどうあろうと決して損なわれない過去」。。。とても素敵です♪

      takanatsuさんのこの感動に満ちたレビューのおかげで
      もう迷いなく、読むことができます♪ありがとうございます(*^_^*)
      2012/07/14
    • takanatsuさん
      そうですよね。私もタイトルで警戒していました。
      でも、心配する必要はなかったなと読み終わった今は思います。
      まろんさんのレビュ、楽しみに...
      そうですよね。私もタイトルで警戒していました。
      でも、心配する必要はなかったなと読み終わった今は思います。
      まろんさんのレビュ、楽しみにしてます!
      2012/07/14
  • 私も朗読会に耳を傾ける一人となりました。人質の語る話はすべてどこかに死がまざっている。丁寧に語られた話はずいぶん昔の話で、それから大分時間がたってい、みなおじさんおばさんの年齢だが、今となってはその人たちもいない。2段階に時間が早送りされた感じだ。『やまびこビスケット』が心に残る。お話の最後の1行とプロフィールの1行の行間に詰まった年月に思いをはせる。今のところ今年1番。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「私も朗読会に耳を傾ける一人と」
      小川洋子には、いつも驚かされる、話の構成と表紙の装丁(今回は彫刻家の土屋仁応)に、、、
      しかし辛い話です。...
      「私も朗読会に耳を傾ける一人と」
      小川洋子には、いつも驚かされる、話の構成と表紙の装丁(今回は彫刻家の土屋仁応)に、、、
      しかし辛い話です。。。
      2013/02/26
  • 物語の構成が素晴らしかった。

    一度聞いただけでは覚えられないくらいの遠い異国の地で、日本人のツアー観光客8人が拉致され人質として囚われた。
    事件は膠着状態のまま月日が流れていき、いよいよ三ヶ月が過ぎた頃、軍と警察の特殊部隊が強行突入。激しい銃撃戦の後、犯人グループは全員射殺、人質は犯人の仕掛けたダイナマイトの爆発により全員死亡。
    ここで「えー!」って感じで口がポカン。軽いショックを受けながら読み進めると、2年後に人質が囚われていた小屋を盗聴していたテープが出てきた…。

    ここから人質たちの朗読会の様子が語られていく訳ですが、こんな冒頭で始まってしまったら興味と期待が膨らんでしまうでしょ。

    それぞれの話しは自分が体験した過去の話。心の奥底にしまわれていた記憶。

    8人の物語が綴られていく訳ですが、内容は小川洋子さんらしい優しくちょっと不思議で魅力的な物語。このままで終わっていたらただの短編集だったなと思う所を、最後はこの朗読会を盗聴していた特殊部隊のひとりの物語で締めてある。

    人質たちの過去を垣間見て、気持ちを共有できて、この人たちは最後どんな思いで亡くなっていったのかな、とかなり余韻に浸ってしまいました。

    • mattun08さん
      これ、私も昔読んだよ!すごく良いよね!読み終わった後、余韻にひたる気持ちわかるわ~。
      これ、私も昔読んだよ!すごく良いよね!読み終わった後、余韻にひたる気持ちわかるわ~。
      2015/08/26
  • テロ事件の人質という状況下で、たぶん心のどこかに死を意識しながら、8人それぞれが朗読する創作(あるいは実話?)を集めた短編集。この設定が秀逸。
    どのストーリーも決して明るくキラキラしたものではなく、どこかもの悲しい雰囲気が漂う中、でも彼らがしっかりと生きてきた証のような素敵なエピソードがちりばめられる。
    お気に入りは「花束」と「やまびこビスケット」。地味に毎日を生きる年配者が、やはり地味に生きる若者の心を静かに動かすところがいい。

  • 文庫版が出たので再読。

    印象深かったのは、やまびこビスケットと冬眠中のヤマネ。癖があり世に背かれてしまうような偏屈さをもつ老人と交流する若者の姿が好きだ。記憶からいつまでも消えない日常の中の些細な非日常を、自分を構成する大切な要素として語る、しかも命の危険に晒されているときに、というのは凄い発想力だと思う。さすが小川洋子。大好きです。

  • 8編を読む間、朗読会を盗聴していた特殊部隊の兵士が、あるいはラジオの前の人々が、人質の聴衆が、きっとそうしただろうように、そっと息を詰めて全神経を以って耳を傾けているような心地がした。

    面白みのない8編が、暫しの後に死亡することを知らぬ人質による朗読会の様相を呈して初めて、またそれを特殊部隊のある兵士が聴衆となって耳を傾けていた事実を加味して初めて、緊張感を持って耳を傾けるものとなる。

    息遣いの音も響かせてはならないような小さな緊張感がこの小説の本質のような気がしてならない。読後は、暗がりから躊躇いがちな拍手を聞くような心地がする。

    -----------------------
    内容

    地球の裏側でゲリラに襲撃され誘拐された遺跡観光ツアー参加者7人と添乗員。救出作戦の手抜かりがあったか、人質は全て死亡した。
    ゲリラグループを盗聴していた兵士の自己判断から遺族の元にわたったテープが、2年を経て、ラジオ電波に乗った。
    人質たちが退屈な時間を紛らわすために、一人ずつなにか一つ思い出を書いて朗読し合おうと始めた、朗読会がラジオから流れ出す。

    面白みも、ヤマもオチもない、感動できず、何の感想も覚えない。人質たちがかつて経験し、彼等を構成する元となった、それでもただの思い出話。
    それが人質にとってはどんなに大切な思い出であろうと目の前で語られたとしたら、つまらなくその場を去ってしまうような、ただの小さなドラマ。

    最後に付け足されたのは盗聴していた兵士の思い出話。
    ふっと優しく現実世界に揺り戻される。

    第1夜 「杖」
    第2夜 「やまびこビスケット」
    第3夜 「B談話室」
    第4夜 「冬眠中のヤマネ」
    第6夜 「槍投げの青年」
    第7夜 「死んだおばあさん」
    第8夜 「花束」
    第9夜 「ハキリアリ」 

  • 静かに進んで行く「誰かの人生」を追体験していくうち、読書会に参加しているような気分になった。夜寝る前に一章ずつ読んでいきたい、「噛みしめる」本。

  • あの出来事が自分にとってどんな意味も持っていたのか、価値があったのか。
    よくわからない。
    でも、思い出深い。
    たぶん、大切な出来事。

    …そういう感じの。
    そういう感じの出来事が、人生にひとつあるって、
    切ないけど素敵なことだな。

    一番最後に収録されている「ハキリアリ」という作品は
    人質ではなく、救助に携わった存命の人が書いた回想録なのだけれど
    これが、ぐっときた。
    この作品は、動きのある物語になっているし、
    そこはかとなく生命力や希望を感じさせる。
    「ハキリアリ」を読むと、突然、人質たちの作品とのコントラストが明確になり
    「この人は生きている」「あの物語の人々はもういない」ということを実感した。

  • 冒頭から、ショッキングな結末を提示されます。
    でも、そんな中で静かに語られる一人一人の人生の一場面が、とても心に沁みてきます。

    それは、幼い頃の場面であったり、数年前の場面であったり様々ですが、語られるすべての物語に宝物の時間を感じました。

    中でも、『やり投げの青年』が好きでした。
    黙々と投擲をする青年とただ見続けている私。
    言葉が交わされるわけではなく、青年の動きだけが静謐な雰囲気を醸し出しています。
    静かな時間の流れの中に、脈打つ鼓動の強さが響いてくるようです。

  • 何かの雑誌で見たんだよな。すごく良かった。小川洋子の最高傑作じゃないか。表紙の子鹿も素敵。地球の裏側の村で、反政府ゲリラにより拉致された日本人8名。長期間の拘束の中、一人ずつ朗読を行う。自分の経験を物語にして。プラスして、それを聞いていた現地の特殊部隊の人の物語も入れ、9話の短編集。何か、物語っていいなぁ、って改めて思う。その朗読が流れたラジオを私も聞いてみたい。もしかして、ほんとにラジオ番組として実現しているんじゃなかろうか。自分がこの人質だったら、何を語るだろうか。9話どれも良かった。何か。ほんと静かな、淡々とした感じというか、この表紙のイメージとほんとぴったりなんだよな。すごく、何度も何度も読み返したくなる感じ。

    2013.3.16
    再読。この静かな、淡々とした感じがたまらない。私だったらどんな物語を選ぶだろうか、と思う。犯人による爆発で人質全員が死んでしまうというのも切ない。最後に現地の人の話が入ってるのもいい。この表紙とすごく合うんだよな。と、今前の感想を読み返して、全く同じことを書いてると思う。まぁ1年経ってないしね。

著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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