- Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120041952
作品紹介・あらすじ
遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた。紙をめくる音、咳払い、慎み深い拍手で朗読会が始まる。祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは人質たちと見張り役の犯人、そして…しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。
感想・レビュー・書評
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静かな眼をして表紙に佇む子鹿が、
遠い異国で反政府ゲリラの人質となった数か月を
忘れられない思い出を文章にして朗読し合いながら過ごした
8人の人質たちの慎み深く穏やかな最後の日々を思わせて。。。
かけがえのない思い出としてしまってあった過去が
言葉となって紡がれたときに流れる敬虔な空気。
語られる物語と、その結びに添えられた語り手の職業やツアーへの参加理由が
「ああ、この過去があったからこそ。。。」とストンと腑に落ちる繋がり方で
そうして重ねてきた人生が、自分とは関わりのない政争で
あっけなく絶たれた痛ましさに胸が詰まります。
第二夜の『やまびこビスケット』で、ベルトコンベヤーを流れてくる
欠けたり生焼けだったりする不良品のビスケットに愛着を感じて
「ここまでよく頑張ったわね。さあ、あなたたちを待っている人の元へ行きましょうね」
と語りかける女性に、欠落や喪失を嘆くどころか慈しむ、
小川洋子さんならではの感性が溢れていて、印象的です。
第九夜の、自分の体より大きい葉っぱを、天に供える捧げ物のように掲げて
根気よく巣に運び続けるハキリアリのように
自分だけの物語を生きた8人のそれぞれの生の尊さが
静かに胸に沁みわたる作品です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
人質の朗読会というタイトルから想像していたのは、傷つき疲れきった人達の嘆きのような語りだった。
なんてバカなことをことを考えていたんだろう。
もっとずっとずっと素敵な物語だった。
人質になった8人と朗読を聴いていた特殊部隊員が語ったのは、「自分の中にしまわれている過去、未来がどうあろうと決して損なわれない過去」。
誰にも言わずにいた、お守りのような思い出だ。
こんな物語を語れるなんてうらやましいなと思った。
どの朗読もその特別な時間を一緒に過ごした人への思いやりが溢れていて、とても優しい。
時が経ってから振り返ることで、自分にとってその時間がどんな意味を持っているかが明確になるのかもしれない。
何気なく過ぎていく無数の瞬間の中に、時間が経てば経つほど鮮明になっていく一時が確かにあるように思う。
特に素敵だなと感じたのは「杖」、「コンソメスープ名人」、「ハキリアリ」。
共通点は幼少期の思い出だということ。
9つの物語の中でも特に驚きと好奇心に満ちていて、一際キラキラしていた。
すごくすごくキレイで、スペシャルな時間をお裾分けしてもらった気分。とても幸せな一時だった。-
この本、私もとても気になっていたのですが
タイトルのイメージから、「救いのないお話だったらどうしよう。。。」と
読むのを躊躇っていました。
...この本、私もとても気になっていたのですが
タイトルのイメージから、「救いのないお話だったらどうしよう。。。」と
読むのを躊躇っていました。
「未来がどうあろうと決して損なわれない過去」。。。とても素敵です♪
takanatsuさんのこの感動に満ちたレビューのおかげで
もう迷いなく、読むことができます♪ありがとうございます(*^_^*)2012/07/14 -
そうですよね。私もタイトルで警戒していました。
でも、心配する必要はなかったなと読み終わった今は思います。
まろんさんのレビュ、楽しみに...そうですよね。私もタイトルで警戒していました。
でも、心配する必要はなかったなと読み終わった今は思います。
まろんさんのレビュ、楽しみにしてます!2012/07/14
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伝記を読む。確かに存在したその人物の、姿を、感情を、息遣いをありありと思い浮かべる。
読み終えて、しんみりとする。この人はもう、この世に存在しないのだ…
この本もそうだ。
武装集団により異国の地で拉致監禁され、100日以上が過ぎ…
長い人質生活の中で徐々に恐怖は薄れ、それぞれが書いたお話を朗読することで退屈や不安を紛らわせていた彼ら。
人質全員死亡という顛末を知った上で彼らの語りに耳をすませば…
過去は変えられない。否定的な意味ではない。未来のように不安定でなく、脅かされもしない、揺るぎない過去の思い出たち。
欠損品のビスケットを食べた日々、お爺さんがくれた黒ずんだ縫いぐるみ、持て余した花束、談話室に紛れ込む男性…
これらのお話を語った人々はもういない。遺されたのはテープだけなのだ… -
普通の短編集として読んでもよさそうなお話たちが
遠い異国の人里離れた森の奥の小屋の中で、
ゲリラに拉致され監禁されている人質たちの自分語りとして聞くと
何とも不思議で切ない告白に思えます。
どことなく百物語のようで、ろうそくの火を吹き消すように
彼らの無残で非業な最期へのカウントダウンのようで、背筋がヒヤリとします。
淡々としすぎてよく分からない話もありましたが
どれも意味深長な気がして落ち着かない気持ちになります。
文章は美しいのだけど、なかなか入りづらい話ではあった。
「やまびこビスケット」「死んだおばあさん」「花束」
あたりが印象深い。 -
地球の裏側で人質になった8人の日本人旅行者に物語を語らせると言うちょっとひねった構成。一編一編の内容は小川洋子ならではの独特の世界観で満ちている。
エピローグのハキリアリの描写は面白かったな~。 -
地球の裏側のある異国の村で、日本人の観光客ら8人が乗ったバスが反政府ゲリラに襲撃され、拉致される。
膠着状態のまま、発生から100日以上が経過したころ、軍と警察の特殊部隊がアジトに強行突入し、ゲリラ側との銃撃戦となる。そして、人質たちは、犯人のしかけたダイナマイトの爆発により、全員が死亡する――
衝撃を与えた結末から2年、犯人グループの動きを探るため、アジトで録音された盗聴テープが公開された。
そこには、人質たち8人が自ら書いた話を朗読する声が残っていた。
「自分の中にしまわれている過去」、「未来がどうあろうと決して損なわれない過去」を。
観客は人質ほほか、見張り役の犯人と、作戦本部でヘッドフォンを耳に当てる男だった。
最初に結末が語られるという手法。
自らの過去を物語として朗読する彼らは、もうなくなっている人たちなのだ。
それだけに、しみじみと切ないのだけど、ひとつひとつの話は溶けるように心に染み入る。
新聞やニュースでは、「人質8人死亡」とひとくくりにされてしまう彼らが、ひとりひとり、自分だけの生を歩んできたという証を語る。
両親の留守の間に、隣のおねえさんがやってきて、台所を貸してほしいと頼む。彼女は、老母のためにコンソメスープをつくるという。「コンソメスープ名人」
「ちょっと失礼ですが・・・」。自分は、なぜかたくさんの人の「死んだおばあさん」に似ているらしい。「死んだおばあさん」
強欲で口うるさい大家さんと、自分の勤務先でもらったアルファベットのビスケットを食べる。「やまびこビスケット」
この本を読んだ誰もが思うだろう。
自分なら、何を語るのだろうか、ということを。 -
私も朗読会に耳を傾ける一人となりました。人質の語る話はすべてどこかに死がまざっている。丁寧に語られた話はずいぶん昔の話で、それから大分時間がたってい、みなおじさんおばさんの年齢だが、今となってはその人たちもいない。2段階に時間が早送りされた感じだ。『やまびこビスケット』が心に残る。お話の最後の1行とプロフィールの1行の行間に詰まった年月に思いをはせる。今のところ今年1番。
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「私も朗読会に耳を傾ける一人と」
小川洋子には、いつも驚かされる、話の構成と表紙の装丁(今回は彫刻家の土屋仁応)に、、、
しかし辛い話です。...「私も朗読会に耳を傾ける一人と」
小川洋子には、いつも驚かされる、話の構成と表紙の装丁(今回は彫刻家の土屋仁応)に、、、
しかし辛い話です。。。2013/02/26
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プロローグが衝撃的過ぎて、その後どう読んだらいいのか戸惑った。
プロローグでは以下のことが語られる。
「日本から見ると地球の反対側のある国で、ツアー旅行に訪れていた7人の日本人と添乗員がテロ組織の人質となった。
人質になった日本人の男女は拘束されているものの穏やかに過ごしており、夜な夜な自分たちで作った話の朗読会を繰り広げた」
こうした説明が淡々とされ、あとは章ごとにその人質の語った話が連なっている。
ただしプロローグの最後で、人質たちは軍隊の突入で全員死亡したことが判明する。
つまりプロローグの後に綴られている話は、その後死んでいった者たちの最後の言葉と言うこと。
人質たちが語る話は、どこからどこまでが創作でどこからが実体験なのかとか、詳しいことが書かれていたりはしない。
このあと全員死ぬことになるんだけど、穏やかに暮らしていたせいもあってか、語る内容はあくまで淡々としている。ただし、その中にどこか、遠くて近い死の香りがする。
身近な人の死を語っていたり、やり投げの選手が放つ槍を「魂」と表現して、地面に刺さった槍に死を描いていたりする。
「死んだおばあさんに似ている」と誰もから言われる女性などは、もう死の世界に片足を突っ込んでいる存在そのものではないかな、と思う。
人質たちの話の最後に、人質たちの様子を伺っていた「ある国」の兵士の話が入る(ちなみにこの兵士も、「死んだおばあさんに似ている」と言われていた女性の声だけを聞き、何を言ってるかわからないが死んだ祖母の声に似てた、と言っていて唸った)。
兵士が、人質たちの朗読会を聞いて「ハキリアリのように粛々としていた」と感じているけど、読んた私も全く同じような思いに浸った。
静かにひとが死んでいく話である。
著者プロフィール
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