神変: 役小角絵巻

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (425ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120042584

感想・レビュー・書評

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  • 修験者の祖(元祖山伏的な?)と言われる、役小角(えんの おづぬ)の物語。

    飛鳥時代。中央政権の国造りを着々と進める、女帝・鸕野(持統天皇)と藤原不比等。
    山の民のリーダーの小角は“この天地(あめつち)は誰のものでもない”として、民を管理し重い税を徴収する京(みやこ)の権力者たちに抵抗を続けますが・・・。

    昔、友人から『天上の虹』という持統天皇を描いた漫画を借りて読んだことがあるのですが(友人が遠くに転居したため、途中の巻までしか読めていないのですが・・)、その漫画での持統天皇は聡明で魅力的に描かれていたので、本作での小角と敵対するポジションの持統天皇はかなりイメージが異なりましたね。
    “所有”という概念がなく、すべての土地は誰のものでもない、皆が平等で人と人が助け合い分け合う、横型社会を理想とする小角。
    対して、天皇を頂点として、政権が民を管理し秩序だったピラミッド型の国家システムを造ろうとする飛鳥(遷都後は藤原)京の役人たち。
    双方全く相容れず、ひたすら政権側VS小角率いる山の民の争いが続きます。
    小角は鸕野こと持統天皇を目の敵にしているのですが、鸕野は政策関連は不比等に丸投げしている感じなので、攻撃するなら不比等でしょ。と思いつつ、ただ、双方それぞれ正義があるというか、どっちも“理想の国”を目指してはいるんですよね。
    なので、後半で小角達が遠方までレジスタンス活動しても、あまり歓迎されないどころか通報されたりしちゃうのも、“税は取られても管理されている方がいい”と考える人々が少なからずいる、という小角達には虚しいラストになっていく訳で・・。
    このように、前半は“国”に対する政策闘争的な話っぽく進むのですが、中盤からは小角が神仏と一体化したり鬼を出現させたり、さらには鸕野や軽皇子(文武天皇)を宇宙まで連れだしたりと伝奇ファンタジーな展開になってました。
    まぁ、小角自身が実在したかどうかが微妙な伝説的な存在なので、ファンタジーになるのは仕方ないかな、と思った次第です。

    因みに余談ですが、役小角ゆかりの奈良県「吉祥草寺」には「役 小角奈(えんの おづな)」という萌えキャラがおりまして、その小角奈ちゃんがSNSで「おはよー、皆の衆!」と発信するのを、あの世から小角が見て膝から崩れ落ちていないか心配になった私ですww。

  • 今年は山本謙一を読み進めてみよう。この本は飛鳥時代の律令国家が急速に進む頃の話。これまで読んだ歴史小説で最も古い時代背景で持統天皇や藤原不比等の時代。山の民、小角(おずぬ)というおそらく架空の人物が主人公で絶えず修行して神通力を身につけて天皇に対立するおよよよな展開。。。確かに天皇家が神に変わって日本を治める根拠は薄弱だが。。 飛鳥時代の律令国家とは、その周辺のローカルなものと思っていたが、この頃すでにほぼ全国を手中に治めるくらい急成長していたとは知らなかった。ということを知っただけでも読んで良かったと思うことにしよう。
    s

  • 持統天皇と円の小角の戦いがザックリと書いてある。蔵王権現の登場が少しユニークだった。

  • 持統天皇の御代の話。
    飛鳥の宮の政に従わず、豊かな田野を逐われ、葛城の山に暮らした民たちと、修行により、御仏の力を得た小角の物語。

    日本という国の祖を築いたのは綿々と続く皇(すめらぎ)の一族の力。
    ただ、その国造りの大元の時は、確かに飛鳥の朝廷の者たちは盗人と言えるかもしれない。
    自らをして神と言うのも、とんだ大法螺とも言えようが。

    ただ、どちらの方にもつけなかった。
    どちらが悪くも正しくもない。

  • 歴史上の人物で興味があるのは武内宿禰と役小角です。その片方である、修験道の開祖とも言われるこの役小角をどのように描くのか、興味津々でした。はたして、一定の満足感とわずかな失望感が入り混じった読後感でした。
    満足できたのは、天地・宇宙と人との関わり、言の葉の力、祈りからくる仏や鬼の実在、などが描かれていた部分にすごいパワーを感じることができたこと。
    失望したのは、それほどの霊験あらたかな小角でさえも、結局は何事もなし得なかったということ。また、届くべき高みに届かないままに物語が終わってしまったこと。
    中央政府の持統天皇(鸕野)と庶民代表の小角がそれぞれの信念でそれぞれの正義を戦わせる展開は面白かった。どちらにも一理あり、どちらにも弱みがある。互いに「よかれ」と思ってやっていることが、互いの障壁になっているという構図は、現代でも様々な場面において通じる真理ではある。小説としては、この構図にもっと寄り添って最後まで突き進んだほうが成功したのではないかな、とか余計なことを思ってみたりもして。

  • 最後が尻すぼみで途中までの面白さが半減してしまった感が…。
    実際に大和朝廷が力を持ち国を支配したと言う史実があるから仕方が無いのかも知れませんが天地の理を理解し正しくあろうとする小角が身勝手な皇族や役人に対して優位に立てないのは歯痒いです。

    富を蓄積しようとする者と分け与えようとする者、規律で縛る者と自由でいたい者、相反する二者が歩み寄って落としどころを見付けるのは不可能なのかも知れない、と思ってしまった。

  • 役小角と言えば、思い出すのは藤川桂介の『宇宙皇子』。
    あの作品の中では、ほとんど全能な感じだったので、どうしても比較してしまいます。
    あ、黒岩重吾の遺作となった『役小角仙道剣』もありましたね。
    あちらよりは読みやすかったかな?

    本作の役小角も後半はかなり人間離れしていきますが、前半は朝廷の力に対して仲間を救えずに苦悩するような、“人間・小角”として描かれています。

    どんなに小角が頑張っても、結局は朝廷が日本中を支配していく史実があるだけに、無力感がぬぐえないのは残念なところです。

  • 修験道の開祖といわれる役小角の物語。
    思っていたよりも、ライトで読みやすかった。純粋な歴史モノってわけじゃないけれど、アリだと思う。

  • 『歴史』モノかと思ってました。登場人物が良くも悪くも魅力的なので途中まではグイグイ。
    だけど・・・ファンタジーですね。

  • 伝説の人物・役行者を主人公にした壮大な物語。途中まではぐいぐい引き込まれるが、途中からやや飽食感がする。

著者プロフィール

歴史・時代小説作家。1956年京都生まれ。同志社大学文学部を卒業後、出版社勤務を経てフリーのライターとなる。88年「信長を撃つ」で作家デビュー。99年「弾正の鷹」で小説NON短編時代小説賞、2001年『火天の城』で松本清張賞、09年『利休にたずねよ』で第140回直木賞を受賞。

「2022年 『夫婦商売 時代小説アンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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