- 本 ・本 (176ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120044243
感想・レビュー・書評
-
クロード・レヴィ=ストロースの日本への造詣の深さと愛着がわかる小論集。
父親が画家だったとのことで、子どもの頃に試験の出来が良いと日本の浮世絵を1枚づつもらったと嬉しそうに述懐していたのと、米寿の折に次男から贈られた日本製の炊飯器で炊いたご飯と焼き海苔が朝食に欠かせなかったとのことで、お気に入りの「日本」の想いがよくわかる編集となっている。
文化人類学者の観点からの日仏比較論としては、かつてフロイスやチェンバレンの指摘したのと同じ、道具や所作の真逆性の論点がなかなか興味深い。(鋸の使い方や針と糸の使い方など実際は誤解が多いようではあるが・・・)文化の多様性と、それまで自らが属した文明の相対化と再認識を力説することで、文化の原点と拠り所を浮き彫りにさせる効果を果たしていると思われる。
また、「因幡の白ウサギ」や「天岩戸」神話を題材に、遠くアメリカ大陸や古代エジプトに伝えられた「物語」との同質性を論じる論考では、神話の原点と拡散、そして違いを検討した上で、世界規模での「日本神話」の位置付けを提起するとともに、日本文化は中国や朝鮮半島、そして近代西洋文化の影響を強く受けながらも取捨選択と洗練という独創性を経た上で、欧米等に「日本文化」として再流入していると指摘し、世界観点での「日本」の相対化を論ずる眼差しも面白かった。
クロード・レヴィ=ストロースは招聘により何度も来日されていて、何週間にもわたるフィールド調査にも参加されており、自分の地域の近くだと能登半島にも行っておられるとのことで、そこまでの「愛着」があったとは意外でした。20世紀後半をリードした思想界の巨人ではありましたが、やはり根は人類学者ということでこういうのが好きだったんですね。(笑)
ところで余談ながら最初に収録されている講演録(1988年)に出てくる「宮城県での最近の発掘によって、四万年前から五万年前のものとされる石器の一群が見つかり」と言っているのはもしかすると例のあれですかね?知の巨人まで惑わすとはホント罪深い奴っちゃなー!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
文化人類学の大家、レヴィ=ストロース氏の日本文化に関する論評を編纂した本です。
学校で教えられるようなエジプト、ローマ、ギリシャ以来の世界史と対比して、文献などがない古代日本やアメリカ先住民の歴史を「月の裏側」と比喩し、本書のタイトルとなっています。少し日本文化を褒め過ぎな気もしましたが、禅や武士道なんかのよく取り扱われる題材ではなく、古事記や日本書紀などの神話について、アメリカ先住民の神話などと比較して深く考察している点が非常に興味深かったです。
著者の意見がどれだけ的を得ているかは判断つかないですが、神話の考察を読んだことで縄文文化への興味は間違いなく深まりました。ゲノム解析で明らかになった人類の足跡を紹介する「種の起源」という本によれば、平均的な日本人のゲノムを周辺諸国と比較すると、縄文人の遺伝子が日本人と周辺諸国の集団との遺伝的距離を大きくしているそうです。この点から、日本文化の独自性を考える際には、縄文文化を知ることが非常に重要なのではと思います。
(浅学なため、偉そうに論じれませんが、)古事記や日本書紀には、渡来系の征服者たちが取り込んだ、縄文時代から伝わる神話や伝承が一部織り込まれていると考えており、これらの神話がアメリカ先住民や東南アジアの島嶼部の神話と共通点を持つことを知り、大変興味深く感じました。 -
レヴィ=ストロースから見た日本文化論。ユーラシア大陸の西端のフランスと東端の日本を比較して、神話の共通項などを語りつつ、鋸やろくろの使い方など日本の独自性を強調する。
民俗学、社会人類学の大家に日本を褒められて悪い気はしないが、やや思い込みがあるかもと感じた。 -
「月の裏側」なんとも魅力的なタイトルである。
レヴィ=ストロースといえば構造主義を生み出した文化人類学者で、構造主義といえば学生の頃、浅田彰のポスト構造主義とか中沢新一だとかがベストセラーになって、ペダンティックだった学生たちはこぞって読む。よくわかんないけど読む。そう、で構造主義とは現象を分析するとき、目に見えるものを比べるのではなくその背景にあるものの構造を見極める姿勢を指す。サルトルの実存主義と対立する考え方だ。ヨーロッパがなんでも進んでて正しくて偉いという考え方に真っ向から反対した。
「月の裏側」は日本文化への視覚とサブタイトルにあるように、日本文化を語る。日本の神話がどこから来てどこへ流れていったのか、日本とヨーロッパの文化が時にあべこべであること、日本の芸術、浮世絵。世界に比較するものがない縄文文明のオリジナリティ。
そして、日本は世界で唯一独自の文化を忘れずに「科学技術がもたらした変革との狭間である種の均衡を見出すのに成功してきた」
20世紀、世界の中心と勘違いしてアイデンティティが崩壊したヨーロッパと文化的に反対側、月の裏側にある日本こそが重要な鍵を握るという示唆。
ハイブリッドして過去を捨てず新しいモノを創り出していく独自性を日本人は大切にしていきたいもんですね
-
外国の知識人に日本のことを語ってもらって、ありがたく承る、みたいなのって、なんか嫌な感じがする。
というわけで、10年以上前に出たこのレヴィ=ストロースの日本に関する講演やエッセイを集めた本は、気になりつつも、読まずにいた。
が、レヴィ=ストロースの日本での講演などを読むと、なかなか面白いし、人類学者は自分の知らない文化を理解するのがプロなので、面白いかもしれないと思い、読むことにした。
レヴィ=ストロースは親日家であることは知っていたが、彼の日本の文化への関心度は驚いた。翻訳を通じてではあるが、源氏物語、平家物語を始め日本の古典文学を広範に読んでいるし、浮世絵や書画をコレクションしていたりで、まあ、普通の日本人より、日本文化に詳しいと思われる。
そうした前提知識に加え、日本滞在での経験、日本の学者との交流を踏まえた上で、自身の構造主義的な人類学の方法論を踏まえた議論を展開していて、それを簡潔なエッセイでわかりやすく書いている。やはり、すごいな〜と思う。
一方、レヴィ=ストロースは、日本語を読めないし、何度か日本滞在したものの、本格的なフィールドワークをしているわけではない。そういった意味での限界は当然ある。そこは本人も理解していて、自分の考えについても控えめ的に提示するというスタンスである。
とはいえ、やはり自分の経験したことや本で読んだことを通じた過度の一般化もあって、気になるところもある。訳者の川田順造氏はレヴィ=ストロースから直接学んだ人なのだが、レヴィ=ストロースが過度に一般化する傾向があることへの批判的な訳註をつけていて、知的にスリリングな感じがあった。 -
西洋人は遠心的自我を持つ
東洋人は自我を消滅させようとする
日本人は求心的自我を持つ。
日本人は置かれた状況のために行動する。
自分で選んだわけでも望んだわけでもないことに責任を取ろうとする。
ということか?
この思想をレヴィストロースは肯定的にとらえているようだ。
「人々が常に役に立とうとしている。どんなにつつましい地位の人でも。
それでいて寛いだ感じでそれを行おうとする人間性」 -
レヴィ=ストロースの考える日本。
神話の類似性についてはなるほどと思うところ、強引ではなかろうかと思うところとありましたが仙厓についての見方や考え方はユーモラスさを中心に見ていた自分が恥ずかしくなりました。 -
哲学
-
レヴィ・ストロース 月の裏側
読了
基本的に日本人が日本を讃える類の本は、バカになるので読まないけども、外国人のものなら、ときどき読もうかな、と思うときもある
この本も、レヴィ・ストロースとはいえ、帯が日本人ってやっぱり素敵なんだよね!的雰囲気を出してたので、編集に怪しさを感じて遠ざけてましたが、なんかのところで、レヴィ・ストロースが日本好きだったののを思い出させる記事に出会って、ちょっと日本を自問してる昨今、そういえば何て言ってたんだっけ、すげー気になる、と思って手に取ってみた
日本を自問するうえで、少しだけテーマになってるジャポニスムにまで繋がってたのは意外だったけども、構造主義的観察の対象として日本をみる視点は参考になりつつ、基本的に薄い本なので内容もそんなに深まらない。日本語も話せない自分に日本を語る資格はない、という自覚のもと、かなり控えてもいる。
そして、このなかで、僕なりの日本的方法というのを、発見してしまった。
レヴィ・ストロースは一瞬言ってるだけだけども、これが今の日本的独創性と言われてるもののもつ論理的正しさの割にかなり胡散臭さがある部分を、ネガ像にしてしまって、胡散臭くない実際に近いポジ像的方法なんじゃないか!!と思ってる。
ちょっと深めていきたい。
クロード・レヴィ・ストロースの作品





