空にみずうみ

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 122
感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120047633

作品紹介・あらすじ

「あの日」から四年、積み重なった歳月を、みつめていた。東北地方に住む作家の早瀬と染色家の柚子の、ある一年。

感想・レビュー・書評

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  • 傑作。「渡良瀬」でたどり着いた場所から、もっと向こうに歩き続けている佐伯一麦が、ここにいます。何も起こらない日常生活の描写を読み続けることが少しも退屈ではない。この不思議な感覚は、村上春樹の引きずり込んだら離さないドライブ感とも違います。当分、この人の作品はやめられそうもありません。
    https://www.freeml.com/bl/12798349/1062070/

  • 作中で描かれる夫婦の生活がほんとうに理想的に見えた。お互い創作事に生業があって、なんとなく時間に緩やかななかで生活している。2010年代~(震災後)の東北での話であるが、そのことには直接触れられず何かがあった後というくらいに収められている。
    作中で主人公の作家が紹介する作品にとても惹かれて読みたくなった。福原麟太郎「治水」や、木山捷平「木の匂い」など。永井荷風の「濹東綺譚」の文章が引用されたときは、うんうんと心の内で頷いた。
    この小説は作者をモデルにした早瀬の視点だけでなく、妻の柚子の視点でも生活の多くが語られるところがよかった。そのおかげでかなり広くこの地の景色や人々を眺めることができたとおもう。かなかなの章で、耳の聞こえない桜井さんのためにその場の雑談をメモして伝えるところが好きだし、感じるものがおおかった。この話全般を通して自分の生活に訴えかけてくるような、もっとも好きなタイプの小説である。

  • 外出自粛で時間がたっぷりある時に読んだ。
    こうした時に読むのにはピッタリの本だ。
    ゆっくり時間が流れるのを感じる。でもけっして時間は止まらない。こんな時間の流れを感じることができる内容の本だ。

  • 読み始めるとちょうど梅雨頃からの話で、小説の中で鳴き出したカナカナが、実際にすぐそばの桜の木で鳴いているのに気づいた。
    また、通勤時に目にする合歓の花をユニークで美しい花だなと眺めていたので、親ネム子ネムの話にはウキウキ。
    癒えない悲しみや記憶が残る中でも、自然の植物や動物、たくさんの人々との交流を通し、ゆったりと慈しみながら流れる時間がとても豊かで安らぎを感じる。
    最後の、生まれ落ちた人間から広がる波紋のイメージに何かはっとさせられるものがあり、心に染みていった。
    念願の一生ものの机いいなあ。

  • 時間と心に余裕のある時に読めば良かったかも。
    ちょっとスローペースで、読んでてしんどかったです。
    いい話だとは思ったのですが・・・

  • あの地震から3年後くらいの早春~翌年の早春くらいの間の、ある夫婦の日常が淡々となんだけど、自然の色彩豊かに描かれている、なんてのエッセイ的な。
    エッセイとは違うのだけど。多分、著者ご本人の身の回りのことを、違う人の目線で描いているというか(と思ったんだけど)
    でもとにかく、東北の地の、自然に近しく親しんで生活している人のなんというかほっこりする具合の。
    多分、都会、東京のど真ん中でさえ、自分で気づけば感じることのできる季節の移ろいなんだろうけど、すっかりそんなこと忘れているなぁって思えた。

    すこし立ちどまる、空気や音や光を感じるのもいいかもなと思う本。

  • 東日本大震災から四年、東北地方で暮らす、小説家と染色作家の夫婦。
    集合住宅でありながらも、自然が感じられる住まいの様子、人とのふれあい。
    静かな生を、丹念に記した、私小説?随筆?

  • 震災後の仙台市に暮らす作家の私小説で、豊かな自然と人情に支えられて生活を営む夫婦が主人公となる。四季の移り変わりを伝える草木や野鳥たち。食文化も自然への回帰に努め、それを楽しむ。あえて特別でない日常に身を置くことを心掛けているふたり。いくぶん風流を気どり過ぎにも思えたり、相当な神経質さも伺えたり。仙台市は、と言うより宮城県は未だ訪れたことがなく、いつか旅したいが、そのときは野草園をゆっくりと巡ろう。

  • 佐伯一麦さんの「エッセイのような私小説」が大好きだ。
    今回も楽しく読みながら、ふと、お亡くなりになるまで、ずっと愛読していた「庄野潤三さんのエッセイのような私小説」のことを思い出した。今まで全く結びつけて考えたことはなかったが、佐伯さんと庄野さんでは年齢も親子ほど離れているが、ご夫婦お二人の静かな落ち着いた生活をのぞき見(というのはちょっと下品だな。寄り添うっていうのもあつかましすぎるしな)している感じで読んでいた。その点は似ていて、こういう生活、夫婦のあり方に私は憧れを持っているのだ。
    (今、朝日新聞で連載されている漱石の「門」の夫婦にも、学生時代憧れていたのを思い出す)。
    夫婦2人の世界がしっかりあって、だからといって世間から隔絶しているわけでなく、ご近所や友人、知人たちと細やかに交流されている。心がこもった、大人のお付き合いというか・・・
    夫婦の片割れが私である以上、そのような夫婦の落ち着いた静かな生活は望めるわけもなく、ただただ憧れる。
    自然の移り変わり、植物や虫、小動物への関心、知識・・・無理無理・・・

    そんなお二人の生活にも容赦なく震災が襲う。
    周囲の方々の中にも、がらっと生活が変わってしまった人がいる。はっきりと、細かい描写がされてはおらず、それとなくさりげなく描かれているだけに、被害の大きさ、被災された方の負担の大きさが感じられる。4年たったといっても、震災で失われたものは帰ってこない。

    穏やかな日常のありがたさ・・・とかでまとめてしまいたくはないが、大災害を受けても、まだまだ生活は続く。生活が元通りになったといっても、震災の前後では何かが決定的に変わってしまったはず。それでも生活は続く。ずっとずっと読み続けていきたい。よろしくお願いします(って誰に言ってるんだ)。

  • 日々の暮らしを丹念に綴った1冊。
    鳥の声虫の音のほか生活音も。再婚の相手と心通わせ合うしずかな暮らし。

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著者プロフィール

1959年、宮城県生まれ。84年、「木を接ぐ」により海燕新人文学賞、91年、「ア・ルース・ボーイ」で三島由紀夫賞、「遠き山に日は落ちて」で木山捷平文学賞、『鉄塔家族』で大佛次郎賞、『山海記』で芸術選奨・文部科学大臣賞文学部門を受賞。ノンフィクションに『アスベストス』、エッセイに『Nさんの机で ものをめぐる文学的自叙伝』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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