- Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120048142
感想・レビュー・書評
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現在と、過去と未来、此岸と彼岸が交わる、切ないお話。もういなくなった人、去っていく人、これからを生きていく人の営みが間近に感じられて、胸がいっぱいになった。
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読み始めは明治期の長屋を舞台にした、ごく普通の人情もののようでした。しかし、読み進めるに従い、思わぬ方向に話が進みます。
直前に読んだ梨木香歩さんの「冬虫夏草」と同系統の不思議な物語。日常の中にごく普通に”不可思議”が紛れ込んで物語が進んでいきます。ただ、最初から全体の構成がきちんと作られていたのでしょうね。最初はポツンと現れた”不可思議”がどんどん広がって行くようになっています。
木内さん、良いですね。時代小説がメインですが多作に流されることなく(時代小説作家は人気が出ると多作になることが多いような気がします)、一作一作本当に手塩に掛けるという感じで丁寧に書かれています。文章も見事です。
ただ欲を言えば、齣江さん、トメさんがこの長屋に現れたその裏をもう少し描いて欲しかったかな。あからさまで無く、ほんの少しで良いのですが。 -
とある長屋の日常かと思えば、読み進めるうちに、不思議な世界がじわじわと広がっていく・・・。こういうお話、好きです。
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とある出版社のブログで紹介されていた本。
といっても、面白いと評判が高い、という程度。
主人公は古い長屋の一角に住むお針子の齣江、と思って読み進めるが、連作短編集なので、語り手も主役も入れ替わる。
齣江も主役の一人、といったところ。
いろんな時間軸が交錯して、少し不思議で哀しい本だった。
大切な人や物と心ならずも別れてしまった人に。
収録作品:ミカリバアサマの夜 抜け道の灯り 花びらと天神様 襦袢の竹、路地の花 雨降らし 夏が朽ちる 晦日の菓子 御酉様の一夜 煤払いと討ち入り 猿田彦の足跡 遠野さん 長と嵩 抽斗のルーペ まがきの花 花よりもなほ 夏蜜柑と水羊羹 はじまりの日 -
文字や言葉で、音、色、風、静けさが巧みに描かれる。一文一文が短いが、気品があり、ゆっくりと深い呼吸をした時に見えてくるような風景が言葉で紡がれる。どこか奥深い世界に入り込んでいく感覚。初めての木内さんの作品。どれが幻で、現実なのか、実はその境界線は危うく、儚いものなのかもしれない。効率や合理性だけでは説明できない、豊かで大切なものを、見せてもらった。トメさんの存在と言葉が印象的。「支えてくれる人がいるのは、咎ではない。果報だ」日本語の美しさと豊かさに満たされた素敵な作品。せわしなさを離れて、没入。
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時間軸がねじれた優しい話。昆虫好きの遠野さんの顔が浮かぶ。
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敢えて分類するとしたら、ファンタジー?、小説?、なのか...
時代背景は昭和初期、辺りなのだろうか。
自然のままか、それに近い緑と影・自然が織りなす臭いや湿り気・土や草の匂い、空気がきれいだった分だけ冬でも日差しは強く、その分影も濃かった...。
”不思議さ”のタネ自体は珍しいものではないと思うが、設定や表現・各人物の交錯などで、静かに面白く読めました。
”まえがき”も”あとがき”も無いのですが、妥当です。
有ったら無粋だし邪魔なだけで、当然のことながら心得て構成されているようです。 -
東へ行けば天神様のお社。
西へ行けばお屋敷の土塀。
その間にある長屋に暮らし、針仕事を生業とする齣江。
老婆と魚屋の次男は齣江の家に上がり込み日々を暮らす。
不思議なことがあっても、それ以上踏み込んではいけない。幻想的な世界観に大満足の一冊。 -
今の自分と、ここを通っていた頃の自分は随分隔たっている。うろたえているふうな、喜んでいるふうな、そして胸のずっと奥底で泣いているような顔。とてつもない不安。答えなんぞ分からない。だけど進む。生きるっていうことはそういうこと。ちょっと不思議な世界。だけど、それ以上にめずやかに感じたのは、今の世の中には決してない、人肌の温かみと人情。不思議な違和感の正体が実はここにある。
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不思議なのですが、じんわり心地よく、切ない話。