彼女に関する十二章

著者 :
  • 中央公論新社
3.61
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本棚登録 : 583
感想 : 98
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120048449

作品紹介・あらすじ

どうしたって違うこれまでとこれから…更年期世代の感慨を上質のユーモアに包んで描く。

感想・レビュー・書評

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  • 伊藤整の60年前に書かれたエッセイがベースとなっているこの物語。
    すいません、伊藤整って聞いたことも読んだこともないんですけどベストセラーになったエッセイなんですね…

    それはさておき、50歳になった普通の主婦聖子さんが主人公…といろんなレビューでも説明されている。
    確かに50歳で、かつてはバリバリに働いていた女性で今はパート勤務。夫と社会人になった息子と言う設定はどこにでもいそう。

    でも、この聖子さんはファンタジーの世界の住人だなぁと思ってしまう。
    本来この年代の女性は様々な悩みや問題を抱えて辛いことも多かろう。
    それが中島京子の筆にかかればどうだろう。
    あっという間におとぎの国の主婦に変身してしまう。
    だってとぼけている風だけど会話の多い友達のような夫もいるし、仕事をオファーされる能力も持ってるし、自分に想いを寄せる男性もいるじゃないか!
    贅沢だよ、聖子さん!
    この現実からちょっとだけ離れた世界がなんとも心地良い。
    中島さんの独特の間合いとユーモアたっぷりの会話。いやみの全くない登場人物たち。

    「長いお別れ」でも感じたことだけれど、現実世界に限りなく近い世界を描くことによって、深い共感と心地よさを感じられるのだろう。

    ああ、やっぱり中島さんはすごい。
    読んでいて本当に面白かった。

  • 伊藤整の60年前のベストセラー、「女性に関する十二章」というエッセイをもとに書かれた、十二章からなる物語。
    「女性論」といっても堅苦しい話にはならず、主人公聖子さんの語り口が絶妙で、読んでいてとても楽しかったです。
    一人息子の勉と、その彼女のチカちゃんや、夫の弟の小次郎くんや、「サポートステーション・ゆらゆら」で出会った片瀬さんなど、個性豊かな人たちに囲まれて、聖子さん幸せそう。
    五十になっても、人生はいちいち驚くことばっかり。まだまだ楽しまなくちゃね。

  • 女っ気のない大学院生の一人息子のことが心配な50目前の母であり妻である女性聖子(昔のあだ名はブリちゃん)のお話。夫はあまり細かいことにこだわらない感じのライターで、自身は割と長い期間、週の半分くらい同じ事務所に経理系の事務仕事の手伝いに行く生活。あるときその事務所の紹介でNPOの経理仕事を手伝うことになり、なんとも独特で不思議な、初老の男性「調整屋さん」と知り合う。請け負ったコラム的なもののの執筆テーマがワンマン経営者のジイサンの希望でひどく偏ったものになりそうで頭を抱える夫と、予告無く彼女を連れて帰省してきた息子、愛想のないその彼女、と、妻・母として家庭の潤滑油的な脇役的な立場でそれぞれに向き合うのが主人公の日常。そこに時折、聖子が主役となる職場での調整屋さんとのエピソードと、むかしむかしの初恋の人(故人)の息子とのやりとりが挟まって、とてもいいアクセントになっていました。大変面白かったです。今回の元ネタ『女性に関する十二章』について全く知らずに読みましたが、問題なく楽しく読めました。

  • 熟年世代の仄かな淡い恋心がピュアに描かれていて好き。
    恋と呼べるのかどうかもわからないけれど、
    生々しく発展せずに、いい感じのところでぴたりと終わるのもいい。
    いろんな形の人生や恋愛があって、それでいいんだ!
    と素直に前向きな気持ちになった。

  • 50歳を迎えた聖子さん。
    呑気な夫とののんびりした日常の中、彼女ができないと心配していた息子がちょっと変わった女の子と同棲してることが分かったり、初恋の人の忘れ形見にときめいたり、新しい職場で知り合った男性に苛立ったり、小さな出来事に翻弄される。

    同世代の聖子さんに共感しながら読みました。
    同じテーブルでランチでもしながら、そうそう、分かる~と話しているような気分になり、とても楽しい読書でした。

    聖子さんがとても魅力的。
    笑いのセンスも冴えていて、とても頭のいい人だなと思いました。
    著者ご本人がこういう方なのかもと思わされますが、どうなのでしょうか?

    聖子さんとお友達になりたいです。

  • 50歳になった聖子が語る日々の出来事。
    伊藤整のエッセイ「女性に関する十二章」を元に繰り広げられる様々な出来事がとても軽やかに語られていました。
    面白い!

  • 「他人のエゴを認めて、自分のエゴも肯定する」文化と「他人のために自分のエゴを否定する」文化。西洋と東洋は根本が違っている、と説く。昨今のCOVID-19の対応にもよく表れているような気がした。

    自分がマスクをしたくないから、他人もその”エゴ”を認めようとする西洋社会と、他人が感染することを防ぐために、自分のエゴを抑えて皆でマスクをする日本。必ずしもどちらが良いかという話ではないけど、日本の方が窮屈、圧力がかかりやすいような気がする。
    そして、その延長上に戦争への道(軍事化)があると考えると、恐ろしい。

    伊藤整の「女性に関する12章」は1954年上梓。当時は、東京オリンピックの10年前。ちょうど『ALWAYS 三丁目の夕日』の頃でしょうか。日本中が貧しかったけど、希望にあふれていたのでしょう。それに比べて、本書上梓の2016年は、…。勉の同棲相手の妊娠に際して、「この世って、生まれてくるに値する」と確信を持って言えない主人公に同意する。60年間で、今日なら68年か、私たち日本は、便利さのために希望と自信を失ってしまったのでしょうか。
    そして、女性にとって生きやすい時代は、まだまだまだ、遠い先かも。

    1つだけ変わらない点がある。「全家庭の奥様方の内、その92%は離婚を希望しております」

  • *「50歳になっても、人生はいちいち驚くことばっかり」
    息子は巣立ち、夫と二人の暮らしに戻った主婦の聖子が、
    ふとしたことで読み始めた60年前の「女性論」。一見古めかしい昭和の文士の随筆と、聖子の日々の出来事は不思議と響き合って……更年期世代の感慨と、思いがけない新たな出会い。上質のユーモアが心地よい、ミドルエイジ応援小説*

    とにかく聖子さんがとってもチャーミング!
    そこに、中島京子氏独特の言い回しがぴったりマッチして、なんとも言えない可笑しさと哀しさが同居する素敵な作品になっています。「事と次第によっては私!」なんて、噴き出しちゃったわ。
    色々な感情や思いがあっても、心ではちええと口を尖らせていても、豆御飯を炊いてにっこり微笑むことのできる50代になりたいな。

  • 同世代の女性が、仕事したり、ハプニングが起こったり、子供の成長など、毎日色々ありながらも生き生きと生きているのがすがすがしいと思える1冊でした。
    同世代でありながらもまだ我が家は子供が中学生なので、数年後の心情の参考にもなりました。
    夫婦の会話も本の話ができてうらやましいわ!
    子供が成長すると、こうやって夫婦だけになっちゃうのねと現実はなかなか寂しいものですね。自分が聖子さんみたいにもがきながらも子離れできるか不安です・・・

    昔の女性の生き方とリンクさせている設定が新しいと思いました。
    やや文章が読みにくい感じもあったので、★3つ。

  •  家族、小さな社会単位。生まれる家を選ぶことはできない。でも自分の家族を作ろうとすることはできる。それはパートナーとの関係から始まる。それは自分がどう生きようとするか、からはじまる。
    何をどう感じるか、それは一人一人違う。隣の人にもそれぞれの感じ方がある。
     それぞれの感じ方があり、折り合うところを見つけていくということでいい。昨日と違う今日、それを感じるだけでも生きている意味はある。
     「○○のために」という生き方は美しいように思えるが危険でもある。それは家族のために、でもそう。
     自分を大切にすることは人を大切にすること…。
     キリスト教的な愛と孔子的な愛、というのが私にはよく理解できなかったな。

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著者プロフィール

1964 年東京都杉並生まれ。小説家、エッセイスト。出版社勤務、フリーライターを経て、2003 年『FUTON』でデビュー。2010 年『小さいおうち』で第143 回直木三十五賞受賞。同作品は山田洋次監督により映画化。『かたづの!』で第3 回河合隼雄物語賞・第4 回歴史時代作家クラブ作品賞・第28 回柴田錬三郎賞を、『長いお別れ』で第10 回中央公論文芸賞・第5 回日本医療小説大賞を、『夢見る帝国図書館』で第30 回紫式部文学賞を受賞。

「2022年 『手塚マンガで学ぶ 憲法・環境・共生 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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