三の隣は五号室

著者 :
  • 中央公論新社
3.15
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本棚登録 : 651
感想 : 85
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120048555

作品紹介・あらすじ

傷心のOLがいた。秘密を抱えた男がいた。病を得た伴侶が、異国の者が、単身赴任者が、どら息子が、居候が、苦学生が、ここにいた。-そして全員が去った。それぞれの跡形を残して。

感想・レビュー・書評

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    一気に読んだ、 楽しかったなぁ。部屋が主人公というか、定点観測小説とでも呼べばいいのか。長嶋有史上でも特にテクニカルな小説のように思う1冊。登場人物たちのネーミング、家電製品や家の中のガジェットの変化そういった所がいかにもブルボン小林ぽくもあって嬉しくなっちゃう。

    自分も賃貸物件居住者だけども、前に住んでいた人を知らないし次に住む人の事もきっと知らずにいるのって良く良く考えてみたら変な気がする。小説の中では、登場人物たちが緩やかに繋がっているように見えるのだけれど、同じ部屋に住んでいるのだから似たようなことを考えたりする事もあるだろうなと納得。僕の前の住人も、このスペースをどうしようか悩んだのだろうかとかね。
    長嶋有は「なにも起こらない」間に大きな決断をしたり、大きな人生のうねりに飲み込まれたり、何というか「ドラマチックな展開の真っ只中」でも何も思っていない時があるという事を小説で描いていて、なにも起きていない時間やなにも思っていない時間も「生きている時間」だと思えて何だか良いのですよ。
    そんな長嶋さんも15周年だそう、みんなで読もうじゃないか!オススメです!

  • ちょうど息子が東京の変な間取りのワンルームアパートに引っ越したばかりだったので興味深く読んだ。
    「結構広いな」と思って読み始めたのだが70年代にはここで子供を産んだ、それも田舎から産婆を連れてくる!という描写にはびっくりした。
    吉祥寺の長嶋荘ではどうだったのだろう?と思いながら読みました。

  • 賃貸アパートのある一室。そこを通り過ぎた時代と、人。滔々とながれていく時間と、人々の暮らしを見ていくのが、何とも穏やかで不思議な感覚になる小説だった。
    そして、ふと自分の住まい住民に思いを馳せる。そんな豊かな時間を過ごせました。

  • 第一藤岡荘の五号室に入居した13人の話。それぞれの理由があってアパートに越してきて、それぞれの生活があり、それぞれの理由で退去していく。他人同士でも同じ部屋で過ごすことで同じことを思ったり、同じ部屋でも時代が違えば住み方が変わったり。
    タイトルを深読みし過ぎたのが残念。もっとゆったり読めばよかった。

  • 1966年から2016年までに13人の人が暮らした部屋。
    誰もが変な間取りと言っている都内に建つ第一藤岡荘の五号室の50年間。


    不思議な話。
    ひとつの部屋の歩みを描いていますが、時系列はバラバラ、タクシーや障子の穴など、ささいな物事でつながり、それぞれのエピソードが綴られる。

    時系列を自分で書き出して並べてみようかと思いましたが、それをしてしまったら、このお話の魅力はなくなりそうでやめました。

    第一話を読んで、どんなふうに変な間取りなんだろうと紙に描いてみました。
    そしたらなんと!第二話の前に間取り図がある!
    描いたものとほぼ一緒でした。(笑)

    著者の作品は、自分と時間にに余裕のあるときの方がいいかも。
    絶対好きな作風なのに、疲れていた時だったせいか、読みながら何度も居眠りしてしまいました。
    充分楽しめていないようで勿体なかったと反省してます。

  • なぜか読んでいてイライラしてくる。

  • 当たり前のような1日の生活が当たり前に過ぎてゆく。いつだって一人だって、親子であっても。時が流れても季節が移っても人は連綿と生活を重ねてゆく。そんなことを部屋の視線(?)から昭和~平成の細やかな出来事、モノ、空気感を含みながら長嶋先生らしく紡いでゆく。
    だけど、帯にある、面目躍如 何にたいしての?

  • 変な間取りの2DKアパート「藤岡荘五号室」50年の歴代入居者たちの日常を描いた情景小説(とでもいうのか?)

    この五号室は4畳半の三方に障子を配した珍しい部屋、とはいえ非現実的というほど突飛ということもないのだが、に住んだ傷心のOL、謎の荷物を預かる男、アマチュア無線マニア、病の妻をみとった男、4人家族、学生、女子大生などなど…の生活情景をその時代の風俗描写とともに描く。

    面白いのは時系列で描かれていないこと、何かのキーワード、例えば「雨音」であれば、その雨音の響きをキーワードに住民たちの思いを行動を描いていく、構成にこだわっている雰囲気は出さず(後で考えると絶対計算されていると思うのだが)、ランダムに人物が選出され描写があって、その描写の中のキーワードつながりでまた次の人物が選出されるような。まるでこの部屋がなくなる寸前に一生の思い出をツラツラと振り返っているような雰囲気で読ませる。

    起承転結やオチなどない、最終章は最後の住民の描写で終わることくらい。あらすじもない、興奮するところもなく、感動も特にないのだが、何故か印象に残るのは、登場人物たちが生きてきた時代の情景のほとんどを、自分や親世代がも実体験してるような気になるからだろうか?

    なんとも不思議な雰囲気と読後の余韻を感じた小説だった。

  • 出だしは登場人物多くてめんどくさい?とか思ったけれど、徐々に徐々に、これこれ、これだよ、小説ってのはこういうのだよ、と思いながら読み進めた(一つ前に読んだ別の著者の小説が個人的にハズレだったので)。

    一言で言ってしまえば「ちょっと変わった間取りの一つの部屋に別々の時期に暮らした13の人たちの話」なんだけど、そこにある些細な出来事や日常をすくいあげるのが、私の読みたい「小説」にドンピシャだった。

    タイトルページと目次が第一話のあとにあるという造本の工夫もいい。

    それぞれの章ごとにテーマがあって(シンクだったり風邪だったり、テレビだったり)それに沿ったそれぞれの住人たちの話が書かれている。
    具体的なテレビ番組なども組み込まれて人物像が作られている。

    ぐっと引き込まれたのは「第五話 影」からで、以下気に入った部分。

    ・もう、キムタクみたいにモテたい、女に騒がれたいだなんて思わない、それより、ドラマの中で描かれるこの二人の「仲の良さ」が保には羨ましい。年を取ればとるほど、人は誰かと仲良くなれない。(p.94)

    ・もしかしたら、今から自分は「誰か」と「仲良く」なれるかもしれない。そんな風な予感の、入口を一瞬見た。(p.96)

    (ホームセンターへ行った睦郎)
    ・「どう生きてもいい」「どのようにも生きられる」と睦郎は言葉でなく肌で感じた。(略)それはたとえば(同じようにお金をかけることとはいえ)高級な既製品をただ買ったり、誰かに作業してもらうこととはまるで別の豊かさだ。なんというか「自分が生きている」のだ。(p.98-99)

    その人の性格や、大袈裟に言えば生き方は暮らしの中の些細な部分に現れるのだな、とか、暮らしの中の些細なことから人生についてふと考えてしまったりするんだよな、ということが淡々とした日常の中にぽつりぽつりと書かれていて、大袈裟ではなくて、地に足がついている感覚がとても好きだ。
    重なっていく日常を描く方が、非日常を描くよりも難しいことだろうから。実際の人生だって、9割の日常と1割の非日常だから。

    新生活の始まるこの時期に読めてなおよかった。

  • 家探しのときは綺麗であることを重視していたけど、過去の住人に思いをはせることができる古めかしい家に人生で1度くらいは住んでみたい気持ちになった。
    メモをとりながらもう一度読んでみると、淡々と書かれていたキャラクターたちに色が出てきて人となりが見えたような気がした。7番目の住人七瀬さんとは友達になれそうだなあとか。住んでみたいです、第一藤岡荘。(第二でも◎)

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著者プロフィール

小説家、俳人。「猛スピードで母は」で芥川賞(文春文庫)、『夕子ちゃんの近道』(講談社文庫)で大江健三郎賞、『三の隣は五号室』(中央公論新社)で谷崎潤一郎賞を受賞。近作に『ルーティーンズ』(講談社)。句集に『新装版・ 春のお辞儀』(書肆侃侃房)。その他の著作に『俳句は入門できる』(朝日新書)、『フキンシンちゃん』(エデンコミックス)など。
自選一句「素麺や磔のウルトラセブン」

「2021年 『東京マッハ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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