日本の大問題 現在をどう生きるか

  • 中央公論新社
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本棚登録 : 56
レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120048708

感想・レビュー・書評

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  • 201610/

    自分で学ぶ場を与えるということが教師の最大の役目ですし、自分で修行する場を作ってあげることが、教育の大きな役割の一つだと僕は思います。学校にとっては、「場」という考え方が大事なのです。/

    自分で考えろということは、本気でやれということです。人間は、普通はあまり深く考えずに生きています。しかし、切羽詰まれば、自分で考えます。そして、切羽詰まらなくても、自分で考えろ、と言いたい。切羽詰まらないと本気になれないというのでは、たいしたことはできない。どういう仕事をするにしても、普段から本気でやれということです。/

    問題や対立から逃げる人というのは、次に問題が出てきた時にも、逃げるに決まっています。それはつまり、何も学ぶ気がないということです。どんな社会であれ、何かをやるということには、自分を育てるという意味合いがあります。これは自分を育ててくれると思えば、本気になれるはずなんです。/

    よく人生は山道を登ようなものだなんて言いますが、とんでもない。崖を登っているようなものです。手を離しただけで落ちていきます。もちろん、落ちるのは楽ですよ。空中を浮遊するだけだから。手を離さずに、全身を使って一歩ずつ登る。そうすると、ちょっとずつ世界が広く見えてくる。人生というのはそういうものです。オフィスに座っていれば給料をもらえるような人は、人生を怠けているようなものです。/

    人間には出力をしながら入力を取り込んでいく。仰向けに寝て上しか見ていなかった赤ちゃんが、はいはいを始めることによって、自分が動くとまわりが動くということを知る。そうやって自分から入力を変えて、劇的に変わっていく。/

    元来、日本はそういう国(民族が混ざり合っている)です。いろいろな人種が、ぐちゃぐちゃに混じり合った後で外部との交渉が切れたので、そういう成り立ちの国であることに気づかなくなっていますが、日本はアメリカが古くなったような国だと思います。
    まさに!日本は、いまのアメリカの1000年後みたいな国だと、常々思っていました。世界の西の端のフロンティアがアメリカなら、少し小さいですが東の端のフロンティアが古代の日本だったのです。そこにアジア中、いや世界中からボートピープルが流れ着いて、いまのアメリカ人が銃が手放せないように、ずっと剣を引っ提げて暮らして、戦国時代に手ひどく殺しあってからようやく自分たちの手で武装解除を実現した。アメリカがそうなるのは500年後でしょうか。/

    日本人にとっては、誰が偉いなどというのも、頭の中だけでのことですから、「イワシの頭も信心から」と同じことなんです。このことは、相当古くから浸透しています。鎌倉時代の道元が、「先生にとって、一番大事な資質は学ぶ姿勢だ」と言っています。「先生」であるための実質的な知識や能力ではなく、学ぶ態度を言うわけです。
    学ぶ態度こそが大切。一番上なのに、常に学んでいるとは立派な奴、ということですか。むしろ成功し続けるより、失敗して学ぶ姿に人気が出る。
    学ぶときに一番大切なのは、「己を虚しゅうすること」となるわけです。実際、日本人は良く学びます。ただ、「では、あなたの意見は」と聞かれると、「さあ」となってしまう。
    日本では、権力者に対しても、「先生」のような扱いなのですね。
    そう、ただ立てているだけ。
    実際にその場にふさわしいかどうかではなく、フィクションとして、「この人は先生です」と立て、そう決めたらみんなでそれに従う。その代り、上にいる側も余計なことはしない。むやみに権力はふるわず、おとなしくしている。/

    学問はもともと非組織戦だったと思います。ところが、マルクスの頃から変わってきて、組織戦になってきたところがあります。学問を実践しようとしう輩が出始めたからでしょう。学問は実践しないからこそ意味がある。それを学んでいる人の頭が変わることで、世界がひとりでに違ってくる、それでいいということです。ひとりでにではなく人の行動を変えようとすると、とんでもないことになる。たとえばソ連ができる、というのが教訓です。
    考えが変わっていくのは脳にとって自然なことで、例えば、年をとることでも変わっていきます。だから、できるだけ自然に任せていい。僕はこれまで、自分の頭で考えよう、と言い続けてきたのですが、それではどうしたって、非組織戦にならざるをえないのです。そして実は、そういう抵抗の仕方が最も強靭なのです。
    認識が変われば、無理に足並みそろえて行動を強制しなくとも世界は変わっていく。/

著者プロフィール

解剖学者

「2019年 『世間とズレながら、生きていく。(仮)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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