架空の犬と嘘をつく猫 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
3.65
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本棚登録 : 783
感想 : 111
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  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120050343

作品紹介・あらすじ

「嘘吐き」の家系の羽猫家――3人目の子供を亡くしたことを受け容れられず空想の世界で生きる母、愛人の元にすぐ逃げる父、それの全てに反発する姉、そして、思い付きで動く適当な祖父と、比較的まともな祖母……。
そんな滅茶苦茶な家の長男として生まれた山吹は、幼い頃からみんなが唱える「嘘」に合わせ成長してきた。そして、その末に、このてんでバラバラな家族のゆく末と山吹の日常には、意外な結果が訪れる。これは、それぞれが破綻した嘘を突き続けた家族の、ある素敵な物語――。
若手実力派作家・寺地はるなが描く、ちょっと変わった家族小説が登場!

感想・レビュー・書評

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  • ★3.5

    「あんたは社会にとって、なんの役にも立ってない子」
    そう言われて育った羽猫家長男の山吹。
    だけど彼が大人になり、みんなの“嘘”が解かれたとき、
    本当の家族の姿が見えてくる。
    それぞれが破綻した嘘をつき続けた家族の、素敵な物語―。

    「嘘吐き」の家系の羽猫家――
    3人目の子供を亡くしたことを受け容れられず空想の世界で生きる母、
    愛人の元にすぐ逃げる父、それの全てに反発する姉、
    そして、思い付きで動く適当な祖父と、比較的まともな祖母……。
    そんな滅茶苦茶な家の長男として生まれた山吹は、
    幼い頃からみんなが唱える「嘘」に合わせ成長してきた。
    そして、その末に、このてんでバラバラな家族のゆく末と山吹の日常には、
    意外な結果が訪れる。

    羽猫家は本当に変わった家族だった。
    読み進めるにしたがってどうしてこんな家族になったのか分かりましたが、
    家族皆が生きる為に嘘をつき、
    その嘘によってお互いを気つけ合う。
    家族…家庭が安らげる場所と思える人ばかりじゃない。
    外から見ると仲の良い幸せそうな家族、そんな家族が一人の爆発によって、
    脆くも崩れる姿、嫌っていう程テレビのニュースになっている。
    そして新しいニュースが流れて古い事件を忘れちゃう。
    この本は、先日読んだ「水を縫う」の3年前に書かれた作品です。
    この本から水を縫うが生まれたんじゃないかなぁと思った。
    テーマも違っているんだけど何かが通じている。

    お祖母ちゃんがいてくれて本当に良かった。
    「逃げたいだけ逃げたらいい。いずれ逃げられん時が来る。
    その時まで力を蓄えとったらいい。」
    「あんたは社会にとって何の役にもなっていない。
    でもそれはこの世に存在しなくていいという理由にはならないから。」
    祖母の言葉が凄いなぁ。眼差しが温かいよ(*´ `*)

    山吹が大人になってた。
    紅と山吹が一緒にいると幸せを感じる人と巡り合った事、
    良かった~って思った。
    最後は何となく皆年齢を重ねて丸~るくなって、ほっこり終われたのが
    幸せだった。

    安全な場所から他人の選択に口をだすのは恥ずべき事だと自分を戒める
    凄く共感しました。心に刻んでおきます。

  • 同じ家に暮らしていながら、みんなの向いている方向がバラバラ。これって特に子どもにとってはしんどい事。
    架空の犬は自分を癒すためのツールだなんて、なんだか切ない。
    でも時が流れるにつれ、家族みんなの気持ちも緩やかに変化していき、ラストはいい感じに落ちついたのでホッとした。

  • 女性週刊紙の本紹介コーナーでの作者のインタビュー記事を読んで興味を持った。装画も好みだったし。
    久しぶりの小説作品ということで、なかなか小説世界には入れなかった(たぶん心を開ききれていなかったと思われる)けど、徐々に頼りない主人公・山吹が気になり始めた。

    山吹、という綺麗な名を持つ男の子は物語のはじまりでは八歳。空想癖があり‘架空の犬’を飼っていて、辛いときにはその犬の頭を撫でている。家族は六人。祖父母と父母、姉・紅と暮らしている。もうひとり下に青磁という弟がいた。不幸な事故で亡くなったが、母はその事実を受け入れられず、青磁が‘まだ生きている’ように過ごす。その母の世界を壊さぬために山吹は‘青磁’の署名が記された手紙を書き、母に送り続けているが...。

    主人公、山吹だけではなく、魔女と呼ばれる祖母、浮気している父、そんな家族を嫌って後に出ていってしまう姉などの視点も挿入され、いろんな人の立場から見える小説になっている。みんな自分を守るため自分にも他人にも嘘をついている。それは『ずるい』ことなのか。

    父の愛人の鮎子が偶然であった山吹にこう言う。
    ‘「逃げたいなら逃げたらいい。いずれ逃げられん時が来る。その時まで力をたくわえとったらいい」
    (山吹は)ある意味、「逃げてはいけない」と言われるよりおそろしい気がする。要するに、逃げた後のおとしまえは自分でつけろよ、ということだと思った。’

    この鮎子さん、ちょっとしか出てこないが魅力的だった。
    現実から目を逸らす母から更に目を逸らすダメすぎる父の避難先となるが、一緒に溺れないところとか。

    あと印象に残ったのが祖母の言葉。
    機嫌の悪い山吹がこういい放つ。
    ‘「ブローチって何の役に立つと?」
    (中略)
    「そうよ、何の役にも立たんよ」
    あんたと一緒、とにべのない言い方を、祖母はした。
    「世界に、役に立つものしか存在せんやったらあんたどうする?」(中略)無駄なものが全然ない世界なんてフッ、と祖母は鼻で笑う。
    「そんな世界、おことわりよ。そう思わん?」’

    役に立たない私はまったくもって同意だわ、と思った(笑)

    気に入ったのでこの作者の他の作品も読んでみたい。

  • 8歳の羽猫山吹の家庭は皆バラバラだった。夢ばかり語る祖父と怪しい店を営み家を空けがちな祖母。弟青磁が4歳で亡くなってから現実を受け入れられない母とそんな妻から愛人に逃げた父。母を受け入れられず反発する姉紅。優しい嘘で家族を繋げようとしていた山吹の成長を中心に羽猫家の歴史が5年おきに描かれる。嘘に寄り添い、嘘に縋り、嘘に反発するそれぞれの立場が時間の経過に伴ってゆっくり変化していく過程が丁寧で心に染みる。山吹と頼の関係や紅の環境にはらはらしたけど収まる所に収まって何より。架空の犬の毛並み体温を想像しながら静かに温かい飲み物をお供にしたい一冊。

  • 「現実逃避」という言葉はマイナスなイメージを持たれることが多い。
    けれど現実で起こった辛く悲しい出来事に対して、誰もが真っ正面から立ち向かえる訳ではない。
    逃げられるものなら逃げ出したい。
    現実から目を背けることはそんなに悪いことなのだろうか。

    いつも誰かがいない家だった。
    祖父も祖母も父も母も姉も、そして僕も、みんながバラバラな方向に目を向けている。
    それぞれの言葉に少しの嘘を交えながら。
    次男の死をきっかけに、気持ちがバラバラになった家族の30年を振り返る物語。
    悲しみ苦しみを抱えながら、けれどその気持ちを素直に伝え合うこともできずに現実から逃げる家族。
    夢のような架空のことを思い描き現実逃避してしまう。
    逃げることはマイナス面ばかりではない。
    自分の心の中に創った架空のものを拠り所にすることが、生きていく上で必要になる時もある。
    現実にはないけれど、その人の心の中には、確かに「ある」のだから。

    「逃げたいだけ逃げたらいい。いずれ逃げられん時が来る。その時まで力をたくわえとったらいい」
    「嘘とはリボンだ。ババロアをつくる時にひとたらしするバニラエッセンスと同じ」

    優しく励ましてくれるフレーズが心に残る。
    九州の方言も優しく、刺々しい気持ちを癒してくれた。

  • 心が痛い。
    家族ってなんだろな。
    山吹が頼のことを大切に想ってることに泣けた。
    なんだかグッときた。
    ポロポロと静かに泣いた。

  • 前日に「そしてバトンは渡された」を読み終え、私の頭の中は♯温かい家族♯しあわせでいっぱい。
    今日は寺地さんのかわいい表紙の本を。と手に取った…わぁ。ツライ…。

    3人目の子を亡くした羽猫家。母親は現実を受け入れられず、おかしくなっちゃった。父親は浮気へ走り、姉はそんな両親が大嫌いで家出。祖父母も変わってる。山吹くんはお母さんの為に弟が生きているふりをして嘘の手紙を書いている。辛い時は空想の嘘の犬を撫でて過ごす。家族のため、自分のため嘘をついている。

    【嘘】の概念が一つでないとわかった。
    「嘘つきは泥棒の始まり」…嘘をつくのが悪いことは知ってる。でも「思いやりの嘘」「生きる為の嘘」も悪いのか?

    ぱっとしない山吹くんだか、いつも人を思いやる優しさが本当に良い。お嫁にもらった頼ちゃん、優しくて懐が深くて好きな性格。感情移入して読めた。
    山吹くんが成長するにつれ、大人たちの目線に近づく。「いつも誰かが欠けている家族」だったが心の中では繋がっていたんだなとジンワリと思えた。

    清々しいラストではないが、山吹くんの【嘘】が転じて未来を照らす。
    そうそう、寺地さんの作品はいつも顔を上げて前に進む気持ちをくれる。やっぱり読んで良かったな!


  • おとなしい少年、羽猫山吹が8歳から大人になる38歳までのバラバラな家族を幸せにしたい優しくも心温まる嘘の話し。

    現実には『ない』譲れないものを守ると同時に現実に『ある』人を幸せにする嘘で守っていた主人公。
    真実を話す本音の方が残酷であるかの様に。

    どちらが幸せかは『ない』と『ある』ものを大切に生きて行く姿勢ではないか。
    そして、架空ではない幸せを掴んだ家族と一緒に過ごす山吹の姿に涙を誘う。

  • 題名と同じように内容もとりとめない感じ。でも現実ってそんなもの。

  • ある家族のお話。

    出てくる姉弟の名前は
    紅、山吹、青磁、と色の名前

    表紙のポップさからも、明るさと滑稽さを想像しページを進めた。

    しかし出てくるのは色の想像できない
    色の無い家庭の姿

    好きなキャラクターも出てこないため
    特に最初のうちはなかなかページ進まなかった。

    けれども感傷的な文面はなく
    淡々と時は過ぎる。
    山吹くん、
    同世代。

    同級生にこんな家庭があれば、そりゃ驚く。

    子供にしたら親兄弟は絶対的な世界なのだから。

    これ、ネグレクトだよねってなりそうなのが、
    嫌悪感を極力感じず読めるのは、寺地はるなさんだからかなあ。
    それに大人になると分かるもの。
    逃避して、自分の都合のいい世界で生きたくなる事も。


    淡々と、淡々と
    山吹くんは時間を経て、大人になり
    最後彼は
    全てをひっくるめて人生に活かす。
    良かった。

    最後までよんで、わたしは
    ばあちゃんが好きでした。
    ばあちゃんが山吹のことを例えたセリフが良くて。

    そうだ。
    この世の中に役に立たなかったとしても存在する価値はある。
    役に立たないものを切ってしまう
    窮屈さの方が嫌だ。

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著者プロフィール

1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『わたしの良い子』、『大人は泣かないと思っていた』、『正しい愛と理想の息子』、『夜が暗いとはかぎらない』、『架空の犬と嘘をつく猫』などがある。

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