架空の犬と嘘をつく猫 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 230
レビュー : 41
  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120050343

作品紹介・あらすじ

「嘘吐き」の家系の羽猫家――3人目の子供を亡くしたことを受け容れられず空想の世界で生きる母、愛人の元にすぐ逃げる父、それの全てに反発する姉、そして、思い付きで動く適当な祖父と、比較的まともな祖母……。
そんな滅茶苦茶な家の長男として生まれた山吹は、幼い頃からみんなが唱える「嘘」に合わせ成長してきた。そして、その末に、このてんでバラバラな家族のゆく末と山吹の日常には、意外な結果が訪れる。これは、それぞれが破綻した嘘を突き続けた家族の、ある素敵な物語――。
若手実力派作家・寺地はるなが描く、ちょっと変わった家族小説が登場!

感想・レビュー・書評

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  • 女性週刊紙の本紹介コーナーでの作者のインタビュー記事を読んで興味を持った。装画も好みだったし。
    久しぶりの小説作品ということで、なかなか小説世界には入れなかった(たぶん心を開ききれていなかったと思われる)けど、徐々に頼りない主人公・山吹が気になり始めた。

    山吹、という綺麗な名を持つ男の子は物語のはじまりでは八歳。空想癖があり‘架空の犬’を飼っていて、辛いときにはその犬の頭を撫でている。家族は六人。祖父母と父母、姉・紅と暮らしている。もうひとり下に青磁という弟がいた。不幸な事故で亡くなったが、母はその事実を受け入れられず、青磁が‘まだ生きている’ように過ごす。その母の世界を壊さぬために山吹は‘青磁’の署名が記された手紙を書き、母に送り続けているが...。

    主人公、山吹だけではなく、魔女と呼ばれる祖母、浮気している父、そんな家族を嫌って後に出ていってしまう姉などの視点も挿入され、いろんな人の立場から見える小説になっている。みんな自分を守るため自分にも他人にも嘘をついている。それは『ずるい』ことなのか。

    父の愛人の鮎子が偶然であった山吹にこう言う。
    ‘「逃げたいなら逃げたらいい。いずれ逃げられん時が来る。その時まで力をたくわえとったらいい」
    (山吹は)ある意味、「逃げてはいけない」と言われるよりおそろしい気がする。要するに、逃げた後のおとしまえは自分でつけろよ、ということだと思った。’

    この鮎子さん、ちょっとしか出てこないが魅力的だった。
    現実から目を逸らす母から更に目を逸らすダメすぎる父の避難先となるが、一緒に溺れないところとか。

    あと印象に残ったのが祖母の言葉。
    機嫌の悪い山吹がこういい放つ。
    ‘「ブローチって何の役に立つと?」
    (中略)
    「そうよ、何の役にも立たんよ」
    あんたと一緒、とにべのない言い方を、祖母はした。
    「世界に、役に立つものしか存在せんやったらあんたどうする?」(中略)無駄なものが全然ない世界なんてフッ、と祖母は鼻で笑う。
    「そんな世界、おことわりよ。そう思わん?」’

    役に立たない私はまったくもって同意だわ、と思った(笑)

    気に入ったのでこの作者の他の作品も読んでみたい。

  • 「現実逃避」という言葉はマイナスなイメージを持たれることが多い。
    けれど現実で起こった辛く悲しい出来事に対して、誰もが真っ正面から立ち向かえる訳ではない。
    逃げられるものなら逃げ出したい。
    現実から目を背けることはそんなに悪いことなのだろうか。

    いつも誰かがいない家だった。
    祖父も祖母も父も母も姉も、そして僕も、みんながバラバラな方向に目を向けている。
    それぞれの言葉に少しの嘘を交えながら。
    次男の死をきっかけに、気持ちがバラバラになった家族の30年を振り返る物語。
    悲しみ苦しみを抱えながら、けれどその気持ちを素直に伝え合うこともできずに現実から逃げる家族。
    夢のような架空のことを思い描き現実逃避してしまう。
    逃げることはマイナス面ばかりではない。
    自分の心の中に創った架空のものを拠り所にすることが、生きていく上で必要になる時もある。
    現実にはないけれど、その人の心の中には、確かに「ある」のだから。

    「逃げたいだけ逃げたらいい。いずれ逃げられん時が来る。その時まで力をたくわえとったらいい」
    「嘘とはリボンだ。ババロアをつくる時にひとたらしするバニラエッセンスと同じ」

    優しく励ましてくれるフレーズが心に残る。
    九州の方言も優しく、刺々しい気持ちを癒してくれた。

  • みな自分に正直に、
    自分のために生きろというけれど
    子どもを持つ親が自分のためだけに正直に生きたら
    どうなってしまうのか・・・
    そんな両親に育てられた山吹は、親から愛されたくて親の為に健気に生きようとする。
    山吹の姉はそんな両親を憎み、早々に家族を捨てる。
    子ども時代から山吹の成長を辿るこの物語は
    私たちに自分らしく生きるとはどういうことなのか
    家族とはなんなのかを問うてくる。
    子どもの頃から健気すぎる山吹に、つい同情しつつ読んでしまうのだが
    そんな心理さえ作者は
    「健気で可哀想だと思ってほしくてやっていた」と成長後の山吹に告白させてしまうのである。。。
    なんとなくフワフワと漂う優しい雰囲気にうっかりしてしまいそうになるが
    実は建前や偽善など最初から受け付けない
    容赦のない物語なのである。

  • 途中、何度もしんどいって思ってしまうのだけど、不思議とどこかでこの家族全員を応援してしまうんだよな。

    ここまで歪んだ家族はいないだろと思う一方で、いや、どこにでもいるのかも、とも思う。

    みんな、現実には存在しないなにか、を心の拠りどころとして生きている人たち。

    なんて的確で、なんて恐ろしい表現だろう。

    でもこの家族が明日も笑っていられますように。

  • ★4.0
    8歳の1988年から38歳の2018年まで、羽猫山吹の30年間が5年毎に綴られる。その何度もの5年を経ても変わらないのは、山吹の優しさと疎ましくも愛すべき家族たち。羽猫家を襲った不幸は、誰のせいでも誰が悪いわけでもない。家族から逃げた父親も、自分の世界に籠った母親も、家族を嫌悪する姉・紅も、家族のために嘘に寄り添った山吹も。そして、各章に挟まれる山吹以外の人物の心情が時に残酷だけれど、それは嘘偽りのない本当の心の叫び。タイトルや表紙の可愛さとは裏腹に、意外に重め、でも優しくて余韻が心地好い1冊。

  • 自分の気を紛らわせたり、他人の気分が良くなる嘘なら許せるけど、自分だけ気分がいいという自己中心的なのだけはごめんだわ。
    その嘘が嘘だとバレたときの気分の悪さって、嘘つきにはわからないんだろうね。
    この家族はみんながみんな自分の身を守ろう的な嘘つきなのでまとまりがないのかも。読んでいて悲しくなってしまうわ。でも、それぞれに心許せる人ができたことで救われたわ。

  • 防火水槽に落ちて死んだ弟・青磁の影に囚われ続ける母親と、無責任に浮気を繰り返す父親、ホラ吹きの祖父にマイペースな祖母。まともな大人がいない家で姉の紅とともに暮らす山吹の幼少時からの人生を描いた物語だ。
    現実から逃避するように、空想し、架空の犬を撫で続ける山吹の物語。

    一風変わった人たちばかりが登場するにも関わらず、物語は淡々と語られ、そのギャップに独特の雰囲気がある。風通しのいい子供の頃の秘密基地を思わせるような空気感だ。

    その雰囲気が好きだな、と思った。

  • すごい一家。三人兄弟の末っ子・青磁が4歳で亡くなり、その日から母はおかしくなった。青磁が生きていると信じる母に、山吹はその世界を壊さないよう嘘を吐き続け、父は地域住民にもバレバレの浮気をする。そんな家庭に嫌気がさした姉は家を出て連絡も取れなくなる。それでも、悲壮感はなく、ほんわかと話が進む。辛いときは、架空の犬を撫でて過ごした山吹。頼と幸せな家庭を築けますように。あんたは社会にとってなんの役にも立ってないけど、おばあちゃんのかわいい孫やけん、いていいんだよ、とおばあちゃんが言ってくれるところが好き。

  • おばあちゃんの至言
    「自分の人生を生きなさい。」
    わたしも雪乃もあんたよりずっとはやく死ぬ。
    山吹、自分以外の人間のために生きたらいかん。
    「誰かを助けるために、守るために、って言うたら、聞こえはよかよ。でも、人生に失敗した時、行き詰まった時。あんたは絶対、それをその誰かのせいにする。その誰かを憎むようになる。そんなのは、よくない」

  • すごくよかった・・・。
    みんなどこかダメなんだけど、誰かが誰かの支えになっている。

    山田洋次監督に映像化してほしいくらい、人間味あふれる本。

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著者プロフィール

寺地 はるな(てらち はるな)
1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第四回ポプラ社小説新人賞を受賞。
著書に『ミナトホテルの裏庭には』『月のぶどう』『今日のハチミツ、あしたの私』『みちづれはいても、ひとり』『架空の犬と嘘をつく猫』『大人は泣かないと思っていた』『正しい愛と理想の息子』がある。

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