愛なき世界 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
3.69
  • (210)
  • (475)
  • (393)
  • (64)
  • (17)
本棚登録 : 4899
レビュー : 492
  • Amazon.co.jp ・本 (447ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120051128

作品紹介・あらすじ

恋のライバルが人間だとは限らない! 

洋食屋の青年・藤丸が慕うのは〝植物〟の研究に一途な大学院生・本村さん。殺し屋のごとき風貌の教授やイモを愛する老教授、サボテンを栽培しまくる「緑の手」をもつ同級生など、個性の強い大学の仲間たちがひしめき合い、植物と人間たちが豊かに交差する――

本村さんに恋をして、どんどん植物の世界に分け入る藤丸青年。小さな生きものたちの姿に、人間の心の不思議もあふれ出し……風変りな理系の人々とお料理男子が紡ぐ、美味しくて温かな青春小説。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 皆さんのレビューにもいくつか見られるが、『舟を編む』のような、独特の世界観。

    洋食屋の住み込み料理人・藤丸が恋したのは、シロイヌナズナの研究に打ち込む院生・本村。
    『植物の研究に、すべてを捧げると決めてい』て『だれともつきあうことはできないし、しない』という本村に、藤丸の告白はあっさりと却下される。
    しかしそれでも本村が研究している大学の研究室にランチのデリバリーをするうちに、藤丸もまた『愛のない世界を生きる植物』の世界に興味を持っていく。

    440ページ超の厚めの作品だが、そこは三浦さんのキャラクター造形の妙、文章の妙でテンポ良く読めた。
    ただ全体的には淡々と進むので、山場を求める方にはがっかりするかも知れない。

    改めて、研究というものは地道な基礎研究の積み重ねなのだなと感じた。しかもそれが果たして実になるものなのか、どうかは分からない。むしろ『当たり』を引く方が圧倒的に少ないのだろう。

    日本ではこうした基礎研究への予算が削られ続け、研究者たちの環境は非常に厳しいと聞く。国の予算も無限ではないのだから、何でもかんでもという訳にはいかないのは理解出来るが、海の物とも山の物ともつかぬ基礎研究にこそ宝が眠っているということを改めて知った。
    確か「仏果を得ず」にもあったと思うが、どんな世界でもその奥義、その深層、深淵を知るには人間の一生では追いつかない。もしかしたら本村の研究も本村一人では出来ず、次の世代にリレーされるのかも知れない。
    だがだからこそ面白く興味深いものなのだろう。それに何が実になるかならないか、当たりかハズレかはやってみなければ分からない。そうした面白さもある。

    正直研究のシーンはじっくり読んでみて半分分かったかどうかという心もとない私の理解力だった。だから藤丸目線で読んでいった。
    遺伝子の『AHO』と『AHHO』を『アホ』と『アッホー』と呼んでしまう藤丸のおおらかさに思わず吹き出したが、藤丸のおおらかで素直な目線で研究を見ると、何だか彼らが愛おしく見えてくる。

    松田研究室の松田教授始め様々な面々の個性もさることながら、彼らの真面目で懸命な研究姿勢も、彼らが植物や研究に傾ける情熱も、藤丸が言うように『愛』なのだろうと思う。
    本村は植物には『人間が言うところの「愛」という概念がない』と言うが、果たしてそうなのか。勿論人間の『愛』とは違うが、植物なりの『愛』があるのではないか、そんな研究をして欲しいとすら思ってしまう。

    研究の手順の途方も無いこと、神経を使うこと、そんな地道で大変な作業の中の挫折や失敗、そこから得るものなど色んなことがある。
    一見全く畑違い、説明などしても理解は無理だろうと思えた藤丸の、研究と料理との共通点、藤丸なりの理解と興味、そうしたものを微笑ましく読んだ。

    また最近毎日の様に耳にするPCRについても描写がある。勿論ウイルスの検査と植物のDNA検査では違うだろうが、やはり大変な作業なのだなとこれまた興味深く読んだ。

  • 『恋のライバルは草でした』
    正確にはシロイヌナズナ。
    洋食屋の見習い・藤丸が恋をしたのは、配達先のT大研究室で植物の研究をする本村。でも本村は不思議な植物の謎が知りたくてたまらず、植物の研究に余念がない。藤丸の恋の行方は、本村の実験の行方は…?

    T大理学部のディープな研究科が舞台。
    最近読んだエッセイ『のっけから失礼します』で、取材先でシロイヌナズナの種まきを手伝ったけれど、老眼で種がよく見えない…という自虐ネタがあったのが、ちょうどこの本のための取材だったのね!!いきなり繋がった(笑)!
    そのときの話が、シロイヌナズナの生態や、読んでいるだけで肩が凝りそうな緻密で細かい実験風景の描写に見事に生かされていて、なるほど小説でこんなふうに味付けされるんだなーと思った。
    しをんさんは、舟を編むや、神去なあなあ日常など、目立たないプロフェッショナルに光を当ててその世界を輝かせるのがとてもうまい。門外漢の世界についてすごく調べておられるんだろうなぁと今までも思っていたが、この理系の専門分野を書くためにも、相当な取材と勉強を重ねてこられたのだろう。

    ただ、そういう専門分野を扱うからには仕方ないのだろうけれど、今回は特に説明調になっているところも多く、しをんさんの小説にしてはやや疾走感に欠いた。さらに言うと、研究者の飽くなき探究心、研究への情熱、地道で根気のいる作業をひたすら続ける研究の様子や研究者の生態なんかは、この前、バッタ研究者である前田ウルド浩太郎氏の『孤独なバッタが群れるとき』を読んだときに存分に味わったところなので、ノンフィクションで読む方が面白いとも思った。

    研究者としては一流なのに整理整頓は苦手、いつも黒いスーツを着て死神か殺し屋の風貌を持つ(でも実際は学生思いの)松田先生、
    『緑の指』を持ちサボテンの棘の謎を解き明かそうとする、サボテン愛溢れる加藤君(返答が少しズレててかわいい)、
    イモ大好きで勝手に講堂前の植え込みに芋畑作っちゃうお隣の研究室の諸岡教授、
    料理一徹で厳しい師匠ながら、花屋のはなちゃんに首ったけな円谷…

    こんな個性的で魅了的な人たちをたくさん登場させているのだし、人物にスポットを当てたお話も読みたい。そういうスピンオフか続編が出るといいな(笑)

    ★3.5

  • 料理人の見習い藤丸は、円服亭で日々修行に打ち込んでいる。
    ある日、店長の円谷の思いつきで始めた宅配サービスで、T大理学部B号館まで料理を届けることになった。
    そこで出会った本村さんは、植物をこよなく愛する、ピンクのかかとが可愛い少女だ。

    本村さんは、葉っぱを顕微鏡で見て細胞の数を数えたり、シロイヌナズナを研究対象にして、日々研究に明け暮れている。

    熱心に植物について語る本村に、藤丸少年は惹かれていった。
    そして告白するも、あっけなく撃沈。

    藤丸が恋した本村さんは、シロイヌナズナに恋をしていた。
    恋した相手がシロイヌナズナでは到底たちうちができない。
    2度の告白もあっけなく断られ、円服亭の常連客に
    「フラ丸がフラフラ丸になった」とからかわれても、
    本村さんの研究を見守り応援する姿から、藤丸の人の良さがうかがえる。

    2人は恋に発展しなかったけど、そんなに甘くもなく
    サッパリした関係が2人には調度いいんだなと思った。

    —————-

    実験や研究に関するワードがたくさん出てきて一部難しかったけれど、同じ研究者の道を辿った人からすると、興味深くて面白い内容だったのかと思う。

    何かに熱中して取り組む姿は、とても魅力的に見えるもの。
    藤丸少年の気持ち、とてもよく分かります。

    • りまのさん
      こんにちは。daniel さん  私この話 知っているような?深夜ドラマかなんかで やってました?
      こんにちは。daniel さん  私この話 知っているような?深夜ドラマかなんかで やってました?
      2020/08/09
    • りまのさん
      あ 三浦しをん 前に読んだ事ありました。 好きな作家さんです ♪
      あ 三浦しをん 前に読んだ事ありました。 好きな作家さんです ♪
      2020/08/09
    • Danielさん
      りまのさんこんにちは!
      三浦しをんさん、いいですよね〜!
      図書館で必ずチェックしている作家さんです。

      まだドラマ化とかはされてないみたいで...
      りまのさんこんにちは!
      三浦しをんさん、いいですよね〜!
      図書館で必ずチェックしている作家さんです。

      まだドラマ化とかはされてないみたいですよ。
      ドラマ化が決まれば、原作との違いを見つける楽しみが生まれそうです(^_^*)
      2020/08/10
  • 研究材料として利用しやすいモデル生物の一つが「シロイヌナズナ」だと知り、Webで調べ画像を眺めながら読みました。
    ペッスル、エッペンチューブ、チビタン、ボルテックスといった実験機材についてもどんな物か見てみました。

    本書では研究者である大学院生の本村さんが洋食屋の(素人の)藤丸くんに説明する形で分かりやすく研究の様子が語られます。
    植物の分子/発生遺伝学の研究者が、多様性の謎を解き明かしたいと日々観察と実験に取り組む姿を描いた物語です。
    恋愛に関する話も出てきますが、本筋の邪魔にならない程度に収めてくれていてさほど気にならず助かりました。

    私も理系でしたので雰囲気は良く伝わってきます。期待した成果の出ない実験に明け暮れた卒業研究時代の記憶がポツポツと蘇りました。

    この作品は、どうやら小石川植物園の園長でもある塚谷祐一さんの研究がベースになっているようですね。
    塚谷祐一さんの著書、「スキマの植物図鑑」や「森を食べる植物 腐生植物の知られざる世界」にも興味が湧きました。

  • 愛なき世界?
    いや、「愛」は確かにそこに在った。

    植物に恋してしまった本村は大学院でひたすら研究に邁進する。
    「どうして」「知りたい」を繰り返し植物の謎をとことん追及し続ける姿勢にとても好感が持てる。
    そしてそんな本村に恋してしまった藤丸の、本村を静かに温かく見守る視線が柔らかい。
    「恋」よりも深い「愛」がじわり伝わる。
    植物のことを知りたいと願う本村や本村の仲間の研究者達の、一見静かだけれど内に熱く燃える情熱は確実に「愛」だと言える。
    そして私は円服亭の料理が食べたくてたまらない…。

    読んでいて『舟を編む』を思い出した。
    しをんさんの、一心不乱に物事を突き詰める、風変わりな人達を追う物語はやっぱり面白い。

  • 洋食屋の見習い、藤丸陽太の恋した相手は、人生のすべてを植物の研究に捧げる女性だった…

    恋のライバルが常に人類だとはかぎらないだなんて、最近、こういうややこしい恋愛小説を読むことが多い気がする。

    藤丸が最初に振られた時の本村紗英の言葉(P92)
    「植物には、脳も神経もありません。つまり、思考も感情もない。人間が言うところの、『愛』という概念がないのです。それでも旺盛に繁殖し、多様な形態を持ち、環境に適応して、地球のあちこちで生きている。不思議だと思いませんか?」
    愛のない世界を生きる植物の研究に全てを捧げるから、本村は誰とも付き合うことはできない、のだと言う。

    困ったよね…。藤丸くん辛いよね。
    恋愛に関して多様なあり方があることは、もちろん良いことだけどさ。

    しかし、藤丸くんは立派で、
    愛というあやふやな概念を振りかざさねば繁殖できない人間の方が、植物より奇妙で気味悪い生き物なのではないか、
    と考える。

    えらい。

    2人の恋愛がどう育つのか、育たないのか、なかなかもどかしい思いをしつつ読み進めた。

    クールなタイトルや表紙の絵のイメージとは違ってハートウォーミングな物語。三浦しをんさんの文章は平易で分かりやすく、対象に親近感を持たせる。天下のT大の実験室がとても身近に感じられ、文系の僕でも実験の場面とかスイスイ面白く読めた。

    評価は4にしようか迷ったけど3…。
    割とあっさりと読み終わっちゃったので。
    心にひっかかる部分が少し少なかったかな。


    最後に藤丸が語る「愛」の定義が感動的だった。
    やっぱり藤丸っていいやつだ。

  • 恋のライバルが、人類だとは限らない――!? 洋食屋の見習い・藤丸陽太は、植物学研究者をめざす本村紗英に恋をした。しかし本村は、三度の飯よりシロイヌナズナ(葉っぱ)の研究が好き。見た目が殺し屋のような教授、イモに惚れ込む老教授、サボテンを巨大化させる後輩男子など、愛おしい変わり者たちと地道な研究に情熱を燃やす日々……人生のすべてを植物に捧げる本村に、藤丸は恋の光合成を起こせるのか!? 道端の草も人間も、必死に生きている。世界の隅っこが輝きだす傑作長篇。
    「中央公論新社」内容紹介より

    知りたい気持ちを「愛」と言うのではないのか?と言った藤丸、エラい.
    本の装丁もすごく綺麗.内容とリンクしていて、すごく好き.

  • T大にて植物学を研究する本村。何よりもシロイヌナズナが好き。そんな本村に洋食屋の見習い・藤丸は思いを寄せるが…。本村も藤丸も、研究室の面々をはじめ、登場人物はしをんさんならではの魅力的な人たちばかり。内容もしをん節炸裂。面白いだけでなく、本村のシロイヌナズナ愛の書きっぷり、素晴らしい。そして、植物を通して考える愛。研究者って普通の人と目の付け所が違って新鮮で、そこからくる考え方、個性を垣間見れ、そう言った面からも楽しめました。藤丸と本村の関係も変わらぬ爽やかさで素敵。愛なき世界だけれど、でも愛、大あり。なんとなく『舟を編む』を思い出しました。

  • 2019年2月に読んだ本。
    「愛なき世界」という題名からして、
    きっと恋愛模様が描かれている本なのかな、と思っていた・・

    大学の側にある洋食屋の店員は、大学の研究室で植物学を研究する、本村さんに恋をする。青年よ、頑張れ!と思いながら、告白の場面は見守るような気持ちで
    読んだ。だが・・・・研究者には、恋人がいたらしい。ところが、その相手は、人間ではなかった。本村さんの研究対象物、小さくて大事な可愛い植物たちだった。
    青年は、見事に振られた。
    ところが、青年は出前を届ける度に、
    その研究室の植物たちに、少しずつ興味を持ち始めていく・・・・本村さんの研究対象物だけでなく、他の人の研究対象物にまで・・・・相手は本村さんの恋人たちなのに。

    その後、青年は再度本村さんに告白を
    試みる。本村さんの気持ちは、変わっていなかった。それはそうだろう。
    彼女はきっと、当分植物が恋人でいるのだろうから。
    ーーーー青年よ、いい人はきっと
    どこかにいるよ!ーーー

  • 久々の三浦しおんさん。

    円服亭とT大の行き来と、植物の研究者と洋食屋さんとのやり取りだけで、飽きることなく気がつけば最後まで読んでしまった。

    「愛なき世界に生きる」
    植物を研究するリケ女の本村さん。
    彼女に恋しちゃった洋食屋の藤丸くん。

    植物に一途すぎる女子は、シロイヌナズナに夢中。
    思わず告白しちゃって、何度もフラれちゃう、藤丸くんの真っ直ぐさと一途さ。

    シロイヌナズナが好き!
    だけじゃ勿体ない、というのがよくある感覚かも知れないけど、彼女の中では、すごく肯定的な理由で、後ろ向きさはまるで無い。

    とても素敵です。
    これが最後ひょっとして、、、と思いましたが、、、

    相手が植物じゃ、ジェラシーも抱けない。
    恋敵が植物とは、なんて特殊な設定。

    そして登場人物がみんないい人。
    (なんとも愛おしくなります)

    物語の山場が、ちょっとした意地悪だけという、なんとも起伏の小さな物語。

    でも楽しいし、ほっこり幸せな気持ちに浸れる世界があります。

    謎大き男、殺し屋、松田教授の過去は、スピンオフとしてもっと深く知りたい。

    「緑の指」の能力が魅力的!

全492件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1976年東京生まれ。2000年『格闘する者に○(まる)』でデビュー。以後、『月魚』『ロマンス小説の七日間』『秘密の花園』などの小説を発表。『悶絶スパイラル』『あやつられ文楽鑑賞』『本屋さんで待ちあわせ』など、エッセイ集も注目を集める。06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を、12年『舟を編む』で本屋大賞を、15年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞を受賞。ほかの小説として『むかしのはなし』『風が強く吹いている』『仏果を得ず』『光』『神去なあなあ日常』『天国旅行』『木暮荘物語』『政と源』などがある。

「2021年 『ののはな通信』 で使われていた紹介文から引用しています。」

三浦しをんの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

愛なき世界 (単行本)を本棚に登録しているひと

ツイートする
×