愛なき世界 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
3.68
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本棚登録 : 7609
感想 : 735
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  • Amazon.co.jp ・本 (447ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120051128

作品紹介・あらすじ

恋のライバルが人間だとは限らない! 

洋食屋の青年・藤丸が慕うのは〝植物〟の研究に一途な大学院生・本村さん。殺し屋のごとき風貌の教授やイモを愛する老教授、サボテンを栽培しまくる「緑の手」をもつ同級生など、個性の強い大学の仲間たちがひしめき合い、植物と人間たちが豊かに交差する――

本村さんに恋をして、どんどん植物の世界に分け入る藤丸青年。小さな生きものたちの姿に、人間の心の不思議もあふれ出し……風変りな理系の人々とお料理男子が紡ぐ、美味しくて温かな青春小説。

感想・レビュー・書評

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  • 文庫本と違い裏表紙に説明が無いので、内容を知らずに借りてしまい、読み終えるのに時間が掛かってしまった。文庫本だと上下巻の量。
    最初は小さな定食屋に住み込みで働く青年・藤丸の成長物語かと思うと、T大大学院に通うリケ女・本宮との恋愛に進み、結局は植物に恋した本宮の物語となった。遺伝子情報やPCR含めた作業の膨大な説明に圧倒されて読むのが止まる。
    難しい内容も定食屋の藤丸が好奇心を持って聞いて行くので、素人にも分かるように解説してくれるのだが・・?
    藤丸の求愛に対し、本宮の返答は『植物は愛のない世界に生きているから、自分は誰ともつき合わないで、植物の研究にすべてを捧げる』と拒否。それも2度も。
    最後はハッピーエンドで終わると想像したのだが、どうだろうか。出て来る登場人物達がみな善人なので、何とか明るく読み終えられた。

  • 皆さんのレビューにもいくつか見られるが、『舟を編む』のような、独特の世界観。

    洋食屋の住み込み料理人・藤丸が恋したのは、シロイヌナズナの研究に打ち込む院生・本村。
    『植物の研究に、すべてを捧げると決めてい』て『だれともつきあうことはできないし、しない』という本村に、藤丸の告白はあっさりと却下される。
    しかしそれでも本村が研究している大学の研究室にランチのデリバリーをするうちに、藤丸もまた『愛のない世界を生きる植物』の世界に興味を持っていく。

    440ページ超の厚めの作品だが、そこは三浦さんのキャラクター造形の妙、文章の妙でテンポ良く読めた。
    ただ全体的には淡々と進むので、山場を求める方にはがっかりするかも知れない。

    改めて、研究というものは地道な基礎研究の積み重ねなのだなと感じた。しかもそれが果たして実になるものなのか、どうかは分からない。むしろ『当たり』を引く方が圧倒的に少ないのだろう。

    日本ではこうした基礎研究への予算が削られ続け、研究者たちの環境は非常に厳しいと聞く。国の予算も無限ではないのだから、何でもかんでもという訳にはいかないのは理解出来るが、海の物とも山の物ともつかぬ基礎研究にこそ宝が眠っているということを改めて知った。
    確か「仏果を得ず」にもあったと思うが、どんな世界でもその奥義、その深層、深淵を知るには人間の一生では追いつかない。もしかしたら本村の研究も本村一人では出来ず、次の世代にリレーされるのかも知れない。
    だがだからこそ面白く興味深いものなのだろう。それに何が実になるかならないか、当たりかハズレかはやってみなければ分からない。そうした面白さもある。

    正直研究のシーンはじっくり読んでみて半分分かったかどうかという心もとない私の理解力だった。だから藤丸目線で読んでいった。
    遺伝子の『AHO』と『AHHO』を『アホ』と『アッホー』と呼んでしまう藤丸のおおらかさに思わず吹き出したが、藤丸のおおらかで素直な目線で研究を見ると、何だか彼らが愛おしく見えてくる。

    松田研究室の松田教授始め様々な面々の個性もさることながら、彼らの真面目で懸命な研究姿勢も、彼らが植物や研究に傾ける情熱も、藤丸が言うように『愛』なのだろうと思う。
    本村は植物には『人間が言うところの「愛」という概念がない』と言うが、果たしてそうなのか。勿論人間の『愛』とは違うが、植物なりの『愛』があるのではないか、そんな研究をして欲しいとすら思ってしまう。

    研究の手順の途方も無いこと、神経を使うこと、そんな地道で大変な作業の中の挫折や失敗、そこから得るものなど色んなことがある。
    一見全く畑違い、説明などしても理解は無理だろうと思えた藤丸の、研究と料理との共通点、藤丸なりの理解と興味、そうしたものを微笑ましく読んだ。

    また最近毎日の様に耳にするPCRについても描写がある。勿論ウイルスの検査と植物のDNA検査では違うだろうが、やはり大変な作業なのだなとこれまた興味深く読んだ。

  • 装丁が美しく、ずっと読みたかった本。

    植物の研究をしているT大の松田研究室のみなさんと、ご近所にある洋食店のみなさんのお話。

    松田研究室のみなさんが研究している、こう、植物のコアな所については最後まで全く理解できませんでしたが。きっと、世の中の不思議はこういう方々が解き明かしてくれているんだろうなぁ…って素直に尊敬しました。
    ありがとうございます。

    この物語に出てくる人はみんな優しくて、不器用で一生懸命でちょっと変わっていて。
    とても愛しい世界でした。
    藤丸君と本村さんの恋も、それぞれの研究についてや、個性的な面々のお話も、ふわふわ優しい気持ちで親のように見守りました。
    松田先生のお話に涙が出たり、お芋の先生のナウシカのくだりで吹き出してしまったり。
    もう、ずっとこの人たちの物語を読んでいたい、終わらないでほしいなぁ、と思いました。
    とても厚い本で、専門的な内容も多いお話でしたが、どんどん読み進めていけました。

    すっかり藤丸君ファンです♡

    • workmaさん
       にゃんちびさんに同感です。周りから見ると「ちょっと変わってる?」と思われがちな登場人物たちですが、
      読み進めていくうちに愛おしさがじわじわ...
       にゃんちびさんに同感です。周りから見ると「ちょっと変わってる?」と思われがちな登場人物たちですが、
      読み進めていくうちに愛おしさがじわじわと湧いてきました。

      「愛なき世界」は「愛あふれる世界」なんだなと。研究者の世界を覗き見た感じで興味深かったです。
      2021/03/10
    • にゃんちびさん
      workmaさん
      ありがとうございます!

      そうなんです!愛なき世界は、愛に溢れた世界でした!

      私は本を読むのに時間がかかる方で、読み切れ...
      workmaさん
      ありがとうございます!

      そうなんです!愛なき世界は、愛に溢れた世界でした!

      私は本を読むのに時間がかかる方で、読み切れるか心配でした。研究内容がとても専門的でしたが、研究室のみなさんが丁寧に説明してくれるので、藤丸君と一緒に「へぇ〜」と思いながら勉強していました。

      今日もあの人たちの生活が続いているんだろうなぁ…ってにまにましています♡
      2021/03/10
    • workmaさん
      にまにましますよね〜
      にまにましますよね〜
      2021/03/10
  • 料理人の見習い藤丸は、円服亭で日々修行に打ち込んでいる。
    ある日、店長の円谷の思いつきで始めた宅配サービスで、T大理学部B号館まで料理を届けることになった。
    そこで出会った本村さんは、植物をこよなく愛する、ピンクのかかとが可愛い少女だ。

    本村さんは、葉っぱを顕微鏡で見て細胞の数を数えたり、シロイヌナズナを研究対象にして、日々研究に明け暮れている。

    熱心に植物について語る本村に、藤丸少年は惹かれていった。
    そして告白するも、あっけなく撃沈。

    藤丸が恋した本村さんは、シロイヌナズナに恋をしていた。
    恋した相手がシロイヌナズナでは到底たちうちができない。
    2度の告白もあっけなく断られ、円服亭の常連客に
    「フラ丸がフラフラ丸になった」とからかわれても、
    本村さんの研究を見守り応援する姿から、藤丸の人の良さがうかがえる。

    2人は恋に発展しなかったけど、そんなに甘くもなく
    サッパリした関係が2人には調度いいんだなと思った。

    —————-

    実験や研究に関するワードがたくさん出てきて一部難しかったけれど、同じ研究者の道を辿った人からすると、興味深くて面白い内容だったのかと思う。

    何かに熱中して取り組む姿は、とても魅力的に見えるもの。
    藤丸少年の気持ち、とてもよく分かります。

    • りまのさん
      こんにちは。daniel さん  私この話 知っているような?深夜ドラマかなんかで やってました?
      こんにちは。daniel さん  私この話 知っているような?深夜ドラマかなんかで やってました?
      2020/08/09
    • りまのさん
      あ 三浦しをん 前に読んだ事ありました。 好きな作家さんです ♪
      あ 三浦しをん 前に読んだ事ありました。 好きな作家さんです ♪
      2020/08/09
    • Danielさん
      りまのさんこんにちは!
      三浦しをんさん、いいですよね〜!
      図書館で必ずチェックしている作家さんです。

      まだドラマ化とかはされてないみたいで...
      りまのさんこんにちは!
      三浦しをんさん、いいですよね〜!
      図書館で必ずチェックしている作家さんです。

      まだドラマ化とかはされてないみたいですよ。
      ドラマ化が決まれば、原作との違いを見つける楽しみが生まれそうです(^_^*)
      2020/08/10
  • 2019年2月に読んだ本。
    「愛なき世界」という題名からして、
    きっと恋愛模様が描かれている本なのかな、と思っていた・・

    大学の側にある洋食屋の店員は、大学の研究室で植物学を研究する、本村さんに恋をする。青年よ、頑張れ!と思いながら、告白の場面は見守るような気持ちで
    読んだ。だが・・・・研究者には、恋人がいたらしい。ところが、その相手は、人間ではなかった。本村さんの研究対象物、小さくて大事な可愛い植物たちだった。
    青年は、見事に振られた。
    ところが、青年は出前を届ける度に、
    その研究室の植物たちに、少しずつ興味を持ち始めていく・・・・本村さんの研究対象物だけでなく、他の人の研究対象物にまで・・・・相手は本村さんの恋人たちなのに。

    その後、青年は再度本村さんに告白を
    試みる。本村さんの気持ちは、変わっていなかった。それはそうだろう。
    彼女はきっと、当分植物が恋人でいるのだろうから。
    ーーーー青年よ、いい人はきっと
    どこかにいるよ!ーーー

    • アールグレイさん
      松子さんこんばんは★
      遅くに失礼します
      白内障手術、経過観察となりました。
      ホッとしましたが、いつかはやって来る。複雑です。半年後位にまた...
      松子さんこんばんは★
      遅くに失礼します
      白内障手術、経過観察となりました。
      ホッとしましたが、いつかはやって来る。複雑です。半年後位にまた行くつもりです。
      \(~o~)/ファ~good nightZzz
      2022/05/25
  • 研究材料として利用しやすいモデル生物の一つが「シロイヌナズナ」だと知り、Webで調べ画像を眺めながら読みました。
    ペッスル、エッペンチューブ、チビタン、ボルテックスといった実験機材についてもどんな物か見てみました。

    本書では研究者である大学院生の本村さんが洋食屋の(素人の)藤丸くんに説明する形で分かりやすく研究の様子が語られます。
    植物の分子/発生遺伝学の研究者が、多様性の謎を解き明かしたいと日々観察と実験に取り組む姿を描いた物語です。
    恋愛に関する話も出てきますが、本筋の邪魔にならない程度に収めてくれていてさほど気にならず助かりました。

    私も理系でしたので雰囲気は良く伝わってきます。期待した成果の出ない実験に明け暮れた卒業研究時代の記憶がポツポツと蘇りました。

    この作品は、どうやら小石川植物園の園長でもある塚谷祐一さんの研究がベースになっているようですね。
    塚谷祐一さんの著書、「スキマの植物図鑑」や「森を食べる植物 腐生植物の知られざる世界」にも興味が湧きました。

  • 愛なき世界?
    いや、「愛」は確かにそこに在った。

    植物に恋してしまった本村は大学院でひたすら研究に邁進する。
    「どうして」「知りたい」を繰り返し植物の謎をとことん追及し続ける姿勢にとても好感が持てる。
    そしてそんな本村に恋してしまった藤丸の、本村を静かに温かく見守る視線が柔らかい。
    「恋」よりも深い「愛」がじわり伝わる。
    植物のことを知りたいと願う本村や本村の仲間の研究者達の、一見静かだけれど内に熱く燃える情熱は確実に「愛」だと言える。
    そして私は円服亭の料理が食べたくてたまらない…。

    読んでいて『舟を編む』を思い出した。
    しをんさんの、一心不乱に物事を突き詰める、風変わりな人達を追う物語はやっぱり面白い。

  • 洋食屋の見習い、藤丸陽太の恋した相手は、人生のすべてを植物の研究に捧げる女性だった…

    恋のライバルが常に人類だとはかぎらないだなんて、最近、こういうややこしい恋愛小説を読むことが多い気がする。

    藤丸が最初に振られた時の本村紗英の言葉(P92)
    「植物には、脳も神経もありません。つまり、思考も感情もない。人間が言うところの、『愛』という概念がないのです。それでも旺盛に繁殖し、多様な形態を持ち、環境に適応して、地球のあちこちで生きている。不思議だと思いませんか?」
    愛のない世界を生きる植物の研究に全てを捧げるから、本村は誰とも付き合うことはできない、のだと言う。

    困ったよね…。藤丸くん辛いよね。
    恋愛に関して多様なあり方があることは、もちろん良いことだけどさ。

    しかし、藤丸くんは立派で、
    愛というあやふやな概念を振りかざさねば繁殖できない人間の方が、植物より奇妙で気味悪い生き物なのではないか、
    と考える。

    えらい。

    2人の恋愛がどう育つのか、育たないのか、なかなかもどかしい思いをしつつ読み進めた。

    クールなタイトルや表紙の絵のイメージとは違ってハートウォーミングな物語。三浦しをんさんの文章は平易で分かりやすく、対象に親近感を持たせる。天下のT大の実験室がとても身近に感じられ、文系の僕でも実験の場面とかスイスイ面白く読めた。

    評価は4にしようか迷ったけど3…。
    割とあっさりと読み終わっちゃったので。
    心にひっかかる部分が少し少なかったかな。


    最後に藤丸が語る「愛」の定義が感動的だった。
    やっぱり藤丸っていいやつだ。

  • 恋のライバルが、人類だとは限らない――!? 洋食屋の見習い・藤丸陽太は、植物学研究者をめざす本村紗英に恋をした。しかし本村は、三度の飯よりシロイヌナズナ(葉っぱ)の研究が好き。見た目が殺し屋のような教授、イモに惚れ込む老教授、サボテンを巨大化させる後輩男子など、愛おしい変わり者たちと地道な研究に情熱を燃やす日々……人生のすべてを植物に捧げる本村に、藤丸は恋の光合成を起こせるのか!? 道端の草も人間も、必死に生きている。世界の隅っこが輝きだす傑作長篇。
    「中央公論新社」内容紹介より

    知りたい気持ちを「愛」と言うのではないのか?と言った藤丸、エラい.
    本の装丁もすごく綺麗.内容とリンクしていて、すごく好き.

  • T大にて植物学を研究する本村。何よりもシロイヌナズナが好き。そんな本村に洋食屋の見習い・藤丸は思いを寄せるが…。本村も藤丸も、研究室の面々をはじめ、登場人物はしをんさんならではの魅力的な人たちばかり。内容もしをん節炸裂。面白いだけでなく、本村のシロイヌナズナ愛の書きっぷり、素晴らしい。そして、植物を通して考える愛。研究者って普通の人と目の付け所が違って新鮮で、そこからくる考え方、個性を垣間見れ、そう言った面からも楽しめました。藤丸と本村の関係も変わらぬ爽やかさで素敵。愛なき世界だけれど、でも愛、大あり。なんとなく『舟を編む』を思い出しました。

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著者プロフィール

1976年東京生まれ。2000年『格闘する者に○』で、デビュー。06年『まほろ駅前多田便利軒』で「直木賞」、12年『舟を編む』で「本屋大賞」、15年『あの家に暮らす四人の女』で「織田作之助賞」、18年『ののはな通信』で「島清恋愛文学賞」19年に「河合隼雄物語賞」、同年『愛なき世界』で「日本植物学会賞特別賞」を受賞する。その他小説に、『風が強く吹いている』『光』『神去なあなあ日常』『きみはポラリス』、エッセイ集に『乙女なげやり』『のっけから失礼します』『好きになってしまいました。』等がある。

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