小林一三 - 日本が生んだ偉大なる経営イノベーター (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120051517

作品紹介・あらすじ

阪急、東宝、宝塚……。近代日本における商売の礎を作った男。哲学と業績のすべて。博覧強記の著者による、圧巻の評伝。

感想・レビュー・書評

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  • 小林一三は、阪急を作り、沿線の分譲地を作り、宝塚歌劇団を作り、阪急百貨店を作り、第一ホテルを作り、阪急ブレーブスを作り、東京伝統(後の東京電力)を再建し、昭和肥料(後の昭和電工)や日本軽金属を作った。それまでは、うだつの上がらぬ銀行員。事業家としての半生を辿る。

    事業の成否はアイデアや資金力、人脈やタイミング、行動力など、複数の要素で決まる。沿線に着眼した宅地戦略などは、そもそもアイデアが良いのだろう。しかし、本著を読むとそれだけではなく、通底する思考習慣があるような気がした。

    象徴するのは、飲食店での話。ソース飯、ソーライスの話。人気メニューのライスカレーを買う余裕なく、ライスだけ注文し、テーブルに備え付けられているソースをかけて食べるのが阪急百貨店で流行。「ライスのみの注文お断り」の貼り紙に対し、小林一三は「ライスだけのお客も歓迎」と。鰻屋でチップをやめさせ、その利益は、チップ廃止の損失に優ると解いた振る舞いもそうだ。単に損得勘定で考えても合理的にも見えるが、それ以上に、共通するのは、将来の客を掴む、長期的視座だ。

    こんな考えも面白い。宝塚の男役と言うものは男以上のもの。いわゆる男性美をよく知っている女、実物以上のほれぼれする男性が演じられているわけだ。それが宝塚の男役の非常に輝くところ。ファンタジーを作ろうと。通俗的な思考から一つ抜けた所、かつ、人間心理をよく理解した所業の末、ビジネスの成功があるのか。学びの多い一冊である。

  • ①不遇な生い立ちから、”家族”に対する強い思いが、彼の企業活動のビジョンに活かされている。
    この強いビジョンがなければ、彼の原動力は生まれなかった。

    当時、”家族の楽しみ”の文脈で、女性、子供も意識していたことが発想として新しい。

    小林一三は、勃興しつつある、良質な中層中産階級の娯楽をターゲットにした。(これが経営の軸)
    健全なモラル、そこから生まれた少女歌劇団。

    欧州では養老院が栄えていることに気付く。
    子供は親から独立する。
    一方、日本は直系家族、親子関係が大切。
    その価値観をベースにビジネスモデルを築く。(日本オリジナル)

    ②人脈
    岩下清周に引き立てられる。
    彼は三井物産パリ支店長出身で、フランス時代、原敬代理公使、大物政治家を欧州視察時にアテンドしていた。
    「桂と寺内に対しては、彼らがとばく場で大損を被った時に借金も肩代わりしている」

    当時の財閥の様子が分かる。
    三井は銀行、物産、三越等とグループ間の人材の異動が極めて柔軟。
    三井財閥は長州閥の庇護を受け先行。
    三菱は新興、住友は意外と遅い。
    ただ、三井は重工業への取り組みが遅れ、三菱に凌駕される。

    ③ビジネスセンス
    乗客の数ではなく、住人の数を考えていた。
    今でいうクロスセールスの発想。

    ハンズオン経営、若くとも優秀な専門家に任すことができる姿勢、揺るぎないビジョナリー、と経営者としての研究対象としても面白い。

    大衆レストランでのチケット制(事前払い)。
    汽車の切符と同じ。鉄道会社だからこその発想。

    ④宝塚歌劇団
    「男性美を一番よく知っている者は女である。その女が工夫して演ずる男役は、女から見た実物以上の惚れ惚れする男性が演ぜられている。
    そこが宝塚の男役の非常に輝くところである」

    ⑤政治の世界
    商工大臣時代の岸信介次官と対立の件が面白い。
    当時は、自由主義がまだ活きていたのだろう。
    軍国主義、統制経済への抵抗勢力として。
    戦後、政治家として失格であったことが、彼の自慢話となるところが面白い。

    大正時代は、自由、民主主義、自己意識が華やいだ時代であり、今一度、この時代に注目したい。

    ⑥不遇の三井銀行時代
    柔軟な発想(芸術他)、組織に媚びないキャラクターが不遇を招いたのか。
    当時の商業、金融の中心は大阪だったので、銀行の大阪支店に勤務していたことは、エリートとして期待されていたのだと思う。(自伝では、些か自虐的だが)
    金融の基礎を理解していたことは、将来の企業経営に活かされた。

  • 阪急、宝塚歌劇団、東宝、第一ホテル、日本軽金属を創り、後の東京電力である東京電燈を再建した、小林一三の半生について記された一冊。
    小林の「百歩先」を見通す先見の明と、人口学的視点に立った企業精神は比類なきものである。その思考のエッセンスとそこに辿り着くまでのプロセスについて詳細に描かれる。
    冗長な部分はあるが、概ね良書。

  • 2019年5月読了。
    人口態動の変化に従って事業をどの方向に舵取りして行くかという発想を持っていることが、同時代の鉄道事業者達と小林一三との違い。
    鉄道と沿線開発、歌劇団、百貨店、映画、ホテル、バラバラの事業だが、中間層の増加に合わせて彼らをターゲットにしているという一点で、これらの事業は全て共通している。

  • 「逆転の発想」は成功した事業者に共通するもの
    「仕事と娯楽は生活の両輪」
    「千里先」ではなく「百歩先」を見る能力にかかっている

  • 久々に長編の本を読んだ。クリステンセンの「イノベーションの最終解」以来だな。

    こんなイノベーティブな実業家がいたのかと驚かされる本だった。年代的には渋沢栄一の子供くらいの世代だろうか。マーケティングの授業でセグメンテーションの切り口として年齢、性別、所得レベル、地域、人口などの項目を教わるのだけど、自己流で歴史人口学に着目して次々と新規事業を連鎖的に考えて日本の生活インフラを変えてしまった人だ。

    小林一三は、新規事業家のようなクリエイティブなイノベーターには普通の生い立ちではとてもなれないのかも・・・、と思えるような複雑でドラマのような家庭環境で育つ。ただし、彼のように最初に銀行へ就職し、計数感覚を身に着けてその後実業家に転職して次々と事業を起こす。人口変化に注目して市場の利害関係者をあっという間に把握する洞察力とビジョナリー精神、先見性を磨く。こんなキャリアを歩めば、少しは近づけるのかもしれない。

    今は産業構造の変化もあわせて考えることになるので複雑だし、当時のような人口が増加する段階ではない。少子高齢化社会を踏まえた補正が必要だ。それでも、このキャリアは少しは私のような凡人にも参考になりそうだ。

    産官の連携が叫ばれる中で、相容れない摩擦もあるのだろう。この問題も垣間見えるトピックがある。いくつかの企業(阪急電鉄、宝塚、第一ホテルなど)の取締役社長の後に国政まで経験している。キャリアに幅というよりも奥行きがある人を初めて見た気がする。なお、ひ孫がテニスプレーヤーの松岡修造氏だから多様性に満ちた華麗なる一族って感じだ。

    やれDXだの、AIだ、IoTだ、5Gだと新規技術に沸き立って異業種連携のお祭り騒ぎの現代を彼が見たらどう思うのだろう。彼の思考回路を学びまねてみるもよし、この思考回路を自己流にアレンジするもよし。技術&社会をどう設計&実装するか、よくよく考えてみたい。

  • 阪急や宝塚の創業者の人生を読みたくて借りた本
    東電や東宝、大臣など初めて知る
    人々(大衆)をいかに豊かな暮らしにするか、住宅環境や娯楽など目のつけどころが秀逸

  • 阪急や宝塚の創業者である小林一三の生涯ついて書かれた本 明治維新とは異なる人口ボーナス期の起業家 著者の分析や解釈もしっかり目に書かれており、ただ何があったかだけでなく、なぜというところも考察してある。

  • 小林さんの人柄や功績、戦前戦中戦後の日本社会(経済、娯楽、政治など)の状況が具体的に知れる有意義な本でした。

    自分の持ち駒の強み弱みを正確に把握し、社会の情勢と予測される変化を踏まえて、慎重でありつつ勇敢に目的達成に突き進む人。

    住む環境や娯楽を豊かにすることを通して社会の豊かさや発展を着実に実現してきた人。

    戦時中の政府においても、国家による統制ではなく民間の自由な活動が経済を強くするという主張を曲げなかった人。

    どの年代にこのようなパーソナリティーの土台が築かれたのか興味深い。慶應在学中か、銀行マン時代なのだろうか。

    また、小林さんが本格的に事業家として活躍し始めたのが40歳手前くらいからという事実も、自分もまだまだこれからという希望をもらえる。

    明治のビジネスマンは今の人より転職するハードルが低そうであることとか、GHQは日本を統治するために一時期共産主義を利用しようとしていたことなど、勉強になった。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/719480

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著者プロフィール

1949(昭和24)年、横浜に生まれる。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。2008年より明治大学国際日本学部教授。20年、退任。専門は、19世紀フランスの社会生活と文学。1991年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、96年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、99年『愛書狂』でゲスナー賞、2000年『職業別パリ風俗』で読売文学賞、04年『成功する読書日記』で毎日書評賞を受賞。膨大な古書コレクションを有し、東京都港区に書斎スタジオ「NOEMA images STUDIO」を開設。書評アーカイブWEBサイト「All REVIEWS」を主宰。22年、神保町に共同書店「PASSAGE」を開店した。

「2022年 『神田神保町書肆街考』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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