死にがいを求めて生きているの

著者 :
  • 中央公論新社
3.82
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  • Amazon.co.jp ・本 (473ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120051715

作品紹介・あらすじ

誰とも比べなくていい。
そう囁かれたはずの世界は
こんなにも苦しい――

「お前は、価値のある人間なの?」

朝井リョウが放つ、〝平成〟を生きる若者たちが背負った自滅と祈りの物語


植物状態のまま病院で眠る智也と、献身的に見守る雄介。
二人の間に横たわる〝歪な真実〟とは?
毎日の繰り返しに倦んだ看護士、クラスで浮かないよう立ち回る転校生、注目を浴びようともがく大学生、時代に取り残された中年ディレクター。
交わるはずのない点と点が、智也と雄介をなぞる線になるとき、目隠しをされた〝平成〟という時代の闇が露わになる。

今を生きる人すべてが向き合わざるを得ない、自滅と祈りの物語。

感想・レビュー・書評

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  • まだまだ頭の中をぐるぐるして、結局、わたしは最後まで読んでも「生きがい」と「死にがい」の違いがよくわからなかった。弓削後編のラストを読んだ日、なんだかいろいろなことを考えて、眠れなくなった。朝井リョウの作品に触れるのは、「桐島~」を読んで以来、映画で「何者」を見て以来です。
    雄介を中心として描かれる連作短編。最初と最後で、雄介の印象がガラっと変わります。

    ずっと苦手意識のあった作家さんでした。「桐島~」で最後まで物語の中心となる桐島が出てこなかったように、今回の作品でも、中心となる雄介が主人公となることはない。なんというか、朝井リョウは、こういう、雄介のような人物を描くのが、巧い。わたしが苦手意識をもっていたのは、これだ。常に、雄介のような目線でいる感じ。朝井リョウの作品はどこか、他を受け入れないような、そんな空気を感じてた。たとえば、学校で言うと、一人の先生(つまりは作者である朝井リョウ)がクラスの大部分のメンバーを引っ張っている感じで、そこにはついてゆけないメンバーが置いてかれてる、そんな感覚。けれどそれは、朝井リョウが描く、雄介的存在によって構成された、彼の描き方なわけであって、決して朝井リョウが雄介ではないのだけれど、どうしても雄介的存在が強すぎて、物語全体に空気として漂ってしまって、錯覚を起こす。

    亜矢奈の章あたりから、読んでいたら動悸が止まらなくなって、かといって読むことも止められず、むしろペースは上がる一方だった。この動悸はどこからくるのかな、て。それは、雄介の存在によって、どこか自分の大学時代、いや、学生時代そのものをせせら笑われているような、そんな気分にさせられたからだ。心の中を無遠慮に覗かれてるような、過去をほじくって、ぐじゅぐじゅにされているような感覚。帯で梶さんが「裸」と表現しているのはまさにこういう感覚だろう。

    生きるとは、なんだ。その答えのない問いを、みんな生きながら必死に考えてる。目的がないと生きられない人。自分の行動一つ一つに意味がないと生きられない人。人のために生きているようでいて、実は自分のために生きている人。そう、生きることに「原動力」がないと生きられないということ。この作品の時代「平成」という時代は、戦争がない、その点においては平和な時代だった。だから、無駄に考える時間が多くなった。ただ「生きている」ということに疑問を持つようになった。
    どこかで思う。自分にやりたいことがあってよかった、と。さらに言えばそれが社会貢献的であることに、安心した。これでわたしも生きてていいんだ、そう思えた。挫折を味わった時の、自分にはもう何もない、目標がなくなった、じゃあなんのために生きればいい、生きていることに何の意味もない、という焦り。生きていたいのに、生きている意味がない、というこの絶望。それをなんとか抜け出しても、その先にはまた別の辛さが待っていて、そしたら最近は、なるようになるかな、とか、楽しく生きようかな、とか、そんな風に考えられるようになって。とはいえ、それもきっと「生きる意味」とやらに向き合ったからこそたどり着いた自分の答えなのかもしれない。それはまさしく雄介の言う「それ言うの、生きる意味見つけてる奴らばっかなんだよな」に該当するのであって、自分が社会貢献的なことを仕事にしているからこそたどり着けた答えのような気もしてる。挫折を味わったとはいえ、やりたいことは変わらなかった。結局、誰かに、社会に、必要とされてないと、生きていてはいけない気がしてる。もし、自分に、この「やりたいこと」がなかったら。「やりたいこと」が、誰かのためになっていなかったら。この時代を、この人生を、わたしはどう生きているだろう。雄介のように、次々とターゲットを変えて、生きる意味を求めて、生きているのではないか。朝井リョウの作品は、こうして、苦手な雄介的存在と、同類と思わされるから、怖いんだ。動悸が止まらないんだ。

    それと。男だとか女だとか、社会的な性の役割に縛られている人たちは結構な数いて。作品の中にも出てくるけれど、女性は仕事をしなくても専業主婦って言えるのに、男性はヒモって言われてしまう。これまで、女性がジェンダーを訴える作品にはたくさん触れてきたけれど、男性作家が、男性の登場人物を通して描いているのは、すごく新鮮だ。「平成」という時代がクローズアップされた本作品は、社会の価値観が大きく変わっていく中を、必死にもがいて生きる姿が描かれている。けれど、結局いくら学校が競うことをやめさせたって、お遊戯会に主人公がたくさんいたって、人は人と比べる。
    この作品は、そのしんどさを認めた上で、それでも自分で自分を認めながら、人の数だけ存在する価値観を受け容れる、そんな時代であれ、と、祈っている。過渡期だった平成から、令和へ。

    もののけ姫が、観たくなりました。

  • 初、朝井リョウ。物心ついた頃からゲームやSNSがあって、ゆとり教育やら同調圧力があるのを当たり前の社会だと思って生きてきた世代の、それでも対立と和解をどう解決して行くのか、探って行く物語。のように思えた。納得できなかった。以下、なぜかを述べる。

    「俺は、死ぬまでの時間に役割が欲しいだけなんだよ。死ぬまでの時間を、生きていい時間にしたいだけなんだ。自分のためにも誰かのためにもやりたいことなんてないんだから、その時々で立ち向かう相手を捏造し続けるしかない」(398p)

    「自分のためにも誰かのためにもやりたいことなんてない」なんて、平成生まれのこの子は、どうしてそんな風に自分のことを思ってしまうんだろう。どうして、いつも誰かにどう見られるかが、何かの基準になるのだろう?こんなに若いのに、何を焦っているんだろう?丁寧にその心理を幼少の頃から辿っているはずなのに、やはり私にはピンとこない。

    組み体操のピラミッド存続問題やRAVERSや大学寮存続問題、無人島仙人問題など、現実にあった問題からモチーフを「強引に」自分のテーマに引き入れる書き方は、感心しなかった。揶揄はしていないが、あの事柄をある程度知っている人にとっては、揶揄されていると怒るかもしれないような書き方もあった。安藤くんじゃないけど、この作者に対しても「こうやって喋って満足するだけのおままごとはもう、終わり」にしよう、と言いたくなる書き方もあった。朝井リョウは何を焦っているんだろう? 自分に求められている「役割」を過剰に意識し過ぎているんじゃないか?こんな風にホントにあったことをなぞるならば、表層だけを見るんじゃなくて、「核」の部分を描いて欲しい。その表現、作者は、その部分で1番もがいているのかもしれない。そこは伝わってくる。でも、まだ足りない。決定的に何かが足りない。人気作家だけど、こんな感じならば、認めるわけにはいかない。

    • adagietteさん
      イイネ ありがとうございます。
      そうかぁ 厳しいですね〜 
      でも こちらの評もとても面白く読みました。なるほどなぁ ...
      私から見る...
      イイネ ありがとうございます。
      そうかぁ 厳しいですね〜 
      でも こちらの評もとても面白く読みました。なるほどなぁ ...
      私から見ると "息子” 年代の朝井リョウ。
      自分の外にあるものは綴れても 女子に比べて言葉でもって自分をさらけ出すことがあまりうまくないのが男性。
      まさに ”その部分で1番もがいている”点を 私は評価しました (^^) 
      2019/08/28
    • kuma0504さん
      本ぶらさんへ。
      ご返事遅れてすみません。
      そんな全ての世代にもある焦りもあったのかもしれませんが、この世代特有の焦り⁉︎それとも朝井リョウ特...
      本ぶらさんへ。
      ご返事遅れてすみません。
      そんな全ての世代にもある焦りもあったのかもしれませんが、この世代特有の焦り⁉︎それとも朝井リョウ特有の焦りも、あるように感じました。
      文学は細部が大事なので、やはり一読しないとわからないかもしれません。
      2019/08/29
    • kuma0504さん
      adagietteさんへ。
      コメントありがとうございます。
      男の子は、どうしても社会と向き合おうとします。
      私は基本的に、権力のあるものにつ...
      adagietteさんへ。
      コメントありがとうございます。
      男の子は、どうしても社会と向き合おうとします。
      私は基本的に、権力のあるものについては、風刺的に描いてもオーケーだと思っていますが、自分より弱い人たちを風刺的に描く、或いは表層的に描くことは慎重であるべきだと思っています。もちろん弱い人たちを批判的に描いてもいい。けれども、こんな小説では、少なくとも真摯に向き合うべきです。私は居酒屋の場面は現実にあったようにリアルに感じました。けれども、RAVERSや大学寮問題、無人島生活など現実にあった話を取り上げる時には、ネット情報からのみから判断したように感じました。ネットには情報が溢れていて、それなりに取捨選択する技術も持っている人はいます。作者も慎重に取捨選択したように見受けられます。けれども、それでも私は「浅い」と思いました。私が当事者ならばいくつかの点で「揶揄された」と感じたと思う。朝井さんは人気作家なので、力は朝井さんの方が上です。そういう描き方をするべきでなかった。そもそも現実あった問題から、小説に取り込む必要はさらさらないのです。
      朝井さんは、平成の子供の立場から平成の問題を描こうとしている。けれども、絶対上から目線になってはいけない。下から見た世界を描くべきです。でも既に朝井さんの立ち位置が、上にあるのならば仕方ない。一作で朝井さんを判断するつもりはありませんが、この本を読んだ段階で、私はそう判断しました。よっぽどのことがない限り、朝井さんの本を読むことはないと思います。

      長々とすみません。adagietteさんの意見ももっともだと思います。
      2019/08/29
  • 螺旋プロジェクト"平成"
    螺旋プロジェクト関係なしにこの1冊だけでも十分楽しめる。
    螺旋プロジェクトのお題になっている【海族】と【山族】の対立も堂々と取り入れてこんなに心に残る作品に出来るって本当にすごい。

    しかし本当に朝井リョウさん本当にすごい。
    自分でもわかってるようでわかってなかった生きづらさをこんな風に言葉にしてまとめられるなんて…!

    私も朝井リョウさんと同年代だけど、【平成 平らかに成る】ナンバーワンよりオンリーワン。
    私は私。人と比べなくていい。それが生きやすいと思ってたけど、
    "見知らぬ誰かに「お前は劣っている」と決めつけられる苦痛の代わりに、自ら自分自身に「あの人より劣っている」と言い聞かせる哀しみが続くという意味でもある"

    もうその通りすぎて言葉に出来ない笑
    自分が日頃悩んでいることの根底にはまさに自分を自分で評価しなきゃいけない苦しみなんじゃないかと思う。
    作品最後にあった特別付録。あとがきみたいなものかな?
    朝井リョウさんの話が素晴らしかった。

  • 螺旋プロジェクト、平成時代の部。幼馴染の智也と雄介。アクティブな雄介とそれにしがたう智也。接する人たちはどうして二人が友達でいるか不思議に思う。競争しない学校生活、雄介は生きがいを求め様々なことに没頭する。智也が植物状態になったとき雄介は毎日お見舞いにくる。耳は聞こえる智也は雄介とのすれ違い、自分自身を振り返り、海と山の対立を振り返る。
    海と山の戦いの物語でもありながらも、心を注ぐものを熱く求める姿を描く物語であった。ゆとり世代とか席次の張り出し等競争をなくした世界の心の渦巻きを描き切っており読ませました、生きているという実感、無価値ではないんだと思う自分、その苦しみです。生きがいでもなく死にがいとまで言うくらいのもがき。大抵のものは揃い、競争相手を隠され、自分自身に向き合い、そして外に求め、平成の時代の息苦しさを描いた一冊でもあり印象に残る。結局、周りと自分を比べてしまう、他人を否定や攻撃をせずうまくどう折り合いをつけてゆくか。螺旋でもあるし一粒で二度美味しい(螺旋でなくても読み応えあり、螺旋でなくという感も)。

  • いやあ面白かった。伊坂幸太郎のシーソーモンスターを読んだ後だったので、尚更面白かった。平成の若者を描かせたらこの作者に敵うヒトはいないのでは。読んでいて感情移入してしまい本当に辛くなる描写も、螺旋プロジェクトに絡めたラストの畳み掛ける独白も素晴らしかった。

  • うわぁ、これまた不思議で面白い本。穏当に始まった物語が少しずつゆがんできて…とんでもないところに着地するけど、テーマは一貫している。「生きがいとは」「自分と違う者との対立をどう扱うか」

  • 死にがいを求めて生きているの
    凄い題名だと思い手に取りました。
    長編連作短編集である。各登場人物の視点からの生き甲斐を着目しました。
    一話目の白井友里子の編の一行目がまさに今の自分向た言葉だ。自動的に、運ばれていく。
    その殻をやぶり死にがいをみつける程、度胸がない自分を垣間見た。人生の螺旋、対立構造を畏れている。
    最後に智也の身体が生き甲斐を求め力になり対立の螺旋を描く事を期待してしまいました。

    小学生の時に初めて読んだ本、吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』を再読したくなった。

  • 他人の人生を覗き見してるような感覚になっておもしろかった。
    前半は長いなあと思ったけど、読み終わって前半のシーンのおかげで後半のみんなの複雑な心情と空気感をより感じられると思った。
    誰かのために何かを頑張れたり何か夢中になれるものを持ってる人が羨ましくてたまらない気持ちはすごくわかると思った。
    ただ自分の存在を受けて入れてくれる人が欲しいなと思った。

  •  雲一つなくカラッと澄み渡った気持ちよく晴れた日。

    そんな感じではなく。

     雲も多くて日差しも余り届かないけど、今日の天気はと言われたら。

    晴れと答える。

     朝井リョウさんの作品に感じる感覚ですかね。

     

     

  • 植物状態で眠り続ける智也を毎日見舞いに来る雄介。担当看護師の目からは素敵な友人関係に見えたのに、小学生時代の同級生から中学、大学と別々の人物の視点で語られる二人の関係には常に不穏な空気が漂う。語り手も含め「あるある」と頷く程度から昔を思い出して頭抱えてしまうまでの青い感情の洪水の描き方がやっぱり上手い。そして聴力だけを取り戻した最後の智也の章の伏線回収の不気味さがまた凄い。一番として認められたい雄介とそれを冷静に見守る智也。正反対に見えて表裏一体な二人は対立したままなのか。解り合う事の難しさを考えさせられる。

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著者プロフィール

1989年岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』で、「小説すばる新人賞」を受賞し、デビュー。11年『チア男子!!』で、高校生が選ぶ「天竜文学賞」を受賞。13年『何者』で「直木賞」、14年『世界地図の下書き』で「坪田譲治文学賞」を受賞する。その他著書に、『どうしても生きてる』『死にがいを求めて生きているの』『スター』『正欲』等がある。

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