死にがいを求めて生きているの

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (473ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120051715

感想・レビュー・書評

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  • まだまだ頭の中をぐるぐるして、結局、わたしは最後まで読んでも「生きがい」と「死にがい」の違いがよくわからなかった。弓削後編のラストを読んだ日、なんだかいろいろなことを考えて、眠れなくなった。朝井リョウの作品に触れるのは、「桐島~」を読んで以来、映画で「何者」を見て以来です。
    雄介を中心として描かれる連作短編。最初と最後で、雄介の印象がガラっと変わります。

    ずっと苦手意識のあった作家さんでした。「桐島~」で最後まで物語の中心となる桐島が出てこなかったように、今回の作品でも、中心となる雄介が主人公となることはない。なんというか、朝井リョウは、こういう、雄介のような人物を描くのが、巧い。わたしが苦手意識をもっていたのは、これだ。常に、雄介のような目線でいる感じ。朝井リョウの作品はどこか、他を受け入れないような、そんな空気を感じてた。たとえば、学校で言うと、一人の先生(つまりは作者である朝井リョウ)がクラスの大部分のメンバーを引っ張っている感じで、そこにはついてゆけないメンバーが置いてかれてる、そんな感覚。けれどそれは、朝井リョウが描く、雄介的存在によって構成された、彼の描き方なわけであって、決して朝井リョウが雄介ではないのだけれど、どうしても雄介的存在が強すぎて、物語全体に空気として漂ってしまって、錯覚を起こす。

    亜矢奈の章あたりから、読んでいたら動悸が止まらなくなって、かといって読むことも止められず、むしろペースは上がる一方だった。この動悸はどこからくるのかな、て。それは、雄介の存在によって、どこか自分の大学時代、いや、学生時代そのものをせせら笑われているような、そんな気分にさせられたからだ。心の中を無遠慮に覗かれてるような、過去をほじくって、ぐじゅぐじゅにされているような感覚。帯で梶さんが「裸」と表現しているのはまさにこういう感覚だろう。

    生きるとは、なんだ。その答えのない問いを、みんな生きながら必死に考えてる。目的がないと生きられない人。自分の行動一つ一つに意味がないと生きられない人。人のために生きているようでいて、実は自分のために生きている人。そう、生きることに「原動力」がないと生きられないということ。この作品の時代「平成」という時代は、戦争がない、その点においては平和な時代だった。だから、無駄に考える時間が多くなった。ただ「生きている」ということに疑問を持つようになった。
    どこかで思う。自分にやりたいことがあってよかった、と。さらに言えばそれが社会貢献的であることに、安心した。これでわたしも生きてていいんだ、そう思えた。挫折を味わった時の、自分にはもう何もない、目標がなくなった、じゃあなんのために生きればいい、生きていることに何の意味もない、という焦り。生きていたいのに、生きている意味がない、というこの絶望。それをなんとか抜け出しても、その先にはまた別の辛さが待っていて、そしたら最近は、なるようになるかな、とか、楽しく生きようかな、とか、そんな風に考えられるようになって。とはいえ、それもきっと「生きる意味」とやらに向き合ったからこそたどり着いた自分の答えなのかもしれない。それはまさしく雄介の言う「それ言うの、生きる意味見つけてる奴らばっかなんだよな」に該当するのであって、自分が社会貢献的なことを仕事にしているからこそたどり着けた答えのような気もしてる。挫折を味わったとはいえ、やりたいことは変わらなかった。結局、誰かに、社会に、必要とされてないと、生きていてはいけない気がしてる。もし、自分に、この「やりたいこと」がなかったら。「やりたいこと」が、誰かのためになっていなかったら。この時代を、この人生を、わたしはどう生きているだろう。雄介のように、次々とターゲットを変えて、生きる意味を求めて、生きているのではないか。朝井リョウの作品は、こうして、苦手な雄介的存在と、同類と思わされるから、怖いんだ。動悸が止まらないんだ。

    それと。男だとか女だとか、社会的な性の役割に縛られている人たちは結構な数いて。作品の中にも出てくるけれど、女性は仕事をしなくても専業主婦って言えるのに、男性はヒモって言われてしまう。これまで、女性がジェンダーを訴える作品にはたくさん触れてきたけれど、男性作家が、男性の登場人物を通して描いているのは、すごく新鮮だ。「平成」という時代がクローズアップされた本作品は、社会の価値観が大きく変わっていく中を、必死にもがいて生きる姿が描かれている。けれど、結局いくら学校が競うことをやめさせたって、お遊戯会に主人公がたくさんいたって、人は人と比べる。
    この作品は、そのしんどさを認めた上で、それでも自分で自分を認めながら、人の数だけ存在する価値観を受け容れる、そんな時代であれ、と、祈っている。過渡期だった平成から、令和へ。

    もののけ姫が、観たくなりました。

  • 螺旋プロジェクト"平成"
    螺旋プロジェクト関係なしにこの1冊だけでも十分楽しめる。
    螺旋プロジェクトのお題になっている【海族】と【山族】の対立も堂々と取り入れてこんなに心に残る作品に出来るって本当にすごい。

    しかし本当に朝井リョウさん本当にすごい。
    自分でもわかってるようでわかってなかった生きづらさをこんな風に言葉にしてまとめられるなんて…!

    私も朝井リョウさんと同年代だけど、【平成 平らかに成る】ナンバーワンよりオンリーワン。
    私は私。人と比べなくていい。それが生きやすいと思ってたけど、
    "見知らぬ誰かに「お前は劣っている」と決めつけられる苦痛の代わりに、自ら自分自身に「あの人より劣っている」と言い聞かせる哀しみが続くという意味でもある"

    もうその通りすぎて言葉に出来ない笑
    自分が日頃悩んでいることの根底にはまさに自分を自分で評価しなきゃいけない苦しみなんじゃないかと思う。
    作品最後にあった特別付録。あとがきみたいなものかな?
    朝井リョウさんの話が素晴らしかった。

  • いやあ面白かった。伊坂幸太郎のシーソーモンスターを読んだ後だったので、尚更面白かった。平成の若者を描かせたらこの作者に敵うヒトはいないのでは。読んでいて感情移入してしまい本当に辛くなる描写も、螺旋プロジェクトに絡めたラストの畳み掛ける独白も素晴らしかった。

  • うわぁ、これまた不思議で面白い本。穏当に始まった物語が少しずつゆがんできて…とんでもないところに着地するけど、テーマは一貫している。「生きがいとは」「自分と違う者との対立をどう扱うか」

  • 朝井リョウさんって「桐島部活」の人だよね〜私にはちょっと若いかしら〜なんて視線を送りながら、いつも素通りしてた作家さん。

    初朝井さん本で、このぶっとい厚みのごっついタイトル本を取った私も私ですが、いやーーすごかった!!すごいの一言。内容もさることながら話のぐいぐいくるところ、状況の表現の仕方、構成…そして2、3日引きずりそうなこの読後感。すべて恐れ入りました。今まで読まなくてごめんなさい!!朝井さんの本を読むことがしばらく続くかも。

    そして話の中で「死にがい」というワードが沢山出てくるのかと覚悟して読み進めてたら、意外や意外、逆の「生きがい」ワードが沢山…。
    ほどほど長いこと生きてますが、これからの生き方について考えさせられました。これは是非、我が子たち若い世代にも読んでもらいたい!(でも一度断られてます)

    また、この本は螺旋シリーズ?で他の作家さんの本とも繋がってるらしく、そっちの方も読んでみたいな。楽しそう。

  • 対立構造を作らないと、自分の存在を認められないのですか?
    対立構造の中でないと、あなたは生きがいを見いだせないのですか?

    若い頃を思い出す、空っぽな自分の外や中に何か理屈をつけないと、立っていられない感情。「生きている意味」にフォーカスし、主人公と親友の小学校からの時間の経緯とともに、複数の視点を変え人生観を書く。

    本著者の苦手なところが「世代の違いの感覚をモロに感じる」からだと気付く、同時に自分の柔軟性の無さも。その様な思いがあり苦手だったが、本書の「死にがい」というキーワードに引かれて読んでみると良かったな。

    「生きる意味」を考えずにはいられなかった、あの頃に読んだらどう思っていただろうか?若い人の感想も聞きたい。大人になるに連れ、楽になったことの一つだと思う、もっと自然に存在しているだけで良いんだよと。(でも、そう思えないんだろうなぁ)

  • 何者が好きな人は絶対この作品も好きなはずです。
    自身が心のどこかに秘めていて言葉にできなかったもやもやや厭な感情をいとも簡単に言葉にしてくれた。や、しちゃったって感じかな。意地が悪い。
    様々な人からの視点で堀北雄介と植物人間となった南水智也を追う。誰もがこの2人が仲がいいことに疑問を持つのに、堀北雄介は毎日のように親友の看病にきている。
    ほんと気持ち悪さと怖さしかなくて、ゾクゾクした。

    以下ネタバレあり

    雄介みたいな人いるし、雄介みたいな考え、自分の中でもどこかにある。生きがいをあんな風に探したりはしないけど、承認欲求の強さというか、ね…
    最後分かってはいたけども親友の看病を生きがいにした雄介が怖すぎて。また最初の章読み返しちゃったよ。やばいな。これを一冊の本にした朝井リョウ、普段なに考えてんだろとも思った。すごく好きでした。
    螺旋シリーズ気になるけど全部は読めなさそうだなー。。

  • タイトルが刺さったので読んだ。
    登場人物のそれぞれの視点からの描写が面白く最後に繋がる。もう一度読んでそれぞれの証言を確認したい。

  • 朝井リョウの小説は救いになることもあれば、心をえぐられることもある。この作品は私にとっては後者だった。過去の恥ずかしい自分、いまでも残っている目を背けたい部分。登場人物に過去や現在の自分を重ねてとにかく恥ずかしくて仕方なかった。でも、まざまざと見せつけられたからこそ、そしてそれを対立で終わらせたくないと信じる人がいるから、ちゃんとそこに向かい合おうと思えた。やっぱり朝井リョウの小説は救いにもなる。

  • 最初、短編集かと思ったら、長編だった。

    最初の話で、生きがいのない、毎日のルーティーンを送っている看護師の視点では、雄介が前向きに毎日を生きている同世代に見えているのに、実は生きがいがなく死にがいを求めて生きている人だったというのが面白い。

    注目を集めたいがゆえに、周りの人とは違うフィールドに行こうとしてしまうところ、昔の自分にあったなと思って恥ずかしくなる感じが、「何者」と似てた。

    雄介が、「人間は三種類いると思ってる」と言って、①生きがいが他者貢献の人、②自分の好きなことをしている自己実現型の人、③生きがいがない人、と分析しているところが面白かった。

    今の私は②だけど、「たまに、こんなふうに生きてて良いのかな?と思うことがある」って書いてあって、まさにそう!って思った。

    でも、少し前までは③で、雄介のように、なにか自分も特別にならなきゃ…ともがいていた時期があったのを思い出して、わかる…と思った。
    人とは違う自分、特別な自分を追い求めているうちは、人と比べることで承認欲求を満たしているから、熱中できるものがなくなったり、次に追い求めるものがわからなくなると辛くなるんだと思う。
    特別じゃない、ただの普通の人でいいって思ってから、少しラクになったと思う。「普通でいる勇気」

    朝井リョウさんと同世代だからか、共感するところが多かった。平成っぽい気がする。

    読み終わった後も、色々と考えてしまう作品。

著者プロフィール

1989年岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』で、「小説すばる新人賞」を受賞し、デビュー。11年『チア男子!!』で、高校生が選ぶ「天竜文学賞」を受賞。13年『何者』で「直木賞」、14年『世界地図の下書き』で「坪田譲治文学賞」を受賞する。その他著書に、『どうしても生きてる』『死にがいを求めて生きているの』『スター』『正欲』等がある。

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