つみびと (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
3.55
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感想 : 144
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120051920

作品紹介・あらすじ

灼熱の夏、23歳の母・蓮音は、なぜ幼な子二人をマンションに置き去りにしたのか。
真に罪深いのは誰なのか。

あの痛ましい事件に山田詠美が挑む。
虐げられる者たちの心理を深く掘り下げて、日経新聞連載時から話題を呼んだ、迫真の長編小説

感想・レビュー・書評

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  • 幼い子供二人を部屋に置き去りにして殺してしまった母。母には何が、そして、その母(子供にとっては祖母)には何があったのか2010年大阪二児置き去り餓死事件を元に書かれたとのことです。
    読み始めから重い。読んでて苦しくなる。巨大な岩を背負って読んでいるよう。苦しいけれど、母が祖母がどんな思いで、どんな生い立ちがあるのか、読み進める、ページをめくる手は止まらなかった。
    母だけが悪いのではない、祖母もまた家庭が複雑だったこともあるし、夫だって見殺しじゃないか。祖母の兄以外の男、つみびとだらけだ。
    本を読んでいると、その内容で気分が左右される時があるけれど、この本を読んでいるときは、仕事中でも悲しくなった。最近の中ではこの本が一番重かったか。DVに始まり、性的暴行、ネグレクト、耐えられない。小さな子供は無力だ、絶対こんなのだめ。心の傷は簡単には治らない。大人にもケアすること必要。

  • ワイドショーのように結果を見て断罪するのは正義派気分に浸れますが、そこから生まれるものはありません。山田詠美はフィクションというかたちを借りて、被害児童から遡ること4代にわたる関わった人々を描写し、それぞれの生い立ちから行状、考え方を優れた想像力を持って問題の構造を描写します。事の重さ辛さに読み進めるのが苦しくなりますが、向き合う作者の真摯な姿勢にも心が打たれます。重層な物語ですが、巧みな構成と端的な文章で全体像が見えてきます。日本でも格差は進行し、コロナ厄災でも容赦なく低学歴・低所得層を中心にダメージを与えています。シングルマザー層は最底辺の所得階層です。明日の日本に希望が持てるよう、本書を手がかりに負の連鎖は断たねばなりません。力作というしかありません。

  • 淡々と、どちらかと言えば斜めに、心を横においてしか読むことが出来なかった。そうでないと、私の心が平静を保っていられなかった。
    大阪で起きた2児餓死事件を元に書かれたフィクションである。
    フィクション。そうであってほしいと思い、だけど、限りなくノンフィクションなのではないかとも思ってしまう。
    虐待の連鎖。そんな言葉で終わらせてはいけないと思う。普段生活していると、普通は知る事もない世界かもしれない。だけど、これが現実として生きている人が確実にいる。違う世界の創りものの出来事なんかじゃない、それは確実にリアルであり、ノンフィクションということ。
    鬼母と呼ばれている彼女、彼女の母親、そして亡くなった子どもたち、この三者の立場から細切れに物語が進んでいく。全てがやるせなかった。
    つみびとは誰だろう。いや、誰、じゃなくてみんなかもしれない。
    とにもかくにも…という表現が適切かどうかは分からないけれど、できる限りの精一杯の心で、ギューッと抱きしめてあげたい。大丈夫だよと言いながら、精一杯抱きしめて一緒に泣きたい。責任も取れない私のエゴだったとしても、考え続けたい。

  • ─母親は、子への愛情を万全に整えた女神様なんかじゃない。どんな母だって、ほころびはある。たいていの場合、それを上手く隠しおおせたというだけだ。そして、そう出来ないものを母親失格と呼ぶ。─
    印象的だった文。ほんとにそう、母は偉大だなんて幻想を抱きがちだけどほんとにただ1人の人間。子どもを産んだ瞬間人格者になれるわけじゃない。私も毎日毎日ほころびを隠すのに必死なのかも。だから焦って、イライラしてしまう。

    先日アマプラで「子宮に沈める」を観た。
    派手な映画ではないんだけど、見終わったあとからジワジワと色々な思いがめぐってずっと頭から離れなかった。なかなかそんな映画ってない。つらい映画だけど観てよかった。
    この映画について調べていたら元になる実際の事件があったとのこと。そしてその事件を元にこのつみびとという本もあるということを知って読んでみた。

    映画では母親の生い立ちや親については触れられてなかったから、逆に誰でもほんの少しのきっかけや歯車の狂いでこうゆうことは起こり得るのかもしれない、と。他人事じゃないなと怖くなった。

    こちらの本ではより実際の事件に近い形で書かれているようで(?)、母親の親、さらにその親についてまでも描かれ、虐待の負の連鎖を突きつけられる。
    私がこういった話を読んで1番許せないのは性的虐待をする父親(継父)。結局全ての悪の根源がこれなんじゃないかと思える。。
    普通に育てたって子どもに自己肯定感をつけるのって難しいのに、、性的虐待って考えただけてもあまりにも残酷に人の心を殺してる。ほんとに、どうにかせめて性的虐待だけはこの世からなくしてあげられないだらうかって思う。。

    本のテーマは興味深かったが、小さい子どもをはじめ、登場人物の行動の幼稚さに比べて思考や語りがまともで大人びていてその違和感で入り込めなかったというのはある。

    でも最後の締めはなんか、おぉ、、となった。

    どんなひどいことされても子どもはやっぱり母親を求めてる、のかなぁ
    父親は?どうなんだろう……

  • 幼い子ども二人を育児放棄で死なせ、逮捕され服役中の蓮音。何故彼女が事件を起こすに至ったのか。彼女は幼い時に実母が家庭から逃げ出し、過酷な人生を歩んできた。虐待の記憶は連鎖するのか。蓮音視点と母、琴音視点でそれぞれの人生が回想される。不幸はあのクズのせい、と決めつけるのは容易い。でも容易く人のせいに出来なかった弱い存在だった二人が僅かな幸福の暖かさに目が眩んで或いは信じられなくてより深い闇に落ちていく姿がリアルで流石。翻弄される心の嵐を描くのはエイミーの真骨頂ですね。ほんの少しの差で塀の外と内に立つ母娘。逃げた者と留まった者。差し伸べられた手と自分から差し伸べた手。その差について考えてしまう重いが読ませる一冊。

  • やりきれない。本当にやりきれない物語。

    これは鬼母と呼ばれた蓮音の物語。蓮音は、真夏、部屋に子どもたちを置き去りにし、結果殺すことになり、刑務所に収監される。
    読んでいて、特に子どもたちが登場するシーンでは、なんとかこの子たちを助けてあげてと思わずにはいられなかった。どうしようもない母親でも、子どもたちにとったら大好きな母親だ。でも、いつか帰って来なくなる日が来るんじゃないかと不安に思いながら生活している。普通の子はそんなこと思いもしない。どんな子だって、両親に甘え、絶大な愛情の元育っていく。

    蓮音は「あの母親の子だからねぇ」と言われるような母親を持つ。蓮音もある意味被害者であった。蓮音の母親である琴音も被害者だ。まさに負の連鎖が子どもたちを不幸にしていく。

    この物語を読んでいると、親たちの勝手な振る舞いに怒りが湧いてくる。でも、こうした事件も、親も当たり前のように存在しているのが今の世の中だ。

    ただ、ほんの少し蓮音の気持ちもわかってしまう。辛い生活から逃げ出し、ほんの少しの時間だけ何も考えずにいられる楽しい世界へ行きたい。きっと、だれもが一歩間違えば第2の蓮音になる可能性もあると、恐ろしくなる。

    でも、絶対に逃げちゃいけないと思う。子どもたちの笑顔のためにも、自分を好きでいるためにも。

  • 久しぶりの山田詠美さんの小説。
    いやー…苦しかった。虐待は連鎖するって、なんだろ。かわいそうすぎて。小さきものたちのシーン読むの辛かった。最期のどんぶらこが苦しすぎて。
    大阪二児置き去り死事件は記憶にも残ってます。それを題材にした小説ですが、同情はしづらかった。でもどこかで不幸の連鎖は止められたんじゃないかなって。悲しい

  • 虐待は連鎖する、という。

    幼い子らをエアコンもない真夏のアパートに置き去りにし死なしめた蓮音。
    しかし彼女もまた、母親に置き去りにされ、幼い弟妹の世話に明け暮れた過去をもっていた。
    そしてその母である琴音もまた、実父からのDV、実母の愛人からの性的虐待を受けて育っていた。

    親の愛を知らないから子を愛せなかった琴音。
    親に愛されなかったから子を愛そうとした蓮音。

    虐待やネグレクトを受けて育った傷は、呪いのように彼女たちを締めつけて離さない。

  • 図書館でやっとこさ予約確保でき、手にしたときは、この時期2週間でいけるかな…のぶ厚さでしたが、一気にいきました!吉田修一氏の「悪人」を読んだとき、だれが何をもって悪人というかと考えされられたが、この作品も読んでいるともうすべてが罪に思えてくるのだけれど、ん?罪ってその根本的なものってなんなの?という疑問も常にありました。子どもが母親に言われて思っていた「罰」についても心に残りました。

  • 冷静に読めなくて込み上げてきて何度も中断した。
    「徹底的に甘やかされてきたので他人の甘やかし方もぜんぶわかる」と言うわたしの友人を思い出した。この話はその反対なのだと思う。
    「母」と「娘」と死んでしまった「小さき者たち」。大丈夫だよって言ってもらったことないんじゃないかな。「母」に助けを求めることができない、やり方がわからないから。大事にされていないことを嗅ぎつける周囲の描写。

    • 大野弘紀さん
      冷静になれない本って、ありますよね
      冷静になれない本って、ありますよね
      2020/01/03
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著者プロフィール

1959年東京生まれ。85年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞受賞。87年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞、89年『風葬の教室』で平林たい子文学賞、91年『トラッシュ』で女流文学賞、96年『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞、2000年『A2Z』で読売文学賞、05年『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞、12年『ジェントルマン』で野間文芸賞、16年「生鮮てるてる坊主」で川端康成文学賞を受賞。他の著書『ぼくは勉強ができない』『姫君』『学問』『つみびと』『ファースト クラッシュ』『血も涙もある』他多数。



「2022年 『私のことだま漂流記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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