- 本 ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120052064
作品紹介・あらすじ
30歳の大倉玉青は、人材派遣会社に登録し大手通信系企業の受付として働いている。大学時代は、演劇サークルに所属していた。愛読書の『走れメロス』をバッグに放り込み、苦行のような満員電車に乗り職場へ通うのは、ただ生活のためだけだ。その生活が空虚で、何のために生きているのかわからない。彼女は、5年前の自分の選択に端を発するある「秘密」を抱え、その秘密に関わる者の存在を「希望」と感じながら、日々を過ごしていた――。
女優・執筆活動などで多彩な才能を見せる著者が、「入れ替わり」の起きた姉妹を主人公に現代的テーマに迫った、痛切な「命」の物語。
感想・レビュー・書評
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ずっとゆらゆらと醒めかけの夢の中にいるような、
でもシビアに人の孤独も感じられるような
不思議な物語でした。
他の誰かを羨むことがあったとしても
自分自身を脱ぎ捨てたくなるようなことがあったとしても
主人公は二度と生きることを投げ出さないだろう。
心と身体が揃ってこその、
自分の人生だから。 -
あの女優の中江有里さんがこんなお話を書くとは。興味本位で大した期待もなく読み始めたのだけど、文章もスマートで内容もしっかりとした軸があって不思議な世界にひきこまれまくり。作り物とは思えないほどに完成されたストーリーに感動することしきり。
すごい才能溢れる作家さんとしての別の顔があったんだなぁ。色々と作品読んでみたい。 -
生きる目的を失った主人公の玉青が、植物状態の妹と入れ替わる物語。
他人の人生を自分のものとして生きることはできない。
今まで存在を知らなかった姉妹の、生命や絆を考えさせられる小説でした。
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中江有里ファンです!
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30歳派遣社員の玉青は孤独。両親とは死に別れ妊娠を報告したら恋人にも捨てられ出産後、施設に預けた息子を遠くから眺める日々。最後まで惹きつけられるページはなくあっさり読了。
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主人公の30歳女性派遣社員の大倉玉青(たまお)は、大手通信会社の受付で働いている。
大学時代は演劇サークルに所属し、バッグの中には常に愛読書の「走れメロス」を放り込んでいた。
その玉青が電車内で足を痛め、人の流れに踏み潰される事故で救急搬送された。
額に傷を負ったのだが、検査の結果はそれ以上の症状は見られずに1日だけの入院で済むことになった。
しかしその夜、トイレで用を足した後、部屋に戻ろうとしたのだが怪我した右足が全く動かない。
目の前のナースセンターには誰も居ない。
困った玉青は、ナースセンターの正面の病室に何とか入り込み、ナースコールで助けを呼んでもらおうと思った。
その病室のベッドから「たまお⋯、私は洋海(ひろみ)。私はあなたを知っている。シマイだから」と声を掛けられた。
「私はずっと寝たきりで、自由に体が動かない。玉青の体を⋯玉青の時間を少しだけ分けて」と懇願される。
「いいよ、この体で良ければ」と、玉青は不思議な気持ちながら了承する。
そして玉青と洋海は体を入れ替えた。
洋海が言葉にしたシマイの意味とは⋯
私の体に入った洋海は、果たして戻ってくるのか⋯
玉青がバッグに入れていた「走れメロス」の物語と重なる不思議な世界の物語だ。 -
女優であり作家としても活躍されている中江さん、本作もしみじみと良かった。
主人公は人材派遣会社に登録し、大手通信系企業の受付として働いている30歳の大倉玉青。
空虚な毎日を送っていた玉青の身にある日「入れ替わり」が起こってしまう。
現実には有りえない設定と相反して、玉青が抱える過去の秘密や、毎日をただ流されて過ごしている姿にとてつもなくリアルを感じる。
玉青の愛読書『走れメロス』のストーリーが要所要所に良いスパイスを利かせ、姉妹の心情と重なり物語に深みが出ていた。
切なさに溢れているが希望を感じるラストに救われる。
著者プロフィール
中江有里の作品





