持続可能な魂の利用 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
3.65
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120053061

作品紹介・あらすじ

この国から「おじさん」が消える――


会社に追いつめられ、無職になった30代の敬子。

男社会の闇を味わうも、心は裏腹に男が演出する女性アイドルにはまっていく。

新米ママ、同性愛者、会社員、多くの人が魂をすり減らす中、敬子は思いがけずこの国の“地獄”を変える“賭け”に挑むことにーー


女性アイドルに恋する三十女の熱情が、日本の絶望を粉砕!

著者初長篇にして最強レジスタンス小説。


和田彩花(アイドル)感激 

小さな叫びでこの世界のバランスは整えられる! 私は勇気をもらった。


幾原邦彦(アニメーション監督)仰天 

その革命が見える者は勇気を得られ、

見えぬふりを生きる者は吐き気を催すだろう。

あなたはどっちだ?

感想・レビュー・書評

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  • ある日突然、おじさんから少女たちが見えなくなるところから、この小説は始まる。

    何か不都合あるか?
    おじさんは考えてみる。
    確かに世の中から華やかさはなくなるだろう。
    でも制服とか好きではないし、AKBとかなんとか坂もどうでもいいから、僕は騒ぐことはないかな。
    お互いにまじわらない部分が多いから、見えなくなるのはありかもね。
    それでストレスが減るなら悪くない。

    そもそも、少女って何歳くらいまでを言うんですかね?

    なお、おじさんから少女たちが見えなく話は何故か冒頭だけで、その世界の続きは特に示されない。
    そこは、少し不満。


    この小説は、おじさん社会が、女性たちの魂をいかにすり減らさせているかを描いている。

    この小説のいうおじさんの特徴。

    ①おじさんに見た目は関係ないが、特に目つきや口もとや座り方で判別がつくことが多い。
    ②おじさんか否かは話はじめたらすぐ分かる。
    ③おじさんを隠そうとしてもどこかで化けの皮が剥がれる。しかし、おじさんはなぜか自分に自信を持っているのでおじさんを隠さないことが多い。
    ④年齢は関係ない。
    ⑤性別も関係ない。なぜなら、社会が女性にもおじさんになるよう推奨している。

    気をつけよう。
    気をつけても仕方がないのか。
    まあ、おじさんはなるべくおじさんであることを自覚して、人に迷惑をかけぬよう生きていくべきなんだろう。

    さて、この小説において、末期的となってしまった日本社会は最終的にはアイドルのxxに政権運営を委ねることになる。
    女性に政権運営をさせることは、方向性として非常に正しいと思う。おじさん社会の弊害が日本の至るところに露呈しているのは確かだからだ。
    まあ、日本の少子化の原因がこの小説で描かれているようなおじさん達の陰謀論の結果なんてわけはないけど。単に行き当たりばったりなだけで。
    おじさんも能力なくてジタバタしているだけなんだよ。

    ところでアイドルのxxは、どうも元欅坂46の平手友梨奈さんをモデルとしているらしい。
    香港で国家安全維持法(国安法)違反の容疑で逮捕された香港の民主活動家、周庭さん(23)が拘束中に欅坂46の「不協和音」という歌の歌詞がずっと頭の中に浮かんでいたと語っていた、というニュースをタイムリーに聞いた。

    なんか違和感だらけだが、認めなければならないのか?欅坂46。
    おじさんには全然わからないのだが。

    なお、著者ばマツダアオコさん。マツダセイコとは読まない。

  • モヤモヤと爽快がある。でもやっぱりモヤモヤが勝つかな。ノンフィクションなのか、いやもちろんフィクションなんだけれども、革命に参加した気持ち。

    いろんな意味で消費や値踏みされて、世の女性は魂をすり減らして生きてますわ…。つらいわ…。

    昨今の日本の政治をみてても、うんざりするおじさんばかりだから余計に。コロナへの無対策も計画だったのね…笑。

  • 『持続可能な魂の利用』読了。
    私がずっと感じていたアイドルに対する違和感と絶望的な日本の社会情勢を体現している小説でした。潔かった。
    読んでいくうちに、私の中でどんどん「レジスタンス」が湧き上がる。多分、これは私の生きづらさを作る原因に対する怒りだと思う。夢中になって読みました。
    誰しもが「おじさん」になりえる。私もその「おじさん」になってしまう前に声を出して自分の意思や主張を言うことが出来るだろうか。
    ここで腐って、どうせ変わらないんだからで、終わらせたくない。どうせ終わるなら終わる前に好きなようにさせてくれと叫びたくなった。
    私も生意気な女って自覚しているからなー、、凄く目ぇつけられることが度々あったんだけど。世間に蔓延るこの体質はいつからなんだろうな。すっごく嫌で私もどこかで諦めていたのかもしれない。考えるきっかけになったよね。
    些細なことでいい。声に出さなきゃ何も変わらないってことを知った。
    主人公として登場する敬子は最近やっているドラマ『最愛』に登場する橘しおりみたいな人なのかなと読みながら思った。
    『最愛』に登場する橘しおりは悲運な死に方をしたんだけど、彼女もどこか女性であることに絶望しているような眼差しをしていることがあった。なんとなく重なった。

    2021.12.13(1回目)

  • 「おじさん」から少女たちが見えなくなり、それをいいことに少女たちは「復讐」をし始め、とうとう死者がでたことにより少女たちは「おじさん」のいない「安全な場所」に隔離される……というワクワクするような導入から、突然現実社会のハラスメント告発文学になり、日本に暮らす女性ならなにかしら思い当たる「事例」が並び、そこへ遠い未来と思われる世界の少女たちから見た「現代日本」のリサーチと考察が挿入される。

    わたしは、あの「おじさん」のいなくなった世界の描写のほうに惹かれていたので、それを読めないことがわかった時点ですこし退屈に感じてしまった…しかしそれは、描写されてる女性が虐げられている社会について、わたしが嫌になるくらいすでに「知ってる」世界だったせいかもしれない。
    最後にまた仕掛けがあり、それは面白かった。テーマとしての「連帯」や「毎日がレジスタンス」はおおいに支持します。

  • もっともっと評価されて欲しい、たくさんの人の目に触れられて欲しい、この本がベストセラーになる世の中であって欲しい。不快に思う人も多いだろうけれど、それこそがこの本の存在理由。

  • 意地悪な書き方をすると、この本を読んでも本当に読めなかったひとたちが「おじさん」ということ。でもいっぱいいるんでしょ。だからこそ、この終わり方で本が終わることにわからないんでしょ。見えなくなったのは「おじさん」が居心地いい棺にしがみついているから。

    少女革命ウテナをもう一回見直したい。最終話を思い出して、わたしたちはウテナにもアンシーにもなり切れないけれど革命を起こしてやりたいね。

    至る所に散りばめられた小ネタとか、現実の問題出来事との交差であったり、面白かった。何より途中途中の追い出された少女たちの楽園がすごく良かった。

  • 彼女たちは「おじさん」の前で、何度も不快で、悔しくて、苦しくて、気持ちの悪い思いをしてきた。
    「おじさん」の、気持ち良くて、快くて、日頃の憤懣を幾分か晴らせる、そのことのために。

    でも、そんな分かり切った構図が不変に続けられているのは、声を挙げた彼女たちの裏側で、失笑やくだらない皮肉や暴言が相も変わらず聞こえるのは、「おじさん」の国に住んでいるからでしょう?

    毎日がレジスタンス。
    そうして突き上げた拳によって、この作品ははじまる。

    テーマ性が強くて、またこの作品に出て来る某アイドルグループの存在感も強すぎて、小説とのバランスが難しいなと思いながら、読んでいた。
    主題は違うけど、赤坂真理の匂いもした。

    このコロナ禍で、望まない妊娠率が上がっているというニュースの中、あるコメンテーターがポツリと言った「DVも増えているといいますからね……」

    私が耳にしたのは、その一回だけだったが、鳥肌が立ったことを覚えている。

    女性の管理職登用をと声高に言われながら、いざ登用された時に「誰に贔屓にしてもらったのか」とかいう、くだらない噂話が付き纏う。
    大体の場合、そう言っている側がその世界観の中でやってきただけだということに思い至らずに。

    立ち止まるきっかけにはなるかもしれない。
    拳をあげた彼女は、今、笑えているだろうか?

  • 「敬子が感じる危険を感じない相手に、敬子を守ることがはたして可能なのだろうか。」

    この本すごい。超おもしろい。
    ピンクのスタンガンっていくらするんだ、と思って調べたら7000〜1万3000円くらいでした。

    なぜ女性が負の感情を出すと、感情的だのヒステリーだの言われるの?

    昔っから積もり積もったモヤモヤを、
    社会に出てから肌にピシピシ感じる違和感を
    この本が全て言語化してくれた。
    そう、それ。私の感じてた違和感はこれ。
    この本を読んでいる間だけは、その違和感だらけの世の中から解放された気がした。
    色んなしがらみから解放された世界が、この本を読んでいる間は確かにあった。
    読み終わったら、またモクモク黒く煙たい空気が広がる現実に戻ってしまう…この感覚。不思議な感覚。


    年齢上のおじさんではなく、性質としての「おじさん」
    この感覚わかる。すっごい分かる。
    一目で分かることもあるし、話し方ではもっと分かりやすいし、「おじさん」であることを隠したがってるし、なぜか自分に自信を持っている。気持ち悪い。

    毎日がレジスタンス

    恐らく欅坂であろうアイドルのライブシーン、
    「グループのいびつさを、いびつなままに愛していた」って、実際に彼女たちと同じ時代を生きて
    あの感覚を共有したからこそ納得できる。

    女子中高生の制服がスカートで無ければいけない理由って何?ちゃんと考えると、そこに理由なんて無いはず。きちんとした服装で、毎日健やかに生活できて、穏やかに勉学に励めることが目的。そう考えると、ズボンでいいやん。
    私の母校の中高生一貫の女子校は、
    数年前から制服にズボンが加わった。
    すごく真っ当なことだと思った。
    先生と生徒の色恋話が尽きない学校だったけどね…


    「おじさん」は子どもを産めない。産む能力がない。
    女性は婚姻の際に自分の名字を失う。
    でも、それまで保有していた名字も厳密に言えば女性のものではない。
    女性には、女性だけの名字はない。

    私たちは武器を求めている。
    自分の生まれ育った名字も、ピンクのスタンガンと同じように自分の武器である。
    だから、夫婦別姓を求めて何が悪いのか。
    今日も「夫婦別姓では家族が崩壊する」なんてテレビで話してたけど、そんなことない。
    別姓が一般的になれば、ただそういう社会が来るだけ。

    現代の女子高生の間では、その武器が安全ピンである。(痴漢の手を刺すため)
    どうか、世の中の男性方には
    女性は常にあらゆるものから保身をしていることを知って欲しい。


    制服は、相手をナメていい、触っていい、という目印。ほんまそれ。
    私が高校の頃、同級生が下校中に通りがかりの男性から何か液体をかけられ、制服が溶ける…という事件があった。
    翌日、ただ学校内での注意喚起で終わった。新聞記事にもならなかった。

    私は新社会人になった時、ひと回りも違う上司の男性から酷いセクハラとパワハラを受けた。でも彼が機嫌が良いのであれば、それも我慢しなければいけないと思った。
    私の身の回りですら起きているから、
    世の中ではこのような事件が多々起こっていることを知って欲しい。

    殺しのバイエル習いたい、

    我らがヒーロー・セーラームーンのアニメのとある曲の歌詞を、秋元康が書いてるって知った時の絶望感ったらなかった。ここにもいるのかと。


    【勝手にキャスティング】
    敬子:戸田恵梨香 or 比嘉愛未
    xx:平手友梨奈
    香川歩:今泉唯

  • “性差”のゆがみを描く 松田青子の痛烈な「おじさん」批判小説 | ananニュース – マガジンハウス
    https://ananweb.jp/news/304822/

    松田青子さん『持続可能な魂の利用』 | 小説丸
    https://www.shosetsu-maru.com/interviews/141

    持続可能な魂の利用|単行本|中央公論新社
    https://www.chuko.co.jp/tanko/2020/05/005306.html

  • こんなにアイドル評として的を射た文章を目にしたことがない。今までのアイドル評も所詮消費するおじさんがしていたものだったのか。途中くすくす笑ってしまう。おじさん世界線が身につき過ぎてしまっている現実。息苦しい。分かっていても受け流してしまうことは罪なのか。

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著者プロフィール

作家、翻訳家。著書に、小説『スタッキング可能』『英子の森』(河出書房新社)、『おばちゃんたちのいるところ』(中央公論新社)など。2019年、『ワイルドフラワーの見えない一年』(河出書房新社)収録の短篇「女が死ぬ」がシャーリィ・ジャクスン賞候補に。訳書に、カレン・ラッセル『狼少女たちの聖ルーシー寮』『レモン畑の吸血鬼』、アメリア・グレイ『AM/PM』(いずれも河出書房新社)など。

「2020年 『彼女の体とその他の断片』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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