琉球切手を旅する-米軍施政下沖縄の二十七年 (単行本)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120056055

作品紹介・あらすじ

私の目を引いたのは、沖縄から届く封筒に貼られた美しい切手でした。
「琉球郵便」の文字、額面はセントで表示されている切手の図柄は多彩でした。見たことのない南国の植物、鮮やかな色をした魚、紅びん型がた紋様、琉球舞踊、文化財や工芸品……。いつも異なる図柄の切手だったので、手紙が届くとまっさきに確かめるようになりました。いきいきと描かれている動植物はとてもきれいで、友だちに「沖縄のお魚は青いの」と言っても信じてもらえなかったのですが。琉球舞踊の切手には県人会で見た演目が描かれていてうれしくなりました。
 ふだん目にする日本の切手とはまったく違うそれらの切手は「琉球切手」と呼ばれるもので、沖縄で作られているということでした。父が切手は国ごとに作られていると教えてくれたのですが、そうすると、沖縄は外国なのか、という疑問が起こります。父は琉球王国が沖縄県になった歴史や、戦争のあと米軍が治めていて沖縄だけの切手があること、ドルやセントが使われているのだと説明してくれるのですが、それを聞いても、沖縄が日本なのか外国なのか、私にはよくわかりません。米軍施政下に置かれたのち一九四八年七月から七二年四月まで、普通切手・記念切手・航空切手など二百五十九種(再刷含む)の琉球切手が発行されていたと知るのはのちのことです。

 ……………………

 琉球切手はいまも沖縄の家に多数残っているという話を耳にします。切手としては使えないけれど、手放したくないという人や、ブームのさなかに買い、売りそびれてしまったという人。どこかの家の古い箱に忘れられたまま、ひっそりと眠っている切手もあるでしょう。
 そんな琉球切手は、こんなふうにつぶやいているのかもしれません。沖縄が米軍施政下だったころ、私たちは「言葉」を運んで、旅をしたのだよ、と。
「Final Issue」の切手が発行されてから五十年。けれどいまも沖縄には米軍基地が広がり、米軍統治時代の終止符が打たれたとはいえない状況です。そんな沖縄からの「言葉」は、本土に届いているのでしょうか。

感想・レビュー・書評

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  • ノンフィクション作家・与那原恵さん 温かく豊かな沖縄: 日本経済新聞[有料会員限定]
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD081SI0Y2A201C2000000/

    琉球切手を旅する -与那原恵 著|単行本|中央公論新社
    https://www.chuko.co.jp/tanko/2022/12/005605.html

  • 米軍施政下に置かれた沖縄で1948年から、
    1972年の本土復帰まで発行された259種の琉球切手。
    琉球切手の旅をテーマに語る、本土復帰までの人々の歩み。
    第一章 琉球切手の旅へ  第二章 琉球切手誕生
    第三章 一九五〇年の沖縄
    第四章 文化財復興とペリー来琉百年
    第五章 コロニア・オキナワ、琉球芸能の復活
    第六章 島ぐるみ闘争とドル切り替え
    第七章 屋良朝苗と復帰運動の一体化
    第八章 オリンピックとベトナム戦争
    第九章 返還合意  第十章 琉球切手
    主要参考文献有り。

    日本から米軍施政下の沖縄に帰ることが、困難だった時代。
    沖縄から運ばれた「言葉」と貼られた琉球切手が、
    故郷との縁となっていた、家族の歩み。
    沖縄での、その親族の歩みは、戦後沖縄の歩み。更に、
    琉球切手に関わった人たち、原画を描いた画家たちの、歩み。
    それらは芸能と芸術の活動と文化財の復興の、歩みにも。
    米軍施政下の制約された生活から本土復帰までの道程の中には、
    B円からドルへの切り替えの混乱が切手にも及んでいたこと、
    記念切手発行の裏事情、切手の図柄への米側の圧力や不発行も。
    沖縄から各地に送られた琉球切手は、
    家族や親族のみならず、切手に関わった多くの人々の間をも、
    繋げて、本土復帰への歴史の変遷を旅していたように感じました。
    また、本土復帰までの道程も分かり易く書かれていました。
    琉球・沖縄の存在を示す図柄に籠められた、
    ウチナーンチュの想いも熱いものでした。
    但し、各章の扉の切手の画像がカラーでないのが残念。

  • シリーズ作の「美麗島まで」と対をなす沖縄にルーツを待つ著者の作品。
    「美麗島まで」が母方の医師であった祖父の人生を追いかける形でロシア、台湾、そして沖縄へと戦前・戦中・戦後と歴史に翻弄される中での沖縄の人々の営みが著者自らが現地に足を運び聞き取った詳細な証言とともに語られる。
    全く知らなかった、思いもかけなかった形での琉球とロシア、台湾との関わり、繋がりに心を打たれる。
    そして本作はまさに「戦後」の米軍統治下から「本土復帰」までの時代を「琉球切手」発行者たちの歴史と重ねて丁寧に聞き取り、膨大な資料から明らかにしていく過程は「琉球・沖縄の戦後史」そのもの。
    ここでもまた「台湾」と「琉球」の関わりが重要な役割を示す。
    今、「台湾有事」との関わりを念頭に置く、として先島に進められている自衛隊の駐屯は、決して「戦後」が終わっていないこと、台湾は琉球のすぐそばにある、ということを如実に示している。

    この2作品を通じて全く新しい視点での「琉球の歴史」を教わったような気がする。

  • 切手以外の話題が多いかなとは思うが、琉球切手に関する本はあまり見かけないので、とても興味深く読めた。

  • 693-Y
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  • 一九四八年〜七二年、米軍施政下に置かれた沖縄で発行され、遠く離れた地へ言葉を運んだ、二五九種の琉球切手をめぐる歴史エッセイ

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著者プロフィール

与那原恵
1958年東京都生まれ。96年、『諸君!』掲載のルポで編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞を受賞。2014年、『首里城への坂道――鎌倉芳太郎と近代沖縄の群像』で第2回河合隼雄学芸賞、第14回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。他の著書に、『美麗島まで』『サウス・トゥ・サウス』『まれびとたちの沖縄』『わたぶんぶん――わたしの「料理沖縄物語」』『帰る家もなく』『赤星鉄馬 消えた富豪』などがある。

「2022年 『琉球切手を旅する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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