中庭のオレンジ (単行本)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120056109

作品紹介・あらすじ

やすらぎのひとときに、心にあかりを灯す21話の物語。

◇オオカミの先生の〈ヴァンパイア〉退治
◇五番目のホリーに託されたスープの秘密
◇ギター弾きの少女の恋
◇5391番目の迷える羊
◇予言犬ジェラルドと花を運ぶ舟
◇遠い場所で響き合う夜の合奏
◇天使が見つけた常夜灯のぬくもり
……ほか

中公文庫既刊関連作を含む至福の掌篇小説集。
〈中公文庫創刊50周年記念刊行〉

感想・レビュー・書評

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  • 物語には終わりはない…吉田さんの紡ぐ物語はいつだってそう。そっと始まり、さぁここからどうなるのか、というところでプツンと切れる感じ。物語の余韻を引きずりながら、また別の物語へそっと誘われ、次から次へ物語の連鎖が続いていく。

    静まり返った夜、眠る前のほんの一時。おとぎ話のような不思議な空間にしばし迷い込む。

    いつ眠りから覚めるのか自分でも分からない「冬眠者」
    細やかな幸せを噛みしめる「5391番目の羊」
    持ち主に語りかける「しゃべる冷蔵庫」
    夜に響き合うロマンチックな「合奏」
    寝静まった夜に灯られる天使の「常夜灯」
    不可能と思われた「右手と左手の握手」の謎

    吉田さんの物語に出てくる素敵な造語とイラストに、今回も癒やしをもらえた。
    特に表紙のオレンジの木は今にも爽やかな香りがこちらまで漂ってくるようで、真っ暗闇をほのかに照らす灯火のようで、心が穏やかになった。
    素敵な夢の世界に誘ってくれるショートストーリー集。

  • 静かな中にも、こだわりの生き方を持っている主人公たち。短編にも吉田さんの世界がギュッと詰まっています。”あとがき”がいつも好きなんです。

    「ぼくは子供の頃、物語に答えをもとめたことはありませんでした。わけの分からないことが、いくつも書いてあり、きっと、大人になったら分かることなんだろうと思っていました。ただ、ひとつだけ分かっていたのは、物語はいつも途中から始まって、途中で終わるということです。本のページには終わりが来るけれど、物語はこのあともつづいていく—そう思っていました。」

  • スッと手に取ってしまう大きさに、表紙は暗闇の中のオレンジの木の絵。
    それだけで惹かれてしまう。
    読まないわけにはいかなくてページを捲ると…
    ショート・ストーリーが21話。

    表題作の「中庭のオレンジ」から始まり、中ほどに「オレンジの実る中庭」最後に「オレンジ・スピリッツの作り方」とこの3話が繋がっている。
    オレンジの中には物語があって、食べると語りかけてくるっていう…
    ただ、それだけではない奥深いものを感じたのは最終話。

    この夢を見させてくれるようなふんわりとした短いお話が、とても心地よい。

    「カウントシープ#5391」〜羊の気持ち
    「水色のリボン」〜アタシの右手
    この2話も好き。

  • オレンジ色の一冊。

    吉田さんの紡ぐ物語は夜が似合う。
    つくづく思う。

    昼間とさよならした夜の静寂に先ず耳を傾け、何も考えずにどこか遠くてどこか近い世界のおとぎ話をただ一遍ずつ味わう、それが極上のひととき。

    部屋の灯りが徐々に絞られていき、やがて常夜灯になる瞬間、眠りの入り口でチケットがきられる、そんな感覚が心地よい。

    それぞれの物語の"この後"をあれこれ想像しながら夢の世界へ。

    オレンジ色は昼はパワーを、夜は癒しをくれる気がする自分にとっては幸せ色。

    吉田さんがその色を物語に溶け込ませ言葉で癒してくれた作品。

  • うわはは……
    これは、今年イチの本かもしれない( ºロº)

    お話の内容、表現、装丁、作者のコメント、、、全てにおいて満点。

    本の重さ、厚さ、そして絶妙なタテヨコの大きさですら愛くるしい……手に取るだけで、ほわっとなる。

    大人のための絵本て感じです(内容が!挿絵は時々)。ショートショートみたいな、どこか夢の中で繰り広げられているやり取りを覗きつつ、でも、すごく大切な教訓を語ってくれているような気がする。

    でも、その大切な何かは、はっきりとは書かれてなくて、自分でかんがえて学び取る必要があるようです。(何かを掴めそうで掴みきれない……少しもどかしいですが)

    今後、何か新しい体験をしたり色々なモノや人と出会い、ふとした瞬間に、あぁ、こういうことだったのかなと、理解できるかもしれないという希望を持ちつつ、自分の中にしまっておきたいストーリーとなりました。

    11月は仕事が慌ただしく、過去に引き受けた業務納期が重なりに重なって……
    追い打ちをかけるように5年振りに熱を伴う風邪も患いつつの残業、部署の一大イベントの仕事、ボロボロでした。

    ゆっくりした時間もまともにとれずでしたが、
    この本は1章ごとがとっても短いので、寝る前に読むのにぴったりで。

    ほんの一瞬でも身体と心の緊張を和らげてくれた救世主です。

    あ、今自分弱ってんな、と感じている方には是非オススメしたい。

    • かなさん
      Kさん、お疲れ様です ^^) _旦~~
      大変な日々を過ごされていたんですね…
      この作品の表紙、何だかすごく惹かれますねぇ…!
      柑橘系っ...
      Kさん、お疲れ様です ^^) _旦~~
      大変な日々を過ごされていたんですね…
      この作品の表紙、何だかすごく惹かれますねぇ…!
      柑橘系って癒しのイメージがありますものね!!
      眠れないときにも
      オレンジの香りがいいって聞いたことがあります(*^^*)
      よい作品と出逢えてよかったですね♪
      2023/11/24
    • Kさん
      かなさんいつも暖かいコメントありがとうございます( ˃ ⌑ ˂ഃ )!
      表紙可愛いですよね〜、この本を読んでから他人のお家の庭先に植わってい...
      かなさんいつも暖かいコメントありがとうございます( ˃ ⌑ ˂ഃ )!
      表紙可愛いですよね〜、この本を読んでから他人のお家の庭先に植わっている柑橘系の木に意識を持っていかれるようになってしまいました笑11月って時期なのでしょうかね…?
      オレンジの香り睡眠にいいとは!アロマ試してみたくなりました(๑˃̵ᴗ˂̵)و
      2023/11/24
  • 寝る前に読む短編シリーズ。
    よくわからない、、で終わった話が何個かあった。けどあとがきを読むとそれも納得してしまう。

    ・物語はいつも途中から始まって途中で終わる。
    ・大人になって余計な知識がつくと何か答えや終わりを探してしまう。けどそんなものはなく、そこにあるのは理屈を超えた「たのしい」「ふしぎ」「こわい」「かなしい」である。

    その通りで、本をたくさん読むようになって、何かを得ようとしたり求めてしまって読んでる自分がいた。何かを求めるばかりではなく、ただなんとなくドキドキワクワクする気持ちになりたくて、たくさんの物語を読む、でいいんだよなと思わせてくれた。

    吉田さんの「あとがき」いつも感慨深いな、、、

  • 短編がたくさん。そのどれもがそれぞれの世界をもっていて、アドベントカレンダーのような(?)集められた小さな世界をのぞき込んでいるかのような本だった。

    特にお気に入りは3つ。

    ○「ミミズクの手紙」
    「町がかたちを失って」以降、本の売買や所有が禁止された世界で、手紙を書い集めては売ることを繰り返す男・ミミズク。
    (この「町がかたちを失う」という表現が、なんだか世界観を表しているようで好き)
    途中にあった「手紙が本の代わりになる」という考えも好き。

    「人が大切に取っておいたのは、人が人を恋する思いで、集めた手紙を読みふけるうち、自分もまた言葉を伝えたいとミミズクは意を決したのです」
    ミミズクは、バタつきパンの店のロースターに恋をして、彼女に手紙を書くことを決めるが、手紙を狙う盗賊が現れて・・・

    とても可愛らしい。内容や登場人物もまとまっていて読みやすかった。

    「書物が奪われて、言葉は箱に閉じ込められた。しかし、われわれには手紙がある。いつか、言葉は自らを解き放つだろう」


    ○「カウント・シープ♯5391」
    眠れない夜に「羊が一匹、羊が二匹・・・」と数える、あの羊たちの話。(!)
    しかも主役は5391匹目の羊。どうせ自分たちが数えてもらう前に夢の主は眠ってしまうか夜が明けてしまう。そうなると給金ももらえない、と嘆いている。
    めちゃめちゃ可愛いじゃないですか。
    そんなある日、5391番は7番の羊に出会って・・・

    「【柵越えタイプ】のカウンター」には笑った。


    「忙しく働いていることが喜びにつながることだってある。だから、退屈じゃない平和だってあるはずだ」


    ○「常夜灯が好きな天使の話」
    本当の天使は、命の源である青い光のかたまりを人間に配る任務があるが、見習いの天使は、まずは地上へおり立ち人間たちを観察して学ぶ必要がある。

    見習い天使のオンが見つけた挿絵家が描いた絵の中に、命の光にそっくりの青い光を見つける。
    「命を届けるのが自分たちの仕事ではあるけれど、人もまた、命のように青い光を放つものを、人から人へ届けている」

    夜、眠るときにも人間は光に頼っている。人間は光を大切にしているのである。
    天使のオンが夜に優しく光る常夜灯を眺めているのが目に浮かんでくるようで、これもまたあたたかい気持ちになった。


    「人間は天使から命を受け取り、そこから先は、自分たちの力でその光を保たなければならない。われわれ天使たちからすると、想像を絶する困難なことに見える」


    この3つも素敵なんだけど、図書館の中庭に植えられたオレンジの木(物語が生る木)の話がちょっとずつ合間に挟まっていて、それもいいなと思った。
    全体的にとてもあたたかい話。


    「あのとき彼は、「右手と左手は握手ができない」と言ったのです。でも、それは人と人が向き合い、ときに対立に転じる姿勢をとっているからなのだと気づきました。こうして、二人が同じところで同じ一本の木を見ながら並び立てばいいのです。」

  • #中庭のオレンジ #吉田篤弘 さん
    #読了

    かつて図書館があったその中庭には物語が生まれるオレンジの木があるという。
    ユニークで優しい気持ちに包まれる21編の大人の寓話、ショートショート。
    オレンジアロマの香りを漂わせ読みました。
    大好きな本がまた一冊増えました。
    何度でも繰り返し読みたい。

  • 少し不思議な雰囲気を持つ短編集。

    丁度よい長さで話が終わるので、飽きずにすらすら読めた。

    表題作の中庭のオレンジは戦時下、本を守るため図書館の中庭に本を埋め、そこにオレンジの種をまき、育ったオレンジの実には物語が宿るというお伽噺みたいなお話。素敵。

  • 中庭のオレンジに埋めた本から紡がれていくボリュームたっぷりな21話が優しく詰まった短編集。どの物語も素敵なんだけど、毎回あとがきが物語よりも素敵過ぎて読むのが楽しみ。物語に終わりはない、読了後も解釈をしたり、想像したりして終わらなくていいのだと改めて読書の楽しみに気づかされた。大人のための童話のような一冊。

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著者プロフィール

1962年、東京生まれ。小説を執筆しつつ、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作、装丁の仕事を続けている。2001年講談社出版文化賞・ブックデザイン賞受賞。『つむじ風食堂とぼく』『雲と鉛筆』 (いずれもちくまプリマー新書)、『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫)、『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『モナリザの背中』(中公文庫)など著書多数。

「2022年 『物語のあるところ 月舟町ダイアローグ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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