台湾漫遊鉄道のふたり (単行本)

  • 中央公論新社 (2023年4月20日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (300ページ) / ISBN・EAN: 9784120056529

作品紹介・あらすじ

\ 第75回全米図書賞・翻訳文学部門(Lin King訳)受賞!/
\ 第10回日本翻訳大賞受賞!/



炒米粉、魯肉飯、冬瓜茶……あなたとなら何十杯でも――。
結婚から逃げる日本人作家・千鶴子と、お仕着せの許婚をもつ台湾人通訳・千鶴。
ふたりは底知れぬ食欲と“秘めた傷”をお供に、昭和十三年、台湾縦貫鉄道の旅に出る。

「私はこの作品を過去の物語ではなく、現在こそ必要な物語として読んだ。
そして、ラストの仕掛けの巧妙さ。ああ、うまい。ただ甘いだけではない、苦みと切なさを伴う、極上の味わいだ。」
古内一絵さん大満足

1938年、五月の台湾。
作家・青山千鶴子は講演旅行に招かれ、台湾人通訳・王千鶴と出会う。
現地の食文化や歴史に通じるのみならず、料理の腕まで天才的な千鶴とともに、
台湾縦貫鉄道に乗りこみ、つぎつぎ台湾の味に魅了されていく。
しかし、いつまでも心の奥を見せない千鶴に、千鶴子は焦燥感を募らせる。
国家の争い、女性への抑圧、植民地をめぐる立場の差―――
あらゆる壁に阻まれ、傷つきながら、ふたりの旅はどこへ行く。

感想・レビュー・書評

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  • 1938年の台湾は日本の植民地だった。
    少壮の女性作家、青山千鶴子は講演会旅行を引き受ける代わりに、1年間の在台「台湾漫遊録」を書く計画する。通訳兼秘書として、王千鶴という二十歳にも満たない優秀な少女も就いた。作者命名「百合小説」が、開幕する。

    私には、友情以上恋愛未満の「相棒小説」に思えたが、そこは深掘りしない。主には、私が過去2回台湾周遊旅をした時のことを思い出し、新たな旅のヒントをたくさん貰ったことのアレコレを書きたいと思う。

    千鶴子の住み家は、台中の川端町ということになっている。駅から西へ、現在土産物屋で有名な宮原眼科を少し歩いた辺りのようだ。此処を拠点にして、台湾から甲子園出場を果たした嘉義高校で有名な嘉義、映画ロケ地で有名な彰化、台南、高雄、台北、基隆、淡水線終点の温泉地新北投駅、新竹と講演会旅行をしている。その度に、地方名産の台湾美食を、青山千鶴子は妖怪のように堪能したのである。

    私の回った所が5つもあった。作者は後書で当時の面影は現在ではない、とは言っているけれども、旅行者の視点に立てば、10年前の旅の色々を思い出すのに充分であった。彰化の抗日戦の舞台になった城跡。全ての町の中心に媽祖廟がある事、北投駅前の如何にも鄙びた温泉、懐かしいような商店街、等々。

    作者はしかし、食べ物は現在でもほぼ総て存在しているという。度々登場する駅弁は、台湾食文化の真髄だと私は思う。炒米粉(ビーフン炒め)とかが出ていたが、私は台中途中で食べた素食弁当(お揚げ煮つけを飯に載せたもの)が、今まで食べた総ての弁当で最高の味だった。彰化の小西街で求めた団子スープのボリュームと繊細な味、商店街で求めた食べきれない向日葵の種、千鶴が作ってくれた麺線、湯冬紛、煮大麺は屋台の至る所にある。台湾の咖哩3種類(鶏、蝦、魚)は賞味したいし、川端町から王千鶴の家の途中の大正橋(現在の民権緑橋)で、2人で食した氷蜜豆は、是非歩いて食してみたい。昔は大正橋の内側が街中だった事を知った。

    今回、地図アプリで現在の場所の特定を苦労しながら探した。まだまだ、歩き回れていない地域は幾つもあった。本小説の最後に、青山千鶴子は王千鶴の「能面」の秘密を見事を解いて見せる。それこそが、台湾が50年間日本の植民地だった事の証であり、しかもそれが、現代の若い書き手である楊双子氏の手によって書かれていることに、私はとっても興味深いものを感じたのである。

    • kuma0504さん
      まきさん、
      それでは付け足し。
      素食弁当がどのように美味しかったかというと、単にご飯に煮付けお揚げが載っているだけなんですが、お揚げ素材があ...
      まきさん、
      それでは付け足し。
      素食弁当がどのように美味しかったかというと、単にご飯に煮付けお揚げが載っているだけなんですが、お揚げ素材があまりにも旨いのと、おそらく煮付け汁が物凄かったんだと思います。台北の弁当ですが、朝からは売ってなくて、電車が出る前にならないと品出ししないので気をつけてください。
      台湾というと細かい角煮を載せた魯肉飯(ル―ローハン)が有名ですが、一応有名店を探して行ったのですが、弁当のかけ汁は其処のかけ汁に似ていたと思う。味もそうなんですが、匂いが違うんですよね。

      台湾では発音ができないので、あまり「優しい」という実感がないのですが、ノートに書いてバスの乗り降りを教えて貰っていたりしました。でも、それでも普通にいろんな所に行けたのだから、みんな優しかったのかな。
      2025/07/16
    • aoi-soraさん
      素晴らしいレビューとコメント欄を堪能致しました。
      実はこの本、私も読みました!
      台湾の土地や食べ物が沢山登場するので、多少は地図を見たり画像...
      素晴らしいレビューとコメント欄を堪能致しました。
      実はこの本、私も読みました!
      台湾の土地や食べ物が沢山登場するので、多少は地図を見たり画像検索しながら読みました。
      (どんな食べ物なのか、景色なのか気になって仕方ないので^^;)
      でも多すぎて調べたのはほんの僅かです。
      日本統治時代の事が知りたいと思っていたので、有意義な読書時間でした。

      きっとお粗末な感想になるでしょうが、近いうちにレビュー上げます(;´∀`)
      2025/07/17
    • kuma0504さん
      aoi-soraさん、
      台湾の漢字は難しいから、検索は難しかったでしょう。
      10年前までは、未だ値段的にも旅しやすかったのですが、現代はどう...
      aoi-soraさん、
      台湾の漢字は難しいから、検索は難しかったでしょう。
      10年前までは、未だ値段的にも旅しやすかったのですが、現代はどうなんだろう。
      韓国は、今やほぼ日本と同程度値段という感覚です。気軽にアジア旅行行けない時代になりました。
      レビュー楽しみにしています♪
      2025/07/17
  •  台湾人女性作家が描く、日本統治下の台湾を舞台にした食・旅・友情の小説です。時は1938年、女性作家と女性通訳を中心に物語が展開します。

     日本人作家・青山千鶴子は、とりわけ食に関心が強く奔放で、台湾の民俗風土を深く知るために1年間漫遊します。その千鶴子を支えるのが、4歳下の台湾人通訳の王千鶴。控えめで気遣いがあり、台湾の歴史や文化を熟知し料理の腕も確かでした。
     旅を重ねて千鶴子は、完璧なサポートをする千鶴に、対等な関係で友達になりたいと伝えますが…。
    
 台湾の文化や風習が、日本に変えられていった時代なんですね。台湾の近代化が進んだなどという発想は傲慢だし、統治者と非統治者、主従関係に無自覚なままの一方的な願望は失礼に当たるでしょう。
     親日国として知られる台湾ですが、著者の真意を垣間見る気がしました。単なる郷愁的で哀切あふれる運命の結末にせず、架空のふたりの娘のあとがきを載せ、心地よい余韻と救いを残してくれます。

 著者の「楊双子」は、楊若慈・若暉(双子の姉妹)の共同筆名で、妹の若暉が(30歳で)逝去後も同名で創作を続けているそう。
     当時の複雑な台湾の時代背景の活写、対極にあるふたりの描き方、明と暗のバランス、物語の構造的な試みなど、見事な物語でした。

    • NO Book & Coffee  NO LIFEさん
      aoi-soraさん、こんばんは♪
      これ、何気にいろんな要素が詰まっていてよかった
      です。百合小説とか謳ってますが、そうでもないです。
      大量...
      aoi-soraさん、こんばんは♪
      これ、何気にいろんな要素が詰まっていてよかった
      です。百合小説とか謳ってますが、そうでもないです。
      大量のグルメと、やはり2国間の複雑な関係でしょう
      ね…。台湾人作家の日本人作家視点が新鮮でした(^^)
      2025/03/21
    • aoi-soraさん
      大量のグルメ!
      これはそそられますね(๑´ڡ`๑)
      大量のグルメ!
      これはそそられますね(๑´ڡ`๑)
      2025/03/21
    • NO Book & Coffee  NO LIFEさん
      私にはさっぱり分かりませんが、好きな人には
      たまらないし、現地で食べ歩きたくなるかも…
      私は頑張っても行けない自信があります٩( ᐛ )و笑
      私にはさっぱり分かりませんが、好きな人には
      たまらないし、現地で食べ歩きたくなるかも…
      私は頑張っても行けない自信があります٩( ᐛ )و笑
      2025/03/21
  • 本書には、ギミックがあり、それを知らなければ面白く読める。もちろんギミックが面白いと感じればであるが。そして、もちろんギミックを知っていても十分に面白いので安心して読んでほしい。

    さて本作は、日本統治下の台湾を舞台に、作家の青山千鶴子と通訳の王 千鶴が美食を求めて鉄道旅をするという話である。随所に食の話がちりばめられており、食べたくなることこの上なしである。

    この2人、とにかく大食漢であり腹の中に妖怪を住ませている。ページをめくるたびに出てくる食、食、食のオンパレードが楽しい。

    また歴史という面でみると、日本統治下という状況を扱った仕事である。統治された側の視点が入っているのは、非常に興味深い。

    何も考えずに読めば最初から日本語で書かれた本だと思うのではないか、というほど翻訳が素晴らしい。とても楽しい読書であった。

  • 物語の舞台は1938〜39年にかけての台湾

    日本人作家・青山千鶴子と台湾人通訳・王千鶴の
    二人が、台湾中を鉄道で巡り、美食を堪能する。

    この二人、特に青山は〝大食いの妖怪〟
    と表現されているだけあって、まぁよく食べること!
    日本人向けに味付けされたものには興味がなく、あくまでも現地、本島人が食べているものと同じ食事を好む。
    行く先々で登場する魅力的な食べ物たち!
    時には通訳の千鶴が調理する場面もある。

    本当にどれも美味しそうで、食いしん坊の私は序盤こそ画像検索をし、いつか食べたいとメモをとっていた。
    が、あまりにも多すぎてすぐに諦めた(;^ω^)


    私は食にはもちろん興味があるけど、この本を読みたいと思ったのは、日本統治時代の台湾をもっと知りたかったから。
    日本人作家を主人公にした作品を、台湾人の作家がどんなふうに描くのかな、と。


    青山千鶴子は、通訳だけにとどまらず旅のコーディネートまで完璧にこなす千鶴を大好きになり、「私たち友達になりましょう」と、はしゃいでいる。

    「私たち、親友よね?」と、事あるごとに口にする青山だが、千鶴はどういうわけか常に〝仮面〟を被っているようだ。

    ──なぜ?

    青山にはどうしても分からない。

    更に千鶴は「青山さんが態度を変えなければ通訳を辞めなければならない」と言い出す。

    この物語はずっと青山の「なぜ?」が根底にあると思う。

    内地人の青山千鶴子
    本島人の王千鶴
    どうしたって、ふたりの関係は植民者と非植民者なのだ。

    それを表す文章に
    ──内地人と本島人の間に、平等な友情は成立しないのです
    ──この世界で、独りよがりな善意ほど、はた迷惑なものはございません

    とある。


    旅や食を満喫しながら時代背景を知ることができ、充実した読書時間だった。

  • おお、今年のベスト本が更新されました!図書館で借りましたが、これは手元に置きたくなったので。前情報を入れずに読んで良かった。皆さんもよろしかったら読んでみてください。今を生きる我々にこそ読んで考えて欲しい小説です。

    • ゆうこさん
      伊奈さん、こんにちは。
      伊奈さんのレビューを見て、読んでみました~。
      読んで良かったです。

      私からも言いたい。
      皆さんもよろしかったら読ん...
      伊奈さん、こんにちは。
      伊奈さんのレビューを見て、読んでみました~。
      読んで良かったです。

      私からも言いたい。
      皆さんもよろしかったら読んでみてください!
      2024/11/18
  • 一大事。全然小説を読めていない。本棚の偏りを防がなくては…!

    しかしフィクションとなると、いつもレビューの書き方に悩まされる。
    面白かったはずなのに、読後脳内には感想のカケラも残っていない。(これは最大の謎!) 重大なシーンに触れたりしたら、ネタバレになりかねない。
    そんなこんなで、トライアンドエラーを繰り返しながらキーボードを叩いていました…。

    時は昭和13年。
    流行作家の青山千鶴子(以下、千鶴子さん)は、ベストセラー本の講演で台湾に招聘される。そこで本島人(台湾人のことを指す)通訳の千鶴(以下、千鶴ちゃん)と運命の出会いを果たし、講演旅行の傍らで千鶴ちゃんとの台湾食巡りを決行していく。
    台湾グルメに加え、東西の言い回し(漢詩や西洋文学など)を交えた、教養高き2人の会話も見ものである。

    「住み慣れた場所を離れて別の土地で暮らして、この世に生きる新鮮な感覚を取り戻すの」

    千鶴子さんが台湾で過ごした1年を12章でまとめた構成。各章のタイトルはキーポイントとなる料理名になっている。
    これは大食いの青山千鶴子女史じゃなくてもお腹空きますって。。画像はない分料理の解説・調理工程が詳細に記されているから、ガイドブックとセットで持っておきたい!(現代でも味わえる料理を取り扱っているのが嬉しい)

    九州女児 千鶴子さんの、千鶴ちゃん自身に対する押しが強く、図々しいのでは?と思うことも正直あった。(千鶴子さんのモデルが林芙美子だと、あとがきで知って大いに納得。あの豪胆さは相通じすぎている笑)
    「千鶴ちゃんと本当の友達になって、一緒に台湾を食べ尽くしたい」
    千鶴子さんの不器用ながらもまっすぐな好奇心は、シンプルに大好きな台湾や千鶴ちゃんのことをもっと知りたいという想いの表れなのだろう。おかげで物語のキーが次々と明らかになったが、付かず離れず人間の自分はあそこまで踏み込む勇気はないなーと、どうしても思ってしまう^^;

    千鶴子さんは2人の関係を「ワルツを踊っているよう」と例えていたが、それを大柄な千鶴子さんと華奢な千鶴ちゃんに当てはめると、まさに少女歌劇(当時の呼び方に合わせてみた笑)そのものである。
    どんなに千鶴子さんがリードしても本心を明かしてくれず、するりとかわしてしまう千鶴ちゃん。微かなすれ違いを見せながらも、2人を繋いだのはやはり料理だった。

    日本の占領下にあった植民地が舞台ではあるが、目に余るような悲惨な光景がなくて少し安堵していた。でもそれは、大切な内地人(日本人のこと)客として厚遇されている千鶴子さん目線だったから。
    日本によって淘汰され、馴染みの風景が消えていくのは死ぬほど辛い出来事だろう。窮屈な思いも数えきれないくらいに味わったことだろう。

    自分は大学の卒業旅行で一度訪台しているが、関わった老若男女が皆親日であったこと、そして美味しい料理に感動していた。
    あの時の自分も本当のことはちゃんと見えていなかったのかもしれない。しかしあの時育んだ出会いと美味しい記憶は、千鶴子さん同様真っ先に信じていたい。

  •  本書の原書『臺灣漫遊録』は、「戦前の台湾を旅した日本人作家・青山千鶴子の長らく絶版となっていた自伝的小説を、楊双子が発掘し、新たに中文に訳した作品」として当初は宣伝された。「あとがき」までも作り物なのだ。

     舞台は、日中戦争が激しさを増した昭和十三年。結婚させられそうになった作家・青山千鶴子は、当時は日本植民地だった台湾に旅立った。そして通訳となった王千鶴と台湾縦貫鉄道で旅に出る。台湾各地の美食を味わいながら。

     本書は、訳者あとがきによると、「美食✕鉄道✕百合」小説だそうだ。「美食」と「鉄道」はそのまんまだ。「百合」については、女同士の友情のことだ。青山千鶴子は王千鶴と友人になりたいと考えるが、(大日本)帝国の内地人の千鶴子と、(大陸から移り住んだ)本島人の千鶴の立場には違いがある。支配する側とされる側で、決して対等の立場ではないのだ。歴史を考えさせられる作品。

  • ポットキャスト<翻訳文学試食会>で取り上げられた本。

    「まえがき」は、作家の青山千鶴子が昭和13年に台湾を旅行した記録『台湾漫遊記』出版に寄せている。

    昭和13年(1938年)、作家の青山千鶴子は映画化成功のため、日本統治下の台湾に講演
    旅行に招かれる。

    女の役割は家庭を守り子供を産むこととされる世の中で、青山千鶴子は「女にしては」見上げる大女、妖怪のような大食漢、物事をはっきり言って、好き嫌いもはっきりしている。
    「国家総力戦」だの「南進政策」だの「帝国宣揚」だの「台湾への皇民化政策」は愚行!ましてや男性権力社会なんかに絶対に従わない!
    台湾旅行だって、内地(統治国である日本本土)観光客向けのお仕着せじゃだめ!本島(台湾島)の人と同じものを食べて、同じ景色を見て、現地の人が参拝する神社に行かなければ、生きるための旅って言えないじゃない!

    そんな青山千鶴子のために、新しい通訳として王千鶴が現れた。
    王千鶴は、日本語は完璧、博識で、特に台湾の歴史・民族集落の分布・食べ物、地方ごとの言語・宗教…まあとにかくすべてを知り、料理もうまく、品位があり、気遣いも完璧…、…、…以下思いつく褒め言葉すべて並べといてください。
    更に王千鶴はその気になれば「お腹に妖怪を飼っている」と言われる青山千鶴子にも負けないくらいの大食漢にもなれる。

    青山千鶴子は俄然張り切った!「二人で台湾を食べつくしましょう!そして私達、雇い人と雇われた上下関係ではなく、対等な友達になりましょう!」

    青山千鶴子の台湾滞在を満喫した。しかし王千鶴はどうも「仮面」を被っているようだ。完璧な笑顔、優しさ、自分を褒める言葉。でも自分に対して拒絶も承諾もしないような一線引いた態度。友達にはなってくれない。
    青山千鶴子はますます王千鶴の不思議さに惹かれてゆくのだった。

    ===

    物語の作りがなかなか凝っています。
    本当の作者は台湾の双子作家「楊双子」で(妹さんは若くして死去…)、この本の初版が台湾では2020年、日本では2024年という現代の作家です。
    つまり、日本人作家青山千鶴子が昭和29年に書いたということになっている「まえがき」も、青山千鶴子の一人称による昭和13年の旅行も、すべて創作です。

    現代の台湾作家が80年近く前の日本人女性の一人称小説を書いたわけで、たしかに(翻訳の問題かもしれませんが)昭和13年にしては現代の人の語りだもんなあ…。私には、小説本文一行目が「待って。これはなんということ?」で始まったことで、この語り口調は合わないなあと思った(-_-;) いきなり「待って」で始まるのって現代SNSの話し方みたいで、親しい人とかならともかく、初対面の小説の主人公にいきなり言われたら「知らないよ(・・;」という気分。

    さらに青山千鶴子の描き方もなあ。彼女は昭和13年にしては自立した変わり者女性扱いです。しかし一見傍若無人な性格の裏には、厳しい幼少期を乗り越えたこと、本音と建前はきっちり分けられて礼儀正しいこと、人情に厚く人を理解したい!優しくしたい!という気持ちも見えます。
    でもね、本文の青山千鶴子の一人称口調が、慌てた時に「あややや」だの、言い返せなくて「うぐぐぐ」だの、これって日本現代の漫画とかアニメでのお約束表現ですよね。おそらく表面的には「まえがき」のようにちゃんとした文章を書き、でも本音では「ぁいぃぃぃぃぃ」というあけっぴろげさな女性ですよ、という書き分けなのかもしれないけど、すみませんが小説で書かれると目に引っかかって内容に集中できない(-_-;)
    さらに読んでいて気になったのは、青山千鶴子のいう「自由!」は他人に迷惑をかけるものであったり、「女性の権利!」といいつつ自分以外の女性には「女の立場」を求めている感じだし、終盤で指摘された彼女の思い上がりは読んでいても思いっきり感じた。それをやられた側である台湾の女性作家が、やった側である日本人女性の一人称で書いているため、千鶴子の思い上がりが透けて見えちゃうんだろうなあ。
    それを面と向かって指摘されて、一歩進もうと思う青山千鶴子はのタフさはすごいし、私のようにインドア出不精でそもそもスタートラインに立ってさえいない私が言えることではないんですけどね…。

    さて。
    小説内では、台湾の風土とか歴史とかが語られ語られていくので、台湾ってどんなところなのか、日本統治によって何を失ったのか、それでも持ち続けた矜持もあります。主人公青山千鶴子が旅行好きの大食漢のため、特に食べ物描写の多い多い多い・笑

    小説では、植民地になるということは文化を根こそぎにされるということであり、当治国である日本人が「平等!」といいながらも「自分たちが台湾のレベルを上げた!」という思い上がりが現れます。
    無意識の差別だとか上から目線の優しさ、相手のことを考えない関係って、植民地の時代に限らず、いつでも誰でも持っているものですよね…。

    そして個人的にはお互いを思っても、やっぱり時代や立場によってどうしても平等な友達にはなれないという現実も。
    でもお互いを思う今の気持ちは本物だよ、ということも示されます。そしてその表現として「百合小説」的な表現を使っているので、不慣れな読者はちょっと集中できなかった(^_^;)

  • 日本占領時代の台湾が舞台。日本人作家・千鶴子と台湾人通訳・千鶴の間に友情が成立するのかどうかのお話。第1章に入るまでの導入の部分にピンと来ず、読み初めには時間がかかってしまったけれども、本編に入ると千鶴の本心を知りたい一心で一気読みしました。
    日本人から台湾人への差別、原住民族への差別、家族内での差別について考えさせられます。天真爛漫で食べることが大好きな千鶴子。でも、私も人に親切になりたい、他文化を理解したい、と思った時に千鶴子のようなところがあるので、恥ずかしいような気持ちになりました。

    気が利いて分をわきまえる千鶴に芯の強いところを感じ、これでいいのだ、と感動的に終わったのですが、最後は、あれ、あれれれ、でした。この本の最大の是非ですね。私はちょっとやりすぎなような気がします。

    数々の台湾の食べ物が書かれていて、どれも美味しそう。漢字が読めるから食べ物の想像がつきやすい。ああ、漢字が共通ってなんと便利なことなんでしょう。2024年全米図書賞 翻訳部門にノミネートされているようです。受賞したらいいなぁ、と思います。

    • 伊奈さん
      ゆうこさん、読んでくださってありがとうございます!そうです、とても良い本ですよね。アメリカの賞にノミネートというのも納得の出来です。自分はた...
      ゆうこさん、読んでくださってありがとうございます!そうです、とても良い本ですよね。アメリカの賞にノミネートというのも納得の出来です。自分はたまたま図書館で借りちゃいましたが、文庫が出たら必ず買うと思います。
      2024/11/18
    • ゆうこさん
      伊奈さん、コメントありがとうございます。
      レビューで書いていらっしゃった『今年のベスト本更新』のとおりの本でした!
      伊奈さんの推しがなかった...
      伊奈さん、コメントありがとうございます。
      レビューで書いていらっしゃった『今年のベスト本更新』のとおりの本でした!
      伊奈さんの推しがなかったら読んでいなかったと思います。
      こちらこそありがとうございますです(^o^)
      2024/11/19
  • 日本統治下の台湾を舞台にした「美食×鉄道×百合」小説。(美食が大半を占めているように思う)

    講演旅行に招かれた作家青山さんは、現地で通訳の千鶴ちゃんと出会う。台中を拠点に、講演活動や旅行やで鉄道旅に出かける2人。段々打ち解けていくかと思いきや、むしろ心の距離は開いていく⁈

    時は戦前だけど、作家さんが現代の方だからなのか、あえてそうしたのか、文体からは時代を感じるようなことはなく、現代の読者向けな感じ。

    各章に食べ物の名前がついてるだけあって、知らない料理がどんどん出くる。調べながら読んでいたけど、あまりに沢山でてくるから1章で諦めストーリーに集中。最初は楽しそうな旅だな〜なんて気楽に読んでいたら、青山さんと千鶴ちゃんの"友情"が変化していくにつれて、ギスギスキリキリした不快感が強くなってくる。
    本書の構成、紛らわしくて台湾で炎上騒ぎになったそう。千鶴ちゃんのあとがきがあるのは余韻に浸れて良かったと思う。

    読み終わって感じたのは、立場の違いはやっぱり友情や愛情で簡単に解決できるものではないのね、ということ。でも友情や愛情も完全に無力ではないとも同時に感じた。異国や他人のことを都合よく解釈しないよう、広い視野を持ちたいと思った。

    甘いだけじゃなく、酸っぱくて、ほろ苦いお話でした。

    千鶴ちゃんの言葉p.200
    「私は果たして石なのか、玉なのか、自分ではわかりません。私にわかるのはただ、土人参には土人参の尊厳があるということです」

  • 友好の印象が強い台湾。震災のときの多額の寄付・救護支援、ただただ甘受するだけになっていたかもしれません。前半にでてきた千鶴子と千鶴が役割交代して日本巡り旅行記第2弾は、「いいじゃん、楽しそう」って普通に思ってしまいました。相手が望んでいるものと合致してこその御返しですものね。

    『私は思わず立ち上がり、大声で宣言した。「いっしょに台湾を食べ尽くしましょう!」千鶴は驚いた顔をしたが、すぐににっこり笑ってうなずいた。』
    どこから2人がすれ違っちゃったのかなって読み返すけど、もうそれぞれの立場含めて最初からなのかもしれない。でもこの2人じゃないと見れない景色も、食べられない美味しいものも、あったんだよ!!出会いには礼節を持って、感謝です( ;∀;)

    先月読み終わったのに、思うように感想が書けなかった1冊。時々、この2人のこと思い出していろいろ猛省したい。

    2024.11

  • 1938年5月からの1年間、日本の統治下にある台湾が物語の舞台だ。
    日本人(内地人)の小説家・青山千鶴子は台湾に長期滞在して「台湾漫遊録」を執筆する。旅に同行するのは台湾人(本島人)通訳の王千鶴。
    台中を拠点にして北は基隆から南は高雄まで、台湾縦貫鉄道に乗って、底なしの胃袋を持つふたりが旅とグルメを堪能する。

    千鶴子は日本人向けに味つけされた料理を嫌う。現地の人が味わうものを、そのままの形で食べようとする。
    高級なグルメだけでなく、お菓子や瓜の種まで、食べられるものなら何でも受けつける。
    かつてギャムラア(生しじみの醤油漬け)を食べた日本人が食あたりで病院送りになったと聞いてもひるまない。

    全編を通して旅小説やグルメ小説として楽しめるが、それと同時にふたりの関係性について書かれた小説でもある。
    タイミング的には日中戦争が始まり、皇民化政策が強化されている時代だ。国語(日本語)の教育が行われ、天皇崇拝や国家神道も押しつけられている。
    旅を繰り返す中で、少しずつ距離を縮めていくようにみえる千鶴子と千鶴の間にも、やがて「対等とは何か?」という問いが突きつけられる。

    それはさりげない形で示される。
    たとえば民族について。
    千鶴子「千鶴さんはどの民族なの?」
    千鶴「今上天皇は一視同仁、我々は等しく天皇の赤子にして、種族を分かたず海の内外はすべて一家に……」
    千鶴子「ごめんなさい! 私が間違っていました。もう訊きません」
    あるいは桜について。
    千鶴子「内地の桜を、本島の土地に無理やり植えるのは、やっぱり横暴よね」「帝国のやり方は強引でとっても不愉快だけど、でも美しい桜に罪はないわよね」
    統治する側とされる側という上下関係を忘れ、無邪気に「友達になりたい」と千鶴子は言う。

    1度や2度なら無自覚にそういう発言をされても許容できるかもしれないが、それが3度、4度と繰り返されるとやがて受け流せなくなる。千鶴の顔が度々「能面」のようになる。
    この小説では、ふたりの交流を通してジワジワと読者に気づかせていく。
    最初のうちは自分も「あれっ」と引っかかるだけだったが、やがて千鶴子に対してもどかしさを感じるようになった。

    小説の終盤には、ミステリーの謎解きのような面白さもある。
    通訳の王千鶴はまだ若いのに博学多才だ。
    複数の言語を話せて、本島各地の地理や風俗、歴史にも精通している。読書家で、計算や事務、掃除、料理も得意だ。西洋料理のテーブルマナーもそつなくこなす。
    「妾室の娘」だと聞いていたのに、どこでそれらを身につけたのか。千鶴子は探ろうとするが、千鶴は口を割らない。

    個人的に印象に残った脇役が3人いる。
    ひとりは台中市役所職員の美島だ。
    台中で生まれ育った美島は、本島(台湾)に故郷の情を抱いている。台湾での滞在期間が残り1ヶ月と迫った千鶴子に、彼は大きな気づきを与えてくれる。
    ほかには台南高等女学校の生徒である大澤麗子と陳雀微も、登場する場面こそ少ないものの、外せない脇役だと思う。
    大澤が内地籍で陳が本島籍と立場が違うが、ふたりは親友だ。
    千鶴子たちは、大澤と陳のふるまいを見て、送り手側が一方的に与える「保護」や受け手側が求めていない「保護」について考えることになる。

    料理の中で気になったのは「菜尾湯」と呼ばれる〆のスープだ。この小説で初めて知った。
    菜尾湯とはコース料理の食べ残しを集めて作る煮込み料理らしい。これを作るための給仕の仕事として「ある品ではまだ料理が少し残る皿をさりげなく下げる」「一種の技芸の域」という描写があった。
    自分の人生の中で、現地で台湾料理のフルコースを食べる機会があるとは思えないが、どのような形で完成するのか気になった。

    小説の最後には、千鶴子と千鶴の物語とは別の仕掛けが加えられている。
    あとがきを読むと、台湾版と日本版では少し構成が異なるようだ。台湾版の方では、本当に青山千鶴子という作家がいて、『台湾漫遊録』も実際に刊行されたと勘違いする読者が続出したらしい。ネット上では、いわゆる「炎上」状態にもなったようだ。

    この小説では、国と国との上下関係(支配関係)が個人の関係に影響を及ぼす様子が描かれているが、スケールを小さくして、自分に寄せて読んでみてもいいかもしれない。
    たとえば日常生活の中には、さまざまな上下関係がある。学校では先輩と後輩の関係、職場では上司と部下などの関係がある。
    そうした間柄の中で、上の人が無自覚に「対等な関係」とか「無礼講」といった言葉を口にしてしまうことがある。
    かつて自分も、上から言われたその言葉を真に受けてしまい、痛い思いをしたことがある。その反対に、下の立場の人から王千鶴のような「能面」対応をされたこともある。

    ほかの文学作品の中にも、国や民族、宗教の影響によって、気の合うふたりの仲が疎遠になったり引き裂かれたりするものは多い。
    青山千鶴子と王千鶴がもし別の時代に出会っていたら……。読み終えたあとにそう思う読者も多いのではないか。

  • 異国情緒ある表紙絵がステキです。

    1939年台湾にて、作家青山千鶴子と通訳の王千鶴は出会います。2人とも鉄道での講演旅行で、食べるわ食べるわ。台湾グルメ満載!肩のこらない親しみやすい文章で、セリフが多くどんどん読めてしまいます。ここが作家さんの狙いなんだろうなあ。

    千鶴子さん、千鶴さんと仕事の関係性を超えて本当のお友達になりたいがために、グイグイ質問攻め。さらりとかわす千鶴さん。おもしろい。

    食べるときもグイグイいくし、質問もグイグイの千鶴子さん。だから、読者の私も千鶴さんの境遇、当時の台湾の様子が分かるのですが。

    中盤ぐらいから、このままいってこの2人、大丈夫?と思ってしまいました。グイグイ系質問攻めの圧迫感と、溢れるばかりの食べ物に、“ちょっと勘弁してください”という気持ちになってしまいました。

    日本統治下の台湾です。支配する側とされる側、この隔たり。最後の結末で考えさせられます。

    2025年10月3日(金)の朝日新聞に、楊双子さんの記事がありました。彼女の日本への興味の始まりは、日本漫画と歴史教育だそうです。1984年生まれの楊さんは、学校で「日本は敵である」との考えを植えつけられてきたとのこと。以下、新聞記事より

    「でも漫画で読む日本の日常は親しみやすく、日本は敵という概念と相いれなかった。心の中の複雑で納得できない感情を分析したいと思い、大学時代に日本語を勉強し始めたのです」

    このような作家さんがいてくださること、日本人のひとりとして、とても有り難く、嬉しく思います。

    台湾料理、知りたいと思いました。この本を読んで良かったです。

    • koba-book2011さん
      くにちゃん様、ご感想愉しみました!確かに食物の描写はちょっと過多でしたね(笑)。こちらも多分、そのあたりは飛ばし気味に読んだ気もします(笑)...
      くにちゃん様、ご感想愉しみました!確かに食物の描写はちょっと過多でしたね(笑)。こちらも多分、そのあたりは飛ばし気味に読んだ気もします(笑)。朝日新聞の記事、気が付きませんでした!興味深いですね!
      2025/10/09
    • くにちゃんさん
      レビュー読んでくださり、またコメントも、ありがとうございました!

      簡単に作れそうな台湾料理本見つけたので、挑戦しようかなと思ってます(家族...
      レビュー読んでくださり、またコメントも、ありがとうございました!

      簡単に作れそうな台湾料理本見つけたので、挑戦しようかなと思ってます(家族から、余計なことすんな!って言われるかも)
      2025/10/09

  • 感動した。面白かった。
    構成含めすごく練られていて、新しい読書体験だった。

    読みながら「この本は翻訳小説だよな…?なのに日本人小説家視点の紀行文になっているのは何故…?実際にある歴史や事物を描いているように感じるけどノンフィクション…?」と頭の中が混乱する。だけど、それこそが本作品の醍醐味であり、最後に全てすっきりする。

    日本人作家である青山千鶴子が講演旅行のため台湾に招かれ、そこで台湾人通訳の王千鶴と出会う。1年間を台湾で過ごしながら、台湾の四季を感じて旅をし、未知の食文化や歴史、風景に触れる。

    日本統治下の台湾について、自分は何の知識もなく小説の中で初めて知ることばかりだった。読んでいてすごく台湾に行きたくなった。台湾での鉄道旅を私も体験したい。
    ただし、作品の中に出てくる鉄道や建築、自然などの風景は、ほとんどが過去に実際にあったものの今は失われてしまっているという。

    本作品の主人公の青山千鶴子は、品格高尚で、善良で優しく、通訳である王千鶴を心から気にかけている。一方で、わがままで自分勝手で独善的な、自らの足で大事な人を踏みつけにしていることに気づきもしない大バカ者である。青山千鶴子のこういった欠点は、私も持っている大きな欠点だと感じ、王千鶴や美島の言葉がすごく自分に刺さって苦しかった。

    この本はもっと多くの日本人に読まれて欲しいと思った。
    また、この本の原作が台湾で発行され、台湾人からも高い評価を受けていることを少し意外に感じた。現代の台湾の方々がこの本を読んでどういう感想を抱いているのか、主人公の青山千鶴子に対してどんな印象を持ったか、日本人に対してどのような感情を持っているのかを知りたいと思った。

  • 全米図書賞(翻訳部門)、日本翻訳大賞受賞。日本統治下の台湾が舞台。台湾から招待されやってきた日本人女性作家(青山)と台湾人女性通訳(千鶴)のお話。ジャンルとしては「美食×鉄道旅×百合」とのこと。
    美食を通じてお話が展開するけれども、読んでいる側としては千鶴が青山に対して被っているお面の向こう側が知りたくてページをめくるという感じだった。

    この小説のひとつの重要な要素として統治している側(日本)と統治される側(台湾)の関係性だ。わたしたちは虐げられた人たちの声を聞こうとしていない、今に至るまで。それはSNSやネットを見れば嫌と言うほど見かける光景だと思う。この小説を通じて千鶴の思いをフィクションとはいえ台湾人作家によって書かれたものを読めたのは勉強になりました。

    最後千鶴が「旧友との約束」と言ったとき、とても温かい気持ちになった。

  • 序盤は妖怪並みの食欲に共感し笑いながら読んでいたが、何故千鶴ちゃんが頑なに一線を引いているのか理由を知って、無自覚は怖いなと思った。良かれと思ってやっていることは決して相手にとって良いこととは限らないと肝に銘じました。

  • 舞台は日本植民地時代の台湾。
    講演会のため台湾に滞在する作家の千鶴子と、通訳として彼女の身の回りの世話をする千鶴。2人の女性が共に過ごした日々が丁寧に描かれた小説。

    物語の導入や後書きがノンフィクションのように描かれているため、一瞬、小説だという事を忘れてしまいました!物語に入り込む仕掛けとして新鮮で面白い。

    登場する多彩な台湾料理は、どれも美味しそうで、どんな料理か想像するだけで楽しい。
    鉄道で巡る行き先での旅の風景を、実際に見てみたいという気持ちに駆られました。

    2人の繊細な心境の変化が丁寧に描かれ、中盤から後半にかけての展開にグッと引き込まれました。2人の距離がなかなか縮まらない理由に気づかなかったことで、千鶴子と同じような傲慢さが自分にあると気づき反省させられました。

    情景が浮かぶようなとても美しいラストが心に残る作品です。

  • 台湾の「美味しいもの、歴史、鉄道、百合」な小説。
    台湾が日本の植民統治下になっている時代が舞台。

    台湾の食べ物がいっぱい出てくる。
    行ったことがないので想像がつかないけど美味しそうな気がする。

    後半の心の内側を告白する場面で胸が苦しくなった。
    無意識の傲慢。一緒にいても実はわかりあえていない関係。どこにでもありそうでヒリヒリする。

  • 昭和12年、作家の千鶴子は赴いた台湾で通訳の千鶴に出会う。千鶴から教わる知らなかった台湾、知らなかった食、そして知らなかった自分の本当の姿。
    ---------------
    台湾を舞台にした百合小説、という触れ込みだったので気軽に読んだのですが、これがなかなかの噛みごたえでした。
    以前台湾を旅行する際に、いまだに統治時代の日式建築がたくさん残っていること、その下に埋もれたもの、を意識して街を歩きたいと思っていました。しかし実際に行ってしまうと旅行に浮かれてあまりそうした重い側面について考えられなかったのです。この本ではそうした側面をしっかりと刻みつける意図が感じられて、単なるお気楽百合ものとは一線を画す重量感を感じさせてくれました。
    一方で二人の関係にどきどきしながら読んでは最後に大変に胸の痛い思いをさせられるので、歴史の重さと娯楽としての人間の描写というものを深く描きつつ、高いバランスでまとめあげていて、本当によくできた小説だな、と思いました。大変に良い読書体験でした。
    わりと読みやすいし、結局百合なので話としては多くの人が楽しめる本だと思います。ひとつ台湾に旅行に行く人は必ず事前に読むようにすると、ただの親日のおいしいものがある台湾という国のイメージや風景が少しは違って見えるのではないでしょうか。日本人の旅行者には少なからずこうした視点は必須だと思います。

  • 祝!翻訳大賞ノミネート。すばらしかった。読めて良かった。本当に。
    読んでいて感じたこと、思ったこと、悩んだこと、悲しかった、嬉しかったことはすべて、あとがきにかかれていた。盛大に頷きながら…答えの出せないことだということも。だからこそ、小説が書かれるのだということも。本当に素晴らしい方々だ。"台灣漫遊錄"のあとがき、日本版あとがき、翻訳者あとがき…さいごまで、本当にすばらしかった。

    ここからは自分語りで 大学時代、教授にくっついて観光学を学んだり、学会に出たりした時期がある。観光やら、万博やら、の歴史なんかを学んだりもして、なんて、なんて傲慢な、植民地主義的な行動なのだろう…!と、嫌悪感を感じたりもした。民俗学と、民族学、社会学なんか、いろいろ知ったかぶって、民俗学的に、知るんだ見るんだ…と。青い,青い…(照)そうして色々試行錯誤した、でも結果、"お客さん"でしかなかった自分。その後開き直って中央アジアや台湾へ旅行もしたが、やはり自分は"旅行者"でしかなくて。それにもどかしさや、さみしさや、言葉を覚えられない自分への苛立ちや…千鶴さんと、千鶴子さんと旅することで、あの時感じたような、自分の、理解っていなさ、のようなものと、あたらめて対峙した。そしてその自分をなんだか、ぎゅっと抱きしめたくなった。

    でもなんで、たべものの名前がずらずら、並んでいるだけでお腹がすくのだろう?それもそのはず…池波正太郎大先生を参考にしたとか。なるほど、うまい。彼の食のエッセイが好きすぎて、学生時代、読み漁ったことも、思い出した。ぐうぐう。小説は一編しか読んだことがないのに…エッセイはほぼ、読んだ。なんでだろう?

    そうして、懲りずに、また旅に出たくなった。
    絶対に、台湾へ行き、食べます。鹽酥雞を!

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著者プロフィール

台湾の小説家であり、大衆文学とサブカルチャーの研究者。「楊双子」は双子の姉妹「楊若慈」と「楊若暉」の共同ペンネーム。これまでの出版作品は撈月之人』『花開時節』『花開少女華麗島』『臺灣漫遊錄』及びアンソロジー『華麗島軼聞:鍵』。

「2022年 『綺譚花物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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