ジャンヌ・ダルク: 愛国心と信仰 (中公新書 138)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (187ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121001382

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  • ジャンヌ・ダルク――その名は誰もが知るが、百年うち続く英仏の争いを、神のお告げに依拠してみずから軍を率いて、大きな旗を持ち軍隊を従える馬上の少女は、神秘に満ちている。日本を含め、中世社会において女性が、まして少女が軍事行動の先頭に立ち、大きな軍隊を勝利に導いた例は他になく、にわかには信じがたい。
    こうしたイメージから、長らくジャンヌは自分にとって、漠然と聖なる少女だった。彼女の神聖性は佐藤賢一『傭兵ピエール』などでも詳しいが、物語の結末とは異なり、ジャンヌは異端審問によって火刑に処されてしまう。本書を読み、物語ではない「その事実」を知って、わかりきっていたこととはいえ愕然とした。火刑の判決理由はいくつかあるが、ジャンヌが「女」であるにもかかわらず「男装」をしたことがそれに含まれる。今やファッションをリードするフランスも、中世はこうしたカトリックの厳しい戒律に抗えない社会だったことを知った。
    一応宗教らしきものはあるものの、玉石混交の宗教を受け入れることをためらわない日本人にはとうてい理解し難い。結婚は神社でも教会でもよく、葬式は寺(仏教)、しかしクリスマスも大いに楽しむ我々は、当時のフランスにいたらあまねく斬首ものである。
    かくして、一地方の百姓娘に生を享けた少女は、神のお告げを聞き、オルレアンを開放し、英雄と祀り上げられる。しかし戦況が好転したとたん、男装しカトリックを脅かす異端者として、理不尽な裁きの場に引き出されるのである。
    男装した理由は、神のお告げにしたがって、自らの純潔を守るためだったという。女装したとたん、女性の貞操は危機にさらされる時代だったのだ。慰安婦がもとでもめている国々もあるように、戦時ともなれば、風紀は乱れ弱者たる女性は容易にその犠牲者となってしまうのかもしれない。『傭兵ピエール』でもそういった記述はあった。
    だが神の声にしたがい、あえて戒律に反してまで男装し、おのが貞操を守り抜いてオルレアンを、そしてフランスを勝利に導いた「英雄」を、手のひらを返して異端扱いし、あまつさえ火刑に処して死に至らしめるカトリックの「神」は、私の目には大いなる矛盾を抱えた存在に見えてしまう。

  • 丸顔でがっちりした体格のジャンヌダルクが描かれる。
    数あるキリスト教国のうち、なぜフランスが宣託により守られるべきものだったのか。ナショナリズムの萌芽を見ることができる。

  • (1998.03.13読了)(1998.03.07購入)
    愛国心と信仰

    ☆関連図書(既読)
    「犯罪と刑罰」ベッカリーア著・風早八十二訳、岩波文庫、1938.11.01

  • ブクログ登録日以前の読了の為レビュー無しです
    ※興味グラフ表示させる為に入力してあります

  • 久々のブックオフ100円コーナーでフランスの歴史の勉強のため即買い。ジャンヌダルク寺院・処刑場跡も海外ツアーで見に行ったので、なおさらだったので。
    諸説に踊らされざるを得ない歴史家が書いたのではなく文学者が書いただけあって読みやすい。
    イギリス・ブルゴーニュ諸侯の連合に対抗するため、北部のロワール地方、ノルマンディ地方が主戦場であったにもかかわらず、ノートルダム寺院に、ジャンヌダルクを祭った祭壇があるのは、単純な愛国心の象徴からなのかと思っていた。
    しかし、この著作を読んでフランス人の聖女への贖罪の気持ちがわかった気にさせる。

    独断と偏見でいうと
    ジャンヌダルクは、日本史の人物に、置き換えると源義経に何か共通感を感じる。
    戦術の天才ではあったが、せっかくの勝利を無にするぐらいの政治家としての能力の無さっぷりが。
    中世の雰囲気〈刑罰の残虐さも〉、100年戦争の入門編としては良書

  • 4121001389 187p 1996・3・10 38版

  • ジャンヌ・ダルクの生涯の記述。百年戦争の時代背景と、彼女の生涯について知りたいという向きに。

  •  ジャンヌ・ダルクの生涯について、変な主観や説を入れることなく、わかっていることだけを客観的に淡々と記述しているので、入門書として安心感がある。まずこれを読んで基礎を押さえ、山ほどあるジャンヌ本を読んでいくのが良いのでは。

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著者プロフィール

評論家。筑波大学名誉教授。1929年生。東京大学大学院文学研究科仏語仏文学専攻〔59年〕博士課程修了。94年没。大学院在学中から文芸評論家として活躍。58年には遠藤周作らと『批評』を創刊する。ナチズムに対する関心から、61年アイヒマン裁判傍聴のためイスラエルへ赴く。62年にはアルジェリア独立戦争に従軍取材。立教大学教授などを務めたのち、74年筑波大学教授。著書に『アルジェリア戦争従軍記』『死の日本文学史』『評伝アンドレ・マルロオ』『帝王後醍醐 「中世」の光と影』『三島由紀夫の世界』など。

「2018年 『新版 ナチズムとユダヤ人 アイヒマンの人間像』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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