- Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121004765
感想・レビュー・書評
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著者は「江戸」をふたつの意味で捉えている。それは徳川家が幕府を置き、現在に至るまで日本の経済や政治の中心となっている、都市としての「江戸」。もうひとつは、「江戸時代」と呼ばれるような、幕藩体制が敷かれ、明治維新までを区切りとした、同時代としての「江戸」だ。この本を読んでいると、話題がこの二種類の「江戸」を何度も往復し、ある時は都市としての江戸、ある時はそれと同時代の、別の藩を指していることがわかる。だから内容もまとまりがあるとは思えなかった。確かに開発史や民衆文化の開花として江戸を捉えるのは面白いが、こうした欠点で内容ひとつひとつの価値を総内定に下げてしまっている気がする。どちらかに絞れば面白い本になっていたかもしれないし、実際得られる知識は興味深く、わかりやすい文章で、非常にためにはなったが、一冊の本としては不十分な出来だと感じた。
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大河ドラマや小説など、江戸時代に関わる物語は数多くあるが、本書を読んでおけば理解も深まるのではないかと思う。今放送中の「晴天を衝け」にピッタリでした。
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小説やドラマにえがかれた江戸時代のイメージとは異なる歴史的事実を、わかりやすく説明している本です。
著者は、江戸時代は本当の意味で庶民の歴史がはじまった時代であると述べています。近年の江戸ブームのなかで出版された本のように庶民の生活を具体的な例をとおしてえがき出すといった試みはおこなわれていませんが、一般の読者にもわかりやすいことばで江戸時代の実態について説明がなされています。
本書の「はじめに」で、「高校とか大学で概説を学ぶときに、その副読本的なものとして本書を利用していただければ幸いである」と述べられており、やや古い本ではあるものの、高校の日本史に飽き足らない若い読者に向けて書かれた概説書としておもしろく読むことができる本だと感じました。 -
OS1b
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・明治以前に行われた主要な用水土木工事は、江戸時代初頭の77年間に行われたものが35%を占める。これによって、耕地面積は室町中期の3倍になった。しかし、急速な開発によって全国各地で洪水が頻発したため、1666年には諸国山川掟を出して開発を抑制し、すでにある田畑を管理して収穫を増やす政策に移行した。
・1680年から30年間に多くの農書が書かれたが、その中の農業全書は集約的栽培による商業的農業の推進に力を入れており、自給的農業からの転換が進んだ。木綿、菜種・蝋、煙草、絹などの特産物栽培的農業が元禄から享保期に開花した。特産物農業に必要だった速効性肥料として、イワシを干してつくった干鰯が利用された。 -
大石慎三郎著『江戸時代』。中央公論社の新書版にして、よく読まれた一書かとおもう。
江戸時代の概説書ではあるが、時代の軸になるテーマをすえて概観しようとする点が、すこぶる意欲的で、好感をよせられてきたのかも知れない。
「世界史に取り込まれた日本」は、金銀輸出を軸に中国・ヨーロッパとの位置を見る。
「大開発の時代とその終焉」は水路・新田開発の増産時代の次に「小農自立」、農業技術書、洪水多発で「農政大転換」を説く。
「構築された社会」は身分制の定着と城下町、「江戸の成立」は「屎尿と塵芥の問題」で循環型社会のシステムを説明。
「絹と黄金」は徳川家の娘の衣装から京都文化の構造を見る。
「分水嶺の時代」「顔の社会」は、年貢徴収システムの揺らぎ=年貢収納率低下を示しつつ、「役職と家格」という支配の枠組みを提示。
「近世から明治維新」。東日本と西日本の農村構造にある寄生地主化の進展度を描き出す。、
江戸時代は、庶民の細部が見えてくる時代。他方で欧米、中・朝との交渉も具体化。
アジアでは列強による植民地化がすすむ時代に、近代を迎えた我が国の「基盤」がなんであったのを示しているように、思えるのだが。 -
なんとなく、以前から江戸時代の文化全般についてもっとよく知りたいと思っていた。歴史学的興味よりは、民俗学的興味。
しかし、改めて何か読み始めてみようと思っても、どれを選んだらよいかわからなくて、書店の店頭で見つけた、そのものずばりのタイトルをもつこの新書を買った。
著者がまえがきで書いているように、網羅的に江戸時代全体を記述するのでなく、いくつかの観点にしぼっている。しかし、1977年の著書であり、どうも古い。
水田の開発、城下町の建設、生糸づくりの始まるまで、金銀の資源、身分をめぐる制度とその変遷、などなどについて主に書かれていて、ちょっと吉原や岡場所などについても触れられている。
まあ、新書というものはどうしても内容が薄いし、昔学校で習ったなつかしい刀狩・身分統制令や武家諸法度などについて再学習(確認)することができた点、これから江戸文化をめぐる本を読んでいくとっかかりの本としては、こんなもんかなと思った。