- Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121005618
感想・レビュー・書評
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西郷隆盛、板垣退助、江藤新平らが下野し、大久保利通に権力が集中するきっかけとなった明治六年政変を分析した新書。1979年の刊行。「旧士族の不満を解消するために西郷が征韓論を企てた」という通説を批判するとともに、汚職まみれの長州閥と彼らを追及する江藤との対立や岩倉使節団失敗の巻き返しを図りたい大久保など、明治政府内部の派閥対立に焦点を当てて、西郷らの下野までの過程が詳細に描かれている。江藤を中心とする司法省の活動が法治主義・人権擁護として高く評価されるのが印象的。本書で描かれた西郷の平和志向性については、近年の研究では否定されることが多いようだが、今でも読み継がれているのが納得の面白さ。
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なんか、江藤上げ大久保下げが激しくて感じ悪い(笑)
筆者が結構感情的なような気がして個人的には★2つ。自分が大久保贔屓なので補正を入れて★+1 -
西郷隆盛は不平士族を率いて西南戦争を起こした。そのきっかけとなったのが明治六年政変と呼ばれる明治政府内の大量辞職だ。
政府内で2年にわたる欧米訪問を終えたばかりの岩倉使節団と留守政府組が対朝鮮政策や士族身分の解体をめぐって対立。岩倉具視や大久保利通らの陰険な策に怒った西郷隆盛や江藤新平らが政府を離れた。
というのが歴史の通説だが、著者は様々な文献よりこの政変の意外な真実を明らかにする。西郷は武力による朝鮮侵攻を望んではいなかったし、士族の利益代表者でもなかった。大久保は西郷にも岩倉にも距離を置き、隠居のような状態で、いいように利用されてしまった。政府側が本当に排斥したかったのは江藤新平だった。
などの見事な歴史推理。ただ、あまりに詳細に当時の志士たちのドラマチックな行動、心情を浮かび上がらせているので、どこまで信じるべきか。そうした不明確な点があるからこそ、いろいろと考えさせられる読み応えが本書にはある。 -
昭和54年(1979)年に出た本の初版だから、ずいぶん昔に買ったことになる。それを40年後に読んだ。これこそ積ん読だ。気になって買って、いつも目につくところに置いてあったのも不思議だ。今回読んだのはNHKの「せごどん」を見たからで、西郷隆盛の征韓論の真実がこの本には書かれていると思ったからである。一般的に、西郷は不平武士の不満をそらすため、無礼を働く朝鮮を征伐しようと提案し、欧米から帰ってきた、内政優先派の岩倉、大久保等と衝突、破れて下野し、後に西南戦争を起こしたと言われているが、実際、西郷は朝鮮との国交を誠意をもってやろうとしたのであって、西郷自身が殺されるのを口実に朝鮮を攻撃せよといったわけでもなかったという。ただ、西郷はそのような手紙を書いているが、それは朝鮮に対する主戦派の板垣にだけ書いた手紙にでてきており、実は板垣を派遣賛成派に取り込むための手段だったという。むしろ、西郷を下野に追い込み、板垣、江藤らも続いて辞職させたのは、汚職等々の私利を肥やそうとして司法省に追い詰められていた山県有朋、井上馨等の陰謀で、西郷はじめ江藤等がやめたことで、司法省が半ば骨抜きになり、長州を中心とする勢力が息を吹き返した。そういう事件なのだという。毛利さんは、資料を丹念に読み、その紙背に隠された真実を読み取ろうとした。たいしたものである。日本文明史では画期的とされる遣欧米使節にしても、いわば物見遊山で、条約解消はできず、内部で分裂も起こし、帰国時は挫折感でひしがれていたという。明治6年の政変は、かれらを復活させたという意味ももつのである。
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明治六年の政変の通説を解体し、ありうべき経過を構築しています。
明治六年における廟堂分裂の通説は、征韓論をめぐって積極派の留守居組と慎重派の外遊組の間で意見対立があり、敗北した留守居組が失脚、下野したというものです。本書はそれに反論します。使節団は大久保と木戸の関係に代表されるように外遊先で空中分解していて一枚岩ではなかったし、留守居組にいたっては征韓を主張していたわけでなく西郷を中心に朝鮮との国交正常化を企図していたことが論証されています。本書では廟堂が分裂した原因を、政治的影響力を維持したい大久保の意思に見ています。直前まで大久保は参議の職を辞退していたため見えにくい原因かもしれませんが、他の参議の誰でもない自分こそが新政府を創ってきた自負があったでしょうし、その後の内務卿としての強権ぶり等から十分説得力を持つでしょう。
本書のスタンスは読み物として面白さを追求している面があるのでしょうか。人物の善玉悪玉を明確に著しています。江藤新平は頭は硬いが清廉な人柄、伊藤博文は権謀術数を尽くす策略家。三条や岩倉は公家らしく優柔不断な日和見主義者。個人的には朝鮮に派遣した西郷ら使節が欠礼や事件などがおきて、極東アジアを巻き込む騒動になることを危惧するのは当然だと思うのですが。朝鮮が清の冊封を受けていることは国内でも強く意識されていたはずです。人物がだいぶデフォルメされているので、読み手にとって本書の好き嫌いが分かれるところかもしれません。
ただ、山県有朋と大隈重信の評価はどこにいっても変わらないんですね。 -
15/12/29、神保町・澤口書店で購入(古本)
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従来言われてきた征韓論の通説は如何に史実の基づかないかが理解できる著作である。
江藤新平、西郷隆盛が参議を辞さず、明治政府のとどまっておれば後の日本の歴史はまったく違った方向に進んだであろう。
すばらしいテクノクラートであった江藤の惨殺は日本近世の歴史のまったくの汚点である。