死刑囚の記録 (中公新書 (565))

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121005656

感想・レビュー・書評

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  • 1980年刊。著者は医師(精神科)・作家。


     死刑囚(下級審で死刑判決を受けた未決拘留者を含む)。一般の人がその存在を意識上に上げるのは、例えば死刑判決が大々的に報道されたとき、あるいは死刑が執行されたときくらいであり、彼らがどのような生活や感情を有して死刑の執行までに至ったのか。その拘置所での生の姿はどんなものか。
     これらが多くの人に知られる機会は殆どない。

     本書は、東京拘置所で精神科の医官を務め、心理面・精神面でのケアー・相談を求める死刑囚の診察・問診を行っていた著者の体験的見聞録である。


     そもそも内容それ自体が、滅多にないテーマを扱ったものとして貴重。しかも著者が現実に現認した人々だけを対象としているという意味で、顕著な具体性という意味でも類書を見ない。さらに精神科医という特殊性も本書の意義を高めていよう。


     元より死刑囚といえども、確定者と未決者。上級審で争い、確定後も争っている者と上級審での審理をせずに済ました者。冤罪の可能性が高い者など多様性がある上、死刑囚の性格・気質面、行動面、犯した犯罪への向き合い方で違いがある。
     逆に被害者側(多くは被害者の遺族)と雖も、性格・気質・被害者との関係性、行動面など違いがある。

     他方で、精神科医とは、医療従事者の中で、対象者の個別性をより考慮しなければならないこともあってか、本書での目線は類例化よりも、対象者の個別性を意を払っている。それは凶悪犯罪者のラベリングを越え、壊そうとしているかのようだ。
     その上で、死を間近に控えた人物の持つ心の裡を個別的に描き出そうとしている。

     昨今、被害者側の感情を一義的かつ単純に捉え、その個別具体性を念頭に置かないまま、正義感を殊更振りかざすノンフィクションが散見される。
     大体、被害者の感情を正確に表現することは勿論、正確に理解することすら難しい。結局は叙述者において、犯罪被害者や遺族が被った当該具体的な被害経験を血肉に落とせないまま、叙述者自身の感情をそのままぶつけた筆致でしかないことも多く、それは叙述者の傲慢さを垣間見せるものでもある。

     ところが、本書はそういう正義感とは無縁である。
     結果、この点が本書に伏在する醒めた視線と叙述に繋がっているのかもしれない。

     その中でも、死刑囚に見受けられる心情、異様にも見える陽気さに隠された闇・恐怖感。宗教への逃避(庇護を求める心であろうが)。
     突発的に生じる激情と暴発。かような暴発の結果、独居房入りという懲罰やさらに身体拘束を受けることで、恐怖感や孤独感、見捨てられ感がますます亢進していく。

     そんな具体的模様が本書を印象に残る著書としているのは間違いない。

  • 刑務所内で医師として働いていた筆者の当時の体験をもとに書かれた死刑囚の心理についての考察。仕事柄成し得た様々な死刑囚達との高頻度な交流を通して、その心のうちが精神科医である筆者の鋭い視点によって整然と暴かれていく。死刑囚を知る上での貴重な一冊。

  • ■死刑囚が犯罪に至った経緯を、生い立ちを含めて生々しく聞き取ったドキュメント…ではなく、死刑囚の精神状態をちょっと突き放すくらいの距離感で淡々と観察するレポートです。ですが、初期は若さ?ゆえなのか、まだ突き放しきれてない感じ。嘘で固めて世界を構築しちゃってる死刑囚にまんまと呑み込まれて、それに気づいて憮然としてる記述は、ちょっと面白い。
    ■著者は最後に死刑に反対だと、さらっと結論づけています。私は死刑反対論者ではないのですが、読み終えて、ちょっと心が動きました。死刑囚は、みんな自分が犯した罪や傷つけた人と対峙はしてない。心穏やかに死んでいく死刑囚すら。ある者は突然圧縮された生に怯え、ある者はその密度に胸を締め付けられ、でもみんな向かい合ってるのも語るのも「自分」。
    死刑を告げるのって、こういうことをさせたいんだっけ?という疑問は生まれました。あと、「恥ずべき死」を与える、っていうフレーズにも重くのしかかります。
    ■凝縮された生を急に突きつけられて、壊れていく様子には、描写が淡々としているのが余計に寒々しくて、ぶるっと来ました。しかもそれがいつまで続くかわからない。逆に弛緩した生を受けるしかない無期刑も。
    今のところ反対も賛成もきっぱりとした答えは出せないのですが、この本を読んで、死刑という「罰」の実態を垣間見ることができてよかった、と思います。

  • 色々考えさせられる本。

    死刑制度の是非や問題点は死刑制度の死刑囚のものの考え方や、拘禁反応については、全く想像できないものであったので興味深かった。おそらく、筆者でなければ描けないものだと思う。

    あとがきで、筆者が敢えて死刑囚の生活のみを描き、死刑制度の是非や問題点はには本文では触れなかった旨が書いてある。

    その上で、最後にあっさり死刑制度は廃止すべきとの結論がアッサリと提示されているが、多少の違和感を感じる。身近に死刑囚と接した筆者にとっては素直な結論なんだろうが、抜けている視点として、遺族感情があると思う。

    残念なことだが、時折、信じがたいものすごく残虐な事件ごおきることもある。加害者が死刑になったからといって被害者の感情が収まるものではないだろうが、死を持って償うしかない犯罪も有るように思う。死刑の適応を厳格にすればいいのではないだろうか。

  • 精神科医でもあった著者と死刑囚との精神分析の記録。記録自体は古い内容のものであるので今の死刑囚がどのような環境で生活をしているかわからないけど、たぶん死刑を宣告された人間の精神面というのは普遍的に変わらないだろう。事件について残酷な描写も多いし、精神的に異常をきたした死刑囚の記述はなんとも胸糞悪くなるのもあるけど、改心してキリスト教信仰の道に残された命をささげた正田昭死刑囚との話はとてもよかった。死刑廃止論とかにも通じるのでいろいろ死刑とか囚人とかまったく関係のない一般人こそ読む必要があると思う。

  • ドストエフスキーのような世界。

  • 興味深い。

  • まあ当たり前の話なんだけど、死刑囚にもいろいろいるなあ、と。
    「自分のウソを自分で信じ込んでしまう」というのは、精神の防衛機能としてなるほどと思わされる。これは死刑囚じゃなくても、一部のジャーナリストとか「一般人」にも当てはまりそうだな。

    あとがきの「死刑が残酷なのは、“殺すから”ではない」という旨の主張は納得感がある。
    でもだから死刑廃止、てのはねえ。
    しかもその大きな根拠の一つとして
    「死刑囚100数十人にインタビューしたが、ほとんどが犯行時に死刑のことを考えていなかった」
    から死刑に抑止力がない、としているけど、違うでしょ。
    抑止力を調べたいなら、「殺そうとしたけど死刑を考えて実行しなかった」人が何人いるかを調べなきゃいけないでしょ(現実には無理そうだけど)。

    と、なんか最後にこけちゃうような論があったのが残念。

  • 精神科医から見た死刑囚、無期囚の記録。わかりやすく興味深く読めましたが、死刑囚たちの言動にやはりイライラさせられました。とても面白い本ですが、もやもやが残ります。

  • 死刑囚たちの記録。精神科医という目線から分析している。様々な人がいる。

    獄中で後精神疾患にかかる囚人は多いようです。死刑が宣告された後、殺したことを認めてしまうと、よりどころがなくなる。そんな中では精神が心が自分を守るために、刑を逃れるためについていた嘘も本当にあったことと錯覚してしまう。囚人は自分はやっていないと本当に思っている。なんて人もいるようです。心というものは自己防衛機能を備えているんですね。そうしないと精神がもたないようです。

    僕は直接は知らないですが印象に残ったのは三鷹事件の竹内さん。冤罪ではないのかと疑ってしまいます。もしそんなことで捕まって、死刑を宣告され、上告も破棄されてしまったら…やりきれないでしょう。家族も本当に辛いでしょうね。

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著者プロフィール

加賀 乙彦(かが おとひこ)
1929年、東京都生まれ。東京大学医学部卒業後、精神科医として勤務のかたわら、小説の執筆を始める。『フランドルの冬』で芸術選奨文部大臣新人賞、『帰らざる夏』で谷崎潤一郎賞、『宣告』で日本文学大賞、『湿原』で大佛次郎賞、自伝的小説『永遠の都』で芸術選奨文部大臣賞、自伝的大河小説『雲の都』で毎日出版文化賞特別賞を受賞している。その他の著書に、『錨のない船』『不幸な国の幸福論』など多数ある。
近年は、殉教者を描く歴史小説『ザビエルとその弟子』、ペトロ岐部の生涯を描いた『殉教者』などを発表。

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