遊牧の世界 上 (中公新書)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本
  • / ISBN・EAN: 9784121006837

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  • (2016.07.17読了)(1999.10.02購入)
    副題「トルコ系遊牧民ユルックの民族誌から」
    この本は最初、中公新書で出版され、その後中公文庫になり、今は平凡社ライブラリーに入っているようです。
    トルコ共和国の遊牧民ユルックと生活を共にして、調査した記録です。遊牧生活を共にした期間は、1979年8月中旬から翌年の8月中旬までということです。
    一年の間に、冬営地、夏営地、秋営地と移動しながら遊牧生活をおくっており、移動距離は通算450キロメートル、標高差は約2000メートルです。
    飼っている家畜は、山羊か羊が主ですが、牛やラクダ、馬、ロバというのも少数います。
    ラクダ、馬、ロバは、移動の時に人や荷物を運ぶために使われます。けがをした山羊の子供をロバに乗せて運んだりもしています。
    生き物相手の仕事で、遊牧なので、毎日朝からどこへ連れてゆくかを決めて、先頭と後ろには、人がついて群れから外れるものがないように監視しながら移動し、夕方には、戻って搾乳をしたり柵の中に入れたりということになります。オオカミの犠牲になったりもするようなので、オオカミの用心もしないといけません。
    雨の日でも、家畜達には食べさせないといけないので、休むことはありません。
    秋営地から冬営地への移動の様子が記されていますが、さすがに雨の日は、移動を中止したりするようです。川を渡ることが何度もあるようで、水かさが少なければさほど問題ではないのですが、水かさが多いときは、浅瀬を探して、渡ことになりますが、時には命を落とすこともあるようです。
    山羊や羊は、川を渡るときは泳いで渡るようです。多少下流に流されたりするようですが。
    いろんな人たちの生活に興味のある方にお勧めです。

    【目次】
    はじめに
    第一章 秋営地にて―搾乳と家畜管理
    1 チャドルいり
    2 放牧の技術
    3 搾乳と乳製品
    4 性のコントロール
    第二章 移動―秋営地から冬営地へ
    1 迂回路
    2 チャンドル・ヨル
    3 冬営地へ

    ●カザク族の村跡(24頁)
    ギリシャ正教の教会を中心に村はひっそりと廃墟のたたずまいをたもつ。
    1949年ころ村をすてコニヤのほうへうつり、そのあと二、三年してソ連へ移民した。移民後の消息はなにもつたえられていない。
    ●夜間放牧(44頁)
    ユルックたちの説明では、夜間放牧は家畜をふとらせるためにたいへん効果的だ、という。
    ●飼われている動物(54頁)
    ヤギ、ヒツジ、ウシ、ラクダ、ウマ、ロバ以外にチャドルで飼われている動物には、イヌとニワトリがいる。イヌは各チャドルで二匹から四匹いる。ニワトリは各チャドルに二、三羽だ。イヌは番犬として、とくにオオカミとの闘争用としての意味が大きいようだ。
    ●子ヤギや子ヒツジの哺乳をさまたげる方法(70頁)
    母ヤギの乳房に水でねりあげた牛糞をぬりつける。
    ●ばあさん市(127頁)
    その年の最終の市は、売手も買手も女性だけによって運営される
    これを、コジャ・カル・パザル、とよんでいる。コジャは「年とった」、カルは「女性、妻」などの意味だから、「ばあさん市」ということにでもなるだろうか。
    ●DDT(189頁)
    伝統的な慣習によれば、冬営地でのチャドルは決して同じ場所に張らないことになっていた。前年度つかった場所から必ず数キロメートル離れたところにチャドルを張るのが慣例だった。チャドル跡には、ダニがわきやすかったからである。
    ところが、DDTの入手が容易になってからは事情が一変する。DDTによってダニを防護することが可能になってからは、毎年チャドルをはる場所を変える慣習はすっかりすたれてしまった。

    ☆関連図書(既読)
    「古代への情熱」シュリーマン著・村田数之亮訳、岩波文庫、1954.11.25
    「埋もれた古代帝国」大村幸弘著、日本交通公社、1978.04.01
    「鉄を生みだした帝国」大村幸弘著、NHKブックス、1981.05.20
    「古代アナトリアの遺産」立田洋司著、近藤出版社、1977.01.10
    「埋もれた秘境 カッパドキア」立田洋司著、講談社、1977.10.30
    「トルコ史」ロベール・マントラン著・小山皓一郎訳、文庫クセジュ、1975.10.10
    「スレイマン大帝」三橋冨治男著、清水書院、1971.09.20
    「シルクロードの幻像」並河萬里著、新人物往来社、1975.03.10
    「地中海 石と砂の世界」並河亮著、玉川選書、1977.12.25
    「トルコという国」大島直政著、番町書房、1972.08.30
    「遊牧民族の知恵」大島直政著、講談社現代新書、1979.06.20
    「オリエントから永遠の都へ」大島直政・加藤久晴著、日本テレビ、1983.08.19
    「ケマル・パシャ伝」大島直政著、新潮選書、1984.05.20
    「トルコ民族主義」坂本勉著、講談社現代新書、1996.10.20
    (2016年7月19日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    一九七九年夏、熱く乾いた空気のなか、トルコでの遊牧生活は始まった。家畜の群れとともに秋営地から冬営地、夏営地へ、活気に満ちた一年がすぎてゆく―。遊牧という生活様式がユーラシア文明に及ぼした影響をめぐる考察を交えながら、「自由」な暮らしを求めるユルックたちの営みをヴィヴィッドに綴った民族誌。

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著者プロフィール

国立民族学博物館名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授。専門は社会人類学。
主な著書に『遊牧の世界―トルコ系遊牧民ユルックの民族誌から 上・下』(中公新書、1983)、『世界民族問題事典』(共編、平凡社、1995)、『カザフ遊牧民の移動――アルタイ山脈からトルコへ 1934-1953』(平凡社、2011)などがある。

「2020年 『中央アジアの歴史と現在 草原の叡智』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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