地政学入門: 外交戦略の政治学 (中公新書 721)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121007216

感想・レビュー・書評

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  • 地政学入門、というより、地政学史入門、と表現したほうがしっくりくるような気がする。著者の、地政学に対する愛着と思い入れを感じる。

    著者は、地政学とは、との問いに、こう答えている。
    (厳密には、「B」に、こう答え「させて」いる。)
    「サア、それは答えるのに非常に難しい質問ですね。まず、ひとくちにいって政治学の一種であることは確かです。それもかなり手の込んだ現実的な政治学の形態と言えるでしょう。ふつう政治学では、よく日本の議会政治のあり方とか、またそれと外国の政治との比較とかいったことを問題にします。が、地政学ではそれもさることながら、常に地球全体を一つの単位とみて、その動向をできるだけリアル・タイムでつかみ、そこから現在の政策に必要な判断の材料を引き出そうとします。つまり、常に地球を相手にする政治学だから地政学だというのだと、まあそう簡単に言っておきましょうかね」

    この地政学の祖として位置づけられるのが、ハルフォード・マッキンダー(英、1861-1947)である。彼が記した『デモクラシーの理想と現実』(1919)は、「現代地政学の古典中の古典」であり、アメリカ合衆国が第一次世界大戦に参戦した際に掲げた「デモクラシーのために」というスローガンに対して、現実的には、大陸(この場合はユーラシア~アフリカの一体的なもの=世界島world island、を指す)の‘ハートランド’が、最大のハードルとなることを示唆している。彼の出身であるイギリスの視座に立ち、当時賞賛されていた(そしてイギリスにとって最も誇るべき国力である)海軍力(=シー・パワー)を脅かす存在として、大陸・内陸=ハートランドの力、ランド・パワーを唱えた。言い換えれば、英国はこれまで、そのシー・パワーを利用して、大陸(ハートランド)を独占する国家権力が出現しないよう勢力均衡balance of powerを維持してきたが、二十世紀に入ってからは、もはや英国独力では均衡の継続が不可能となり、世界の安定のためには、英国に代わる(或いは英国を含む他国籍の)新たな海洋勢力sea powerの編成が必要だ、と論じたのである。常に彼は、均衡balanceを平和、自由の手段として位置づける。これこそが海洋国家・英国のお家芸であろうし、我々日本も学ぶべきところは多いように思う。

    また、彼は、さらに突き詰めた考察として、「西欧世界とその文明の発達は、とどのつまり内陸アジアからの衝撃ないし圧力に負うものであった」(本書P40)という、「まさにコペルニクス的転回のような」理論を展開した。これも、あくまで西洋主義(欧州主義)的な視座を離れてはいないが、それでも「向こう側」から世界を見たという点では特筆すべきではあったのだろう。この考察も、結局は、いやだからこそ、均衡が重要だ、という論旨に繋がっているように思える

    一方、地政学におけるランド・パワー側の雄が、ヒットラー、ナチス・ドイツにも多大な政治的影響を与えたと言われるカール・ハウスホーファー(独、1869-1946)である。本書では、ハウスホーファーの地政学に影響を与えた要素として、①フリードリヒ・ラッツェル(1844-1904)が提唱した「生活圏」(lebensraum)の思想、②マッキンダーのシー・
    パワーとランド・パワーの対比論、③日本の大陸政策の具体的な展開(韓国併合の過程)、の3点を挙げている。

    このハウスホーファーの理論そのものについては、本書ではあまり詳細には触れられていない。但し、理論の骨格はマッキンダーとの相似形であり、であるからこそ、ハウスホーファーは「ドイツはソ連と共同すべきである」(両者で‘ハートランド’を占有すべきである)と主張したのであり、その点でヒットラーと相容れなかったのであろう。彼は、戦後、妻とともに自殺(息子はヒットラー暗殺に関わったとして終戦前に処刑されている。)

    地政学そのものは、やはり陸海軍の時代に生まれた理論であり、空軍やゲリラ的テロリズムが主戦場となろうとする今日においては、その意味合いは副次的でしかなくなってしまったように思う。また、それぞれの論者の視点に縛られる点はどうしても否めず、マッキンダーは英国の、ハウスホーファーは独逸の、そしてモンロー主義アメリカの論者はやはりアメリカの論理を正当化するために論理を構築しているように感じる面もないわけではない。

    今、何故その地政学がもてはやされているのか、その理由は正直よく分からない。しかし、経済社会における先進国から新興国への大きなうねりの中で、まさに地政学的な、全世界の情勢を「巨視的」に把握する視座は、今後非常に重要であるように感じる。

  • 20年以上前に読んだからあまり覚えてないが面白かった印象

  • 地政学の入門書として30年売れているロングセラー。30年も前だから、ソ連は崩壊しておらず冷戦も終わっていない、フォークランド紛争が終わってしばらくしたころ、といったあたり。ちょうど「パイナップルARMY」の世界と思えばわかりやすい。だから、当然に最近の情勢は全くカバーされていない。
    とはいえ、地政学に特有の概念や考え方を学ぶための入り口としてはいい。あるいはわ例えだ安保法案だとか欧州の難民問題だとかをそうした概念や考え方を用いて考えてみても、また違った見方ができる。まあ、生兵法は怪我のもとなので、安易な当てはめは厳禁だけど。

  • P169の第6図は非常に面白い。この縮尺で見ると、対ソ連の封じ込め政策がよくわかる。

    p127の日本のアジア主義が、救いがたい業と表現されているのが印象的。人口減少が明確で、日本国内市場の将来性が薄れるなかで、経済的にはアジア主義は最近のベーシックなトレンドと言える。

    最後はちょっと尻切れトンボ的な印象。

  • 冷戦時代の地政学の本。南沙諸島問題その他の直接の解説にならないが基礎知識と考え方はわかる。

  • 初版は1984年。ソ連崩壊前。
    ハートランドが不安定なのは100年前と変わらずか。
    というか東欧を掌握する単一の勢力がいないこと自体を安定とみなす?

  • これはおもしろかったです。一気に読み終わりました。本書は題名通り地政学を勉強したいという入門者が最初に手に取るべき本です。私はマッキンダーの本だけはすでに読んでいたのですが、レベルとしては初心者同様で、本書を通じて地政学の理解がさらに深まりとても勉強になりました。ただ他の読者も指摘されているように、地政学という学問自体、科学的な裏付けによる体系化からは程遠い議論がなされているので、特に自然科学系を専門にされている方々からすると、地政学のあやふやな面も本書を通じてだいぶ浮き彫りになるのではないでしょうか。その意味では論者によって議論展開に個性が強くでる学問なので、むしろ哲学に近い気もしました。
    そして本書の中では地政学の祖ともいうべきマッキンダー、そして日本にも親しかったというハウスホーファー、さらに「海上権力史論」で有名なマハンの3名について特にとりあげて、それぞれの地政学を解説しています。その意味で、イギリス人(マッキンダー)、ドイツ人(ハウスホーファー)、アメリカ人(マハン)という自国のおかれた状況が全く異なる3カ国の大家について比較できるため、とても興味深いと思います。
     地政学はその特色から、政治、軍事と密接な関係がありますが、近年はビジネスにおいても重要な要素になってきているのではないでしょうか。日本企業がグローバルに展開する際、どのようなルートで販路を拡大すべきか、という点に関しても示唆がある気がします。本書は地政学入門として、地政学の大家の考えを紹介していると同時に、その考えが導かれていた当時の世界情勢の勉強にもなります。お勧めです。

  • とりあえず地球儀買うか。

  • マッキンダーから地政学の系譜を紹介する本.第一次世界大戦から,第二次大戦,冷戦と覇権が移る中で地政学がどう発展してきたか振り返る.

  • Q、モンロー主義とは?

    A、1823年、当時のアメリカ大統領モンローが、
    "両米大陸にたいする大陸ヨーロッパの
    政治的な干渉を排除する"宣言を出発点とする流れ。

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