社会科学入門: 知的武装のすすめ (中公新書 760)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121007605

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
     優秀な学生を社会科学研究の世界に招待しようともくろむ本。研究への姿勢を説く箇所は古びないだろう。
     国産政治学のとある研究(中国のベトナムへの介入の研究)を具体例にした、「第3章 歴史を知る」はキレッキレで抜群におもしろい。さすがに専門分野なだけはある。
     ラスト三章の古典案内も親切。分量も十分にあって解説・コメントが多い。ただし、「社会科学」を謳いつつ教育・財政・統計・福祉の分野はスルーしたのではタイトルが可哀想な気もする(同様の本もおおいのでもはや慣例かもしれないが)。
     「第13章 外国語をものにする」の内容には同意しない。個人経験に偏りすぎている。この章を補完するなら、私のおすすめは、白井(2008)『外国語学習の科学』岩波新書。


    【書誌情報+内容紹介】
    著者:猪口 孝[いのぐち・たかし](1944-) 
    出版社:中央公論新社
    レーベル:中公新書 760
    版型:新書版
    頁数:226
    ISBN-10:4121007603
    ISBN-13:978-4121007605 
    定価:740+税  

     一般に社会科学の教育は既成の理論ないし擬似理論の修得を強調しすぎ、日常浮び上って来る小さな疑問にどう答え、ちょっとした考えをいかに大きく展開し、 深く掘り下げればよいかに冷淡である。しかし、既存の確立された考えに頼っていては、ますます複雑化する社会現象を理解・把握するのは不可能となる。 本書は今日要請される斬新な社会科学的思考とは何であり、どうすればそれを身につけられるかを極めて具体的に呈示する。

    【簡易目次】
    第1章 社会科学とは何か 003
    第2章 古典に親しむ 015
    第3章 歴史を知る 028
    第4章 科学的思考を身につける 061
    第5章 批判精神を養う 074
    第6章 好奇心をもつ 082
    第7章 発想を豊かにする 092
    第8章 自分の眼でみる 101
    第9章 議論を好む 120
    第10章 作文を習慣づける 130
    第11章 情報処理のシステムを作る 142
    第12章 数字に強くなる 151
    第13章 外国語をものにする 157
    第14章 政治学案内 164
    第15章 経済学案内 186
    第16章 社会学案内 205
    結語 225


    【目次】
    まえがき [i-v]

    第1章 社会科学とは何か 003
      社会科学の三つの課題
      資本主義の起原についてのマックス・ウェーバーの分析
      ウェーバーの議論の進め方
      社会科学における説明と解釈

    第2章 古典に親しむ 015
      十冊の古典
      ディビッド・リカードーの場合
      フリードリッヒ・リストの場合
      第二次大戦後の展開
      アメリカの部分的な保護主義化傾向

    第3章 歴史を知る 028
      歴史は繰り返されるか?
      ハノイからの手紙
      一七八九年の中国のベトナム介入の起原
      介入の論理
      中国の進攻
      和解の論理
      一九七九年の中国のベトナム介入の起原
      アメリカの介入
      解放後
      ベトナムのカンボジア介入と中国のベトナム介入
      一七八九年と一九七九年の比較分析
      中国の論理
      ベトナムの論理
      ヴァン・タンへのコメント
      歴史は繰り返したか?

    第4章 科学的思考を身につける 061
      科学的思考とは何か?
      実際の例を使う
      統計的な分析を行う
      虚構設定にもとづく分析
      政治体制変更の説明

    第5章 批判精神を養う 074
      批判精神とは?
      農産物輸入摩擦
      日本政府の政策の検討
      農産物の自立的供給

    第6章 好奇心をもつ 082
      好奇心は知識の母
      バスの窓からみたスローガン
      アジアの中の大ロシア人
      ウリ・キスル、ウリ・チャボン、ウリ、チョハル

    第7章 発想を豊かにする 092
      発想がすぜてを規定する
      限界主義革命
      発送の転換

    第8章 自分の眼でみる 101
      現場観察の重要性
      驚異的な記録の大胆な推論
      解剖の原則
      濃い記述
      北京大学の選挙フィーバー
      堂々と演説する浮浪者
      スンヂャとの会話

    第9章 議論を好む 120
      日本人の高い貯蓄率
      支出パターン
      ボーナスとへそくり
      税制
      人口構造
      今までの習慣の温存
      定義の違い

    第10章 作文を習慣づける 130
      作文はデカルト的明晰性を要求する
      日本の作文教育の欠陥
      コピーエディターの役割
      議論は三つの部分から成る
      明確な論理の展開と多くの証拠の提出

    第11章 情報処理のシステムを作る 142
      システム作り
      口コミを情報源とする場合
      電算機端末を情報源とする場合
      活字を情報源とする場合

    第12章 数字に強くなる 151
      数字の効果的利用法
      国際機関の統計
      日本政府の統計
      その他の情報源

    第13章 外国語をものにする 157
      なぜ外国語は必要か
      外国語の習得は意欲の問題である
      脳みそを外国語漬けにしよう
      
    第14章 政治学案内 164
    1 政治哲学 
      1-1 古代政治哲学 
      1-2 近代政治哲学 
      1-3 現代政治哲学 
    2 政治史 
      2-1 古典的政治史 
      2-2 現代本格派政治史 
      2-3 巨視構造派政治史 
    3 現代政治学理論 
      3-1 理論的枠組み 
      3-2 実証分析 
      3-3 方法 

    第15章 経済学案内 186
    1 経済思想 
      1-1 古典的経済思想 
      1-2 本格派経済思想 
      1-3 異端派経済思想 
    2 経済史 
      2-1 古典的経済史 
      2-2 本格派経済史 
      2-3 現代的経済史 
    3 経済学理論 
      3-1 理論的枠組み 
      3-2 異端的理論 
      3-3 方法 

    第16章 社会学案内 205
    1 社会哲学 
      1-1 初期 
      1-2 中期 
      1-3 後期 
    2 社会史 
      2-1 古典派社会史 
      2-2 新機軸派社会史 
      2-3 構造派社会史 
    3 社会学理論 
      3-1 理論的枠組み 
      3-2 異端的理論 
      3-3 方法 

    結語 225

  • 社会科学を実践するにあたっての心構え(社会に向き合う姿勢)を説いた本。古い本なので、若干の違和感を覚えないこともない。説明と解釈を明確に定義しようとするあたり、理解社会学を彷彿とさせる気もする。よくわかんない。
    ごく当たり前な心構えを問いているのだが、でも読んでいて知的好奇心を刺激される本。歴史や政治や経済や人間をこういう目で見られたらおもしろいね。それが自然にできるようになるととても贅沢だね。あー、いろんな文献読まなきゃ。

    各テーマごとに事例を挙げつつ「ここで、こういう視点で物事を見るんだ」という解説をしてくれるのだが、それが既に一本の小論文となっているのが(当たり前のことなのかもしれないけれど)凄い。なまなかな好奇心ではこうはいかないだろうな…ふむ。

  • 現・新潟大学学長、東京大学名誉教授で国際関係論の重鎮である猪口孝が半世紀前に著した「社会科学的思考」についての入門書。

    【構成】
    第1章 社会科学とは何か
    第2章 古典に親しむ
    第3章 歴史を知る
    第4章 科学的思考を身につける
    第5章 批判的精神を養う
    第6章 好奇心をもつ
    第7章 発想を豊かにする
    第8章 自分の眼でみる
    第9章 議論を好む
    第10章 作文を習慣づける
    第11章 情報処理のシステムを作る
    第12章 数字に強くなる
    第13章 外国語をものにする
    第14章 政治学案内
    第15章 経済学案内
    第16章 社会学案内
    結 語

    本書は第1章から第13章において、社会科学とはいかなる学問かということを、古典紹介、実証的な研究手法、科学的思考等々の要素を取り出して、かなり平易に解説していることから、おそらく大学の学部生を主たる読者層と想定して書かれていると思われる。

    現状の日本の大学においては法学部、経済学部といった社会科学系の学部に在籍したからといって、社会科学的な思考方法を身につけて卒業する人は少ないように見受けられる。とどのつまり、社会科学的思考に必要なのは、どの学部でどの授業を受けるなどとは関係無く、読書量と論理的思考に立脚した文章作成能力である。文章作成を通じて思考を整理することの重要性は、文章をほとんど書かなくなった現在の自分を省みれば、余計に痛感させられる。

    最後の3章は81冊に及ぶ文献案内であるが、それまでの初心者向けの解説とは異なり、著者が提示する各文献の要旨を理解するだけでも少し骨が折れる。

    初版が1985年であり四半世紀前の書ということになるが、一部の検索ツールの扱い方の箇所を除けば、今日においてもなお社会科学入門として通用する一冊ではないだろうか。

  • p.220
    ・ニコラス・ルーマンの『法と社会システム』は現代ドイツ社会学のひとつの頂点
    ・「自己準拠的システム」の概念を中核に、社会学の課題を世界の複雑性を解明することとした。
    ・概念の多用は別の意味でヘーゲルやマルクスの再来かと思わせてしまう。実際、ルーマンはゲルマン的壮大な理論体系からマルクス主義を引いたものといってよいかもしれない。

  • 政治学・経済学・社会学にまたがって、社会科学の全般に通じる勉強の仕方について語っている本です。

    社会科学全般を対象としているのでやむをえないのかもしれませんが、各章のタイトルは、「古典に親しむ」「歴史を知る」「科学的思考を身につける」など、一般的な心構えに近いもので、もう少し具体的な中身には立ち入ってほしかったように思います。ただ、アカデミックな社会科学の手法と、アクチュアルな問題の分析をつなげようとする志向は伺えるように思います。

    巻末には、政治学・経済学・社会学のそれぞれの文献案内がありますが、古典に偏りすぎのような印象があります。

  • 少々出てくる本は敷居が高め。
    だけれども、今という時代は
    情報がいっぱい出てくるので、
    知識がない、ということは結構致命的に
    なると思います。

    実は、あまり目新しい本ではなかったです。
    なぜならば、そのうちの一つの手法、
    すでにやっていますので。
    本当にこれは、役に立ちますよ。

  • 第4章〜第13章は、例が大まかすぎる気がしたが、社会科学をこれから本格的に学ぶための心構えにはいいと思う。
    文献案内は本の要旨を読むだけでも結構勉強になる。
    説明、解釈、批判の絶え間ない繰り返しで未来を見据えるということ。昔、友人に「You're a good social scientist.」と言われたのを忘れない様にしたい。

  • (1985年初版)
    ・ハウツー
    ・政治学、経済学、社会学(それぞれ哲学、歴史、理論)の読書案内

  • 最後の「社会学」「経済学」「政治学」の本の紹介がためになった。
    これらの古典をいくつか選んで読んでみたい。

  • 文字通り社会科学の入門書だけど、一般の人向けの入門書というよりは社会科学を志す人向けの入門書であることに注意。社会科学を研究する上で必要なこと、が主軸の「知的武装」。
    ただ、自然科学を志す人にも科学的手法を自然科学の外部から捉え直した見方を知っておくのは重要なのかもしれないと思った。
    内容としては、様々な事例を通して手法を知ることができ、結構面白かった。内容は少し古いものの、本文中で予測されている2,30年後の未来、即ち今の視点から、予測がそれなりに正しいことも確かめられるので、興味深かった。

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著者プロフィール

1944年、新潟県生まれ。政治学博士(M.I.T.)。東京大学名誉教授。前新潟県立大学学長兼理事長。元国連大学上級副学長。現桜美林大学特別招聘教授。著書・論文多数。

「2021年 『実力大学をどう創るか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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