後藤新平: 外交とヴィジョン (中公新書 881)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121008817

作品紹介・あらすじ

後藤新平が、台湾総督府民政長官や満鉄総裁として植民地経営に辣腕を振い、鉄道院総裁として国鉄の発展の基礎を築き、都市計画に雄大なヴィジョンを示したことは今日なお評価されるが、外交指導者としては、ほとんど忘れられている。しかし、当時にあっては矛盾と飛躍に満ちた言動ながら後藤の人気は高く、「唯一の国民外交家」とまで評されるほどであった。本書は、外交指導者の条件を問いつつ、後藤新平の足跡を辿る評伝である。

感想・レビュー・書評

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  • 後藤新平の偉大さを再認識させられます。
    説明するのが苦手だったとかの人間らしい記述や語学が苦手だったとかの記述に勝手に親近感が湧きました。

  • 後藤新平を通して当時の歴史を俯瞰できた。
    また、考え方が合わないとか脅威になり得るとかで直ちに相手を潰しにかかるのではなく、共通の利益を見出し、それを共通の価値観として共有し、共同でことにあたるという考えはすごく素敵だと思った。実際戦争のほとんどは敵愾心から起こるものだけに。

  • 後藤の外交の基本戦略である「日中露(ソ)提携論」というユニークな外交思想をベースとした評伝。結果的には後藤の構想は上手く行く事はなかったわけだが、目まぐるしく変化する内外の政治情勢の中で奮闘する後藤を見ていると(かなり強引な事もやってはいるが)、一筋縄ではいかない政治の難しさを痛感できる。
    読み応えがあるのは第一次大戦以降を扱った4章・5章。歴史にIFは禁物ではあるが、もし「日中露(ソ)提携論」が上手く行っていれば、その後の歴史は全く違うものになっていただろうと思わせられる内容になっている。また、著者は後藤をやや辛口に評価している部分もあるが、後藤みたいなタイプは好きなんだろうなと感じるところもある。

  • 台湾経営、満鉄経営にて成果を挙げた後藤新平の生涯を追う一冊。
    前半は生い立ちから台湾/満鉄について記述されているが
    後半は日本に帰ってからの政治家としての活動が主。

    巨大なバックボーンを得て緻密なデータ集計のもと
    ブルドーザーのごとく植民地経営を行った前半に比べて、
    後半の成果の少なさは悲しさすら感じる。
    外交及び東京の都市計画に関する思想そのものは
    すばらしかったのかもしれないが、
    それを実現できなかったのが、後藤新平なのだと思う。

    昔の本ではあるが、充分読みやすく内容も分かりやすい良書。

  • 最初に後藤新平を知ったのは、植民地台湾の民政長官としてだった。本書を読んで、東京都市復興計画のこと、満鉄総裁のときのこと、大変勉強になりました。

  • 本書は植民地経営・都市計画に類まれなる才能を発揮し、そのすぐれた外交ビジョンから「唯一の国民外交家」と称えられた後藤新平に焦点を当てる。

    後藤の発想はとてもユニークだ。
    彼は常に「生物学の原則」に基づく政策を行う。
    これは医学経験から導き出された彼独自の発想であり、徹底した現地調査と現地慣習の尊重に基づいた政策を是とするもので、台湾や満鉄の植民地経営では多大な成果を上げた。植民地を「野蛮」として見下す傾向にあった当時においては卓見である。

    また、東京市長時代には関東大震災後に大胆な復興計画を立案し、「大風呂敷」と揶揄されながらも先進的な都市改革を提示した。

    惜しむらくは晩年に彼の支援者が現れず、後藤の真価が発揮されなかった事だろう。いつの時代も長期的利益は短期的利益の陰に隠れてしまうようだ。

  • 北岡伸一先生。
    入学前からなんか聞いたことある名前で、実際授業とったし何冊か本読んだが、諸事情により顔は全く知らない。
    そして後藤新平て色んなとこでしばしば登場して気になってたので購入。

    医者、というところが独特。国を治す!てわけじゃないけど、衛生を考えるとこが彼の政治家としての出発点でした。

    二点。

    まず、
    台湾や満州の現地支配に関して、現地社会の歴史や慣習を調査し、その上にのっとって文明を移植していく、という彼の姿勢。
    今の米国にもそういった視点があればイラクの失政もなかったのでは。

    もう一点、
    バランスオブパワーではなく、相互の共通利益をもとに統合関係を築く、という一貫した彼の外交姿勢。

    竜馬だ!と思った。薩長同盟の時の。
    政治やら理念やら軍事やらの前に、経済利益で結びつけてしまう。
    本人の人望の高低により、竜馬さんよりは手法が荒いが、「大風呂敷」という点で二人は似ているかもしれん。

    最後の方に餅の論文がでてきてびつくりしました。

  • 後藤新平の評伝。彼の組織に関する考えに強く共感した。

  • 現・東京大学法学部教授(日本政治史)の北岡伸一による後藤新平(1857-1929)の評伝

    【構成】
    序章 医学と衛生
     1 青年時代
     2 衛生局時代
    第1章 台湾民政長官
     1 台湾統治の基礎
     2 台湾の「文明化」
     3 清国とアメリカ
    第2章 満鉄総裁
     1 総裁就任
     2 初期経営方針-大連中心主義と文装的武備
     3 満鉄をめぐる国際関係
    第3章 官僚政治と政党政治
     1 第二次桂内閣時代
     2 在野時代
     3 大正政変と桂新党
    第4章 第一次世界大戦と日本
     1 大隈内閣批判
     2 寺内内閣の成立
     3 中国とロシア
    第5章 失われた可能性
     1 世界大戦後の世界と日本
     2 ヨッフェ招請と帝都復興
     3 晩年

     明治初期西洋医学を修め内務省のテクノクラートとしてキャリアをスタートした後藤新平は、台湾総督府のNo.2、満鉄総裁、逓信大臣を経て寺内内閣では非外交官で初の外務大臣に就くという異色の経歴を持つ。近年後藤の女婿にあたる鶴見祐輔が遺した長大な伝記が復刊されたり、都市計画を中心とした植民地経営の手腕が再評価されつつあるが、本書は敢えて後藤の「外交」を描こうとするところにその特色がある。

     後藤は、台湾時代にその対岸の福建をめぐる対米関係に注目し、満洲においては満鉄による鉄道経営を軸にしながら、ロシア帝国(ソ連)、清国との対立ではなく提携関係樹立に心を砕く。都市を整備し、教育・医療を整え、鉄道を敷いて植民地を「文明化」することこそが後藤にとっての「外交」であった。軍事力でねじ伏せるのではなく、現地人を経済的利害関係に取り込み、そこに周辺諸国との友好的な関係構築の可能性を後藤は探った。

     このように対中・対ソ関係の推進を目指した後藤が、第一次大戦中に大隈内閣によって発せられた二十一箇条の要求への断固たる反対から、満洲の権益を保護するために寺内内閣の外相として自らシベリア出兵へと舵をきってしまうという転回は興味深い。そして、自分が壊した対ソ関係を、晩年老体に鞭をうってヨッフェ、スターリンと直接会談をもつことで修復しようと試みるところなどは、常人の発想では追いつかない。

     同時代人から突拍子もないものとして受け入れられなかった後藤新平のユニークな発想を、著者は彼が培ってきた「生物学的」国家観をキーワードとして魅力的に説明している。後藤新平というレンズで近代東アジア国際関係を見つめ直してみるのも面白い。

  • 2011/04/17 文教堂入り口に、帰宅支援マップと一緒に積んであったなぁ

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著者プロフィール

国際協力機構(JICA)特別顧問、東京大学名誉教授、立教大学名誉教授

「2023年 『日本陸軍と大陸政策 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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