江戸藩邸物語: 戦場から街角へ (中公新書 883)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121008831

作品紹介・あらすじ

戦乱騒擾の終焉とともに泰平の世を迎えた江戸時代、武士社会には新しい秩序と作法の整備を求める改革の波が押し寄せた。ことに、なにかと幕府の干渉を受ける江戸藩邸では、いらぬ争いや摩擦を避けるために、遅刻・欠勤の規約、水撒きの作法など、瑣末なまでの約束事が定められた。しかし、時代は変わっても武士は武士、体面もあれば意地もある。場所を戦場から江戸の街角に移して起こる悲喜劇に、変革期に揺れ動く武士の姿をみる。

感想・レビュー・書評

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  • 著者の江戸時代についての歴史エッセイ(?)は読んでいて面白く、よく再読する。サブタイトルに「戦場から街角へ」とあるように、戦場が身近にあったときの常識が、非常識になってしまった彼らの、お城勤めなど、時代に馴染めないさまが興味深い。
     一例だけ、伊達政宗の小姓たちと"かぶき者"が路上で衝突したときも、そうである。『玉滴隠見《ぎょくてきいんけん》』には、「若キ侍六人、列ニテ町ノ真中ヲ手ニ手ヲ取テ来リケル」と描かれている。今なら「ありえない~」などと、笑ってしまいそうだが、その異様さは恐ろしいものだったのでしょう。

  • 江戸前期、水戸藩傍系の守山藩が記した日記は、藩の公式記録として興味深い。また、幕臣・天野長重が著した思忠志集などの記録は、一武士の記録として微に入り細を穿つもので、当人のマメさを感じる。本書は上の二つの記録を中心に、藩邸を巡る江戸の面白さを伝えてくれるもので、時代小説を読む上でとても参考になる。時間の大雑把さとそれを守らせようとする管理職側、真の意味での鞘当とその後の斬り合い、藩邸の独立性、男色、武士に対する町人の強さなどを知った上で、また時代小説を読み進めたい。



  • 武士道とは死ぬこととみたなり。
    そんな精神も、戦乱の世が去り、平和な江戸時代に入ると、変わってくる。
    下級武士も含め、所謂サムライは完全な企業戦士サラリーマンだな。
    しかも定年70歳と。
    現代とさほど変わらないなと、非常に細かく記された一冊。
    当時からアルハラ対策なんかもあったんだね。精酒狂乱なんて。
    中々面白い一冊でした。

  • 1988年刊。著者は国立公文書館図書専門職。◆「武士としては」「家世実記」(会津藩)「鸚鵡籠中記」など、日記、藩の記録や各藩の法令集から、江戸時代の武士の心性、行動規範の実相・変遷を解読。主テーマは①武士としての階層心性と変容(戦国的死生観と平和秩序を踏まえた変容)、②職場作法の形成(時間概念の確立)、③江戸の往来、④江戸での在外大使館的な藩邸、アジールとしての寺院、両者の軋轢と相克、⑤火事と生類保護政策に見る藩の自律性の解体と中央集権化の進展、⑥衆道、⑦現生の死からの解離、⑧老者の生活と健康法など。

  • 戦場から街角へ、の副題通り、ルールや礼儀作法を取り上げながら、武士の在り方の変質を読む書。

    ただし、クローズアップされる点がやや散らばっており、総合的にどう見ていくかという集約の内容ではない。

    中に、道の正しい歩き方として、「道歩き」の指南のあれこれが語られているのだが、今と照らし合わせてみると、なんだか頷ける部分もあって面白い。

    確かに、ぶつかって、ああすいません!では済まないこともあっただろうな。

    死を以って償うことを是とされた社会における、死の意味ってなんだろう。
    痛みや苦しみが、恥を凌ぐことになる。
    その、恥への重みがいつの間にかなくなってしまっているんだと感じた。

  • 江戸にある諸藩の藩邸の場所とか来歴の話かと思って購入したけどさにあらず。ちょっとガッカリ。
    でもすごく面白い。
    つまりは武士のプロトコルというものはどういうものであったかが膨大な資料をもとに書かれている。

    武士としての名誉と体面。所作礼儀、藩邸に駆け込んだ者たちへの対処の方法、往来の歩き方等々、実に細かくそれが定められ、武士道の一端をなしていたことがわかる。

    今から考えると?なものもあるし、同じだよなーと思うものもある。

    この書での重要なテーマの1つが、戦場の記憶がまだ生々しい江戸初期から平和な時代の江戸中期へ移るに従って、そのプロトコルが微妙に変容していく所であろう。

    戦場での荒々しい武士道から藩を中心とした守りへの考え方の変化から、少しずつ変わってく様がよく描かれている。
    武士とは何か、ということをマクロではなくミクロの視点で捉えた良書である。

  • [ 内容 ]
    戦乱騒擾の終焉とともに泰平の世を迎えた江戸時代、武士社会には新しい秩序と作法の整備を求める改革の波が押し寄せた。
    ことに、なにかと幕府の干渉を受ける江戸藩邸では、いらぬ争いや摩擦を避けるために、遅刻・欠勤の規約、水撒きの作法など、瑣末なまでの約束事が定められた。
    しかし、時代は変わっても武士は武士、体面もあれば意地もある。
    場所を戦場から江戸の街角に移して起こる悲喜劇に、変革期に揺れ動く武士の姿をみる。

    [ 目次 ]
    武士としては
    〈職場〉の作法
    路上の平和
    駆け込む者たち
    火事と生類をめぐる政治
    小姓と草履取り
    死の領域
    見いだされた老い

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

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    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

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著者プロフィール

氏家 幹人(うじいえ・みきと)
1954年福島県生まれ。東京教育大学文学部卒業。歴史学者(日本近世史)。江戸時代の性、老い、家族を中心テーマに、独自の切り口で研究を続けている。著書に『大名家の秘密』(草思社)、『かたき討ち』『江戸人の老い』『江戸人の性』(いずれも草思社文庫)、『増補版 江戸藩邸物語』(角川ソフィア文庫)、『武士道とエロス』(講談社現代新書)、『江戸の少年』『増補 大江戸死体考』(いずれも平凡社ライブラリー)、『不義密通』(洋泉社MC新書)、『サムライとヤクザ』(ちくま文庫)などがある。

「2021年 『文庫 江戸時代の罪と罰』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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