人はいかに学ぶか: 日常的認知の世界 (中公新書 907)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121009074

作品紹介・あらすじ

遊びや職業活動に必要な知識・技能を身につけていくとき、人が必要を超えて上達を望み、理解を深めようとするのはなぜか。日常生活での能動性と有能さを支えるものはなにか。本書は伝統的学習観による「人間怠け者」説をくつがえし、「みずから学ぶ存在」としての人を実証的に描き出して、学び手の心的装置と文化の役割を探求すると同時に、「学習」のもつ暗いイメージを再考し、新しい学習観にもとづく教育のあり方を提言する。

感想・レビュー・書評

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  • ■■評価■■
    ★★★☆☆

    ■■概要・感想■■
    ○研究論文を引用して、学びに関する説を客観的に評価している本。比較的好印象。
    ○ただs,読み物としてすごい面白如何はなく、論文を読んでいる感覚があった。
    ○本書は1989年に出版された本である。学校許育についての1989年時点の主張と、2023年での主張の方向性は、ほぼ一致する。

    ■■心に残ったこと■■
    ●「人間(子ども)は、怠けもの、かつ、無能であるので、学習にはよい教え手と、彼らによる信賞必罰(つまりテスト)が必要である」という概念は、非常に限定的な環境(人でない動物実験)で結果が取られたものなので、すべてのことがこれに当てはまるわけではない。
    ○必要は発明の母。必要だから学ぶし、そこにはわからないことを確かめたい・明らかにしたいという、好奇心・探究心やハングリー精神のようなものがあるんだと思う。

  • 一文まとめ

    人は決して、怠け者でも学習に対して消極的でもなく、本来は自発的に学ぶ優れた学習脳力を有しており、教育では受動的に教え込まれるのではなく、いかにその学習能力を引き出すかがとても大切。


    以下感想

    「人はいかに学ぶのか」
    人は常に学習する生き物なのに、勉強になるとどうして主体性が失われるのだろう。この素朴な疑問に対してわかりやすく丁寧に書かれている。

    まず、勉強と日常の違いは必要感・動機付けや知的好奇心を持ってそのことに取り組んでいるかだ。
    このことから、教師などの教える立場にある人の大切な視点は「いかに効率良く教えるか」という教え手中心の視点から「いかに学び手の興味関心をひくなどをして、知的好奇心を刺激するか」という学び手中心の視点へと変わらなければいけないと感じた。

    ただ、日常の学びのみでは、理解が浅かったり、不十分になったり、本当の面白さに気づけなかったりすることもあるので、学び手自身の知的好奇心を刺激し、主体的に学べるようにしながら教科の本質的な面白さに気づけるような授業デザインや環境設定こそが教師の仕事なのだろう。

    他にも、
    「対話は正解を求めるためではなく、知的好奇心を刺激するために行う」や
    「道具を使うことは人間の優秀さを発揮しやすくする」
    「日本の教育システムは物知りが評価されやすいシステム」
    「知識があるからこそ学びやすい」
    など、今の主体的・対話的で深い学びやICT活用・授業改善の考え方につながる文章も多かった。

    その中でも一番印象に残ったのは、
    「うまくできるという結果を重視しすぎると、深い理解を阻害してしまう可能性がある」ということだ。
    学び手はどうしても結果や手っ取り早さに目が行きがちになる。ただ、その結果、手続き的な面での習熟に終始してしまったり、本来感じられるはずだった教科の本質的な面白さに気づけずに知的好奇心を刺激できない可能性があるということだ。
    だからこそ、教え手がいかに、学び方や、学習の過程、そして失敗や試行錯誤の価値を信じ、伝え続けていくかが大切だなと思った。

    これからも、「教え込む」ではなく、「学び手の優秀さを引き出す」という価値観で教師として子どもたちと向き合っていきたい。

  • 渡辺道治先生の紹介を聞いて手に取った。
    人は怠け者ではなく、能動的で有能な学び手であるという立場に立った上で、論が展開されている。

    「子どもを信じる」という、まさにこの一言に尽きる。教師の仕事は「教える」よりも「支援する」という側面を大切にすべきである。
    私の好きな「AさせたいならBといえ」思考とも通ずるところがあり、環境を整えたり学習形態を工夫したりして、子どもたちが「やりたい」「知りたい」と思えるような環境を作り出すことが大切。
    これは幼児教育でも大切にされている部分である。

    エキスパートは類推力(転化力)が高い、親への教育は効果絶大、余裕があってこそ学びに能動的になれる(思考の整理学と通ずる)といった内容も印象的であったが、今現在の私に刺さったのが次の文である。

    "教育行政が果たすべき最も重要な仕事は、教師がこのように能動的で有能な学び手でありつづけることを保証することである。教育の活動をさまざまな形で管理して、彼らを受動的で無能な存在におとしめることであってはならない。"

  • 教育をポジティブに捉え直すことができる一冊。
    子供の潜在的な能力・興味関心を引き出せるような対話的な授業ができる教員になりたいと思った。
    子どもたちの能力に期待する姿勢を忘れないようにしたい

  • 会社の研修部門時代の参考書。学びについて心理学的に考察した本。
    課題をやり遂げ成功体験を積むことが必要。基本を時間を掛けて学べば、その後の理解度は急速に上がる等々、自分の仕事を進めるうえでも参考になった。
    学習、講習、研修を受ける前にこういう基本の基本的な事を知っておきたかった。

  • 請求記号 081-CHU(上野文庫)
    https://opac.iuhw.ac.jp/Otawara/opac/Holding_list/search?rgtn=015182
    人は学習する生き物なのか?また能動的に学習するためには何が必要か?など学ぶとは何かについて改めて考えられる1冊です。

  • 読了日 2019/11/21

    学ぶこと・教育シリーズ。
    「行動経済学の使い方」や「ファクトフルネス」、「知ってるつもり無知の科学」と親和性が高いと思った。

    以下目次とその要約、キーセンテンスの書き抜き

    まえがき
    ┗人が学校で学ぶのは、一生で学ぶこと、つまり新しいやり方を習ってそれに熟達したり、なるほどとわかったりすることのごく一部にすぎない(i)

    第1章 伝統的な学習観

    学習する動物としてのヒト
    ┗ヒトの個体の生存や種族維持は、それそれの個体ごとの経験にもとづく知識にばかりでなく、文化という形で集積された他の個体の経験を摂取しうる(自分のものとしうる)ことにも依存している。(中略)こうして集積された知識がなければ、ヒトはいかにも無力な動物なのである。(5)
    効果的に学ばせるにはーー非公式の学習観
    ┗伝統的学習観:教え手がいてはじめて学べる(効果的に知識を身につけられる)
    ┗教え手の仕事:①知識を伝達する②生後の確認情報を与える
    ┗①学校での学習の様相②科学者以外の大多数は生み出された知識の消費者であり与えられた知識を吸収するにすぎない(7)
    学び手の否定的なイメージ
    ┗人間をも含めて動物は、空腹や苦痛を避けるといった必要にせまられない限り行動しようとしない怠け者である=学び手はみずから知識を構成しようとするよりは、他の人から伝達されたものを受動的に吸収しようとする見方
    ┗多くの人間が学び手として有能でない=彼らはたとえ積極的に
    学習心理学の影響
    賞にもとづく学習
    伝統的学習観の帰結
    もうひとつの学習観に向けて

    第2章 現実的必要から学ぶ
    日本人が外国語が不得意なわけ
    意思を伝える必要から学ぶ
    生活上必要な技能を身につける
    動物飼育の経験を通して学ぶ
    売り買いの必要から学ぶ
    キャンディ売りの経験を通して学ぶ算数
    現実的必要から学ぶとは
    「必要」を超えることは可能か?

    第3章 知的好奇心により学ぶ
    人間における知的好奇心
    驚きや当惑から学ぶ
    実際的有用性から認識へ
    深くわかることを求める
    「できる」を超える
    理解追求の生物学的基盤
    理解のためには心的余裕が必要

    第4章 ことばや数を学ぶ種としてのヒト
    有能な学び手の条件
    形式的規則としての文法
    なぜ文法が学べるのかーー生得的制約
    語彙獲得における生得的制約
    語彙獲得を助ける既有知識
    計数の獲得における認知的制約

    第5章 文化が支える有能さ
    使いやすい道具とは
    頭の外にもある知識
    なぜ援助が与えられるのか
    カラオケだとなぜうまく歌えるか

    第6章 文化のなかの隠れた教育
    教えられずに学ぶ読み
    「話す」から読み書きへ
    遊びを通して文字学習の準備
    英語圏でのことば遊び
    「遊び」のなかで養われる計数技能
    文化による識字への価値づけ
    知的成熟の指標としての漢字
    もの知りや記憶術者をうむ文化的風土

    第7章 参加しつつ学ぶ
    最良の学習環境としての他者
    借りられる知識
    徒弟が親方になるまで
    模倣から創造へ
    異なる視点に気づく
    知的好奇心を高めるやりとり

    第8章 知識があるほど学びやすい
    エキスパートの強み
    記憶力よりモノをいう知識
    構造化された使いやすい知識
    問題が解けるのも知識のおかげ
    得意の分野を使っての類推
    規則の発見・適用・拡張

    第9章 日常生活のなかで学ぶ知識の限界
    手際のよさのみにもとづく有能さ
    応用力を欠く知識
    物理現象に対する誤概念
    脳がなくても感情はある?
    社会的事象についての素朴概念
    理解よりも成功や効率
    日常的コミュニケーションのもつ問題
    教育の必要性

    第10章 新しい学習観にもとづく教育
    学習観のコペルニクス的転換
    まちがうことを尊重する
    探索することを推奨する
    子ども同士のやりとりを促す
    媒介物による日常生活化
    教師も答えのわからない問題に取り組む
    教育的創造力の重要性

    引用文献

  • <span style="color:#0000ff;"><b><要約> 
     旧来の学習観では、「人間(子ども)は、怠けもの、かつ、無能であるので、学習にはよい教え手と、彼らによる信賞必罰(つまりテスト)が必要である」とされてきた。
     これはスキナーらによる行動心理学がもとになっているが、これは
    ・ハトやネズミ等の動物相手の実験である
    ・統制された環境下である
     事を考えても実際の人間の学習を反映しているとは考えにくい。
     また、信賞必罰を伴うことで、学習を管理する態度がますますエスカレートし、結果、実験室での動物が示すふるまいに同じに陥ってしまう。

     では、旧来の学習観と違い、人は自主的に学ぶ存在なのか?
     教わらなくても人は、必要性にかられれば学ぶ(母国語の習得や、日常の買い物に必要な計算等)。
     また、「文化」もそれを手助けする。たとえば、自動販売機や銀行のATMは万人が使えるよう、わかりやすく設計されている。また、文字を習得する前の児童には「わらべうた」が聞かせられ、文字の前に音(韻)にならすことで、文字習得をしやすくしている。

     さらに「必要」を超えてさらに学ぶことも往々にしてあり、そのときには「知的好奇心」が重要である。
     そして、学習を推し進め、「有能な学び手」になるには、「他者」の存在も重要である。
     コーチや教え手としてもだが、それと同等に同輩同士で教え合うことが知的好奇心を高め、より深く理解するのに大切である。
     一つの分野で構造化された知識を得た「エキスパート」は、はじめての事でも応用力を効かせて、初心者よりもより効果的に学ぶことができる。

     だが、「必要」からはじまった学習にも限界がある。
     特に、それらは”理解”よりも成功や確率に重きが置かれているし、特に概念的な知識や理解を得るのが難しい。

     学校教育の是非はともかくとして、一定の期間、それらを深める特別の機会を設けることは十分に意義があると考えらる。</b></span>


    <span style="color:#009900;"><面白かった表現>
    p91
     (誰にでも使えるように考えられた、自動販売機や銀行のAtM等は)つまり、文化が与える援助は、一種の非人格的な親切だともいえる。(略)
     文化の与える外的な制約条件のおかげで、人々は容易かつ速やかに学ぶことができる。いや、様々な施設や道具のうち、多くの人々にとって使いやすいものだけが生き残り、これが文化(財)の一部を構成するようになったというのが、擬人的でない正確な言い方だろう。同様に多くの利用者が暗黙のうちにせよ要求する場合に限って、問題解決にとって必要な知識が外部におかれ、すぐ利用可能になっているのである。</span>

     学校は「分業」制を前提にしている。

  • 756円購入2010-01-21

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