- Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121009890
作品紹介・あらすじ
儒教には、四角四面の礼教性の強い倫理道徳であり、しかも古い家族制度を支える封建的思想という暗いイメージが色濃くつきまとっている。しかし、儒教の本質は死と結びついた宗教であり、それは日本人の生活の中に深く根を下ろしている。第二次大戦後進められた個人主義化により、さまざまな歪みと弊害とを露呈させている今日、を問題とする儒教の根本を問い直し、その歴史をたどりながら、現代との関わりを考える。
感想・レビュー・書評
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本書において著者は、儒教は単なる倫理道徳であるという通俗的な見方を批判し、儒教の本質は死と結びついた宗教であると主張する。そして、孔子以前からの儒教の歴史をたどり、儒教と現代との関わりを考察している。
儒教とは詰まるところ何なのか、儒教は宗教といえるのか、というのは儒教という概念を習った子供の頃から疑問に思っていたことではあったので、本書における儒教の宗教性の指摘には目から鱗なところがあった。日本における葬式には、仏教よりむしろ儒教の影響が及んでいるという指摘も興味深かった。また、仏教やキリスト教、イスラム教を生んだインドや西アジアが酷烈な環境であり、その地の人々はこの世の苦しみからの解脱や救世主、天国を求めたのに対し、中国、朝鮮、日本という東北アジアは暮らしやすく、中国人はこの世を快楽に満ちたところであると考え、だからこそ死の恐怖が生じ、それを克服する説明として儒教が生まれたという説明も、得心のいくものであった。
一方、本書が新書であるという制約もあると思うが、著者の主張(特に孔子以前の原儒について)の論証(主張を裏付ける1次史料の提示など)という点は十分とはいえないのではないかと感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
著者独自の観点から、儒教の歴史をたどるとともに、その思想が日本におよぼした影響などについても論じている本です。なお2022年現在、本書の増補版が刊行されているようです。
著者は、儒教は宗教ではないという通説に抗して、儒教が死者の祭祀という、宗教としての性格をもっていることを指摘し、さらに仏教を中心とする日本の葬儀にも、その影響がおよんでいることを説明しています。そのうえで著者は、孔子以前の職業的シャーマンによる「原儒」から、孔子によって儒教の礼教的な側面が整えられた経緯をたどり、さらにその後の展開についても説明がなされています。さらに、老荘思想や法家思想との関係についても論じられています。
儒教を宗教としてとらえるというのは著者独自の視点であり、かならずしも一般的な解釈ではないのかもしれませんが、儒教のひとつの側面を学ぶことができたという意味では、有益な内容だったように思います。 -
しばしば忠孝の倫理、ひいては”儒学”として宗教性がなおざりにされがちな、儒教本来の原始的な宗教性を解き明かす。儒教に関する宗教的側面にライトを当てた書は少ないので貴重。
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単に思想や倫理観としてみた儒教ではなく、宗教として捉えた儒教の概説書で、孔子以前の原儒と言われる信仰から、現代社会との関わりまで数千年の歴史が一冊にまとめられている。本気で読むには中国史の素養がないと厳しいが、序章を読むだけても儒教の見方がちょっと変わった。
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一般とは違う儒教の見方。宗教性と分かれた礼教性が中国人にどういう影響を与えてきたかについての言及は少なかった。
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本書は1936年生まれの中国哲学史を専攻する研究者が1990年に刊行した、儒教の東アジアへの影響の強さを述べつつ独自の文化論を展開する本。文章は柔らかく論旨もハッキリしていて読みやすいが、展開がやや独断的と思える部分もあった。(なお、著者の基本主張は48頁四段落目から次頁二段落目までの文章[第二章]にまとめられているので参考に)
【目次】
はじめに -- 葬式と儒教と (i-vii)
序 章 儒教における死 001
0.1 〈女の姓を返す〉儒教
0.2 仏教における死
0.3 中国人の現世観
0.4 儒教における死
第1章 儒教の宗教性 023
1.1 〈儒教の礼教性〉批判の無力
1.2 宗教の定義
1.3 儒教の宗教性
第2章 儒教文化圏 039
2.1 いまなぜ儒教なのか
2.2 儒教文化圏の意味
第3章 儒教の成立 051
3.1 原儒――そして原始儒家
3.2 孔子の登場
3.3 孔子の自覚
3.4 孔子の考と礼制と
3.5 儒教の成立
3.6 詩書礼楽
3.7 学校と官僚層の教養と
3.8 道徳と法と
3.9 反儒教の老荘
第4章 経学の時代(上) 113
4.1 国家と共同体と
4.2 原始儒家思想から経学へ
4.3 『孝経』
4.4 春秋学
4.5 礼教性と宗教性の二重構造
4.6 経学と緯学と
第5章 経学の時代(下) 169
5.1 儒教・仏教・道教――三教
5.2 選挙――推挙から科挙へ
5.3 朱子学
5.4 朱子学以後
終 章 儒教と現代と 219
6.1 現代における儒教
6.2 儒教と脳死・臓器移植と
6.3 儒教と教育と――そして自然科学的思考の基盤
6.4 儒教と政治意識と
6.5 儒教と経済観と
6.6 日本における儒教
附録『家礼図』略説 254
あとがき 265 -
儒教の本ではあったが、日本の独特の仏教について知ることができた。仏教と儒教が混合していたのだ。
儒教の「人工・人為」を重視し、人間の手が加わった人工・人為的世界がすぐれたもの」と考えることは、私の考え方に近い。自分が儒教的な考えを持っているとは思いもしなかった。
ただ、やっぱり儒教が宗教という意見には、違和感を持った。宗教でもなく道徳観でもなく、気がつかないぐらい私たちに浸透している考え方だと思った。 -
従来の儒教観を変えた本らしいが、そもそも現在では儒教=形式主義みたいなステレオタイプさえも浸透してるか怪しい。
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儒教のこと