コ-ヒ-が廻り世界史が廻る: 近代市民社会の黒い血液 (中公新書 1095)
- 中央公論新社 (1992年10月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121010957
作品紹介・あらすじ
東アフリカ原産の豆を原料とし、イスラームの宗教的観念を背景に誕生したコーヒーは、近東にコーヒーの家を作り出す。ロンドンに渡りコーヒー・ハウスとなって近代市民社会の諸制度を準備し、パリではフランス革命に立ち合あい、「自由・平等・博愛」を謳い上げる。その一方、植民地での搾取と人種差別にかかわり、のちにドイツで市民社会の鬼っ子ファシズムを生むに至る。コーヒーという商品の歴史を、現代文明のひとつの寓話として叙述する。
感想・レビュー・書評
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最初は戦国時代の茶の湯によって
当時の政治や経済が回っていく様と
イメージを重ねて読んでいた
だんだんNHK特番の
「映像の世紀」を観ているような
感覚すらしてきた
頭の中であのテーマソングが流れてきた
思っていた以上に面白い本だった
市リユース文庫にて取得詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
コーヒーと世界史。
帝国主義への関与。 -
コーヒーにそれ程思い入れはないが、日常的に飲んでいるものの世界的動きが分かって勉強になった。イエメン、ジャワ、西インド、ブラジル、アフリカそしてイスラムとユーロ。何気なく知っていた、モカ、キリマンジャロ、グアテマラといったコーヒー豆の名前の由来がよく分かりました。
悲喜こもごもな世界史とリンクされたストーリーが面白く感じられました。 -
ウィットに富んだ小気味いい文章を書く方だなと思った。著者の他の本も読んでみたい。
東アフリカからアラビア、ヨーロッパをめぐり、植民地支配やファシズムを経て自由資本主義時代の現代にいたるまで黒い血液として世界を巡ってきたコーヒー。世界史の中でその歴史や性質をひもといていくと、コーヒーがどれだけこの世界に直接的にも間接的にも影響を与えてきたのかがうかがえる。今自分がコーヒーを飲む時も、そのアロマの中に歴史の重み、人類の儚さや愚かさを感じずにはいられない。 -
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題名の通りですが、コーヒーを基軸に世界史の知識が深められる本です。
以前に拝読した「おにぎりと日本人(増淵敏之著)」と共通した面白さがありました。
本書の中で、バッハのコーヒーカンタータ(1732年)が紹介されていたので、YouTubeで聴いてみました。当時のコーヒーの流行っぷりを音楽を通して感じ取れた気がします。
モカブレンド好きの私は、本書でモカの歴史を知れて嬉しかったです。
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◆モカについて
イエメンの「モカ」コーヒーが、オランダのアムステルダムに定期的に輸入されるようになったのは1663年。増大する消費量に対し、イエメンだけが産地であるコーヒーには、需要と供給に差があった。
利益が保証されているのなら、アラビアの商人を介在せずに、自分たちで作って売る方が稼げると気づいたオランダ人は東インド会社を設立。自分たちの植民地にコーヒープランテーションを作り始める。(1658年 セイロン、1680年 ジャワ)
その後、モカ港は衰退。理由は下記の通り。
①港の海底に砂漠の砂が溜まり浅くなった。
②土地が政治的混乱。1万トンのコーヒーを生産できなかった。
③ヨーロッパの莫大な資本で、ジャワ/西インド/中南米の国際商戦に敗れた。
◆コーヒーの飲み方。
元々、イスラムのスーフィズムのコーヒーは苦いものだった。
・砂糖を入れるようになったのはトルコ。
・コーヒーとケーキ文化は、ヴェネツィア。
ヴェネツィアは砂糖の貿易の中心だった。
(エジプト/キプロス/シリアから入る
砂糖の玄関口)
・フランスでは、カフェオレが生まれる。
当時のフランス人はコーヒーは心身に悪い
と思い込み、牛乳で毒性を抹消できると
考えた。(←ちょっと適当な感じが
フランスっぽいw)
◆ロシア人は、コーヒー派ではなく紅茶派。
小説「戦争と平和」で、ピエール/ナターシャ/ソーニャたちは、紅茶を味わっていたそう。
皇帝アレクサンダーのロシア軍が駐屯した際、パリは紅茶ブームになる。その時、多くのカフェはビストロと名称を変えた。これはロシア語の「быстро(ブイストラ) 早く」を意味し、出入りするロシア軍人に紅茶を早く出していたことが由来。 -
歴史という壮大な物語をひとつの視点で見る面白さよ。
珈琲が、
禁酒のイスラム社会でどう生まれ
17世紀の「市民」社会の形成にどう関わり、
さらには第1,2次世界大戦の裏でどう各国に影響したのか。
まさに”近代市民社会の黒い血液"! -
初めて読んだのは大学の時。
日常的に何となく飲んでいるものを入り口として世界史が学べる、という驚きと感動を感じた本だった。
その後も近代について考えを巡らせるときには何となく読み返すようになっている。 -
2021年4月期展示本です。
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https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=BB00115669 -
中公新書で、私の大好きな「食べて飲んで世界を知る」シリーズの1巻。今まで、茶、ジャガイモ、チョコレートと読み、「コーヒー」まで来ました。本書はイエメンで15世紀に生まれたコーヒーが世界史の中で、どんな役割を果たして来たかを描きます。カフェイン中毒者の私には楽しい本でした。
近東で、イスラム修行者が禁欲的生活を送る上で、「飲むと眠れなくなる」コーヒーが流行りました。人々が眠っているときに祈りを捧げることが美徳とされていたからです。しかし、コーヒーの語源である「カフワ」はイスラム教の中では白ワインも意味していて、神学論争を引き起こします。結局、コーヒーは認められ、近東に「コーヒーの家」が乱立し、コーヒーは爆発的な勢いで普及します。これが英国に伝わって、自由闊達な議論の場を提供し、近代市民社会の土台を作り、パリで発生したカフェでは「自由・平等・博愛」の思想が生まれます。
著者の臼井隆一郎さんはドイツ語学の研究者。そのためか、かなりのページ数を使いドイツの東アフリカ植民地経営の失敗を述べています。その失敗はドイツに人種差別という癒し難い禍根を残し、ナチズム発生の要因となってしまいました。
コーヒーの世界史への関わりを豊富な逸話、資料を用いて描いた面白い本。ただし、文章は格調高く、趣味に合わない人は読みにくいかもしれません。
「ドイツが東アフリカ植民地に傾けた努力は結局、第一次世界大戦の結果、無に帰した。しかし、人の世の営みの一切が時とともに水泡に帰し、虚空に切々と諸行無常の響きでも鳴り渡らせるならば、この世はむしろ安泰かもしれない」
この本は、まとまった時間が取れた日に喫茶店で読むのに相応しい味わい深い本と思います。私みたいに毎日4杯コーヒーを飲む人間には必読です。