回教から見た中国: 民族・宗教・国家 (中公新書 1128)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121011282

作品紹介・あらすじ

中国回教徒は、唐の時代、アラブ、ペルシアから来華した人々に源をもち、軍事、商業に活躍した元の時代、厳しい弾圧に激しい宗教戦争を戦った清の時代、抗日戦争で日本の西方進出を阻止した民国時代、階級闘争と民族解放にゆれる現代と、中国史の重要な鍵となってきた。故郷を失い、母語を失い、血縁と信仰を自らのアンデンティティとして中国文化の海の中を生きつづけてきた回族の運命に、中国の国家体制と宗教信仰の根幹を問う。

感想・レビュー・書評

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  • 信仰心は人の魂を美しく保つものなんだなぁ〜俺にはないけど、ちょっと憧れる。

  • 少数民族・回族の形成と、彼らが信仰する回教について、そして中国歴代(特に清以降か)政権との関係性についての概説。民族性がどうこうというよりも、彼らの生き方そのものが、中国的(あるいは、おそらくそれ以外であっても世俗的な)政権とは相容れなかったことが分かった、ような気がした。

  • 第一章 なぜ中国の至る所に回族が存在しているか
    第二章 重い清代の中国回教史
    第三章 共和制に入って
    第四章 社会主義時代の中国回教

    「まえがき」にて、「回教」「回回」「回」「回民」「回族」の各用語の概念規定をする。

    第一章
    様々な人種が流入した唐代及び元代を中心に、なぜ回族が中国各地に分布しているのか概説する。
    12頁など意訳が少々極端。史料に「重い重税を課してはいけない」とある部分を、「ゼロに近い低い税率で」と説明するのはどうだろうか。
    回族史における第一の喪失は中国への同化と祖国を失ったこととする。
    第二の喪失は言語。此れ故に回民は特殊だとする。
    唐代、外国人(商人)の居住は自由であったとするが、紹介する地域が都の長安と港湾部のみ。その後元代にイスラム教徒は全国に分布したとする。特に雲南の開発に回民を長官として就任させたという。そして現代中国で回民が多い地域の源は元代にあるとする。しかし、なぜ唐代のように都付近に回民がいないのか、その説明については言及していない。

    第二章
    スーフィズムからその一派であるジャフリーヤ派の説明をはじめ、清朝の回教政策を概観する。19世紀には太平天国の乱をうけて、回族による大反乱も起きる。反乱の背景は地域によって異なる。雲南では鉱山の利権。陝西では差別。この結果、人口が少なくなった地域が増えた。一方で政府側に協力する回民も出現し、経済力の上下も相俟って二極化するようになったという。
    若干ながら用語に違和感を感じる。例えば「大清王朝の“国民”」。国民という近代用語を使用して問題ないだろうか。

    第三章
    清朝滅亡後、民国時代の回教について。前章をうけ、同治年間の回民大反乱の際、政府側に協力した回民が清滅亡後、軍閥化するようになるという。最初は共産党と戦い、国共合作後は日本と戦ったという。また、日本軍が黄土高原を越えられなかった理由の一つに回教系軍の抵抗があったとする。民国政府の宗教政策は、宗教を支持しないが制限もしないことに特徴があるが、回民にとって差別と敵視は最も酷いものとなったという。
    疑問に思うのは、回教徒が軍閥化した意味と、著者がいう日本が突いた多民族国家中国の弱点とは何かということ。言及はない。
    また110頁でいう「モンゴル、チベット、中央アジアの間に位置づけられる回民区のもつ重大な政治的意義については、今までまだ解明されていなかった」とすることについて、著者なりの言及がないように思われる。

    第四章
    人民共和国成立後の回民について。共産党は国民党による五族協和の「回」の扱いが曖昧である点を批判し、回=回教徒とし1つの民族として認めたという。確かに難しいと思う。一章でふれたように彼らは「漢族」ではなく西から移住してきた異民族と認識されていた。しかし、それを言うなら唐の支配層は漢族だったのかという問題にも関係すると思う。この理屈だとキリスト教徒や仏教徒も一民族にならないだろうか。
    共産党は、回民の問題を宗教問題としてではなく、階級問題として捉えていたという。その上で、人民共和国成立後、回族は大小様々な自治区を持つようになる。その後1958年に回教に対する批判が始まり、文化大革命では回民も教派と組織とに分裂した。信仰の喪失があり、これが「第三の喪失」だという。
    それでも近年は宗教ブームが高まってきているという。
    中国が無宗教であることを危惧し、そのためにも回教の存在は貴重なものであると説く。

    本書は93年に出版されたが、89年の民主化運動についてはふれられていない。回民にとって民主化はどのように映ったのか気になるところ。

  • 中国の回族にまつわる、その歴史・風習・宗教に関する本。
    回族というのは大雑把に言うと古代アラビア、ペルシアなどからシルクロードに沿って東上した民族を指す。信仰する宗教はイスラム教であり、扱う言語は昨今では中国語(北京語)が主となるが、一部ではアラビア語(礼拝の際も)を利用している少数民族である。
    わずか180ページの書物ではあるが、一言で感想を表すのが難しい本ではある。
    そもそも日本において「民族」という概念は薄く、民族による反乱やそれらを統治するという話自体が数多くない。だが、中国においては事情はまったくことなり、50を超える民族が存在し、1960年頃からは文化大革命という言ってしまえば民族習慣や信仰を1から見直すような大々的な統治が行われている。
    そういった出生国による背景から見ると、単純で一方向的な「良い」とか「悪い」等といった感想であったり共感を持つのがとても難しい話題だと思う。当然、共感という部分においてもはっきり言って分からないというのが素直な感情だろう。
    ただ、一つ言えるのは国際化と多様化が進む社会においても、回族に代表される特殊な少数民族が彼ら自身の居場所を持ち続けられる社会が理想に近いといえるのではないか。幸いにも日本国憲法は中国憲法と同じく個人の信仰の自由を許容しており、文化的に見ても他宗教に対して寛容な国柄(興味がないだけという話もあるが)だと言える。
    こういった国に生まれたからこそ、お隣の事情やもっと広い世界での宗教観や信仰に幅広い理解を示す事が、自らの人生を豊かにする上でも重要な事であると言えるのかもしれない。そんな想いを持たせてくれる一冊であった。

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著者プロフィール

1948年北京生まれ。作家。北京作家協会副主席。
1983年と1990年、財団法人東洋文庫外国人研究員として来日。中国社会科学院助理研究員、1993年には愛知大学法学部助教授を歴任。著著多数。日本語では『モンゴル大草原遊牧誌』(朝日選書)、『紅衛兵の時代』(岩波新書)、『回教から見た中国』(中公新書)、『殉教の中国イスラム』(亜紀書房)などがある。

「2015年 『中国と日本 批判の刃を己に』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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