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Amazon.co.jp ・本 (246ページ) / ISBN・EAN: 9784121011336
感想・レビュー・書評
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評伝や通史というより、大きな事象を繋いだという読後感。陸相就任前の上原vs田中、三月事件、組閣の大命と挫折、外相就任と辞任。それ故に、「大正末年以来・・・政変のたびに首相候補に擬された」とのさらっとした記述はあるも、本書では宇垣軍縮から三月事件、そして次は大命降下へと飛ぶため、その経緯がよく分からない。
一次資料を豊富に使っており当時の描写は細かいが、一方で宇垣がなぜそこまで陸軍中堅層(満州派?)や湯浅・木戸内大臣に嫌われて総理になれなかったのか、にもかかわらずなぜ国民や吉田茂など一部有力者に人気があったのか、また本書副題のような政軍関係の大きな見取図は、本書からは深くは伝わってこない。かと思えば宇垣が大して出てこない盧溝橋事件以降の経緯で(外相就任の背景説明としては必要だと思うが)第四章を丸々使うなど、ちぐはぐな感じがする。
終章にある、戦後のキーナンと若槻のべた褒め宇垣評(「真の平和愛好者」「前から宇垣のいう者の値打ちを信じていた」)が著者の評価でもあるのか。しかし本書全体からは、政治的で野心満々、という宇垣像を見る。
三月事件の真相につき、宇垣側と宇垣批判派で言い分が正反対なのは陸軍士官学校事件と同じ。それでも著者は、大川も小磯が謀略の張本人だと推測し、宇垣は無関係だったと示唆している。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
結局宇垣一成とはどう言う人物なのだろうか。1930年代の政治・軍事関係の歴史を紐解いたことのある人間であれば誰もが抱く疑問であろう。三月事件の影の首謀者という評価からはファシズム軍人の1人と取られてもおかしくない。しかし一方で吉田茂や若槻禮次郎など、明らかに軍国主義とは距離を置いた人物からの評価が高く、軍を抑えられる者として大命降下されるなどとにかく人物評が錯綜している。本書その錯綜した評価のピントを合わせるための本と言ってもいいかもしれない。
全体としては著者の宇垣への好感情は否定できない。ただしなぜ三月事件という未遂に終わったとは言え国家を揺るがすクーデターの首謀者とまで見なされた宇垣が首相候補に何度も上がったのか(その全てが226事件後であるため尚更である)、軍部から距離を置く政治家や外交官が宇垣に信を置く理由はなんなのかについて、一定程度説得力のある説明がなされている。またこの時代においてどうしても見落とされがちな昭和天皇の見識が木戸幸一・湯浅倉平の個人的印象にかなり左右されていることに言及しているのも興味深い。 -
少し肩入れしすぎのような気もする。
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軍閥の歴史を紐解けば、必ず派閥の巨魁として登場する宇垣一成。
本書を読んでの感想として、当時も損な立ち位置だったが現在の評価にいても甚だ不利な役回りを演じているということだった。
当時いかに宮中や陸軍の下の世代に疎んじられ大命拝辞に至ったかは本書で描くところである。
また戦後の様々な立場から見るとき、一夕会や統制派に同情する立場から見れば、宇垣派は旧長州派の流れを組む排斥すべき存在であった。
またそれに皇道派を含む立場から見れば、宇垣軍縮により軍の威信を低下させた元凶として見られる。
政党政治擁護の立場から見れば、田中義一に続く軍部出身の野心家とみなされ、その証拠として三月事件を持ち出される。
どうも不利な材料しか揃わない。
しかし本書では対米戦回避のために吉田茂に担がれた宇垣像や、戦後になって若槻や米内や岡田と同列⁽?⁾に「平和愛好者」とキーナン検事に語られた件など、あまり聞かない宇垣の一面を扱っている。
宇垣を擁護する立場から歴史を見るだけで、昭和史が違った容貌を表すことを知る。 -
歴史上の「評価定まらぬ」人物というのは多々いるが、本書で取り上げられた「宇垣一成」もそうではないか。
1937年(昭和12年)に組閣の大命を受けながら、軍主流派の反対により辞退に追い込まれた「宇垣一成」。
彼が総理だったならば、その後の歴史は変わっていたとの説もあるが、本書を読むと、とてもそうは思えないが、当時の軍内部の勢力争いの実態とともに、戦前の日本の統治システムの欠陥がよくわかるものとなっていると思った。
しかし、「軍閥」という言葉があるが、当時の日本においてなぜ「軍部」がこのような大きな力を持ってしまったのか、疑問にも思ったが、それを知るにはこれ以前の歴史を読まなければならないのだろう。
本書は、「宇垣一成」という人物をとおして、当時の日本の権力構造を知ることができる本ではあるが、「軍部」「宮中」「元老」と現在では理解しにくい統治構造と、力のない「政党や政治家」が絡みあう政治状況は、実感が持ちにくくわかりにくい。
この時代を理解するには、もう一段読み解く必要があるようにも思えた。
本書では、当時の日本の国際関係についての言及はあまりないが、当時の日本が国家政策を誤ったことは間違いがない。
その理由とプロセスが本書で扱っている日本の統治システムにもあることを考えると、なおこの時代を知りたくなるが、それは本書の範囲外であると思った。
本書は、この時代のごく一面を知ることができる本と評価すべきか、一面しか知ることができない本と評価すべきか、どちらだろうか。
読み終わって感嘆を感じないということは、本書は事実の発掘に徹しており、偏った判断を下していないといういうことなのかもしれないが、読後にやや不満が残る思いを持った。 -
2・26事件以降、政治の主眼は陸軍を抑えること。あるいは協調におかれた。そして「宇垣なら」という待望論が絶えることはなかった。宇垣一成とは何者であったのか。力量・識見あふれる実力者だったのか。三月事件の影の主役である野心家だったのか。新史料を駆使して波瀾の生涯を辿り、昭和史の謎に肉薄する。
陸相就任から大命降下、外相就任、戦後その死までを振り返った伝記である。
誕生から陸相就任までの間は抜けていて、やや物足りない。
著者は、史料を駆使し、宇垣は三月事件に関与していないとしている。なかなか面白い見方であるし、説得力もある。そこら辺を読むだけでも、この本を買う価値はあると思う。(著者は、小磯軍務局長が勝手に策動したとみている)
しかしながら三月事件の黒幕という疑惑は、宇垣の将来に著しい悪影響を与える。昭和天皇の信任を得られなかったことや、宮中官僚から忌避されたことから、大命が降下したにもかかわらず組閣することは出来なかった。
よく軍部大臣現役武官制が、軍部の独走を招いたといういわれかたをするが、宇垣が組閣できなかった経過をみると、支えなければならない面々(元老、宮中、議会等々)が、支えなかったことが、軍部の独走を招いたのではないかとも思われる。また、近衛内閣の外相時には、日中和平の道を探るものの、近衛総理の妬心により、梯子を外され辞任することとなる。
本書を読むと、宇垣の見方が一新される良書である。今後昭和史の記録を読む中で、偏ることなくバランスを取ってくれるのではないか。
渡辺行男の作品
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