荻生徂徠: 江戸のドン・キホーテ (中公新書 1161)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121011619

作品紹介・あらすじ

荻生徂徠-。名のみいたずらに高いが、著作はどのくらい読まれているか。中国の古典書を読みぬいて『論語徴』をあらわしたこの思想家は、紀元前六世紀の春秋時代に向けた歴史の眼を、十八世紀の江戸時代の現実にふりもどす。『太平策』・『政談』の時局案、ここにあり。学者はその仕事を現実に還元しなくてはならない。純粋な学問探究がいつしか同時代の問題を背負いこむ運命になった人間・荻生徂徠の生涯が、いまここによみがえる。

感想・レビュー・書評

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  • 異色の日本思想史研究者である著者が、荻生徂徠の古文辞学について考察をおこなっている本です。

    「読者への序言」で著者は、思想家の名前をタイトルにした新書形式の入門書のスタイルを墨守することはしないと宣言していますが、著者自身の問題意識が前面に押し出された内容になっています。

    著者は、徂徠の思想における「自然」から「作為」への移行を重視し、日本における内発的な近代化の萌芽を発見したと主張する丸山眞男の『日本政治思想史研究』の議論を踏まえています。ただし著者は、丸山がごくおおまかな思想史的スケッチとして言及していた唯名論と作為との関連に注目し、古文辞学の方法論と西洋の中世哲学における普遍論争を比較し、その言語論としての意義に光をあてています。また、現代思想においてしばしば論じられる言語論と貨幣論の並行関係に目配りをおこないながら、徂徠の貨幣政策の意義とその限界についても、著者独自の見解を示しています。

    あくまでも著者自身の問題意識にもとづく徂徠論であって、入門書ではありません。著者の問題意識に共感できる読者にとってはおもしろく読めるのかもしれませんが、著者の議論の枠組みとなっている現代思想的な発想そのものが、いまとなってはややアナクロニズムに見えてしまうこともいなめないように思います。

  •  荻生徂徠の考えを著者流に読むもの。入門書と違い、通り一遍以上のことを書いているので、本書からは得るものが多いと思う。
     文章のテンポがとても良い。


    【簡易目次】
    第1章 わが隣人――徂徠
    第2章 徂徠学とその未生以前
    第3章 先行機、応答せよ
    第4章 車を数えて車無し――メタ言語・メタ歴史・メタ貨幣
    第5章 失われた礼楽を求めて――『論語徴』の世界
    第6章 天と信仰と寵霊
    第7章 絶対王権の夢――『太平策』と『政談』

  • 荻生徂徠の思想を、仁斎や朱子学にとどまらず、空海や西洋哲学の中にみられる考え方などとも引き比べつつ、解き明かしていく。博学で名調子。読んでいておもしろい瞬間は多々ある。ただ、脇の議論に寄り道しすぎるきらいもあり、徂徠の思想の全体像をとらえるには不適かもしれない。

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著者プロフィール

野口武彦(のぐち・たけひこ)
1937年東京生まれ。文芸評論家。早稲田大学第一文学部卒業。東京大学大学院博士課程中退。神戸大学文学部教授を退官後、著述に専念する。日本文学・日本思想史専攻。1973年、『谷崎潤一郎論』(中央公論社)で亀井勝一郎賞、1980年、『江戸の歴史家─歴史という名の毒』(ちくま学芸文庫)でサントリー学芸賞受賞。1986年、『「源氏物語」を江戸から読む』(講談社学術文庫)で芸術選奨文部大臣賞、1992年、『江戸の兵学思想』(中公文庫)で和辻哲郎文化賞、2003年、『幕末気分』(講談社文庫)で読売文学賞、2021年に兵庫県文化賞を受賞。著書多数。最近の作品に『元禄六花撰』『元禄五芒星』(いずれも講談社)などがある。


「2022年 『開化奇譚集 明治伏魔殿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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