ケルト神話と中世騎士物語: 他界への旅と冒険 (中公新書 1254)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121012548

作品紹介・あらすじ

古代ヨーロッパを支配していたケルト人は、文字こそ持たなかったものの、口承によって多くの神話や民話を伝えていた。なかでも、地底や海のかなたの彼岸の世界へと旅する物語群は、キリスト教の伝播とともに変容を重ね、遂には中世の騎士物語へと洗練されていった。ケルト人たちが思い描いていた「他界」とはいかなるもので、それは後世にどう受け継がれているのか。今も残る物語を紹介しながら、ヨーロツパ精神の源へ溯る試みである。

感想・レビュー・書評

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  • 自分内「90年代のアーサー王関係書籍を紙の本でゲットできる、そろそろ最後の機会を大事にして、ついでにチャンスがあればいろいろ再読してみよう」キャンペーンの一環で読む。

    さすがに10代で読んだ本はよく覚えている。
    当時はこの本を持っていなくて、図書室で借りて読んでいた気がする。

    全3章のうち、1、2章はケルト神話、民話とキリスト教化について。
    当時の私は、ほとんどこの辺には興味がなく読み飛ばしたようだ。
    今もケルトもの、特に2章の作品群はちょっとノリにくいのだけど、興味深く読んだ。
    自分の成長を感じた次第である。
    そもそも、アーサー王ものとケルトものは、私には、隣のもの、祖先を同じくするもの、くらいであって、同一視はできない。
    (ケルトものにある、血の匂い、原始の剥き出しなバイオレンスの物語にはノリにくかったのだろう。。。と言っても、アーサー王系も荒々しいストーリーにぶっ飛んだ登場人物、ツッコミの追いつかない超展開は同じなのだけど…。とにかく両者は、私の中では「違う」存在。とごちゃごちゃ言ってしまうけど、特に論理的に説明はできません。考えるな感じろ的な話です。隙あらばなんとやら、すみません)

    第3章はアーサーネタ、というか、ジェフリとクレチアンの話です。
    わかりやすいし、面白い。
    イヴァン、獅子を連れた騎士、はもっとちゃんと読みたかったなと思う。現行のアーサーものにはほとんど名前しか登場しない。

    一番笑ったのは、荷車の騎士のイカれた箇所=ランスロが王妃の髪の毛を見てトランス状態になるシーンについての作者のコメント。
    「大脳皮質の働きの発達しすぎてしまった現代人とは違って、昔の人間は物事をより深く全身で感じることができたということなのであろうか。」p223
    うん、まあそういうことなんだろうな、きっと…。

    それにしても、これ(荷車)が、ランスロットのアーサー世界への初登場なんだもんなー。
    最初からけっこうぶっ飛んだキャラクターだったなあと改めて思った。

    第3章、クレチアンのことがよくわかったし、今はもう廃れたような気がするユングと結びつけてクレチアンの英雄たちの冒険譚を解いていくスタイルはかえって新鮮な気さえする。
    でもどっちかといえば、ケルトがメインの新書だなと思う。

  • ケルト人における「他界」について主に書かれた本。
    どこにあると考えられていたか、またそこはどんな場所だったかのか。
    他界を旅する物語について、「メルドゥーンの航海」「聖ブランダンの航海」「聖パトリックの煉獄」「アーサー王伝説」等に触れられています。
    ケルト人の宗教思想や巨石文化、キリスト教との融合についても書かれていますが、巨石文化についてはやや少なめ。
    入門書としてはちょうどよいと思うけれど、他界を旅する物語についての話題で、ちょいちょいユングを引き合いに出すのが個人的には疑問に思わざるを得ない。
    他人の解釈を引き合いに出すようなところだろうか。
    物語から読み取れるだろうに、と思うんだけども。

    最後の方に、「ケルト世界が他には見られないほど多くの他界への旅の物語を生み出した理由はいったい何だったのだろうか」という記述で、では日本の民話との比較がふと頭に浮かんでそちらが気になってきた。
    日本にも他界に入り込んで帰ってくる話はある。では、妖怪といわれるいわば他界に属すると思われるものとの話は他界を「旅」している話になるのだろうか。
    たしかに世界を別にしているとわかる話も多いが……。

    これから日本の民話を読んだり思い出したときが、面白くなりそうな視点をもらった。

  • 騎士道の華・中世騎士物語とケルトにどんな関わりがあるのか、どっちの世界にも等しく興味と愛を抱いているので非常に興味を持って読んだ。
    冒頭はブルターニュ半島に今も残る「イスの街」の幻想に始まる。キリスト教以前のケルト文化が徐々に浸透しつつあるキリスト教によって駆逐される過程が口承伝承の中に幾つも残っているという。
    第一部はケルト口承文学の中から「異界」「あの世」がどこにあると規定されているのかを探り出し、第二部はキリスト教化された中で口承にどんな脚色が加えられていったのか、変えられた部分、変わらない部分を読み解き、そして第三部に至って、ようやく中世騎士物語の元となったアーサー王伝説へと分け入っていく。
    新書のコンパクトさで、ケルト神話やその基本モチーフをざっくりと把握するにも、中世騎士物語成立までの流れを把握するにも非常にわかりやすい。巨石文明やケルト文化そのものについては若干記述が弱いけれど、これは著者が考古学者や歴史学者でなく文学者だというところに起因するのだろう。入門として、また何冊か専門書を片付けた後の頭の整理にはもってこいの一冊だと思うので、私もその意味で時々読み返す。

  • ギリシア・ローマ時代、かのカエサルを苦しめたケルト人、そうガリア人の勇敢な戦士達。
    ヨーロッパの底流に脈々と流れているケルト人達の神話や伝承。
    どこかに、日本の神話に通ずるところもあるような気がして、実に奥深い。ハマってしまいそうである。

  • ケルト的な「他界」巡りの物語がキリスト教の到来とともに変容し、罪の概念を付加され、地上の楽園や地獄・煉獄を巡る旅へと変わっていく。
    ケルト的世界とキリスト教的価値観が混ざり合い、つぎはぎのようだった『メルドゥーンの航海』から『聖ブランダンの航海』へ物語として洗練されていく過程がとても興味深い。また、ケルトの王権観から始まって、ガリアの人々が土着の女神と新たな支配者であるローマの神を夫婦とすることで外来の神々を受け入れた、という説もおもしろかった。一方で、中世騎士物語をユングに基づいて解き明かしていくのは唐突な感が否めず、終盤はやや違和感を覚える内容だった。

  • [評価]
    ★★★★☆ 星4つ

    [感想]
    本書はケルト神話自体ではなく、ケルト人の中でケルト神話がどのような存在だったのか、ケルト神話が用意にキリスト教に取り込まれたのは何故か、中世騎士物語の中に残留するケルト神話の要素が解説されている。
    ケルト神話の重要の要素である「他界」の概念は中々に面白かった。キリスト教の地獄や天国とも異なる異界の考え方は中々に面白い。日本の昔話にも類似している部分があるのは不思議な感じだったな。
    また、中世騎士物語とケルト神話では繋がりが無いように思うが物語の構成にケルト神話的な要素が残っているのは意外だったな。

  • ケルト神話とその流れを汲む中世騎士物語を分かりやすく解説している。あらすじも紹介されており、原作を読んだ気になれる。

  • 2017/11/20 16:53:41

  • 新書文庫

  • マビノギや様々な異界譚が紹介されている。考察は微妙な点が幾つか。

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