瀬戸内海の発見: 意味の風景から視覚の風景へ (中公新書 1466)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121014665

作品紹介・あらすじ

明治後期、日本人の眼に映る風景は大きく変化した。それは、山や海や都市そのものが変化したというよりも、見えるものをどう認識するかが変化したのである。日本の伝統的風景とは、歌枕の地や故事・伝説に由来する名所旧跡そのものであった。それを、欧米人の客観的で科学的な視線の影響で、自然景や人文景といった近代的風景として見るようになったのである。本書は瀬戸内海を素材に、日本人の景観認識の変化を辿るものである。

感想・レビュー・書評

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  • 「瀬戸内海」というのが、比較的最近(明治以降)になって初めてひとつの地理的概念として登場したということに、まず驚いた。それまではいくつもの灘や水道としてしかとらえられていなかったこの海域が、「内海」という西洋から導入された概念を受け止めて「瀬戸内海」という形で認識されたということは、「瀬戸内の文化」というものを考えるうえで大きな要素になるのではないかと感じた。

    また、日本人の風景をとらえる視点は、どちらかというとまず文学(歌枕など)によって意味づけられた意味の風景として立ち上がり、その後、安土・桃山時代や明治期の西洋人との交流を経て、視覚の風景へと移行していったということも、意外であった。古代から中世までの日本人にとって、風景というのはまず歌枕であり、名勝の捉え方も実際に見るというより圧倒的に歌や庭園の見立てといったところから入ってきていたということであろう。

    その後、視覚の風景の時代に入ってからも、西洋人が称賛した船上からの風景と、日本人が見つけていった陸の眺望点からの風景の違いが複雑に入り混じり、「瀬戸内海の風景」というのは非常に重層的かつ多様性に富んだものになっていったということが、丁寧に説明されておりよく分かった。

    実際の空間の多様性・複雑性だけでなく、このような重層性を活かしていくことが、これからの瀬戸内海の魅力を高めていくことにつながるのではないかと感じた。

  • 景観が客体にそくした用語に対し、風景はあくまでも主体にそくした用語である。

    景観が人間のより外問題であるのに対し、風景は人間のより内なる問題である。

  • 歴史ってつながってることを実感。
    歌だからこそいろんな意味を込めたいって
    思っちゃうから、歌枕とか風景に
    いろんな意味づけがされてきたんだろうなって思う。
    自然美について現代の私たちの
    風景観についても考えさせられる一冊。

  • 「瀬戸内海を賞賛した外国人の紀行文等」表がありがたい。
    http://cazusci.wordpress.com/2009/09/27/147/

  • 風景へのまなざしは変化し続ける。
    現在のまなざしも朽ちて無くなるもの。

  • 風景の変遷を構造化し,主体と客体の変化を指摘した,教科書的著作.見えているものが見えていない,見えていないものは現れない,という主張を丹念に実証された研究的著書の秀作であると思う.

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著者プロフィール

奈良県立大学名誉教授。博士(農学)、技術士。京都大学大学院農学研究科修士課程修了。造園学を専攻。環境庁山陽四国地区国立公園・野生生物事務所保護科長、京都御苑管理事務所庭園科長などを経て、奈良県立大学地域創造学部教授、退職して現在に至る。主な著書に『瀬戸内海の発見——意味の風景から視覚の風景へ』(中央公論新社)、『自然の風景論——自然をめぐるまなざしと表象』(清水弘文堂書房)など。国立公園協会田村賞、日本造園学会賞、同学会特別賞を受賞。

「2021年 『国立公園と風景の政治学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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