オーラル・ヒストリー: 現代史のための口述記録 (中公新書 1636)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (207ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121016362

感想・レビュー・書評

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  • 何度も読み返している。
    Amazonの古書で購入したら、重要な部分に赤線が引いてあったのだが、それも役に立つ(それ以外は綺麗なので、なんで手放したのかな・・とはちょっと気になるけれど)

    オーラル・ヒストリーは「同時代史」の記述の一つの方法である。
    個人または組織の経験を、複数回(十数回以上)にわたり、専門家が2~3名で聞き取りを行う。短い期間では、意思決定のケーススタディとして、長い期間においてはその他の文書群を補完する歴史資料としての価値がある。
    新書というコンパクトな形式で、「定義」「メソッド」、国内外の実例の紹介や著者自身の実践などが語りつくされている。
    読んで初めて、インタビューや警察の調書、ドキュメンタリーとの違いを知った。

    冒頭でも紹介される「言わず語らず」についても強い印象があった。
     語らないこと、また回答を避けることもまた重要な情報であることがよくわかる。
     文字として、あるいは映像として記録されたものをどう読み解くかについても考えさせられるものだった。

  • 日本におけるオーラル・ヒストリー「公人の、専門家による、万人のための口述記録」の先陣を進む御厨先生が、オーラル・ヒストリーについて広く浅く平易にまとめてくれたもの。わりと古くてもう13年も前の本ということになる。オーラル・ヒストリーのハウツー本かと思って読み始めたら、そういう内容ではなかった。さすが御厨先生で、オーラル・ヒストリーというなじみのないもの、せいぜい成果物の読み手にしかならないであろうものについて、とてもわかりやすく様々な側面からまとめてくれている。途中で退屈するかと思ったが、そんなことなく面白く読み通せた。
    公人たるもの、自分の活動のせめて総決算として公的な口述記録を残すべきであり、それが担保されている社会がデモクラティックな社会だという論には賛成。
    何も即時的に公表されなくてもよいのだが、一定の時間がたったとき、たとえば政治的な転換点に関わった公人たちが、当時どのように考え、その転換をなしたのかということは、記録として残るべきだろう。もちろん、政治が潔癖すぎる必要はなく、清濁併せのんだりしながら行われてしかるべきものだとも思うが、とはいえ、記録にも残せないようなことはしないでくれというその歯止めのような役目も果たすのがオーラル・ヒストリーということか。
    インタビューのしかた、話の聞き方、記録のしかたなど紹介されている小技も、いろいろコミュニケーションに使えそう。

  • 歴史研究では文献資料(いわゆる史料)を用いるのが基本であるが、近現代に入ってくるとどうしても階層によっては史料が限られ、不明な事柄が多い。
    そういった事柄を補ってくれるものとして近年研究手法として注目されているのがオーラル・ヒストリーである。

    本書は、オーラル・ヒストリーの手法や事例を具体的に紹介している。御厨氏は、オーラル・ヒストリーは単なる資料としてだけでなく、自己評価のきっかけとなり、且つ説明責任を果たしうるものとしてデモクラシーとの関わりにおいても必要なものであるとしている。
    そういった意味で、御厨氏の定義した「公人の、専門家による、万人のための口述記録」は至極本質をついている。

    日本では自民党の一党優位体制の下で、一つの官僚組織や企業などが強固な一枚岩であった筈が、体制の崩壊とともに組織が割れて弱体化していった。
    そうした状況下で、従来とは異なり、組織の中における自分を客観的に見るゆとりが発生する。これが日本のオーラル・ヒストリーの展開に影響を与えた。

    欧米に比べるとまだまだ遅れているが、本書の事例や手法の検討を進めることで、オーラルの資料的な精度を上げていくことができるだろう。

著者プロフィール

東京大学名誉教授,東京大学先端科学技術研究センターフェロー

「2021年 『日本政治史講義 通史と対話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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