地域再生の経済学: 豊かさを問い直す (中公新書 1657)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (191ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121016577

作品紹介・あらすじ

地方自治体は膨大な財政赤字を抱え、地方の都市は均一化して特色を失い、公共事業以外に雇用がない…。地域社会は生活の場としても労働の場としても魅力を失い荒廃している。本書ではその再生に成功したヨーロッパの事例を紹介しながら、中心的な産業や重視する公共サービスなどがそれぞれ異なる、めざすべき将来像を提示する。そして日本型の生活重視スタイルを財政・政策面からどのように構築するかを提言する。

感想・レビュー・書評

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  • 財政学が専門の教授の本ということで、財政学色の強い本だった。
    財政学についての、教養はもちろん、基礎的な知識や概念を押さえることもでき、さらに財政学の重要性をわかった上で、日本において、どのように地域再生をすべきかを学ぶことができた。
    財政力とは、財政需要と課税力で決まること、地方自治体は、出入りが自由なために、所得再分配を実施するのは、出入りが不自由な国家(中央政府)となること、などが財政学の基本的な知識として役に立った。
    とりわけ、「公共財を民営化すれば、市場で供給することになる。つまり、そのサービスは購買力に応じて分配されることになってしまう。したがって、民営化するか否かは、それが欲望かニーズかが決定の基準となる。」(158頁より抜粋)
    これは、公共団体がいかに市民に寄り添うべきかを明確に示しているとともに、公共財、民営化が如何なるものかを表すまとまった明快な文章だと思う。
    地域の自然(環境)と文化の再生を軸にした、ボトムアップ型の地域社会再生の成功例として、フランスのストラスブールや、スペインのビルバオ、スウェーデン、高知市、札幌市、掛川市(静岡県)、湯布院町(大分県)などを取り上げており、その有用性と可能性を知った。上の成功例の都市に、ぜひこの本の内容を踏まえて、足を運びたいと思う。特に、ストラスブールの最新鋭の路面電車(LRT)は目を引くもので、軌道は芝生と共にいきている。ストラスブールでは、鉄道でさえ、緑と寄り添っているのだ。
    また、筆者は、地域再生は地方自治体が財政の自己決定権を持つ重要性を説いており、集権的分散システムから分権的分散システムに改めるべきだとも主張している。わかりやすい表現だ。
    地域で生活を完結できないから、地域は廃退していくとも書いていたが、本当にその通りだ。
    ヨーロッパの元工業都市における、地域再生の過程は、日本でも応用ができる現実的かつ健全なものであった。
    そして、ヨーロッパの地域再生、もっと言うなら、本書において、はずせないキーワードには、「サステイナブル・シティ」というものがあった。ヨーロッパでは、持続可能な地域社会は、市場メカニズムに依存しない、(自己決定権を持った)市民の共同経済によって創ろうとしているのだ。そこでは、「補完性の原理」も徹底されている。それは、「個人ができないことは家族が、家族ができないことは市町村が、市町村ができないことは県が、県ができないことは国が、国ができないことはEU(欧州連合)が」(本書107頁より抜粋)というものである。
    つまり、「公的部門が担うべき責務は、原則として、最も市民に身近な公共団体が優先的にこれを執行するものとする」(本書107頁より抜粋)のだ。実際に、ヨーロッパで地域再生が成功している地域の自治体は、財政の自己決定権を持つ。住民に一番近い団体が、ニーズに答えてくれるため、住民の福祉水準も高い。
    色々、書いたが、細かい理屈よりも、ヨーロッパの都市に習って、地域の環境に配慮をし、もっと地域の文化や、自然といった、地域のアイデンティティー(自己同一性)を振興して行かなければ、愛する地元は死んでしまうということをよく考えてみないといけないと思う。
    地域再生に関心がある人には、ぜひ読んで頂きたい。

  • 2002年刊行。◆非市場経済分野を主たる分析対象とする財政学。同分野のうち地域共同体の過去の道行と現状、将来像を提示する。◇各国の実例、日本の例をふんだんに示しているのは良。ただ、将来像が、理想主義的・桃源郷的な感はある。もちろん、こちらに税政、税金投入の対社会効等の基礎知識が足りないせいもあるが…。◆著者は東京大学大学院経済学研究科教授。

  • タイトルが違う 地域再生の財政学が適切かと

    「地域経済の再興」と「地方分権の財政運営」は両輪である、との指摘はその通りであるが、
    経済の論説が物足りなかった。

  • ※メモ

    【きっかけ】
    地域経済について積読だったものに着手。

    【概要】
    地域経済の問題と財政構造について。

    【感想】
    古くて狭い。
    かつ、ヨーロッパ礼賛信仰の域を出られず。

    ネット社会の進展の大幅な進歩があったことは、出版時と現状の違いではある。
    それは織り込まれていないとしても、官・政を変革の責任者として置いている点は、今の目から見ると果たしてそれでどうなのという印象になる。
    空間としての都市については、付け焼刃で論じている印象をぬぐえず。

    地方財政の構造と中央との関係の入門にはなった。

    時代的に、反郵政民営化の論調を感じる。

  • 請求記号:SS/318.6/J52
    選書コメント:
    現在、今まで我々の生活を成り立たせてきた様々な既存の「仕組み」が、その限界を見せ始めています。そこで、今後、我々が目指すべき社会や経済のあり方について、人々の生活基盤となる地域社会に焦点を当てて論じられています。雇用や産業といった経済的な側面から、政府のあり方やライフスタイルといった様々なテーマについて考えるきっかけを与えてくれる内容となっています。
    (環境創造学部環境創造学科 齋藤 博 准教授)

  • 正直言って、特に税の部分は不得手であるので、難しかった。
    が、今の地方創生に通ずる。ていうか、そのものであった。
    10年以上も前に書かれている。さすがは、神野先生だ。

  • 日本の地域がどうして縮小していったか、東京、大阪名古屋の大都市にどうして人口が集中するのか。

    その経緯を経済学の観点からまとめた一冊。

    少し難しくて、あんまりインプットできなかったけれど、、

    大都市には人口が集まるけれど、生活機能はないので、ホームレスや生活保護者など、生活に困窮する人が多いらしい。

  • 財政とは市民が支配する共同の家計である。財政では、市民の共同負担によって、市民の共同事業が実施されていく。
    工業によって荒廃した都市を、人間の生活する「場」として再生しようとするヨーロッパの地域再生では、財政による市民の共同事業として、自然環境の再生が最優先される。つまり、工業によって汚染された大気、水、土壌を蘇らせることが、市民の共同事業の中心テーマとなる。(p.10)

    そのため工業社会では、経済の本質が蔽い隠されてしまう。繰り返せば、経済とは人間が自然に働きかける行為である。ところが、工業社会では人間も自然も排除しようとする方向に動くのである。(p.38)

    財政学的アプローチを現在の視点から学び直せば、非市場経済の重要性を忘れてはならないということである。確かに、市場経済を拡大させ、大量生産・大量消費を実現させ、飢餓的貧困という災禍に苦悩することは解消した。しかし、それも強制的結合にもとづく共同経済、つまり財政が福祉国家として機能することを前提としていたのである。(p.50)

    福祉国家は中央集権国家である。人間の生活が地域社会における人間の絆で支えられているのではなく、遠い政府の参加なき民主主義によって保障されることになる。
    そのため地域社会への帰属意識は薄らいでしまう。地域社会での自己の存在をアイデンティファイすることもできなくなる。地域社会同士の連帯の上に、国民国家が統治するという姿は見えなくなる。(p.60)

    地域社会には人間の暮らしがあり、伝統的文化がある。それぞれの地域社会には食の文化があり、食の文化にもとづく食生活は地域社会の食の生産と結びついている。(p.83)

    人間の育成はあ共同体の相互扶助として実施されてきた。というのも、人間の育成そのものが、人間が社会を組織する目的だからである。人間の育成は生産のために行われるわけではない。その逆である。人間を育成していくために、人間は生産を行っている。しかし、人間の社会の目的である人間の育成が、生産の前提条件となり、社会の構成員が共同作業で担わざるをえなくなる。(p.147)

    行政改革といえば、内部効率性のみを追求しがちである。しかし、地方財政では外部効率性のほうが内部効率性よりも重要である。外部効率性とは地域社会のニーズに合っているかどうかという効率性である。ニーズに合っていない公共サービスをいかに安い価格で生産しようとも、それは無駄であり、非効率である。(p.158)

    里山の保護は自然環境の保護にとどまらない。自然と共生してきた日本の文化の保護でもある。つまり、里山条例は「潤いと安らぎのある都市環境を形成」する目的で、「人と自然の豊かな触れ合いを保持する」だけでなく、人と人との触れ合いの保持ともいうべき「歴史および文化を伝承するため」でもある。(p.174)

  • 第一に欲望かニーズかの問いかけ。第二に社会資本という言葉の意味が現在の日本でどのように捉えられているのかということについて。

  • ポスト工業社会を知識社会と位置づけ、崩壊する地域社会を再生するための方策を考察している。そのためには、地域社会の共同経済たる「財政」に係る自己決定権を付与するべきとする。言わば、地域再生を目指すためにはまず地方分権を進め、地域のことを地域が決められるようにするべきということか。
    本書が書かれたのは2002年だから、この時には機関委任事務は廃止されていたはずだが、さらに自己決定権を高めよということなのだろうけど、具体的にどのような面の自己決定権を高めればよいのか、必ずしも明らかではなかったかなと思う。もちろん読み飛ばしてしまったかもしれないが…
    社会史というんですかね、日本の経済や社会の変遷について学べたのは良かった。まさに工業社会から知識社会へと変わった今、過去を振り返り将来を考えるという意味では、読んでよかったと思われるところである。

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著者プロフィール

神野直彦(じんの・なおひこ)
日本社会事業大学学長、東京大学名誉教授(財政学・地方財政論)
『システム改革の政治経済学』(岩波書店、1998年、1999年度エコノミスト賞受賞)、『地域再生の経済学』(中央公論新社、2002年、2003年度石橋湛山賞受賞)、『「分かち合い」の経済学』(岩波書店、2010年)、『「人間国家」への改革 参加保障型の福祉社会をつくる』(NHK出版、2015年)、『経済学は悲しみを分かち合うために―私の原点』(岩波書店、2018年)
1946年、東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学



「2019年 『貧困プログラム 行財政計画の視点から』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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