物語イランの歴史: 誇り高きペルシアの系譜 (中公新書 1660)
- 中央公論新社 (2002年9月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121016607
感想・レビュー・書評
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ロシアとイギリスとアメリカとの関係に悩まされる近代史は興味深い。
しかし、出版年の関係で、アフマディネジャド政権への言及がないのは残念。
本の構成としても近代に偏りすぎている気がする。それ以前はそこまでの歴史的見所はないのだろうか?詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
“イラクの次”と言われ、今アメリカから最も敵視されている国イラン。
しかし高校の世界史ではインドやトルコ=イスラームに囲まれて
いまいち扱いがマイナーな地域
そんなイランの概略を何とかつかめはしないかと手に取ったのがこの本です。
で、この本の感想ですが、私のレビューの前にこの本の章立てをみてください
序章:イラン人の日常生活と文化
1章 ペルシア帝国の栄光とイラン文化の形成
2章 イラン文明のイスラームとの融合
3章 西欧帝国主義との出会いと宗教社会
4章 民族運動の台頭と挫折
5章 イラン‐アメリカ相互不信の背景
6章 イランの伝統文化の探求
7章 模索するイランのイスラーム
終章 イランはどこへ向かうのか
古代から第2次大戦までの流れを3章でまとめてます
読み終わって知ったのですが、
アマゾンのレビューでも2ちゃんねるでもこの本はさんざんたたかれてます。
さもありなん、この本を手にした人間のほとんどはイランの通史を知りたいと思った人でしょう。
しかしいざ読んでみると20世紀半ばまでの歴史は教科書に毛の生えた内容程度。
遊牧系イラン人のたてたパルティアや、イラン系イスラーム王朝であるターヒル朝、サッファール朝、サーマーン朝については名前だけ。
イラン人がたてた訳じゃないけどイラン地域を支配した諸王朝については何もなし。
多少ページを割いているのは(パフレビー朝は第1次大戦後に建国されて1979年の革命までの王朝だからほぼ現代史に当たるので除外すると)
アケメネス朝、ササン朝、サファヴィー朝、カージャール朝だけ。
これじゃイランの歴史は通時的に理解できません。
ちょっくらイランを支配した国を並べてみましょう
前2000紀末 アーリヤ人の侵入
前1500年頃 エラム人
前7世紀 アッシリア→メディア
前6世紀 アケメネス朝
前4世紀後半 アレクサンドロス大王の侵入
前4世紀末 セレウコス朝シリア
前3世紀 アルサケス朝パルティア(東部は一時バクトリア)
3世紀 ササン朝ペルシア
7世紀 イスラーム勢力の侵入
7世紀 正統カリフ時代→ウマイヤ朝
8世紀 アッバース朝
10世紀 ブワイフ朝
11世紀 セルジューク=トルコ
12世紀末 ホラズム朝
※9世紀から10世紀頃、イラン系の民族が中央アジアにターヒル朝、サッファール朝、サーマーン朝を建国
13世紀 モンゴルの侵入
13世紀 イル=ハン国
15世紀 ティムール帝国
16世紀 サファヴィー朝
18世紀 アフシャール朝(一時東部はゼンド朝)
19世紀 カージャール朝
20世紀 パルレヴィー朝
現在 イラン=イスラーム共和国
これだけの歴史の流れの中にあったイランですが、
それをたった3章でまとめるのは無理があります。
しかも19世紀後半から現在に至るまでの歴史は異様に詳しい・・・
ちょっとアンバランスすぎました。
まあ、それでも日章丸事件※1を詳しく紹介してくれるなど
おもしろいエピソードなども盛り込まれていたのですが、
正直な話著者の専門は国際政治と現代中東論(静岡県立大のHPより)ですから
このような内容になってしまうのは仕方がないと思います。
すべては出版社の人選が間違ってたんでしょうね。
結論を言いますと、この本は『物語 近現代イランの歴史』としたほうがしっくりきます。
※1 イランの石油はイギリスのメジャー(世界的石油企業)が支配していたが、1951年イランの首相モサデクが国有化を宣言。それに反発したイギリスやアメリカがイラン産石油の市場締め出しをはかる。
イラン産の石油の値段が下がったのをみた日本の出光興産は同社が持つ石油タンカー日章丸をイランに送り、石油の買い付けをはかる。サンフランシスコ条約による独立間もない日本は、経済復興とアメリカに依存しない石油戦略を図るため、米英の反対にもかかわらずこれを承認。
(外務省は「出光興産によるイラン石油の買い付けは一私企業の行為であり、政府としては介入できないという意見を出す)
こういうのをプロジェクトXでやってほしかった・・・