オールコックの江戸 初代英国公使が見た幕末日本 (中公新書 1710)

  • 中央公論新社 (2003年8月25日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (272ページ) / ISBN・EAN: 9784121017109

感想・レビュー・書評

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  •  江戸時代末期に英国公使だったラザフォード・オールコックの人生を切り取った本。英国公使の視点で見ることで日本史で習った幕末の違った見え方を知ることができる。オールコックという人物をこの本を読むまで知らなかったが日本の歴史に水面下で大きな影響を与えている。教科書では直接歴史を動かした事件、人物で一杯一杯になっているから歴史の裏舞台を知ると今までの歴史観が変わる。
     オールコックと幕府の外国奉行とのやりとりを見ると、幕府はただ外国に押されてばかりではなかったのだということが分かる。特に神奈川を開港する条約を結ばされて横浜村を埋め立てて神奈川と言って通したのは面白い。外国人商人をうまく利用して政府代表の口を閉じさせた見事な手腕を持つやり手が幕府の中にもいたのだ。最近だと「竜馬伝」で幕府は外国の言いなりで攘夷派の敵というイメージが強かったが、実際には国を守るために奮闘していたようだ。
     オールコックは日本の治安、幕府に対して不満を通り越して怒りを覚えることもしばしばだったが一方で日本の生活様式、自然、工芸品などに魅せられていた。著者は「オールコックの強みは、何か一つの面についての不満や怒りが、他のすべてを否定的な色で包んでしまうことがないところにある。」と述べている。
     この時代の特徴として通信手段が発達していなかったことが挙げられる。スエズ運河までは電信が通っていたがそこより東は船で手紙を運んでいた。日本から英国には片道2か月を要したという。この「時間差」は様々な事件に関わり、時代の流れを左右する重大なファクターだっただろう。
     さて1861年、幕府は新潟、江戸、大阪、新潟、兵庫の開港開市の延期を求めていたが当初オールコックはこれを拒否していた。しかし老中との秘密会談が実現したことで当時の幕府の置かれている状況を正確に理解し開港開市の延期を容認する姿勢に変わった。オールコックはこの時の秘密会談に非常に大きな感慨を感じたようである。
     時を同じくして英国で万国博覧会が開催され日本の参加の可否を問う手紙が届いた。オールコックは日本を国際舞台でアピールするのと開港開市の延期の交渉を同時にやろうと考えた。様々な困難を乗り越えた末この計画は概ね成功したと言えるが日本に帰ってきた遣欧使節団を待っていたのは幕末の動乱だった。幕府はその時遣欧使節団の報告に耳を傾ける余裕などなかったのである。
     もし攘夷運動が盛り上がるのがもう五年遅かったなら遣欧使節団の経験がいかに生かされたであろうかと想像してしまう。歴史とは常にそういったタイミングの交錯の繰り返しなのだろう。改めて今ある社会の成り立ちを知ることが大切だと感じた。
     

  • 初代駐日公使として1859年から1862年まで日本に滞在した
    オールコックを紹介する一書。
    作者のオールコックに対する思い入れが伺え、
    時に行きすぎでは、想像しすぎではと感じる場面もあるが
    全体的に読みやすく、内容をすっと読み込める。

    オールコックの果たした役割を分かりやすくまとめており
    日本に対して実際に国際社会に関わりを持たせる、
    自覚を得させることで、日本国内における
    政治的駆け引きとしての「外交」から解き放ったという説明は、
    なるほど読んでいて合点がいくものであった。

  •  筆者の研究対象への愛情がありありと分かる作品だ。これは明らかに歴史小説である。ただし、歴史学の手続きを踏んでいるので、信憑性は高い。高いがあくまでこれは研究者が小説家となって書いた作品と言える。
     オールコックが幕末の日本に来てどのような役割を果たしたのかについては同じ史料を前にしても全く異なる解釈がうまれるだろう。大英帝国の野望を持つものが未開の日本を傘下に組み込むための手段を考えないはずはない。ただ本書によれば幕府の不可解な制作決定機構に翻弄され、それでも日本文化に深い理解を示し、日本代表団をパリ万博に誘導して、国際社会へデビューさせた人物として描かれている。それは事実かもしれないが、本当の目的が日本をイギリスの影響下におくための画策であったと言えないことはない。
     薩英戦争にオールコックが関与しなかったこと、日本領事退役後のあり方など、歴史の空白とも言える部分の説明が少々不足しているのではないか。
     その上で本書は緻密な研究を積み重ねた筆者が歴史小説家のように一人の人物の姿を描ききったところに良さがある。案外歴史とはこういうものかもしれない。

  • 日本に初めて英国駐留公使として派遣されたオールコックの半生記。まだ日英の辞書も通訳も存在せず、攘夷派武士に斬り殺される危険もあった時期の日本で、粘り強く外交を続け、ロンドン万博への日本代表派遣などの実績を残した。19世紀末に欧米人と日本人が出会うのは宇宙人との交信ぐらい勇気が要っただろうと思う。全くの手探り状態から、互いの知性と論理を通わせ、ついにはヨーロッパへの長旅を共にするまでの信頼関係を築くに至った英国公使と幕僚たちとの心中を思うとワクワクする。

  • [評価]
    ★★★★★ 星5つ

    [感想]
    オールコックは以前に読んだ「大君の通貨」という書籍の中で開港地や為替レートの問題で幕府と激しくやりあった人物だったのだが、この本を読んだことで印象が大きく変わった。
    この本でのオールコックは駐日総領事になる前は中国で長く領事を努めていたベテランで中国での実績を認められての初代駐日総領事に任命されたこと。また、短期的な利益よりも長期的な利益を考慮し、英国と日本の良好な関係を構築することが両国にとっても良い結果になるという信念を持って行動していることがよく分かる内容だった。
    また、日本国内を旅行し、日本の文化や風俗をつぶさに観察し、西洋人の視点から記録を残し、かなり良い印象を残していることは以外な事実だった。
    さらには遣欧使節団の派遣に合わせて日本の万博への参加を促し、国際社会への第一歩を踏み出させてたという点で日本にとっては大きな一歩になったと思う。
    最後に本書の中心的な内容ではないが通商条約できめられた神奈川の開港を横浜に交易に有利な都市を新たに構築することで既成事実とする手法は一般的な通説とは異なる老獪な幕府は印象に残っている。

  • 初代イギリス総領事オールコックの書簡などから彼が幕末激動の日本で総領事として どう幕府と交渉したのか、どう庶民と接したのか、どう長崎/江戸/横浜で過ごしたのか、日本人をどう思ったのか、がわかって面白い。
    やっぱり攘夷での襲撃にはかなり不安だった様子。通行の自由は欲しいものの、襲撃から保護するためにも居留地区に押し込めようとする幕府への反発。権利にはリスクも伴う という現実的な例。

  • 初代英国公使、ラザフォード・オールコックの江戸在勤時の暮らしぶりや、彼の仕事、その上での喜びや苦悩が小説調で綴られる。
    西欧人にとっては「未開の地」に等しかった日本。
    そこで過ごす彼の目線から見た、幕末日本の様子が新鮮。

  • オールコックという人は,パークス+サトウらに較べ,日本に赴任していた時期がちょうど大政奉還直前ということと,「大君の都」という著書の所為か,外交官としてよりもアマチュアの教養人というイメージが強かったのだが,本書ではこの短い赴任期間を中心にオールコックが携わった数々の外交活動を紹介する事で,多くの蒙を啓いてくれる.

    英国政府がオールコックに下した命令書もいくつか訳されて紹介されているが,やはり侵略主義的な意向は持っていなかったことを再確認した.

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著者プロフィール

京都大学教育学部教授

「2018年 『英文翻刻・注釈版 駐日英国公使パークス・英国外務次官ハモンド往復私信 幕末期編 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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