戦後和解 - 日本は〈過去〉から解き放たれるのか (中公新書 (1804))
- 中央公論新社 (2005年7月26日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121018045
感想・レビュー・書評
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日本と「戦勝国」の戦後和解の模様を特に東京裁判を軸に論じている新書。色々と興味深く読ませて頂いた。ただ、ちょっと表現が時に意図的なのか、素直に書き過ぎているのか、論争的な問題を扱うにしては、注意不足な言い回しであったりするような気がする。全体として、妥当な主張、妥当な議論なので、本書がイデオロギー的な新書だと指摘される事はあまりないと思うが、その点が気になったのと、もう一つは、ちゃんと論文レヴェルでも典拠をちゃんとしないさいよという話。これはさ、「〜〜と受け取られた」とか「〜〜という印象を与えたはずだ」という場合も、少なからずそう思う根拠を明示しないと行けないし、捕虜等の当事者でもないのに、彼らの気持ちを代弁しているような表現が見られたりしたけど、そういう点もどうしてそう思うのか、エヴィデンスを提示しないとね。
ただ、それなりに面白く、本書そのものというより、自分の研究の異なった側面に注目する機会を与えてくれたような気がする。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日英・日中関係を掘り下げ、過去を見、未来を予想する。
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このあたりは私の高校の時の卒論のテーマ「歴史認識の二重構造」の参考文献。
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2005年におきた日本を取り巻く国々で発生した出来事の中で、特に印象深い人が多くいただろうと思うのが、中国での反日デモの激しさだったと記憶している人も多かろうと思います。
著者は、この日中間の火種を解決して、現代における過去から解き放たれるのかどうかを論じています。読んでみて印象的だったのは、日中間の対立を論じるために日英間での戦後の確執や対立が1990年代になってようやく解消され始めた点に注目し、同じような時間を経過した同じ戦後の問題をどうして日英間では解決できて日中間では解決できないのかを明らかにしようとします。
読んだ感想としては、日中間の問題を解決するために紐解かれた日英間での関係改善にむけてなされた努力から得られた教訓を、日中間の問題にうまく適応できていない感があります。
ですが、日英間での戦後補償や謝罪にかかわる国家間問題がつい10年ほど前までぎくしゃくしていた事実をイギリス側からの視点で描いている点がまずは新鮮でよかったです。
当時イギリスの植民地だった東南アジアの国に攻め込んだ日本は、泰緬鉄道での重労働を通じた非人道的捕虜取り扱いをおこないました。そこでの経験が、実はアジアとヨーロッパという地理的も違い、もちろん文化や思考も違う国々とを共通の体験を通じて日本に対する批判や非難の意識を共有化させた部分などは、考えさせられるものがあります。
ですが、そうした精緻な日英間の研究を日中間での問題解消に結びつけるとなるとやはり難しいですよね。しかも、以前とは状況がまったくことなり経済でも政治面でも日本と中国が相競う状況になるときに、本来ならばそれらとは分かたれてかんがえられるべき歴史問題を同列で論じていることも気になりますし、同列で論じないようにするにはどうしたらよいかという点への言及もありません。
新書であるためにページに限りがあるのですが、肝心の論点の帰結となる日中間問題への応用可能性があまり感じられないので3点とします。でも日英間の戦後における和解プロセスについては大いに参考になりました。 -
この春以来この手の本ばかり読んでいる。日本と中国の和解はいかにしてできるかを日本とイギリスとの個人レベルでの和解
を通じて提案する。イギリスの捕虜達が日本人に恨みをもつのはもちろん過酷な労役があったのだが、それ以上に自分たちより以下と思っていたアジアの人間に使役されたことの方が大きいだろう。また、中国の政府がその正当性を日中戦争での輝かしい勝利に頼っている限り、真の和解はできない、中国がそれ以上に晴れがましい成功を収める必要があるというのは理解はできるが、かなり先のことのような気がする。