西太后―大清帝国最後の光芒 (中公新書)

著者 :
  • 中央公論新社
3.83
  • (23)
  • (25)
  • (33)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 253
レビュー : 29
  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121018120

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 本書は大変上手に読ませていく。読みはじめると止まらない。
    まず、西太后を理解しなければならない理由が明確に述べられる。それは西太后が現代中国を知る上で如何に重要だからである。清朝末期が領土的にもナショナリズム的にも現代中国の原点であり、清朝末期こそが西太后の時代であった。実質的な建国はアメリカ合衆国より短いとまで言われている。
    また、西太后をめぐる俗説の紹介が多数ある。史実ではないにしても西太后の人となりや当時の雰囲気をイメージすることができ面白かった。解説のなかで比喩や比較に中国史の有名人物を多用することも読んでいて面白い理由のひとつである。ヴェーバーの統治形態の類型をつかうことも理解をたすける。

    西太后のグロテスクなまでの理想の生活への欲求と、近臣のあまりのやる気のなさがシンクロして、奇跡的な西太后長期政権が現れたように見える。しかし何よりも、他を圧倒するオーラなりカリスマ性がすごかったのだろう。

  • 蒼穹の昴の影響で読んでみた。西太后の人となり、清朝末期の歴史もつかめた。とても読みやすく勉強になった。

  •  際物的興味で手に取ったが、読みやすくもちゃんとした歴史書だった。筆者は西太后を、呂后や則天武后と異なり「女性的な権力者」と位置付けている。その「野望」は、国を強化し戦争に勝つことよりも、ご馳走・旅行・祝いといった「至高の生活文化」満喫であり、排外主義は思想や論理に基づくものではなく多分に感情的なものだったというのだ。筆者は断言を避けているが、だからこそ国が滅亡するほどの列強との正面衝突を避けられ、清朝の多少の延命が図られたということなのだろうか。
     筆者は義和団をその後の抗日戦争や文革の大衆狂乱に、変法新政を改革開放になぞらえ、西太后の時代を現代中国の「小規模実験工場(パイロット・プラント)」と呼んでいる。やや安易なたとえとも思えるが、一つの視点だろう。
     また、自分は現在の一元的な中国共産党歴史観には批判的なつもりだったが、西太后=怪物、光緒帝の変法自強=正義、といった先入観があり、知らず知らずのうちにその歴史観で見てしまっていることに気づかされた。本書を読んで、西太后への印象は、怪物というより、多分に感情的で贅沢好き、権力の匂いにまずまず敏感な人物、という、以前の先入観よりは割と他の時代や場所にもいそうな人間というふうに変わった。

  • 面白かった。
    西太后は、女性的な専制君主だった、というのが筆者の基本的認識。
    皇帝の母として、息子にかしづかれたいという願望のみで、決して自らが皇帝になる希望はなかったという。

    少女期から、その死までを、丁寧に資料にあたりながら描き出されている。
    巷間に流布している話も、これは根拠がある、これはない、とされていく。
    清朝の統治システムが、それまでの王朝に比べ高度に完成されていたことの指摘が最初にあるので、西太后の行いがどの程度の異例さなのかが理解できる。

    西太后の読み書きのレベルがについての話が興味深い。
    中級の書記官の家の生まれたため、文書の読みはそれなりにできたけれど、書くほうは当て字なども多かったとか。
    こういった、これまで聞いたことのなかった話がたくさんある。
    他にも、東太后は愚昧ではなかったとか、西太后が熱河から帰還した際に、通る道を整備した事業がどの程度のものであったかなどは、具体的な様子も分かって面白い。

    この手の本の中で、本書が親切だと思えた点がある。
    人名が出てくる度にちゃんとルビが振ってある。
    一度出てきたら二度とは振らないという本が多い中、この配慮はありがたい。

  • 西太后といえば、幼少の皇帝を操り、政治は二の次で自らは贅沢三昧、それが清国滅亡のきっかけとなった。というのが歴史的評価だが、著者はそれに異を唱える。むしろ、この時代に女性がトップについたことは中国にとって幸運なことであり、結果的に中国はインドや東南アジア諸国のように完全に植民地支配されず、独立を保つことができたというのが著者の意見。

    西太后が贅沢を好み、国費を無駄にしたのは事実だが、彼女の欲望はそこまでだった。もし、彼女が中国の歴代男性権力者のように、自分の権威を示すために有能な家臣を殺害し、侵入してくる外国への挑発、戦争を繰り返していたら、中国は内乱やクーデターの連続でやがて列強から分割統治されていただろう。西太后が権力を維持した目的は自らの豪華な生活を維持したいだけだった。

    こうした身の回りのエゴだけに徹した女性が50年間中国を支配したことは、中国にとって結果オーライだった。

  • 西太后の生涯。
    現代の日中関係の基盤は西太后の君臨した清朝末期から築かれていた。
    読みやすくて面白かったです。

  • 西太后が権力を掌握した清末に、現代中国の基礎が確立されていた点が興味深い。

  • [中華蒸留]中国史上において類い稀な 女傑として広く知られながらも、現代中国では国の衰亡をもたらしたとして評価が低い西太后。近年明らかになってきた、長きに渡り中国を治めてきた彼女の驚くべき半生を通し、中国の歴史意識や世界観にまで踏み込んだ意欲作です。著者は、『京劇』で第24回サントリー学芸賞を受賞した中国専門家の加藤徹。


    このような人物がわずか一世紀ほど前に存在し、あの広大な領土を統べていたというのがまず驚き。政治や軍事に限らず、一私人としてもエピソードに事欠かない西太后という存在を通して、近代中国を興味深く学ぶことができるかと思います。著者が指摘するように、現代中国との奇妙な類似も見せる西太后の治世は、今日の中国を考える上でも欠かせない点かもしれません。

    また、本書がただの歴史書に終わらないのは、著者が西太后という一つの物語から中国的なものの本質的を捉えようと試みているからだと思います。例えば、義和団事件の際に北京から逃げ出した西太后が、連合軍に敗北を喫したにもかかわらず都に凱旋する場面があるのですが、著者の下記のような解説を読むと、何故の凱旋なのか、そして勝者感がいったいどういうものかというのが如実に浮かび上がってきます。

    〜いったい彼女は誰に勝ったというのか。そのような疑問を持つのは、中国政治の常道を知らぬ野暮な外国人だけである。彼女は勝ったから凱旋したのではない。凱旋したから勝ったのである。〜

    久々に中国に関する作品を読みましたがやっぱり面白いですね☆5つ

  • 徹底的な男尊女卑社会であった清の時代において、如何にして中堅官僚の家系の娘が中国全土の権力を牛耳るに至ったのか。イメージが先行して稀代の悪女として語られがちな西太后の人生を、歴史的事実から追う一冊。
    中国の王朝は大体200年ほどで交代するというが、清の王朝時代の末期であり、また19世紀後半という海外との関わりあいを無視できない時代においては、例え悪政をしかなくとも変わらないことが罪になるということか。徹底的に個人の利益しか考えない西太后が困窮しつつも権力を失わなかったのは、自らを縛る清朝のシステムにより、大したことは出来なかったが、大したことをしなかったおかげで生きながらえたようにも見える。
    しかし、牧歌的に見える田舎国家に突然西欧が殴り込みかけてくるこの時代の激動さは、どの国の視点に立っても面白い。昨今の教科書ではどのくらいの記述があるかは知らないが、ろくに学べなかった自分としては、積極的に補完していきたい次第。

  • 中国の政治の常道として、カリスマ的政治家は実務派政治家を失脚させたり復活させたりして、彼らに権力が集中しすぎぬよう調整する。西太后はそれを誰から教わったわけでもなく、暗黙知的に体得していたのであります。臆面もなく人を失脚させたり自尽に追いやったりする振る舞いに凄みを感じます。蛇足ですが、P254に掲載の女史の写真の顔が漫画家の蛭子 能収氏に見えてしまうのです。

全29件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

明治大学教授
著書に『貝と羊の中国人』(新潮新書)、『漢文力』(中公文庫)、『絵でよむ漢文』(朝日出版社)、『京劇  政治の国の俳優群像』(中公叢書・サントリー学芸賞)、『本当は危ない「論語」』(NHK出版新書)、近著に『日中戦後外交秘史』(新潮新書・共著)ほか多数。NHKラジオ中国語講座の講師を歴任。

「2021年 『漢文で知る中国 名言が教える人生の知恵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

加藤徹の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
遠藤 周作
フランツ・カフカ
三島由紀夫
和田 竜
有効な右矢印 無効な右矢印

西太后―大清帝国最後の光芒 (中公新書)を本棚に登録しているひと

ツイートする
×