戦う動物園: 旭山動物園と到津の森公園の物語 (中公新書 1855)

制作 : 島 泰三 
  • 中央公論新社
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感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121018557

作品紹介・あらすじ

旭川市の旭山動物園は、いきいきと活動する動物の姿を強烈に印象づける「行動展示」で注目を集めている。一方、北九州市・到津の森公園は、一度は閉園したにもかかわらず、愛着を持つ地域住民の活動により、市民が支える動物園として劇的な再生を遂げた。ふたつの動物園の園長は、苦難の時代にあって使命を忘れず、わずかなチャンスを形あるものに変えた。両動物園の園長が語る、人と動物と社会のおりなすドラマ。

感想・レビュー・書評

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  •  閉園の危機に瀕した2つの動物園は、方向は違っても復活を果たしました。ある動物園は”動物園人”の不屈の精神によって。ある動物園は市民の大合唱によって。

     この本の中で、動物園は子供たちのための場所だと言われています。つまり、ゾウやキリンなどの動物たちは本の中だけに存在するのではなく、いま実際に生きているものたちなのだということ……それを実感することで、驚きや感動を得る場所が動物園なのだということです。そしてそれは、子供だけでなく大人にとっても新鮮で、大切なものなのでしょう。

     ちなみに個人的に面白いと思ったのは到津遊園の事例です。市民の要望を聞いて行政が民間企業から動物園を譲ってもらうという、(当時の)民営化の流れに逆らう物語が面白いと思いました。

     本書は、動物園の再生劇であると同時に、到津の森公園のケースは、民間企業が出来なかったことを、行政と市民が実現していった物語でもあります。面白く読める一冊だと思います。

  • いいタイトルだ、と思って読みはじめると、その密度の濃さに驚く。動物園と行政との、政治との、時代との、戦いが描かれている。旭山動物園と到津の森公園に近い諸賢は必ず来訪すべし。

  • 社会と動物園の関わりを考えるのに適していました。これからも動物園が社会から望まれるものでありつつ、そのことを利用して来園者に動物とのふれあい以上のことを伝えられる場所であったらなあなんて思います。きっとみんなが考えるより動物園というのは切実だから。

  • 廃園を意識しながらも凄まじいV字回復を果たした北海道の旭山動物園、廃園しながらも市民らのサポートで存続が決まった北九州市到津の森公園。

    両園の奇軌跡をたどった作品。

    旭山の小菅園長は、性格上、全て勝ったか負けたかで考えるところがある。新しい視点で見習いたい。負けない戦いができる恍惚さもある。

    到津が市民に支えられた園だなんて知らなかった。現在はどうなっているのだろう。

    両園の軌跡に心打たれるばかりか、印象的だったのは、最終章だった。

    林間学校での一幕。
    蚊に刺された子の足に親が塗り薬を塗ってやる。子はそれが終わってもありがとうのひとことさえ言わない。自分が王様だと思っているからで、それでは母親のことを自分より大切な存在だなんて思わない。
    核家族では、父親が帰ってこないから、人工保育状態で、子が王様になる。それでは親への感謝なんて持てない。
    人間に育てられたチンパンジーはチンパンジーではない。社会的環境でしかチンパンジーにはなれないのだ。

    過保護な親によっては、子の友達を選別しようとする輩がいるが、それは違う。高度な社会関係がないと人間ではなく、化物に育ってしまう。

    岩野園長「人と比べて自分は。。と思うこともあったが、これが自分のいいところだと思うのには時間がかかった。」

  • 動物園って、いいよね。

  • 旭山動物園と到津動物園の園長たちの回想が綴られている。
    良く経営学で取り上げられる題材だけれども、関係者との実際の生々しい駆け引きややり取りが記されている。この人達がしたことって一言で言えば本質を伝える工夫をしたってことだろうか。何が本質でどうすれば本質を見せることができるだろう?

  • 動物園で動物を見せる意義
    チンパンジータワーでの事故
    K大のMに批判的

    手術が上手い小菅園長

  • <閲覧スタッフより>
    行動展示の旭山動物園。市民の動物園、到津の森公園。北と南に位置する、2つの動物園の“復活”までの軌跡。苦難にたたされた園長2人の話から、動物園の実態や取り組み、そこで働く職員の姿を垣間見ることができます。何を思い、どんな動物園を目指してきたのか。
    その足取りを追います。
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    所在記号:新書||480.7||シマ
    資料番号:20083532
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  •  旭山動物園の元園長さんと到津の森公園の園長さんが何回か対談したものを、到津の森公園の実兄でサルの専門家である人が、雑感も交えて編集したもの。性格の異なる二人の園長の、動物園人としての思いが、2つの動物園の歴史と併せて語られる。
     旭山動物園の方は6年前に1度行ったことがあって、その後に本も2冊読んだので、ドラマチックなその歴史についてはそれなりに知っていたが、もう1つの到津の森の方は、この本の中盤に差し掛かっても、読み方なんだっけ?という感じで、聞いたこともない動物園の話だった。正直、知っている分だけ旭山動物園の方の話の方が面白いと思ってしまうが、到津の森の園長さんの人柄がまた面白そうだなと思った。
     「戦う動物園」の「戦う」とは、「あるべき動物園の姿」に向けての戦いということで、「人間が管理するのに都合のよい特性をもち合わせていない」(p.32)野生動物と、もともと野生の環境を実現できないという性質を内在している動物園がどう折り合いをつけていくかという、野生動物と飼育員との戦いがある。動物園とは「野生生物を人間とともに生かしつづけるための戦場である」(同)。そして、動物園の経営をめぐる行政との対立という意味での戦いがあったり、エキノコックスを悪意を持って報道したり、あるいは「立つレッサーパンダ」や「アシカショー」など、見せ物でありショーとして動物を利用しようとするメディアや一般大衆との戦いがあったりする。そんな数々の戦いを交えて来た2人から、「本物になるためには『これほどつらいものか』と思うほどの試練がある。人は自分の好きなことを実現するためには、針の目をくぐる努力をしなくてはならない。」(p.96)という「思いもよらない不運に立ち向かう覚悟」(同)について、「勝負をかけたら、負けてはいけない」(p.124)という「負けない」戦をする必要について教えられる。
     動物園そのものよりも、二人の職業人としての姿勢が勉強になる本。(16/05/08)

  • さすがは『安田講堂』の島先生。感情を揺さぶる熱い文章である。

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著者プロフィール

札幌市円山動物園参与、北海道大学客員教授

「2022年 『NHK子ども科学電話相談 動物スペシャル!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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