シーア派: 台頭するイスラーム少数派 (中公新書 1866)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121018663

作品紹介・あらすじ

イスラーム教の二大宗派の一つだが、信者は全体の一割に過ぎないシーア派。しかし、イラン、イラク、レバノンなどでは多数を占め、挑発的な指導層や武装組織が力を誇示し、テロリズムの温床とさえ見られている。政教一致や民兵勢力といった特異な面が注目されるが、その実態とはいかなるものなのか。彼らの起源から、多数派のスンナ派と異なり、政治志向の強い宗教指導者が君臨するシステムを解明し、その実像を伝える。

感想・レビュー・書評

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  •  中東、特にイランへの興味が止まらない。
     後半部分、近現代のイランにおける宗教観について書かれた章を中心に読んだ。特に興味深かったのが、2003年にイラン在住の若者(15-29歳)に対し行われた意識調査の結果。それによると、彼らが金曜礼拝に行くことは滅多になく、それどころか死者の追悼行事以外でモスクを訪れること自体、ほとんどなくなっている。さらに、礼拝をしなくてもこよい心でいれば敬虔なイスラム教徒だと言えると思うと答えた者が4割以上、政教分離主義者にも政府のポストを与えて良いと答えた者が5割以上に上った。イラン共和国はかつてより政教一致を推し進めてきたが、若者の現状はそれに反したものになっていると知り、これはわたしが持っていたイメージと離れていたのでなるほどと思った。

  • <シラバス掲載参考図書一覧は、図書館HPから確認できます>https://libipu.iwate-pu.ac.jp/drupal/ja/node/190

  • 【180冊目】シーア派研究の入門書。記述は2006年で止まっているので、アフマドメジャニ大統領の登場や、核合意、シリア・イラクにおけるISISの台頭とそれへのイランによる対処については書かれていない。また、長引く内戦とそれへの台頭、ロシアへの接近等によって国際社会からの注目を浴びることになったシリアのアサド大統領はアラウィー派とされ、これはシーア派の一派だとされている。何より、今やアラブ世界は2011年の「アラブの春」を抜きにしては語れない。そういう意味で、せっかくの2016年再版なので、この点についてアップデートしてほしかったなぁ……

    とはいえ、とても勉強になった。特に勉強になった点を簡単に3点。
    (1)シーア派とは何か、発生学的に・スンニ派との比較的で語ってくれる点:スンニ派とそんなに違うのかと常々疑問だった、だって、教科書的には第四代カリフ・アリーまでの正統性を認めるのかどうかだけが違うと書かれていて、なぜそれが現代まで尾を引くのかよく分からなかった。でも、たぶん大事な違いは、ウンマを率いる者や政治的指導者の正統性をどこに求めるのかっていうところにあるんだろう。
    (2)「イスラーム法学者による統治(ヴェラーヤテ・ファキーフ)」について:筆者が、ヴェラーヤテ・ファキーフは教義の解釈にの1つに過ぎないという点を強調している点が興味深い。1979年以降のシーア派しか知らないぼくとしては、むしろ政教分離が長いシーア派の歴史の大半だったのではないかということは意外だった。
    (3)なぜイランがあんなに嫌われているのか、1979年イラン革命後の「革命の輸出」の観点から説明。:なるほど。まぁ、ソ連時代の共産主義みたいなことですな。

    あと、シーア派に独特の宗教税(フムス=五分の一税)が、宗教的権威の独立性を保持するのを助けていたという話も大事なポイントかな!

  • イスラム世界で少数派シーア派についての概説書。
    シーア派の基礎知識をまず提供。
    1) シーア派はムハンマドの従兄弟のアリーの子孫しか指導者(イマーム)として認めない。
    2) 12代目のイマーム(868年生まれ)11代目のイマームの葬儀に現れて以来姿を消し、お隠れになっている。
    3) 3代目イマームのフサインはカルバラの戦いでウマイヤ朝との戦いに破れ、殺害された。カルバラに墓はあり、聖地となる。
    4) アリーの墓はナジャフにあり、やはり聖地。ナジャフはシーア派の教育都市だった。

    そして、中近東諸国におけるシーア派の状況について解説。

    イランが詳しい。下記のことが意外だった。

    1)イランの宗教家はホメイニ師の唱えた政教一致路線を支持しているのだと思っていた。しかし、宗教界の権威=マルジャア・アッ・タクリードの多くは政治に宗教が介入することに否定的。
    2) ホメイニ師の後継者のハメネイ師はマルジャア・アッ・タクリードではなかった。憲法上、最高指導者の就任要件はマルジャア・アッ・タクリードだったが、ハメネイ師を最高指導者にするためこの要件をはずした。
    3) 第四代大統領、第五代大統領のラフサンジャニ、ハタミーは穏健派で、いずれも対米関係の改善を目指していた。ハタミーにいたっては言論の自由を尊重しようとした。
    4) この本は2006年の記述で終わっている。現在のロウハニ大統領は穏健派、議会も穏健派が多数。イランは革命後のアメリカ大使館占拠事件や、ヒスボラやハマスの支援、さらには核開発疑惑と過激なイメージが強い。

    穏健派がかなりの勢力を持っていることとこうした外交のイメージはどう整理すればいいのか。さらに勉強してみたいと感じた。

  • シーア派の起こりを丁寧に説明しつつ、
    その後各地に分散してゆくシーア派の
    それぞれの境遇と歴史的ふるまいを説明するもの。
    こうした本はなれない専門用語が多く戸惑うことが多いが、
    丁寧に注釈が入っており置いてきぼりになることは無く好感が持てる。

    シーア派は相対的に見れば少数派であることに違いは無いが、
    長い歴史を持ち、絶対数から言えば相当な数を有している。
    決して一枚岩の団体とひとくくりにできるものではないことが分かった。

  • 時系列でシーア派の歴史が概括されている。視点はイラン/イラクのシーア派中心地にほぼ絞られている。植民地時代や冷戦期など、欧米諸国の影響とのかかわりについてはほとんど触れられていない。
    紙幅の関係上駆け足になるのは仕方がないが、第1章「シーア派成立の歴史」は、名前の羅列と王朝の変遷を追うばかりで、読み続けるのが困難。
    第2章「政治権力とシーア派」は、宗教学院に足を運んで研究した著者の面目躍如か、説明は分かりやすかった。第3章「近代国家の成立とシーア派」第5章「ポスト・ホメイニーと多極化」は、国別に歴史的出来事が紹介されているので、どの話だったのか、用語の意味はなんだったかなど、思い出すのがやっと。
    第4章「イラン・イスラーム革命と「革命の輸出」」は、イランを巡る国際関係を理解する上で大変役に立った。ただしここでも、同じ人物(特に、マルジャア・アッ=タクリートのうちの何人か)が何度も出てくるが、何にせよ馴染みのない名前なので、だれのことを話しているのか、ついていくのは困難。
    入門書としては良書だと思う。編集側でもう少し、読みやすくする努力をしてほしい。

  • シーア派がスンナ派と分かれるところから年代記的にシーア派の歴史が叙述されている。スンナ派との違いや近現代では各国におけるシーア派の置かれた状況、そしてイランにおける革命とシーア派など、全般的によくまとまっている。

    ただ、ウラマーやマルジャア・アッ=タクリードなど、上部層に偏っていて、普通の庶民と宗教の関係が弱く、庶民にとってのシーア派がどんなものなのかが分からないところが残念。

  • [ 内容 ]
    イスラーム教の二大宗派の一つだが、信者は全体の一割に過ぎないシーア派。
    しかし、イラン、イラク、レバノンなどでは多数を占め、挑発的な指導層や武装組織が力を誇示し、テロリズムの温床とさえ見られている。
    政教一致や民兵勢力といった特異な面が注目されるが、その実態とはいかなるものなのか。
    彼らの起源から、多数派のスンナ派と異なり、政治志向の強い宗教指導者が君臨するシステムを解明し、その実像を伝える。

    [ 目次 ]
    序章 台頭するシーア派
    第1章 シーア派の成立
    第2章 政治権力とシーア派
    第3章 近代国家の成立とシーア派―20世紀~
    第4章 イラン・イスラーム革命と「革命の輸出」
    第5章 ポスト・ホメイニーと多極化
    終章 シーア派の行方

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    [ 参考となる書評 ]

  • ★少数派を軸にイラン・イラクを解剖★イスラム主流派のスンニ派に対し、シーア派は少数派の代表として知られる。イスラム諸国でシーア派が大勢を占める主な国はイランとイラク。アラブでもなく(ペルシャ)、カリスマ宗教指導者がそのまま政治も支配する独自の形態を遂げた(かつ限界も生み出した)イランと、シーア派が多数にもかかわらず対イランとの関係で「シーア派=アラブでない」という構図が生まれてフセインを代表とするスンニ派が実権を握ったイラク。シーア派の成り立ちとともに、この2国を分かりやすく説明してくれる。イランもイラクも原油をきっかけとした日本企業の進出が動き出すだけに、その背景を理解するのに役立った。

    ●過去のメモの追加●フムス(5分の1税)によりバザールなどを基盤として宗教の自立がなしえた。ムジュタヒド(法解釈の有資格者)が増え、アーヤトッラー・ウズマー(大アーヤトッラー)のなかで信徒向けに「諸問題の解説」を執筆した人が最高権威「マルジャア・アッ=タクリード」というトップになる。
    イラクのバアス党は内部党争の末、ティクリート地方出身のスンナ派が権力を握る。バアス党は世俗的なアラブ民族主義を掲げ、イラク領内のスンナ派とシーア派をアラブの名の下に団結させる可能性を持ちながら、対イランの汎アラブ主義となり、シーア派をイランと一体視して、自国のシーア派に反アラブの疑いをかけ、シーア派の社内的上昇を妨げた。

  • イランの核問題やイラク情勢の悪化でしばしば耳にするイスラムの宗派「シーア派」について、その成り立ちから、「スンニ派」となんで仲が悪いのかといったあたりから現代の情勢をまとめた本。大学の講義で使われるような「教科書的」なまとめ方でちょっと退屈ではあるものの、中東情勢のお勉強するにはぴったり。あとがきにちょこっと出てくる著者の体験談あたりは別の本に期待かな。

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