「慰安婦」問題とは何だったのか: メディア・NGO・政府の功罪 (中公新書 1900)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121019004

作品紹介・あらすじ

一九九〇年代以降「慰安婦」問題は、「歴史認識」の最大の争点となっている。政府は軍の関与を認め謝罪。市民と政府により被害者への償いを行う「アジア女性基金」がつくられた。だが、国家関与を否定する右派、国家賠償を要求する左派、メディアによる問題の政治化で償いは難航した。本書は、この問題に深く関わった当事者による「失敗」と「達成」の記録であり、その過程から考える新たな歴史構築の試みである。

感想・レビュー・書評

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  • 1995年に設立され、2007年まで活動をつづけた「アジア女性基金」に、その当初から精力的にかかわってきた著者が、これまでの活動内容を振り返り、その意義とこれからの課題について論じた本です。

    本書刊行後に出版された熊谷奈緒子の『慰安婦問題』(ちくま新書)など、アジア女性基金の活動を評価する意見も見られるものの、発足当初から左右の厳しい批判にさらされてきたその活動の実態が報告されています。またさまざまな政治的力学の絡みあう現実のなかで、被害者への償いをどのようなかたちで実現するかという困難な課題に向きあってきた著者だからこそ可能だった冷徹な現実認識が随所に示されています。

  •  
    ── Ohnuma, Yasuaki《『「慰安婦」問題とは何だったのか ~
    メディア・NGO・政府の功罪 20070601 中公新書》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4121019008
     
     大沼 保昭    国際法学 19460308 山形 東京 20181016 72 /東京大学名誉教授
     大沼 勘四郎 寿虎屋9代目 19040623 山形   19‥‥‥ ? /没年不詳
    /山形県酒造組合連合会会長/山形商工会議所二号議員/保昭の父
     
    …… 日本が誇るべきこと、省みること、そして内外に伝えるべきこと
    ~「慰安婦」問題の理解のために 20130525 江川 紹子
    https://news.yahoo.co.jp/byline/egawashoko/20130525-00025178/
     
    …… 5年前、初めて大沼先生にインタビューした時の記事。合掌
    → 日本が誇るべきこと、省みること、そして内外に伝えるべきこと
    ~「慰安婦」問題の理解のために(江川 紹子) 20181019 9:39
     
    https://twitter.com/amneris84/status/1053083300003106816
     
    (わたしが三十歳の頃)、隣に店舗を構えた初対面の韓国人ハーフが、
    自己紹介をかねて語った。「むかし豊臣秀吉が朝鮮を侵略して、われ
    われの先祖を殺し、耳を切取って持ち帰り、京都に“耳塚”を祀った。
    以来われわれは差別され、日本で商売するにも銀行が貸してくれない。
    ひどいと思いませんか?」
     
    https://twitter.com/awalibrary/status/1053139253993959424
     
    「わたしは毎日ブタを絞め殺して貯金し、大学を出ました。あんたは、
    親の金で大学を出たらしいから、なんの苦労もなかったでしょうが」
     にこやかに話をつづける彼に、なんとも答えようがなかった。
     
     かつて本陣を継いだ当家にとっても、家系図以前の話である。
    http://d.hatena.ne.jp/adlib/20000527 関ケ原四百年
     朝鮮征伐(159701‥-159812‥)関が原(16001021 慶長 5.0915)
     
    (20181019)
     

  •  アジア女性基金の「失敗」(特に韓国)について、基金や政府の側の問題とともに、NGO、支援団体、メディアの問題も繰り返し挙げている。市民運動出身で基金に関わった筆者だからこそ、単なる政府の自己弁護になっていない。
     実現可能性の極めて低い国家賠償を求め続けるより、高齢の被害者に実際に届くものが必要という考えの筆者。しかし実際は、「被害者の声が、過剰に倫理主義的な支援団体、NGO、メディアによってつくられた世論によって抑圧されていた」「被害者を社会改革にかかわる自己の主張実現の人質にする」「日本政府とアジア女性基金が償いの理念と意義を十分な広報・説得活動を通じて伝えることができなかったこと、多くの支援団体やNGOがあまりにこわばった姿勢で基金による償いを拒否し続けたこと、そしてメディアが基金による償いの欺瞞性というイメージを津々浦々に広めてしまったことが、被害者からそうした機会(満点ではなくとも償いを受け入れること)を奪ったのである」と筆者は振り返る。
     時は流れ、2015年末の日韓合意とその2年後の文在寅政権での検証。少なくとも韓国の支援団体・NGO(と、その影響を受けた?政府)については状況は変わっていないと言える。現在の李洛淵首相が、当時、被害者個々人の意思を尊重すべきだという趣旨の控えめな主張をしたが「親日派」の集中砲火を浴びて沈黙せざるを得なかった、として本書に登場するのが皮肉だ。

  • 慰安婦問題解決にむけて、村山内閣の時に発足した、「女性のためのアジア平和国民基金」の設立から活動内容、そして振り返りの話。

    本のタイトルとしては少々大風呂敷になってる気もする。あくまでも基金の話、1990年代に日本政府及び基金が、償いのために何をしたか、であり、戦時中に日本が何をしたか?や、何故特定の国との関係がここまでこじれてるかに対する話ではない。

    個人的には道義的責任と法的責任の話や、被害者は韓国だけでなく、様々な国にいることを知れたことは良かった。

  • 研究者であり市民運動家でもある著者が立ち上げ、運営に関わったアジア女性基金に関わる記録と省察。
    研究者として客観的であり、市民運動家として誠実な著者の心が伝わる。読みながら涙がこぼれた新書は、この書くらいだろう。2007年発行ながら今なお新鮮な感じがするのは、未だその問題が日本社会の周囲にこびりつきひりひりとした痛みを覚えさせるからだと思う。

  • 2007年に解散した「アジア女性基金」の総括。実現可能性のない法的にではなく、道義的実効的な償いであり、韓国以外では受け入れられた。イデオロギー優先で被害者に期待だけ持たせたメディアや学者、支援団体も、批判だけでなく自己評価すべき。

    様々に錯綜していますが、誰にとって・どんな基準で、というのが、問題を捉える上での軸だとわかりました。

  • 読んでみたらアジア女性基金の活動記録だった。大沼先生は理事として奮闘したらしい。民間からの基金と政府とで半分ずつの拠出という中間の立ち位置だったがゆえに右派からも左派からもバッシングされたそうだ。
    「カネの問題ではない、大事なのは気持ちなのだ」とメディアやNGOが声を大にすることにより、基金からのお金を受け取りにくくなってしまうというメディアとNGOの責任を指摘。慰安婦問題の被害者もいろいろだし、「心からの謝罪がほしい、でもお金も必要だ」という被害者は、被害者像の美化により、「またカネで身を売るのか」という声により、受取りを申し出られなくなってしまった。被害者がいろいろなのはたしかにそうだ。特に韓国での受取り者へのバッシングがものすごかったみたい。
    大沼さんは別のところで、この事業を通じて、韓国の知識人に絶望し、韓国は反日さえ言ってればいい体質だとまで書いていた。

  • 日本政府とアジア女性基金の広報不足。反日ナショナリズムをあおり基金のお金を受け取る者を裏切り者扱いした韓国の支援者団体とメディア。基金を評価せずにただ批判し、韓国世論の間違いは批判しなかった日本メディア。

    最近東アジア関連できなくさいタイトルの本が書店をにぎわしていると話題になり、そのこと自体が批判されることも多い。本書は実際にアジア女性基金のために奔走した著者が執筆したもので、その意味では、より信頼に値するのではないかと思っていた(実際そうだろう)。でも、ようするにそのような本の内容をもっと知的な言葉でお上品に書いただけで、事実自体はそんな変わらないんだな、と思うとなんだか暗い気分になった。

    日本のいわゆる「和式リベラル」の責任は重いんだなと改めて思った。

    「自分ができもしない、不自然で過剰な倫理主義の要求、知識人のいやらしさがにおう、もっともらしいがその実空虚な論理こそ、戦後責任や戦後補償の主張をうそっぽいものにし、日本の一般市民の反発をまねき、日韓の率直な、深みある友好を妨げて来たのではないか。加害国体被害国という国を単位とする一枚岩的な図式、中韓の主張には反論してはいけないという過剰な倫理主義は、双方の自制のきいた、しかし社会は基本的に俗人からなることを自覚した議論の積み重ねによって一歩一歩克服していかねばならない」

  • 何が問題なのか、は非常によくわかりました。ここから先は私たちが現実的に考えなければならないということです。

  • 民間から償い金を募って、慰安婦への補償をした「アジア女性基金」の当事者が書いた本。善意で始めた活動が、国家補償原理主義者のNGOやメディアなど独善に凝り固まったものに踏みにじられていく過程が描かれている。
    多少、自己弁護的なところが鼻につくが、韓国の挺対協などNGOが問題解決の道を遠くしているのは間違いない。
    本書でうなづいたのは、リベラルや左派こそ中韓と議論し、誤りは正していくべきという下り。左派の遠慮とも言える姿勢が、嫌韓や歴史修正主義者の跋扈を呼んでいるのは正にその通りだと感じた。
    解決の道などないのかもしれない。だが、それでも対話を続けて行かなければならないのが日韓関係なのだろう

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著者プロフィール

1946年生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科教授、明治大学法学部特任教授などを歴任。東京大学名誉教授。専攻は国際法学。著書『サハリン棄民』(中公新書、1992年)、『人権、国家、文明』(筑摩書房、1998年)、『「慰安婦」問題とは何だったのか』(中公新書、2007年)、『「歴史認識」とは何か』(中公新書、2015年)、International Law in a Transcivilizational World,(Cambridge University Press,2017)など多数。2018年10月逝去。

「2018年 『国際法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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