西南戦争: 西郷隆盛と日本最後の内戦 (中公新書 1927)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121019271

作品紹介・あらすじ

明治維新後、佐賀の乱、神風連の乱、萩の乱などに続く、不平士族による最後の反乱となった西南戦争。九州全土で八ヵ月間にわたり行われた近代日本最大の内戦である。それはまた誕生してまもない「日本軍」が経験した最初の本格的戦争でもあった。本書では、反乱軍の盟主である西郷隆盛の動向を柱に、熊本城篭城戦、田原坂の戦いをはじめ、九州各地での戦闘を丹念に追い、日本最後の内戦の実態と背景を明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  • 昨年の大河ドラマ「西郷どん」を見て、読んでみることにしました。

    本書は、西郷隆盛が政府の職を辞し、鹿児島に帰還したあたりから始まります。西郷下野、私学校の創設、士族たちの不満、蹶起、熊本城籠城、田原坂の戦い、転戦、そして終戦、その後の流れや後世の人に与えた影響などが書かれています。
    特に戦の流れについてはかなり細かく書かれており、基礎知識がほとんど無い私には少々難しく感じましたが、「西郷どん」で覚えた人名が出て来るので、その辺はドラマのお陰でカバーされました。

    幕末の基礎知識はあるけれど、西南戦争についてもっと知りたい方や、幕末から明治あたりの事を勉強している学生さんに良い一冊だと思います。
    せっかく読んだので、同じ中公新書から出ている「明治六年政変」や「大久保利通」、「江藤新平」なども読むと周辺の知識が入るのかもしれません。今度これらも読んでみようと思います。

  •  とてもフェアーである。

     何がといえば、この著者のものの見方、書き方がである。立場の異なる極めて広範囲の参考資料を、公平に読み込んでいる。そして、根拠を曖昧にせずにはっきり示しながら丁寧に書いている。著者の立場を防御するためや、研究不足を隠蔽するために根拠を曖昧にしたり明らかにしないところが一切ない。 
     試しに巻末に紹介されている参考文献の数を数えてみた。ざっと400冊あった。尋常な数ではない。この1点のみをもってしても評価に値する。
     このテーマにおける現在時点での最高峰と断言していいと思う。西郷隆盛と西南戦争について、肯定的な立場をとるか否定的な立場をとるかに関わらず、興味を持つ者は全て、これからはこの本から出発すべきとも言ってよい。

     西郷は本当に「征韓論」者であったのか否か。というのが私が永年抱えているテーマだ。本書を手にしたのはその謎を解く鍵を求めてであった。
     本書の中で著者は、西郷が板垣退助に宛てた書簡を根拠として示しながら、その中に、①いきなり派兵したら戦争になる、②それを避けるため事前に使節を送ってはどうか、③使節には自分(西郷)がなる、④それで自分が殺されでもしたらそれを名目に攻めればよい、と記した事実を紹介している。さらには、⑤この戦争は内乱を求める心を外に向けさせてる深謀遠慮なのだ、と明確に言っている事を記している。
     歴史の教科書には「西郷は不平士族の不満を外に向けてそらすため征韓論を唱え、その主張が入れられないと鹿児島に帰り、後に挙兵した。これが西南戦争である」と、いささかステレオタイプに過ぎる記述がなされている。しかし、この決めつけも根拠がないわけではなく西郷自身が自分の言葉で板垣に明言している内容が根拠になっていることがよくわかった。
     勿論、元来征韓論者であった板垣に自分の使節としての派遣を支援させる目的で言った言葉であるから、派遣実現後平和裏に事を収める事を最上の理想とし、またそれを実現する自信が西郷にあったのだとまで類推するのは、現時点では私の仮説に過ぎない。
     著者はまた、「西郷の真意は征韓論になく、平和的交渉を望んでいたという見解もある」という風に、私などが抱く異論にもキチンと言及してくれている。
     
     定説となっているものの概要。定説の根拠。それに対立する異説異論。これらを公平に紹介する。さらに、論拠とする資料は洗いざらい隠さず明記する。あたりまえのようだが、これがキチンとできている研究者はなかなかない。たいていは著者自身がどちらかに肩入れするか、あるいは自己保身や批判封じのため論拠は一部隠しておくというセコいセンセーがほとんどだ。
     
     著者がなぜこのテーマに取り組むことになったかの経緯は、最後に「あとがき」で明らかになる。
     元来は明治期の「宗教行政」という畑違いの分野が専門だった。その研究の中で田中直哉という人物に注目する。鹿児島では西南戦争前まで廃仏毀釈が異様に徹底され、いまでは信じられないことに仏教は禁止されていた。田中はその鹿児島に真言宗を普及させた功労者の1人であったという。そして同時にその田中は、政府側が鹿児島に送り込んだ密偵でもあった。この密偵たちが西郷暗殺を企図したという疑惑が、内戦勃発の直接の契機であったことはいうまでもない。
     
     歴史小説では「東京獅子(あずまじし)」などと蔑称され悪役扱いされる無名の密偵に注目したことから、この一大研究がスタートしたことは興味深い。また、密偵たちが公式に政府に報告した報告書を丹念に読み込むことで、事実をより深く掴んで臨場感を高めていることも本書の魅力のひとつだと思う。

     無名の密偵が陰の主役だと言えること。それに注目して膨大な仕事を丁寧に仕上げた著者のフェアーな姿勢。このふたつがなにより嬉しかった一冊である。

  • 「しんどん、もうここらでよかろう」と言った後、別府晋介に首を落とされた場面は、大河ドラマにはなかったけど、有名な場面なので、少しはそれが伝わるように何らかの形で描いてほしかったなあ。

  • 西南戦争全体の経過がよくわかった

  • 新書はなぜかKindleだとめっさ読みづらい
    頭に入ってこないので
    『翔ぶが如く』の塗り直しの意味を込め本で買う
    新書であって評論とかでなく概説であり
    著者が文献に当たって改めて総覧してみた内容
    西南戦争後の鹿児島政治の動きとか
    西郷神格化にも章を割いている
    西郷隆盛の評価には
    もちろん上野の銅像にかなりの寄与あるとして
    単に判官贔屓もあるだろうが
    明治維新にも個人としての英雄という生贄が欲しい
    たんなる庶民の自覚無きたわむれだと思う
    源頼朝よりも徳川家康よりも西郷隆盛が偉大な日本人だと
    よく何をしたか知らなくとも笑顔で像を見上げるように
    国父扱いされるようなぐうのねもでない偉人が
    いなくて良かったと
    現在のわれわれは祖先の日本人に感謝すべきか

  • 気安く読める内容ではない。かなりしっかり書かれた歴史書。時系列的に書いてある。小説ではなく淡々と資料を基にした史実が書かれている。

  • 西南戦争の経過をドキュメントで、さっとあらましを知りたい人には便利。局面における陣地図や行軍路を、地点の重要性の説明と合わせて地図を付記しているので分かりやすい。本書で繰り返され指摘される通り、挙兵に名分が伴わなかった事が早々に失敗した主要因となったが、その方が近代日本にとっては良く、上り調子の国家の運というものを感じもした。熊本を撤退してから鹿児島に戻るまでの西郷の行程は、制御を失った飛行機のような様相を呈していて、周囲に身を預けるように乱を起こした(但し責任だけは背負った)彼の晩年そのままのように見えた。

  • 読了。

    西南戦争 西郷隆盛と日本最後の内戦 / 小川原正道

    西郷どんの最後の始まりと終わり。
    西南戦争がいかに始まって終わっていったか。
    薩軍と政府軍両軍の戦闘と行動の流れがわかります。

    けっこう前に買った積んでありましたが、大河「西郷どん」やってるしとりあえず勉強がてら。
    普通は1877年西南戦争がおきました。っていう事柄だけで詳細なんて調べなければどんな話なのかわからないですしね。

    とりあえず大河の西郷どんで最後どういうふうな構成にしてくるかが楽しみですね。

    内容は流れを追っただけで詳細は覚えてません。
    でも面白かったです。

  • 西南戦争の前後に何が起きたか時系列に整理した本。

    この本の立場は 西南戦争は 士族、薩軍(私学校党)による 近代化、西洋化、腐敗政府、専制政治への反乱、征韓論など 多様な原因により 起きたとした

    西南戦争について、西郷隆盛の大義名分は 見当たらないが、西南戦争の前後における 西郷隆盛の大き過ぎる存在感だけは 理解できた

  • 色々考えたのだけど、西南戦争は実質的に薩摩出身者の内部分裂が原因だったように思う。本書によれば、鹿児島は知事以下独立の気風が強く、中央の権限が及びにくいエリアとなっていたそうだ。自前で広く軍事教練なども行っていたという。自らの血で作り上げた新政府は自分たちを受け入れなかった。そして、幕府時代の地方分権的な薩摩のかたちを発展していった先に、いよいよ衝突が待っていたという感じに思う。そのような土台の上にあくまで明治六年政変が乗っかっただけという印象。そして暗殺組が真実かどうかは分からないが、他にも政府はちょっかいを出していたことだろう。もしそうだとすれば、やっぱり西郷は意思に反して暴発に巻き込まれたのだ。新政府と薩摩士族の摩擦の中で。

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著者プロフィール

小川原 正道(おがわら・まさみち):1976年生まれ。慶應義塾大学法学部教授、東京大学大学院法学政治学研究科客員研究員。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程修了。博士(法学)。専門は日本政治思想史。著書に『福沢諭吉――「官」との闘い』(文藝春秋)、『福沢諭吉の政治思想』(慶應義塾大学出版会)、『小泉信三――天皇の師として、自由主義者として』(中公新書)、『日本政教関係史――宗教と政治の一五〇年』(筑摩選書)、編著に『独立のすすめ 福沢諭吉演説集』(講談社学術文庫)などがある。

「2023年 『福沢諭吉 変貌する肖像』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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