物語イスラエルの歴史: アブラハムから中東戦争まで (中公新書 1931)
- 中央公論新社 (2008年1月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121019318
作品紹介・あらすじ
イスラエルという民族名は、紀元前十三世紀のエジプトの碑文にはじめて登場する。文明が交錯する東地中海沿岸部では、さまざまな民族が興亡してきた。そのなかで、イスラエル(ユダヤ)民族はバビロニア捕囚やローマ帝国による迫害など、民族流亡の危機を乗り越え、第二次世界大戦後に再び自らの国を持つに至った。本書は、民族の祖とされるアブラハムから中東戦争後の現在まで、コンパクトに語る通史である。
感想・レビュー・書評
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物語 イスラエルの歴史
アブラハムから中東戦争まで
著:高橋 正男
紙版
中公新書 1931
おもしろかった、ダビデの時代から現代へ、聖書を追う長大な物語です
イスラエルというか、ユダヤ・パレスチナを中心とした膨大な歴史
そして、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地である、エルサレムの不思議
気になったのは以下
エルサレムとは、ヘブライ語で、平和の町、平和の礎という意味
エルサレムの最初の集落は BC3000から、BC2001の初期
イスラム教のモスクが、ユダヤ教の神殿の跡に建てられている
ユダヤ教の神殿の西の壁は、嘆きの壁といわれている
イスラエルが史実に現れるのは、エジプト新王国第19王朝のBC1236~1223の治世に創られた戦勝記念碑である
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の共通の預言者は、アダム、ノア、ロト、イシュマエル、モーセ、ダビデ、イエスなどを含めて8名
出エジプト記 BC13世紀
モーセが神ヤハウェから授かった十誡は、2つの石板に書かれていた
ユダヤ12部族のカナン定着はBC13世紀の後半から。モーセの後継であるヨシュアに始まる士師の時代
サムエルが英雄として、BC12世紀に、そのあと、サウルが、イスラエル王国の初代の王として、ダビデが後継として現れる
<第1神殿時代>
第1期 ダビデの時代 エルサレムに遷都
第2期 ソロモンの時代
~イスラエル王国は、北と南に分裂 BC928
第3期 南王国ユダの王ヒゼキアの時代
~エルサレム陥落 BC586
第1回バビロニア捕囚 BC597
第2回バビロニア捕囚 BC586-538
<第2神殿時代> BC538-AD70
第2神殿竣工 バビロニアからの帰還 BC538
トーラ、ユダヤ教の聖典(成文法、口伝法)ヘブライ語ではなく、旧約聖書をギリシャ語訳に
イエス・キリストの出現 イエスとは救い、キリストとは、油を注がれた者=救世主=王、大祭司を意味する
<ローマ帝国支配下のパレスチナ>
アウグストゥス ユダヤをローマ直轄領として、総督を置く
第1叛乱 AD66-74
旧約聖書の完成 AD64-90 ユダヤ教典トーラ
第2叛乱 AD132-135 第2神殿の炎上破壊と市街地の陥落
<ビサンチン帝国からムスリム時代へ>
エルサレム キリスト教の聖地に 324
ササン朝ペルシャの来襲 614-629
ムハンマドの出現 570-632
正統カリフ・ウマルの時代 638-661
ウマイヤ朝 661-750
<十字軍の時代>1099-1187
第1回十字軍 1099
エルサレム王 ボードゥアン1世 1058-1118
テンプル騎士団
<アイユーブ朝~マムルーク朝>1187-1517
アイユーブ朝サラディン 1187-1250
マムルーク朝 1250-1517
<オスマン帝国>1517-1920
ビサンチン帝国滅亡 1453
第9代スルタン セリム1世エジプト・シリアを制圧 1517
第10代スルタン スレイマン1世 最盛期(1520-1566)
露土戦争(1877-1878)
第1次世界大戦 (1914-1918)
トルコ革命 1920
<シオニズム> 1920 -
イギリスとの密約
フサイン・マクマホン往復書簡 1915/07/14-1916/03/10
パレスチナにおける東方アラブの戦後の独立の密約
サイクス・ピコ協定 1916/05/09,05/16
オスマン帝国の東方領土の英・仏・露の分割協定
バルフォア宣言 1917/11/02,11/04
ユダヤ人のパレスチナにおける国家建設の密約
パリ講和会議 1919/01/18
旧ハプスブルク帝国下のポーランド、チェコ、ハンガリーなどの独立承認
サン・レモ会議 1920/04/19
サイクス・ピコ協定に基づくシリアの分割統治
第1次パレスチナ分割 トランス・ヨルダン 旧オスマン帝国は4分割に
<反ユダヤ暴動と建国前夜>
ポグロム 1920/03
パレスチナ・アラブからのイギリス委任統治の放棄 1936-1939
英国軍のエルサレム、ユダヤ代務機関の襲撃 1246/06/29
<イスラエル建国>
ユダヤ民族評議会 1948/04
イスラエル独立宣言 1948/05/14
<中東戦争>
第1次中東戦争 1948/05/14-1949/07/20 パレスチナ戦争
第2次中東戦争 1956/10/29-11/06 スエズ動乱
第3次中東戦争 1967/06/05-06/10 6日戦争
第4次中東戦争 1973/10/06-11/11 ラマダン戦争
目次
序章 イェルサレム
第1章 パレスティナ・イスラエルの国土
第2章 王政以前
第3章 第一神殿時代-紀元前10世紀?紀元前6世紀
第4章 第二神殿時代-紀元前538?紀元後70年
第5章 対ローマユダヤ叛乱-紀元後66?74年/132?135年
第6章 ビザンツ帝国時代から初期ムスリム時代へ-324?1099年
第7章 十字軍時代-1099?1187年
第8章 アイユーブ朝からマムルーク朝へ-1187?1517年
第9章 オスマン帝国時代-1517?1917年
第10章 ツィオニズム運動の開始
第11章 反ユダヤ暴動から建国前夜まで
第12章 イスラエル国誕生
終章 中東戦争
あとがき
参考文献抄
ISBN:9784121019318
出版社:中央公論新社
判型:新書
ページ数:384ページ
定価:980円(本体)
発売日:2008年01月25日詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
阿刀田高さんの「旧約聖書を知っていますか」が面白かったので、本書も読んでみました。著者の高橋正男さんはイェルサレム・ヘブライ大学への留学経験のあるイェルサレム史を専攻する学者さん。本書も三大啓示宗教の拠点であるイェルサレムを序章で詳細に説明。イスラエル民族の特殊性を明らかにして、聖書時代から第4次中東戦争までの長大な期間に渡るイスラエル史をコンパクトにわかりやすく説明しています。わかりにくい箇所があったとするなら、それは著者の責任ではなく、イスラエルという国のあらましが非常にわかりにくいのが原因です。
本書は中公新書の「物語 ◯◯◯史」の1冊ですが、「物語」という文字にふさわしい歴史書です。アブラハムから始まり出エジプト記、モーゼの十戒、神殿時代、ビザンツ帝国時代、初期ムスリム時代、十字軍時代、オスマン帝国時代、ツィオニズム運動、反ユダヤ暴動、建国、中東戦争という激しく苦しいイスラエルの歴史が綴られていきます。
本書でブックマークした箇所は
-クレタ島で発見された最古の碑文はセム系に言語で書かれていた。これはイスラエル・ギリシア両文化が共通の祖先を有していることを暗示する。
-モーゼが十戒を授かったシナイ山の位置は聖書地理学上の難問中の難問とされている。
-ユダヤ教団はバビロニア捕囚を父とし、ペルシア帝国を母として生まれた子どもにもたとえられる。
-「イスラエル」という謂は「神(エール)が支配する」。古代のイスラエル人は自らを「イスラエール」と称したが、他民族からは「イブリー(ヘブライ人)」と呼ばれた。イブリーは「越えてゆく」というヘブライ語動詞から転じて「エウフラテス河の向こう側から来たもの」を意味するとされている。
-世界各地のユダヤ人集団の人体測定の結果、身長や体重、毛髪、皮膚、瞳の色など重要な身体的特徴が著しく異なっていることを明らかにした。このことは、単一人種としてのユダヤ人なる人種が存在したことはないことを示している。
-「ツィオニズム」は「ツィオン(要害)」に由来する。後に「イェルサレム」を指す名称となる。「ツィオニズム」のキャッチフレーズは「土地なき民に、民なき土地を」であり、イスラエル建国運動の正当性を確保するものだが、換言すれば「土地なき民ユダヤ人に、人の住んでいない(パレスチナの)土地を与えよ」との謂。パレスチナ・アラブ人はこの正当性を否定し続けてきた。
個人的に長年の謎は「なぜ、ユダヤ人は嫌われているのか?」ということ。本書を読んでも、その答えは明らかになりませんでした。それでも、わかりにくいイスラエル史を多少なりに理解するには最適な新書と思います。 -
中公新書の「物語〇〇の歴史」は面白く読むことができるシリーズだ。
そこで、今回手にとったのは『物語イスラエルの歴史』
とにかくイスラエルの歴史は古い!
「イスラエル民族の曙期は、紀元前第2千年期の悠遠の昔にさかのぼり、深い霧に包まれている」
その太古の時代から中東戦争(現代)までの約4000年の歴史を駆け抜ける。
恥ずかしながら本書の全て消化できるはずもない。
だが、イスラエルという土地に妙に魅かれる。特に、エルサレムはどんな空気が流れているのだろう。今の時代、グーグルでその土地のことは「見える」が、「空気」までは見えない。本書を読みながら、想像の翼をひろげる。
著者は、今から約60年前にエルサレム・ヘブライ大学に留学していた。どんな空気を感じていたのだろう。
イスラエルの国土は、日本の四国より若干広いが、ほぼ同じ大きさ。
だが、この国の歴史は、ビザンツ帝国、アイユーブ朝、マムルーク朝、オスマン帝国等、まあいろいろな国の支配下にあったこと。
地理的には、ユーラシア、アフリカの両大陸と地続きで、東地中海域の一隅に位置しているため、陸路、海路ともに人の往来が絶えない。
なおかつ、エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地をもつ。
この四国ほどの大きさしかない国だが、昔も今も世界を動かしている。こんな国は世界でもここしかない。
なので、その歴史を学ぶ意義はとても深い。
本書で最も印象に残る記述は以下。
「バビロニア捕囚はユダ人にとって民族絶滅の一大試練だった。捕囚民は、捕囚時代を通じて、神に選ばれた民族としていかにいきるべきかを真剣に問い続け、その結果、新しい民族、ユダヤ民族に生まれ変わっていった」
また、本書で初めて知ったことの一つに、エリエゼル・ベンイェフダーという人がいる。
この人は、ヘブライ語の復活とユダヤ人国家新生イスラエルの再建に生涯をささげた。ユダヤ人国家建設のためには共通の言語が必要不可欠で、その言葉はヘブライ語以外にありえない。そのヘブライ語は日常生活に活かされるものでなければならない。と訴え続けた。
へーそうなんだ。もしかしたらこの人がいなかったら、ヘブライ語が公用語になっていなかった?というより、イスラエル建国がそもそもなかった?というのはさすがに言い過ぎか
まだまだイスラエルについては、知識が貧弱なので本書を再読するなりなんなりして知識装備せねば。 -
当たり前といえば当たり前なのですが、今のイスラエルがあるところには、四千年も前から人が住んでいたんだということを、こころから理解しました。
現在のイスラエルと近隣のアラブ諸国やテロ組織との対立はそう簡単には解決しないだろうと思いました。
一つだけわからなかったのは、ソ連や他のヨーロッパで、どうしてユダヤ人が迫害を受けていたのか、ということです。 -
本書は,西欧中心史観とは異なる,アフロ・ユーラシアからの視点で,一日本人歴史家の複眼を通して(中略)父祖アブラハムから中東戦争までーのイスラエル四千年の興亡史の枠組みを一般読者を対象に綴った歴史物語である。(あとがきより
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イスラエルの壮大な歴史を叙述。混沌とした中東の情勢には計り知れない歴史の堆積があることを知る。
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通史
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たまたまサイードと併読。
パレスチナ周辺の現代史はよくわかった。イスラエル建国のころに近づくにつれ熱が入ってる感じが伝わってくる。なるほど、国費留学生だったのか。 -
基本的に有史以来現代までのイスラエル(パレスチナ)地域の歴史を書いているが、最初のクライマックスである古代史と、この地域を語るには当然避けて通れない近代以降のイスラエル独立~中東戦争に重きが置かれている。
そのため、旧約聖書などの経典にも多くを依拠している物語的な古代史と、戦史的な近現代史の、ちょっとトーンが違うストーリーが楽しめて、自分としてはなかなか読み応えがあって面白かった。特にシオニスト運動以後の記述はなかなか筆もなめらかでスリリングに楽しむことができた。
イスラエル問題に関心がある人であれば読んで損は無いかも。